第49話:深層の包囲網と、雷帝の支配(ケラウノス・ドメイン)。……その「天災」は、科学で作られる
【ラボ・ゼロ・深層入り口】
中層の「粉塵爆発」による殲滅を抜け、一行はついに未踏エリア――『深層』へと足を踏み入れた。
そこは、これまでの直線的な通路とは全く異なる異様な空間だった。
天井は高く、巨大な鍾乳石が牙のように垂れ下がっている。
通路は網目状に複雑に交差し、どこから敵が湧き出してくるか分からない、天然の迷宮となっていた。
空気すら重く、湿ったカビと鉄錆の臭いが鼻をつく。
「……おい、変だぞ」
先頭を歩いていたアビアが足を止め、ランタンを壁に近づけた。
その顔色は、いつになく険しい。
「『野営印』が一つもねえ」
ダンジョン攻略の鉄則として、安全地帯を見つけたら後続のために印を刻むのが流儀だ。
だが、ここにはそれがない。
あるのは、壁に刻まれた無数の爪痕と、装備の残骸、そして風化した人骨だけ。
つまり、ここに足を踏み入れた冒険者は全員、「休む暇もなく殺された(全滅した)」ことを意味している。
カサカサ……。
物陰で何かが蠢く音がする。
休めば死ぬ。止まれば喰われる。
そんな無言の圧力が、肌を刺すように漂っていた。
『警告:敵影散開。待ち伏せの可能性あり。……警戒レベルを最大に引き上げます』
レティナの無機質な声が、ヴァルの左肩のスピーカーから響く。
「……了解」
ヴァルは右耳のオラクル・サイトを最大出力で展開した。
視界に赤いグリッドが表示され、ヴァルの持つ歯抜けの地図に、次々と赤い光点(敵性反応)が書き込まれていく。
その光の数は、絶望的なほどに多い。
◇
【作戦会議:タートル車内】
安全を確保しつつ、タートルを一時停車させ、緊急会議が開かれた。
ヴァルが地図に付け足した赤い点は、不気味な配置が描かれていた。
深層全域には、敵がほとんどいない。
その代わり、深層から最深部への入り口前に、「赤い海」が密集し、ピクリとも動かずに待機していたのだ。
「……妙だねぇ。籠城戦でもやろうってのかい?」
マギーが煙草を噛み潰す。
「魔物ってのは本来、本能で人間を襲ってくるはずだ。これほど整然と此処を守ってるのは、何かが『指揮』をしている……って事だろうね」
未踏ダンジョンだ、何が起こっても不思議ではない。一同は驚きもせず、息を呑む。
「真正面からぶつかれば、また『数の暴力』で磨り潰されます」
ヴァルが冷静に分析する。
敵の数は千を超えているだろう。まともに戦えば、こちらの弾薬と魔力が先に尽きる。
だが、レティナが冷徹な戦術プランを提示した。
『提案:包囲殲滅戦。敵を三方向から圧迫し、中央の一点に集めて消滅させます』
ヴァルが頷く。
『配置はこうです。
正面(押し込み):カイル、マスター。
右舷(押し込み):ティア、ララ、ルーナ。
左舷(主力):タートル (アビア、マギー、タルゴス)。
……敵を『肉の壁』ごと粉砕させます』
◇
【最深部入り口前広場】
そこは、巨大な鉄の扉が鎮座する広大なホールだった。
その扉を守るように、千に近い重装甲の魔物たちが密集陣形を敷いている。
『メック・ベア』、『アイアン・リザード』、『ギガ・ビートル』。
どれも単体で中ボス級の強さを持つ怪物たちが、軍隊のように整列していた。
グルルルル……!!
侵入者を見つけた魔物たちが、一斉に咆哮を上げる。
大気を震わす殺意の波動。
「作戦開始!」
ヴァルの号令と共に、右舷からティアたちが動いた。
「A.F. Code... 04:GRAV-M【重力の檻】!!」
ズンッ!!
右側の敵集団に重力が掛かり、強制的に中央へ押し込まれる。
「そっちには行かせないわよ!」
ララがヒート・スピアで牽制し、ルーナが風魔法で退路を断つ。
敵の注意が右に向いた瞬間、正面のカイルが杖を振るった。
「道を開けなさい! A.F. Code:02高圧水柱!!」
シュパァァァンッ!!
音速の水流カッターが水平に走り、最前列の魔物たちを装甲ごと両断した。
鮮血と鉄屑が舞う。
だが、敵は怯まない。
あろうことか、切断された仲間の死体を盾にして、後ろから重なるように突っ込んできたのだ。
ドガガガッ!
肉の壁が、水流の威力を吸収していく。
「なっ……!?」
カイルが驚愕に目を見開く。
水流カッターは鋭利だが、質量のある物体を貫通する力は弱い。何層にも重なった筋肉と装甲の「厚み」が、最強の刃を止めたのだ。
「くっ、数が多すぎる! 肉の厚みで水圧が減衰する……! 切れ味が出ない!」
カイルが焦りの声を上げる。
『面』での制圧には限界がある。敵は死を恐れず、死体ごと押し寄せてくる狂気の軍団だ。
「カイルさんは『面』を維持してください。フルコードで打ち込み……残った敵は『点』です。僕が抜きます」
隣に立ったヴァルが、静かにアサルトライフルを構えた。
敵との距離、約50メートル。
「A.F.Code02:PRESS-M【高圧水柱】」
シュパァァァァァッ!!!
