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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
底辺からの反逆者 ~魔力なき『砂利運び』が得た機械の瞳~

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第5話:紫電の化け物と、圧倒的な格の違い。……死の淵から救われましたが、義眼(チート)を疑われ強制連行。

 ジジッ、バチチ……。


 坑道の中に、静電気が弾ける音が残響していた。

 鼻を突くのは、強烈なオゾン臭。そして、肉と殻が焼け焦げたような、鼻孔の奥にこびりつく異臭。

 目の前には、黒い炭の塊と化した『グリット・タスカー』の巨体が横たわっている。

 ほんの数秒前まで、ヴァルを死の淵へと追い詰めていた怪物が、今はただの煙を上げる障害物でしかない。


「あ、あ……」


 ヴァルは腰が抜けたまま、カタカタと震えていた。

 助かった、という安堵はない。

 あるのは、目の前に立つ「男」に対する、生物としての根源的な恐怖だけだった。

 男――アビア・アトラスは、まだ紫色の火花を散らしている大剣を担ぎ直し、無感動な瞳でヴァルを見下ろした。


「……おい。生きてるか?」


 低く、腹の底に響く声。

 ヴァルは喉がひきつり、声が出ない。ただコクコクと首を縦に振るのが精一杯だった。

 殺される。

 タスカーを一撃で灰にするような化け物が、今、自分を見ている。


『警告:対象は魔力保有者(マギアン)。魔力量は、一級(High-Class)です』


 脳内で、声の主(レティナ)が緊急アラートを鳴らす。


『敵対行動は即死に繋がります。……勝率:0.00%。推奨:全面降伏』


 言われるまでもない。

 ヴァルは震える両手をゆっくりと上げた。降参のポーズだ。


「……た、助かりました……」

「礼はいい。散歩のついでだ」


 アビアは素っ気なく言い捨てると、もうヴァルには興味がないと言わんばかりに視線を外した。

 彼が歩み寄ったのは、黒焦げになったタスカーの死体だ。


「さて、中身が無事ならいいがな」


 アビアは腰からナイフを取り出すと、慣れた手つきで炭化した死体を解体し始めた。

 硬いはずの装甲が、熱で脆くなっているのか、あるいは彼の技量が優れているのか、バターのように切り開かれていく。


「……お、あったな」


 彼が黒い肉の中から取り出したのは、青白く輝く拳大の結晶だった。

 一つ、二つ、三つ。

 坑道の暗闇を照らすほどに強く輝く、純度の高い『青色魔鉱石(ブルー・グリット)』だ。


「チッ、全部青か。シケてやがる」


 アビアは舌打ちし、不満げにそれをポケットに放り込んだ。

 ヴァルはその光景を、口を開けたまま呆然と見つめていた。


(……青色が、三つ)


 ヴァルが泥水をすすって一日中ラットを狩っても、到底手が届かない金額。

 それを、この男は「散歩のついで」で手に入れたのだ。

 圧倒的な『本物』の力。

 それに比べて、俺はどうだ。

 たまたま拾った便利な眼とナイフに浮かれ、「俺一人で稼げる」などと思い上がった挙句、タスカーの前に腰を抜かして死にかけていた。


(……馬鹿みたいだ。何が『見てろよ、世界』だ。俺はただの、勘違いした砂利運びじゃないか)


 恐怖の波が引いていくにつれ、己の身の程知らずな甘さが恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。

