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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第51話:地下の果てに、その空(アーク)がある。……冒険者の終着点、探求者の通過点

【ラボ・ゼロ・最深部エレベーター】

 セクター4の管理する制御室を抜け、一行は奥にある巨大な業務搬入用エレベーターに乗り込んだ。

 行き先ボタンは一つだけ。『Surface(地表)』。

 ガコン、ゴゴゴゴ……。

 重厚な駆動音と共に、カゴが上昇を始める。

 身体が床に押し付けられるような、強い重力感。

 地下数千メートルからの、長い長い浮上だ。

「……長いね」

 マギーがポツリと呟く。

 それは単にエレベーターの上昇時間の話ではなかった。彼女が冒険者として歩んできた、百年近くの歳月、そして追い求め続けた夢への距離の長さだ。

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 次第に、エレベーター内の空気が変わり始めた。

 今まで鼻についていたカビや鉄錆、オゾンの焦げたような臭いが消えていく。

 代わりに漂ってきたのは、どこか懐かしい、甘く湿った香り。

 土と、草と、水と、風の匂い。

「おい、まさか本当に……」

 アビアが剣を握る手を震わせる。

 頭上の分厚いハッチの隙間から、光が漏れ出し始めていた。

 人工的な蛍光灯の白ではない。もっと力強く、眩いばかりの光だ。

 プシューーー……。

 油圧の音が響き、天井のハッチが完全に開放された。

「着いたぞ……!」

 光が溢れる。

 全員が眩しさに目を細め、手で顔を覆った。

 やがて視力が順応し、ゆっくりと目を開いた瞬間――彼らは言葉を失った。

 そこは、巨大な火山の噴火口跡カルデラの内側だった。

 外の世界とは隔絶された、すり鉢状の盆地。

 だが、そこにあるのは荒涼とした岩肌ではない。

 頭上には、嘘みたいに澄み渡った「青い空」。

 どこまでも高く、深く、吸い込まれそうなほどの蒼穹そうきゅう

 そこには、絵本で見るような白い雲が、悠々と流れていた。

 眼下には、深く濃い「緑の森」。

 ねじくれた魔力で育った植物ではない。

 天に向かって真っ直ぐに伸びる巨木たち。風にそよぐ柔らかな草原。命を謳歌するように咲き乱れる極彩色の花々。

 そして、中央には宝石のように輝く「湖」があった。

 太陽の光を反射し、キラキラと煌めく水面は、まるで空を鏡に映したようだ。

 風が吹いている。

 頬を撫でるその風は、ダンジョンの淀んだ空気とは違う、優しく温かい、生命の息吹そのものだった。

「……魔法みたいだ」

 アビアがその場に膝をついた。

 カラン、と手から剣が滑り落ちる。

 魔物などいない。魔力の欠片もない。血の匂いもない。

 ただただ美しい、世界が壊れる前の「楽園」がそこにあった。

「俺たちは……未踏を、踏破したんだ……!」

 カイルとティアが、言葉にならず抱き合って喜ぶ。

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、互いの体温と、この景色の実在を確かめ合う。

「綺麗……こんな場所が、世界に残っていたなんて」

 ララが呆然と湖を見つめる。

 水面には、キラキラと太陽が揺らめいている。

 それは、どんな宝石よりも尊く、どんな魔法よりも奇跡的な光景だった。

 そして、マギー。

 彼女は震える足取りで、エレベーターを降り、地面に生えている草花に触れた。

 幻影ではない。冷たく、瑞々しい感触。指先に伝わる土の温もり。

「……本物だ。生きている」

 彼女は懐から、一冊の古い本(文献)を取り出した。

 手垢で汚れ、ページが黄ばんだその本には、かつて人々が笑った「御伽噺」が記されている。

 『地下の果てに、その空がある』と。

 マギーはその本を、青空に向かって高く掲げた。

「……本当にあったんだ。……やっぱり、あったよ」

 しわくちゃの顔が、くしゃくしゃに歪む。

 目から溢れ出した涙が、頬のシワを伝って地面に落ち、乾いた土に染み込んでいく。

「聞いたかい、セバスチャン……! あの筋肉バカめ! 私たちは間違ってなかった! ほら、本のまんまだ! 本物の自然だ!」

 彼女は遠く離れた夫に呼びかけるように叫んだ。

 誰にも信じてもらえなかった。妄想だと笑われ、老いぼれの道楽だと蔑まれた。

 だが、彼女は証明したのだ。自分の人生で追い求めたもの、そして今も働く夫と共に歩んだ道が、決して無駄ではなかったことを。

 彼女の冒険は、今この瞬間に報われ、そして終わったのだ。

 メンバー全員が、最高の達成感と幸福に包まれていた。

 歓喜の輪から少し離れた場所。

 ヴァルは一人、静かに湖を見下ろしていた。

(……綺麗だ。確かに、楽園だ)