先ほどより強いフルコードでの水流カッターが敵を襲う。
カイルの水流を耐え抜いた上位種が、猛スピードで突っ込んでくる。
カチリ。
ヴァルは親指でセレクターを「セミオート(単発)」へ切り替えた。
タン、タン、タンッ。
乾いた発砲音が、正確なリズムで刻まれる。
一発必中。
突出してくる敵の、装甲の隙間――目、口、関節。
弱点だけをピンポイントで貫いていく。
ギャッ……!
先頭の敵が崩れ落ち、後続の進路を塞ぐ。
だが、さらに奥から、盾を持った重装甲の『シールド・ウルフ』が迫る。
分厚いミスリルの盾は、単発の弾丸では弾かれる。
ヴァルは瞬時に判断し、指先でセレクターを弾いた。
「3点バースト(3発制限点射)」へ。
呼吸を止め、トリガーを絞る。
タタタン! タタタン!
一度のトリガーで3発の弾丸が吐き出され、ほぼ同じ着弾点に吸い込まれる。
1発目が盾の表面を砕き。
2発目が亀裂を広げ。
3発目が、その奥にある肉体を深々と抉る。
ドォォォンッ!!
シールド・ウルフが、盾ごと胸を吹き飛ばされて仰向けに倒れた。
ヴァルの足元には、熱い真鍮の薬莢がチャリン、チャリンと音を立てて積み上がっていく。
「リロード(再装填)!」
残弾がゼロになる前に、ヴァルは素早くマガジンを叩き落とし、新しい弾倉を叩き込んだ。
タクティカル・リロード。
コンマ数秒の隙すら見せない、洗練された動作。
鼻をつく硝煙の匂いが、彼の集中力を極限まで高めていた。
「道は僕が作ります。カイルさんは振ってください!」
「了解です! ……すごい、魔法よりも速い……!」
ヴァルが穴を空け、カイルが薙ぎ払う。
科学と魔法の連撃が、敵の鉄壁の防衛線を食い破っていく。
◇
【決着:雷帝の支配】
『今です! 敵が中央に固まりました!』
レティナの声が響く。
ティアたちの押し込みと、カイルたちの足止めにより、敵集団はタートルの射線上に密集した。
広場の中央は、行き場を失った魔物たちで黒い山となっていた。
ヴァルが合図し、カイルが上空へ照明魔法「小さな火花」を撃ち上げる。
パァァァッ……!
白い閃光が合図だ。
「兄貴、お願いします!」
タートルの荷台で、アビアがニヤリと笑う。
全身からバチバチと紫電が迸っている。
周囲の空気がイオン化し、髪の毛が逆立つほどの静電気が発生していた。
「へっ、待ちくたびれたぜ……!」
運転席のタルゴスが、赤いスイッチを叩いた。
「喰らえぇぇッ!!」
ドシュシュシュシュッ!!!
タートルの側面から、無数のワイヤー付きパイル(避雷針)が射出された。
それらは放物線を描き、敵集団の中へ、あるいは周囲の地面へと突き刺さる。
ガキン! ガキン!
鋼鉄の杭が、敵の群れの中に「電極の森」を作り出した。
準備完了。
アビアは両手を広げ、溜め込んだ全身の魔力を解放する。
それは剣技ではない。天災だ。
「消し飛びな! A.F. Code... 11:AURA-Ω(オメガ)……【雷帝の支配】!!」
カッッッ!!!!
視界が白一色に染まった。
聴覚を奪うほどの轟音と共に、パイルのネットワークを通じて、超高電圧の電流が広場全体を駆け巡る。
バリバリバリバリバリッ!!!
落雷ではない。地面そのものが帯電し、空間全体がプラズマの檻と化したのだ。
数千度の熱量と、神経を焼き切る電気ショック。
数百の魔物が、断末魔を上げる暇もなく蒸発し、炭化した。
装甲が溶け、肉が灰になり、骨すら残さない。
圧倒的な、純粋なエネルギーの奔流。
やがて、光が収まる。
もうもうと立ち込める白煙と、オゾンの臭い。
静寂。
そこにはもう、動くものは何もなかった。
ただ、黒い炭の山が風に崩れていくだけ。
「……へっ。ざまぁみろ」
アビアが拳を握りしめ、荒い息を吐く。
魔力は空っぽだが、心地よい疲労感だった。
ついに、彼らは「数」の暴力を、「質」と「戦術」でねじ伏せたのだ。
そして、煙の向こうに、最深部の巨大な扉が姿を現した。
【あとがき】
読んでいただきありがとうございます!
「科学的無双」後半戦!
カイルの水流カッター(面)と、ヴァルの精密射撃(点)の連携。
そして、アビアの広域殲滅魔法「雷帝の支配」。
(パイルを打ち込んで電極にする戦法、絵面が派手で大好きです)
「剣技ではない。天災だ」
この一行が書きたくて、ここまで準備してきました。
数百の魔物が蒸発するカタルシス、楽しんでいただけましたでしょうか?
次回、ついに最深部の扉が開きます。
待ち受けるのは、「指揮官」か、それとも……?
第3章クライマックス、突入です!
(※ネトコン14参加中です! 「アビア兄貴かっこいい!」「雷魔法最高!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)




