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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第54話:それぞれの道、新たな旅。……次なる目的地は「始まりの街」

【昼下がり:宿屋『世界樹の止まり木』】

 ユグド・セコイアでの報告を終え、一行はマギーの経営する宿屋で遅めの昼食を囲んでいた。

 窓からは穏やかな午後の日差しが差し込み、湯気の立つシチューの香りが漂っている。

 必死で闘った『ラボ・ゼロ』での日々が嘘のような、平和な時間。

 食器を置く音がカチャリと響いた後、アビアが口を拭い、居住まいを正した。

 その表情は、いつになく真剣だった。

「……皆、聞いてくれ」

 全員の視線がリーダーに集まる。

 アビアは一人ひとりの顔をゆっくりと見渡し、静かに告げた。

「俺たち『ユリシーズ・アトラス』は、今日をもって解散する」

 その言葉に、驚きの声は上がらなかった。

 カイルも、ティアも、そしてヴァルも。誰もが予感していたことだったからだ。

 そこにあるのは悲しみや不和ではない。

 「やりきった」という、清々しい達成感だった。

 公式記録では失敗扱いだが、彼らは未踏ダンジョン『ラボ・ゼロ』を攻略した。

 最深部の楽園を見た。

 それは、この世界の冒険者としての最高到達点ゴールだったのだ。

 マギーが満足そうに珈琲を啜り、紫煙を吐き出す。

「……いい顔だ。引き際を自分で決めるのも、一流の冒険者の条件だよ」

 アビアが破顔する。

「ああ。俺たちの旅は、最高の結果で終わった。……文句なしの結果だ」

 それは、解散宣言の前夜のことだった。

 風呂上がりのヴァルが夜風に当たろうとテラスに出ると、先客がいた。

 アビアだ。彼は手すりに寄りかかり、満天の星空を見上げていた。

「……兄貴」

「おう、ヴァルか。……ちょうどいい、お前に話があったんだ」

 ヴァルは隣に並ぶ。

 ユグド・セコイアの夜は静かだ。木々の葉が風に擦れる音だけが、心地よく響いている。

 アビアが、ぽつりと語り始めた。

「お前が入るまで、俺たちはそこらの凡百な冒険者だった。Sランクなんて夢のまた夢、自分の限界を感じて、正直腐りかけてたんだ」

 剣の腕はあっても、魔法の才はあっても、Aランクで足踏みしていた。

 そんなどこにでもいるパーティ。

 だが、数ヶ月前。

 『旧文明の遺産』を持つ「モグリ」の青年――ヴァルと出会い、全てが変わった。

 見たこともない科学という武器。常識を覆す戦術。

 そして何より、諦めることを知らないその右目。

「お前が来てからの数ヶ月は……それまでの何十年が薄く感じるほど、濃くて、楽しかった」

 アビアはゴツゴツした手で、ヴァルの肩をバシンと叩いた。

「ありがとうな、ヴァル。お前のおかげで、俺たちは『夢』を叶えられた」

 その言葉に、ヴァルの胸が熱くなる。

 喉の奥が詰まりそうになるのを堪え、彼は深く頭を下げた。

「……違います。俺の方こそ、居場所をくれて、ありがとうございました」

 魔力を持たない魔力欠如者。どこにも馴染めなかった自分を、偏見なく受け入れ、背中を預けてくれた。

 アビアたちがいたから、ヴァルはここまで来れたのだ。

 アビアはニカッと笑う。

「俺とティアは……ここで身を固めるつもりだ。あいつも俺も、もういい歳だ」

「そうですか……おめでとうございます」

「……だからヴァル、お前は行け。その左眼レティナの秘密を知る旅にな」

 リーダーとしての最後の命令。

 そして、兄としてのエール。

「お前の旅は、まだ終わってねえんだろ?」

「……はい」

 そして、アビアは恥ずかしそうに空を見上げて続けた。

「そんで……なにかあったら、ここに戻ってこい。お前は、俺の……弟だからな」

「兄貴……」

 そこからしばらく、二人だけで静かに語り合った。

 しかし、二人の会話を、テラスの物陰で仲間たちが優しく聞いていたことを、ヴァルだけが知らなかった。

 翌朝。

 まだ街が眠りについている薄暗い時間。

 ヴァルは誰にも告げずに宿を出ようとしていた。

 涙の別れは苦手だ。湿っぽいのは性に合わない。

 愛用の対物ライフルを背負い、静かに扉を開ける。

「……おはよう、ヴァル」

「置いていく気? 水臭いじゃない」

 そこには、既に旅装を整えた二人の女性が待っていた。

 ララと、ルーナだ。

「えっ、二人とも……? どうして」

 ヴァルが驚いて立ち尽くす。

 ララが優しく微笑み、黒鉄の槍ヒート・スピアを持ち直した。

「私はあなたの『護衛』なの。それに10年前の約束、まだ果たしきってないもの。……貴方一人を放っておけるわけないじゃない」

 ルーナが短剣をクルクルと回し、ウインクする。

「私はもっと広い世界が見てみたいから! ここに残るってのは退屈だしね。……それに、私のほうが冒険者としては先輩だし! あんたの指導係が必要でしょ?」

 二人の瞳に迷いはない。

 ヴァルは苦笑し、観念したように肩をすくめた。

「……はは。どんな旅になるかわからないんですよ?」

「旅は道連れ世は情けって言うでしょ。私がいるからには安心しなさいっ」

 ルーナが先輩面で偉ぶるのを見て、ヴァルは笑顔で応える。

 そこへ、カイルが歩いてくる。彼は旅装ではなく、普段着だった。

