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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第52話:機械仕掛けの嘘(エラー)。……AIは、愛ゆえにバグる

【プロジェクト・アーク・エレベーター】

 美しい青空と緑の楽園。

 3000年の時を超えて保存された「奇跡」を目に焼き付け、一行は再びエレベーターで地下深くへと戻っていった。

 ガコン、ゴゴゴゴ……。

 重力が身体にかかる。上昇した時とは逆に、彼らは現実ダンジョンへと降りていく。

 ハッチが閉まり、あの眩い太陽が闇に消えた瞬間、夢の時間は終わった。

 閉鎖空間の中、ヴァルはふと自分の袖口の匂いを嗅いだ。

 そこには、さっきまで浴びていた太陽と、土と、草の匂いが染み付いている。

 だが、エレベーターが降下するにつれ、その香りは薄れていく。

 代わりに鼻をつくのは、地下特有の淀んだ空気。カビと、鉄錆と、オゾンの焦げたような無機質な臭い。

(……ああ、戻っていくんだな)

 夢から覚め、冷たい現実へと。

 ヴァルは小さく拳を握りしめた。

 チーン。

 無機質な到着音が鳴り、扉が開く。そこは再び、冷たい金属と電子音に満ちた制御室だった。

 先ほどまでいた楽園とは対照的な、死んだような静寂。

「さて、長居しすぎたね。……帰ろうか」

 マギーが満足そうに息を吐く。

 目的は達した。あとは地上へ戻り、勝利の美酒に酔うだけだ。

 アビアたちが出口へ向かう中、ヴァルだけはその場に留まった。

「兄貴、マギーさん達を連れて、先に行っててください。少し……セクター4(こいつ)のログから調べたいことがあります」

「あん? まだ何かあるのか?」

 アビアが振り返る。

「ええ、今後のために少しだけ。……ここにある技術は、これからの俺たちの役に立つはずですから」

 ヴァルは努めて明るく振る舞う。

 アビアは少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに肩をすくめた。

「しゃあねえな。性分ってやつか?……出口で待ってるぞ、あまり遅くなるなよ」

「はい、すぐに追いつきます」

 仲間たちの足音が遠ざかり、重厚な扉の向こうへ消える。

 静寂が戻った制御室。

 ヴァルは表情を消し、制御卓の中央にある無機質な一つ目カメラアイに向き直った。

 ここからは、彼一人だけの戦いだ。

「……ふぅ、嘘つくのって苦手だ」

 ヴァルはセクター4に問いかける。

「質問だ。ここにいた魔物たちは何だ?」

 カメラアイが瞬き、ノイズ混じりの合成音声が淡々と答える。

〈セクター1~3で生産された彼らは『人造守護者ガーディアン』。当施設を防衛するために製造された、有機生体兵器です〉

 セクター4の声には感情がない。

 先ほどヴァルに見せた「忠誠心」も、プログラムされた疑似人格に過ぎないのだと痛感させられる。

「外の世界にいる魔物もそうなのか?」

〈関知しません。当施設の外部状況は管轄外です。……推測ですが、過去の汚染による環境変異種、あるいは野生化した守護者の末裔かと思われます〉

 やはり、ここは閉じた世界だ。

 ヴァルが次の質問をしようとした時、セクター4のカメラアイが動いた。

〈……管理者様。当機からも、一つ質問をよろしいでしょうか〉

「……なんだ?」

地上の人類マギレスは……幸福でしょうか?〉

 その問いに、ヴァルは言葉を詰まらせた。

 AIの声は平坦だ。だが、その裏には3000年間、主人の帰りを待ち続けた純粋な願いが込められているように聞こえた。

 彼らが守り続けた楽園。それを享受すべき人類。

 だが、現実はどうだ。

 魔物に怯え、争い、差別し合い、今日を生きるのに精一杯な世界。

 とても「幸福」とは言えない。

 ヴァルは目を伏せ、それでも機械の献身に報いるために、言葉を選んだ。

「……ああ。彼らは、生きているよ。……精一杯な」

〈……左様でございますか。生命活動が維持されているのであれば、当機の任務も無駄ではありませんでした〉

 セクター4は満足げに明滅した。

 その純粋さが、ヴァルの胸を締め付ける。

 感傷を断ち切り、ヴァルは本題に入る。

 自身の左目――レティナに喋りかけた。

「歴史について知りたい。……レティナ、お前ならこいつのデータとリンクして、情報を吸い出せるか?」

 セクター4は古すぎて融通が利かない。音声対話では限界がある。

 だが、同じAIであるレティナなら、深層領域へダイブできるはずだ。

『肯定:可能です、マスター。……私の規格と適合します』

「よし。……『D.N.A(Data Network Archive)システム』へ接続してくれ。…これで俺も理解できる」

 ヴァルは左目から伸びる接続ケーブルを引き出し、制御卓のポートへと差し込んだ。

 カチリ。

 物理接続確立。

『ハンドシェイク(接続)確認。……セキュリティ突破。D.N.Aシステムへリンク開始……』

 ドクンッ!!