 ヴァルは俯き、逃げ帰るように立ち上がろうとした時だった。


「さて」


 作業を終えたアビアが、再びヴァルに向き直った。

 鋭い視線が、ヴァルの露わになった左目、泥だらけの作業着、そして刃こぼれした旧文明のナイフを値踏みするように観察する。


「装備もなし、魔力もゼロ。冒険者ギルドのタグも見当たらねえ。……お前、ここで何やってた?」


 確信めいた問い詰め。

 心臓が止まりそうになる。

 ダンジョンへの無許可侵入は重罪ではないが、ギルドのブラックリストには載る。そうなれば、運搬屋の仕事すら失うかもしれない。


「……金が、必要だったんです」


 ヴァルは言い訳を飲み込み、正直に答えた。プロに嘘は通じないと思ったからだ。


「金? 馬鹿野郎、マギレスが単独でDランクに潜るなんて、金稼ぎじゃなくてただの自殺だぞ」


 アビアは呆れたように吐き捨てる。だが、その目は鋭くヴァルを射抜いていた。


「ただの自殺志願者なら放っておくが……お前、最後に石を投げたな?」

「え……?」


 予想外の質問に、ヴァルは言葉を詰まらせた。

 そんなヴァルを逃がさないように、アビアが一歩近づく。

 空気中に残る電気が、ヴァルの肌をチリチリと刺した。


『警告:対象からの探知魔法を検知。……左眼の眼球に擬態(カモフラージュ)します』


 レティナの報告と同時に、左目が僅かに熱を持った。

 琥珀色のレンズの輝きが消え、通常の人間の瞳に近い色へと変化した。


(探知魔法……!? マズい、バレる!)

「俺が斬る直前だ。お前が投げた石が、タスカーの目ん玉……そこに吸い込まれるように当たった。おかげで奴が一瞬硬直して、俺も斬りやすかった」


 アビアの目が光る。

 彼は見ていたのだ。あの極限状態の中で、虫ケラのようなヴァルの抵抗を。


「あの距離、あのタイミング。そして魔力強化なしの腕力。……まぐれにしちゃ出来過ぎだ」


 アビアが顔を近づける。

 オゾン臭と、強烈な威圧感。


「どうやってあそこを狙った? 素人が出来る芸当じゃねえぞ」


 ヴァルは背筋が凍りついた。

 レティナだ。

 レティナが表示したガイドに従って投げただけだ。

 だが、それを言えばどうなる?

 この男は青色魔鉱石すらゴミ扱いする実力者だ。もし、この左目が人間のものではないと知られたら、殺されるかもしれない。


『警告:本機の性能を開示することは推奨できません。リスクレベル増大』


 レティナも警告する。言えば殺されるかもしれない、と。


「そ、それは……無我夢中で……」

「ほう、無我夢中で急所をピンポイントにか」


 アビアは疑わしげに目を細める。

 その時。

 入り口付近から、若い男の声が響いた。


「――アビアさーん! どうしました!?」


 続けて、鈴のような少女の声も聞こえる。


「あ! 雷魔法の音がしたよー! やっぱ、何かいたんだ!」


 仲間の冒険者たちだ。

 アビアはため息をし、ヴァルから視線を外した。


「はぁ……、行くぞ」


 彼は大剣を背中のホルダーに固定すると、無造作にヴァルの襟首を掴んだ。


「ぐぇッ!?」

「ここでグダグダと話をしても意味ねえ」

「あ、あの……俺はこれで……」


 ヴァルは愛想笑いを浮かべて後ずさろうとする。

 だが、アビアの腕は鉄万力のように動かない。


「逃がすかよ。……お前、俺たちのキャンプまで来い」

「えぇ!? い、嫌です! 帰してください!」

「拒否権はねえ。モグリの不審者をこのまま放置できるか。……それに、お前の『目』について、じっくり聞かせてもらう」


 アビアが歩き出す。

 ヴァルは抵抗しようと足を踏ん張るが、Aランク冒険者の腕力には敵わない。

 ズルズルと地面を引きずられていく。


「や、やめてぇぇ……!」


 情けない悲鳴が坑道に木霊する。

 助かったと思ったら、今度は「尋問」のための連行だ。


(最悪だ……やっぱり今日は、来るんじゃなかった……)


 遠くに見える入り口の光。

 そこには、呆れたようにこちらを見ている人影が数人あった。


「……なに、あの汚いの」

「アビアさん、また変なもの拾ってきましたね……」


 そんな声が聞こえてくる。

 泥だらけの服、折れた心、そして引きずられていく体。

 ヴァル・ヴェリテクスの冒険者デビューは、これ以上ないほど惨めな失敗に終わった。


『警告:対象はAランク相当です。抵抗は無意味』

(わかってるよ……畜生……!)


 ヴァルは涙目で空を仰ぎ、運命に身を委ねるしかなかった。

「用語解説」

魔力保有者マギアン……魔力を持つ者。この世界の大半が持ち、魔法が使える人々。

魔力欠如者マギレス……魔力を持たない人々の蔑称。マギアンはマギレスを「見るだけ」で判別出来る。

ギルドタグ……金属製で自身の名前や家族の名前などが書かれた物。死亡時に判別出来るようになっている。

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