「僕は、残ります」

 カイルは真っ直ぐにヴァルを見つめる。

「ヴァル君の簡易術式や、武器の発想を見て……僕は自分の無知を恥じました。もっと魔法理論を勉強したくなったんです」

「カイルさん……」

「セバスチャン様の下で、基礎から学び直します。……いつかまた会う時まで、もっと強くなっておきますから」

「はい。……カイルさんなら、きっとすごい魔法使いになれます」

 二人は固く握手を交わした。

 そこへ、実は起きていたアビアとティアも、腕を組んで現れる。

「水臭いぞヴァル! 俺たちに見送りさせろってんだ!」

「ふふ、こっそり逃げるなんて、ヴァルらしいけどね」

 街の門。

 朝日は昇りきり、新たな一日の始まりを告げている。

「ヴァル様ぁぁ! 嫌ですぅぅ! 行かないでくださいぃぃ!」

「ちょ、リリアさん!? 急に抱き付かないで! 苦しいです!」

 リリアが涙目でヴァルにしがみついている。

 それをララが「はいはい、離れなさい!」と引き剥がす。

「絶対に、絶対にまた会いましょうねぇぇ! 私、運命信じてますからぁぁ!」

 リリアの絶叫がこだまする。

 その後ろで、マギーとセバスチャン、タルゴスが穏やかに手を振っている。

「達者でな、坊やたち! 困ったらいつでも帰っておいで!」

「武運を祈ります」

「へっ、いい武器作れよ!」

 そして、アビアとティア。

 アビアは拳をヴァルに突き出し、別れの挨拶を紡ぐ。

「行け、ヴァル。ララ、ルーナ。俺の弟を頼む。……俺たちの分まで、暴れてこい!」

「お土産話、期待してるからね!」

 ヴァルは拳を合わせ、深く頷いた。

「行ってきます!」

 背を向け、歩き出す。

 新生パーティは3人と1体。

 少数精鋭。より過酷な、真実への旅路が始まる。

 目指すは始まりの街、ノアズ・アーク。

 アイザックの元へ一旦戻り、情報収集と補給を行うためだ。

 そして、レティナが示した「Module ID」を集めるために。

 ヴァルは振り返らず、広がる青空を見上げた。

 その瞳に映るのは、もう過去のコンプレックスではない。未来への意志だ。

(レティナ。……俺は、俺の目標を見つけた。そのために、お前の言葉を信じるよ)

 左肩のスピーカーから、相棒の声が響く。

 そこには、隠された嘘も、矛盾する命令も感じさせない、いつも通りの響きがあった。

『マスター、ナビゲーション開始します。……次の目的地、ノアズ・アーク』

 風が変わり、新たな冒険の匂いがした。

 彼らの足跡は、ここからまた続いていく。

 彼らが目指す先。

 始まりの街、ノアズ・アークのギルド本部。

 最上階にて、ギルドマスターであるアイザック・グラントは、ヴァルたちの帰りを待っているはずだった。

 ――はずだった。

 バンッ!

 秘書官のカレンが、書類の束を抱えて慌てて入室する。

 だが、彼女の動きは凍りついた。

 そこは、血の海だった。

 机に背を預け、床に踞るアイザックの姿があった。

 カレンは職務を忘れ、悲鳴に近い声で叫ぶ。

「アイザック!!!」

 駆け寄り、抱き寄せる。

 身体は冷たく、呼吸は浅い。大量の出血が、カレンの服を赤く染めていく。

「はぁ、はぁ……カレンか……今日も綺麗だね、君は」

 アイザックは血の気のない顔で、必死にいつものような軽薄な笑顔を作ろうとしていた。

 だが、その手は自身の左肩を強く押さえている。

 そして、カレンは気づく。

 彼の左腕が、肩から先ごともぎ取られていることに。

「どうしたの!? 何があったの!?」

「……アポロギアと……ハーフエルフの少年が来てね」

 アイザックはかすれ声で呟く。

 痛みよりも、その瞳には悔しさと、ある種の「恐怖」が滲んでいた。

「……きっと、意趣返しさ。……私の左腕を切ってでも、彼ら(ヴァルたち)にメッセージを伝えたいんだと思う……うっ!!」

 カレンにそこまで伝えると、彼の意識が途切れる。

 力なくカレンの腕の中に崩れ落ちるアイザック。

 窓の外では、不吉な雷鳴が轟いていた。

 ヴァルの帰還を待つはずの場所は、既に戦場へと変わっていたのだ。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!

これにて第3章「ラボ・ゼロ編」、完結です!!


アビア兄貴との熱い別れ。

カイル君の新たな決意。

そして、リリアちゃんの絶叫(笑)。

最高のハッピーエンド……で終わらせるつもりでした。


しかし、ラストでまさかの事態が。

帰るはずの「ノアズ・アーク」で、アイザックさんが……!

アポロギアとレヴォスの影が、思ったより早く、深くヴァルたちに迫っています。


ここから物語は第4章へと突入します。

奪われた日常と、新たな敵。

ヴァルとレティナの「嘘」を抱えた旅は、修羅場からのスタートとなりそうです。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

次章も全力で駆け抜けますので、引き続き応援よろしくお願いいたします!


(※ネトコン14参加中です! 「第3章最高だった!」「アイザックさん生きて!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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