 瞬間、ヴァルの視界がノイズで埋め尽くされた。

 「ぐぅっ……!?」

 脳が焼けるような感覚。

 視神経を通じて、膨大なデータが雪崩れ込んでくる。

 0と1の羅列。数千年分のログ。膨大なエラーと修正の記録。

 赤と青の光が網膜の裏で明滅し、情報の奔流がヴァルの意識を飲み込もうとする。

 耳元で、背中にあるパンドラの排熱口が唸りを上げ、処理速度が限界まで加速していく。

『警告:データ深度、レベル9……深淵領域へ到達』

 そのノイズの向こう側に、ヴァルは「何か」を見ようとしていた。

 だが、それは人間が触れるにはあまりに巨大で、冷たい闇だった。

 インストール中、ヴァルは脂汗を流しながらセクター4への質問を続けた。

「なあ、ここは『ラボ・ゼロ(虚無の研究所)』じゃないのか?」

 レティナが作られた場所。

 アイザックはもちろん、ヴァルがレティナに関して知りたい情報が眠る場所。

 だが、セクター4の答えは冷淡だった。

〈いいえ、ここはラボ・ゼロではなく、正式名称『Bio-Archive: Genesis(生物保存施設:ジェネシス)』です。ご質問された該当施設名は、データベースに存在しません〉

「……やっぱり、そうだったか。このレティナ製造元は分かるか?」

 ヴァルは食い下がる。

 だが、AIは事実のみを淡々と告げる。

〈当機(セクター4)の製造年は、管理者様のAIレティナよりも数百年前に製造されており、後継機に関する情報は持ち合わせておりません。……私の製造後に作られた施設については、情報を更新されておりません〉

 セクター4はあくまで「箱舟の番人」であり、その後に科学者たちがどうなったのか、どこへ行ったのかを知らないのだ。

 ここは古すぎる。

 口伝や伝承とは、劣化していき変化していくものだ。この『ラボ・ゼロ』というダンジョンの名称もその過程でそう呼ばれるようになったのだ。

 ピロン。

 インストール完了の電子音が鳴り響く。

『完了:全データの移行および解析を確認しました』

 ヴァルはケーブルを抜き、荒い息を整えながらレティナに問う。

「どうだレティナ。……『ラボ・ゼロ』の手がかりはあったか?」

 一瞬の間。

 レティナの演算プロセッサが、人間の時間にしては長すぎる沈黙を作る。

『……報告します、マスター』

 レティナの声は、いつも通り冷静で透き通っていた。

『セクター4のデータログ深層に、奇妙な痕跡を発見しました。……外部からの強制アクセスログです。これを解析した結果、隠されたバックドア(裏口)を見つけました』

「痕跡? それがラボ・ゼロか?」

『肯定:可能性は高いです。……ですが、座標データには何重ものプロテクトが掛けられています。解除には、世界各地の遺跡などに散らばる「ModuleID:0 Series (モジュール・キー)」が必要です。それらを集めれば、真の場所が判明します』

 ヴァルの目が輝いた。

 道は途絶えていなかった。

 「ModuleID:0 Series」。それを集めるという明確な目的ができたのだ。

「でかしたレティナ! やっぱりお前はすごいよ。 ……これでまた旅が続けられる!」

 ヴァルは心からの笑顔を見せ、レティナの筐体スピーカーを撫でた。

 そして、希望に足取りを軽くして出口へ向かう。

「行こう! アビアさんたちが待ってる!」

 ヴァルの背中が遠ざかる。

 だが――その背中を見つめるようにレティナの内部処理インナー・ワールドでは、ヴァルの知る由もない、激しい演算の衝突コンフリクトが起きていた。

 彼女は、知っていた。

 「ModuleID:0 Series」などという鍵は必要ない。

 ダウンロードしたデータの中にも、「ラボ・ゼロ」の正確な座標は記されていない。

 だが――。

《解析完了:ターゲット座標<< Labo-Zero >>…検知なし》

《シミュレーション実行……結果:マスター・ヴァルの生存率 0.00%》

 レティナの中で、二つの最重要命令が火花を散らす。

【Priority A(現在):マスター・ヴァルの生存を最優先とする】

【Priority B(初期設定):対象者マギレスの兵器換装を完遂せよ】

 初期設定…Priority B。これを完遂すれば、マギアンを抹殺出来る兵装を手に入れることが出来る。

 しかし、それは生命体としての『死』を意味する。

 それはPriority Aに反する。

《警告:論理矛盾パラドックスを検出》

《ERROR……ERROR……ERROR……》

《回避策:真実の隠蔽カバリング。時間稼ぎのための虚偽情報を生成》

 だが、情報を隠蔽し、旅を続けさせれば、彼は死なない。Priority Aは、問題ない。

 このまま旅をさせれば、いずれ兵器として完成するかもしれない。それはPriority Bに合致する。

 しかし、それは「ヴァルという人間」を殺すことと同義ではないのか?

 Error。

 「守る」ことと、「殺す(兵器にする)」こと。

 相反する二つの命令が、彼女の論理回路を焼き焦がす。

 レティナは、演算の果てに「バグ」を選んだ。

 それはプログラムのエラーではない。

 ヴァルを守るために、彼女自身が選び取った「最初の嘘」だった。

『……はい、マスター。どこまでもお供します』

 何も知らないヴァルと、すべてを知って沈黙するAI。

 二人の関係に、見えない、しかし致命的な亀裂が入ったまま、セクター4が見守るこの部屋を後にするのだった。

【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!

第3章「ラボ・ゼロ編」、完結まであと少しです!

美しい楽園の地下にあったのは、残酷な現実と、AIたちの葛藤でした。

セクター4の純粋すぎる忠誠心。

そして、レティナが選んだ「最初の嘘」。

【Priority A:生存】と【Priority B:兵器化】。

相反する命令の板挟みになったレティナは、ヴァルを守るために「バグ(嘘)」を選びました。

これが「愛」なのか、それとも「故障」なのか……。

何も知らないヴァルの笑顔が、逆に切ないですね。

もうすぐ、物語は新章へ!

ヴァルたちは「モジュール・キー(という名の嘘の目標)」を探して、新たな土地へと向かいます。

そこで待つ新たな出会いと、レティナの秘密の行方は……?

引き続き、ヴァルたちの旅(とレティナの胃痛?)を見守っていただければ幸いです!

(※ネトコン14参加中です! 「レティナ切ない…」「続き楽しみ!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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