 風の音。鳥のさえずり。木々のざわめき。

 争いも、魔物も、殺される恐怖もない世界。

 誰もがここをゴールだと認めるだろう。

 だが、ヴァルの心は冷えていた。

 胸の奥に広がるのは、達成感ではなく、底知れぬ「空虚」だった。

『マスター。照合結果が出ました』

 左肩のスピーカーから、レティナの冷静な声が響く。

 彼女もまた、この景色に感動していない。

『ここはセクター4の管理する「生物保存エリアプロジェクト・アーク」。……私の製造元コードとは一致しません』

 やはり、とヴァルは思った。

 ここではない。

 彼が探している「ラボ・ゼロ」――レティナを生み出し、自分が「マギレス」として見たいものは、こんなに綺麗な場所じゃない。

 ヴァルは自身の左腕――パンドラによって生成された義手を見つめる。

 この腕は、この景色で補えるものではない。だが、ここで得られた仲間の喜びはもっと大きい。

 

 ここは「保存」のための箱舟だ。

 だが、俺が探しているのは「実験」のための場所だ。

 『D.N.Aシステム』で見た、生物兵器を生み出し、人体実験を繰り返した地獄の記憶。

 それはこの楽園の裏側か、あるいはもっと深い場所か。

 ヴァルは右耳のオラクル・サイトを起動し、周囲をスキャンした。

 『反応なし』。

 ここには本当に自然しかない。人工物は一切ない。

 手がかりは、ここで途絶えてしまった。

(皆にとっては、ここがゴールだ。……でも、俺にとっては違う。ここが出発点だ)

 マギーたちの笑顔を見る。

 その輝きを、自分の個人的な事情で曇らせたくはない。

 ここは彼らのための場所だ。彼らの旅は、ここでハッピーエンドを迎えるべきだ。

 俺の旅だけが、終わらない。

「……けど、セクター4なら何か知っているかもしれない」

 ヴァルは拳を握りしめた。

 本当の闇しんじつは、未だに不明のままだ。

「おいヴァル! お前もこっち来いよ! すげえぞ、昔の生き物だ!」

 アビアの声に、ヴァルはハッとした。

 見れば、アビアが林の奥を指差している。そこには立派な角を持った鹿が、こちらを不思議そうに見つめていた。

 魔物ではない。敵意を持たない野生動物。

 逃げもせず、ただ静かに草を食んでいる。

 殺し合いを続けてきた彼らにとって、それは平和の象徴そのものだった。

 アビアは子供のような満面の笑みを浮かべている。

 ヴァルは一瞬で暗い表情を隠し、作り笑いを貼り付けた。

「……はい、今行きます」

 その背中を、少し離れた場所から見つめる二人の少女がいた。

 ララと、ルーナだ。

「……ヴァル?」

 ララが小さく呟く。

 美しい景色に感動しつつも、彼女の目はヴァルを追っていた。

 彼が今見せた笑顔。それは「いつもの顔」ではなく、「まだ旅が終わっていない顔」だった。

「……あいつ、笑ってないわね」

 ルーナもまた、景色よりも「人」を見ていた。

 彼女にとっての興味は、雄大な自然よりも、目の前の生きた人間ヴァルにあるようだった。

 美しい景色の中で笑い合う仲間たち。

 風が吹き抜け、マギーの白髪を揺らす。

「……ふぅ。いい冥土の土産ができたよ。もう、思い残すことはないねぇ」

 マギーが満足げに空を見上げて呟く。

 その言葉は、このパーティ「ユリシーズ・アトラス」の役割が、ここで終わったことを静かに暗示していた。

 ここから先は、冒険ではない。

 「探求」という名の、孤独な戦いになる。

 ヴァルは青空を見上げ、一つだけ息を吐いた。

(……戻ろう。セクター4に、話を聞かなくちゃいけない)

 眩しすぎる光の中で、ヴァルだけが、その先に続く深い闇を見据えていた。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


ついに辿り着いた、地下の果てにある「青い空」。

マギーさんの長年の夢が叶った瞬間でした。

(セバスチャンに報告するシーン、書いていて目頭が熱くなりました……)


しかし、ここはヴァルやレティナにとってのゴールではありません。

仲間たちが笑顔になる中、一人だけ「違う」と感じているヴァル。

そしてそれに気づくララとルーナ。


綺麗なハッピーエンド……に見えて、まだ謎は残されたままです。

「ラボ・ゼロ」の真の姿とは?

レティナの故郷はどこなのか?


次回、第3章エピローグ。

そして物語は新たなステージへ。

最後までお付き合いいただければ幸いです!


(※ネトコン14参加中です! 「マギーさんおめでとう!」「ヴァル君の孤独が切ない…」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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