第47話:怒涛の1週間(オーバーホール)と、雨の日の記憶。……10年前、少年が手渡した武器
【テトラゴニア・冒険者ギルド周辺】
ヴァルのプレゼンから一夜明け、怒涛の一週間が幕を開けた。
新生『ユリシーズ・アトラス』の実働部隊――アビア、カイル、ララ、そしてヴァルの四人は、テトラゴニア周辺のクエストカウンターに張り付いていた。
「次! 『ギガ・アイアン・ビートル』の討伐および、鉄鉱石20kg納品クエスト、受領!」
「おいおい、あのパーティまた行くのか? さっき帰ってきたばかりだろ」
「噂じゃ『ラボ・ゼロ』で頭がおかしくなったって話だぜ……」
周囲の冒険者たちが引くほどの鬼気迫る形相。
彼らの目的は金ではない。報酬の「現物支給(鉱石)」と、パンドラを稼働させるためのエネルギー(魔鉱石)だ。
ズガンッ!!
郊外の岩場で、アビアが修羅の如く剣を振るう。
「らあぁッ!! 邪魔だ雑魚ども! 俺たちは忙しいんだよ!」
カイルが的確に急所を撃ち抜き、ララが素材を回収する。
そしてヴァルは、回収した端から鉱石を背中のパンドラへと放り込んでいく。
ガリガリ、ゴリゴリ、バキッ。
背中の鉄塊が、咀嚼音を立てて岩を喰らう。
「……足りない。もっとだ。比重が軽い、密度が足りない……!」
『質が悪いですね、これは。次ですよ、マスター。次』
ヴァルの目は血走り、完全に「工場長」の顔になっていた。
一方、拠点の倉庫では。
タルゴスとマギーが不眠不休で加工を続け、ティアが全員の食事と仮眠の世話、そしてルーナの看病に奔走していた。
休む暇などない。
全ては、あの「赤い絶望」を乗り越えるために。
◇
【3日目:倉庫裏・試射場】
金属加工の火花が散る中、カイル用の新装備が完成した。
彼の愛用する杖の先端に、無骨な金属製のパーツ――『高圧水流ノズル』が装着されている。
「では、試射を行います」
「A.F.Code:02…高圧水柱」
ヴァルの合図で、カイルが魔法を50%出力で放つ。
シュンッ!!
鋭い風切り音と共に、超高圧になった水流が噴出された。
数メートル先に設置された厚さ2センチの鉄板が、音もなく両断され、砂地に落ちる。
「……素晴らしい」
カイルが目を見開く。
50%出力でも威力、切断力ともに申し分ない。これなら連発も出来るし、硬い魔物の装甲もバターのように切れるだろう。
だが。
カイルの顔には、どこか陰りがあった。
「……どうかされましたか? 威力不足ですか?」
ヴァルが不安そうに尋ねると、カイルは申し訳なさそうに口を開いた。
「いえ、性能は完璧です。ですが……その、ノズルの先端をもう少し延ばせませんか?」
「延ばす? 物理的には短い方が水圧減衰が防げますが……」
「感覚の問題なのです。魔法の発射点が手元に近すぎて、照準が定まらないというか……。杖の先から『放つ』感覚がないと、実戦で狙いを外す気がします」
ヴァルはハッとした。
自分は効率と数値ばかりを追い求めていた。だが、使い手は人間だ。
「撃つ感覚(ユーザー体験)」を無視した道具は、どんなに高性能でも使い物にならない。
困惑するヴァルを、背後からタルゴスがバシッと叩いた。
「ガハハ! 遠慮せずに言えカイル! 『使いにくい』道具ってのは、どんな名剣でもナマクラなんだよ!」
タルゴスは、ニカッと笑って親指を立てる。
「職人の独りよがりじゃあ、いい武器は作れねえ。使い手のワガママを聞いて、それを形にするのが俺たちの仕事だろ?」
「……そうですね。すみません、カイルさん」
ヴァルは笑顔を返し、すぐに設計図を修正した。
「分かりました。パイプを20センチ延長し、内部に螺旋状の整流板を入れて補正します。これなら『杖の延長』として扱えるはずです」
「おお……! さすがです、ヴァル君!」
科学の理論に、魔法使いの感性が混ざり合う。
これぞ、真の「融合」だった。
◇
【4日目〜6日目:歩く棺桶】
4日目。
タートルの荷台の改造が大詰めを迎えていた。
倉庫内には、溶接の火花と、焼けた油の匂いが充満している。
バチバチバチッ!!
「ティア嬢ちゃん! その鉄骨を支えてくれ! リベットを打ち込むぞ!」
「は、はいっ! タルゴスさん!」
マギーは少し離れた場所で図面を確認しながら、的確に指示を出している。
「右側が2ミリずれてるよ。修正しな」
タルゴスとティアによって、荷台2階部分の側面には、大きく張り出すような形で金属製のデッキが増設されていた。
鉄骨を組んで足場を作り、そこへ火薬式の「避雷針射出砲」を左右に三基ずつ設置する。
「……これじゃもう、荷台っていうか戦車じゃない?」
食事を運んできたルーナが、その異様な威圧感に引きつった笑いを浮かべる。
「グゥグゥ」
近くで見ていたタートルも、牧草を食みながら同意するように鳴いた。
その日の夕方、ワイヤーが絡まるトラブルも、元気になったルーナの繊細な指先による調整で解決し、日が暮れる頃には要塞のようなタートルが完成していた。
そして、5日目、6日目。
準備が進むにつれ、ヴァルの体に異変が起き始めていた。
「ぐわっ……!?」
クエストの帰り道、倉庫の前でヴァルが背後へ仰け反るように倒れた。
ズゴォォォォンッ……!!
ただの転倒ではない。
背中のパンドラが石畳に激突した瞬間、小さい地響きと共に地面が揺れ、蜘蛛の巣状の亀裂が入ったのだ。
「おいヴァル! 大丈夫か!?」
アビアが慌てて駆け寄るが、ヴァルは亀のようにひっくり返ったまま起き上がれない。
「す、すみません……重さが、予想以上で……」
そこにあるのは、いつものバックパックではない。
大量の鉱石と魔鉱石を取り込み、高密度の流体金属へと変換した結果、パンドラは本来の姿を取り戻していた。
幾何学模様が刻まれた、巨大な『黒い直方体』。
それは文字通り「鉛の塊」と化していた。
「ぐぬぬぬ……ッ! なんて重さだ……!」
アビアが底を支え持ち上げるが、ヴァルの体ごと沈み込むような感覚に顔をしかめる。
ララも横から肩を貸すが、その細い腕がきしむほどの重量がかかる。
「ヴァル、これ……中に何が入ってるの……!」
「……希望、ですよ」
顔面蒼白で、脂汗を流しながらも、ヴァルは笑っていた。
仲間たちに支えられ、巨大な黒い箱を背負って歩くヴァル。
ズシン、ズシン……。
一歩ごとに骨が悲鳴を上げる。その異様なシルエットを見た街の人々は、恐れをなして道を空けた。
「見ろよ、あいつ……自分の棺桶を背負って歩いてるぞ」
「死にに行くのか……」
棺桶。
確かにそう見えるかもしれない。
だが、その中身は死体ではない。魔物を葬るための「死」が詰まっているのだ。
◇
【7日目:朝】
ついに、全ての準備が整った。
パンドラの重みで動けなくなったヴァルは、そのまま倉庫の床で座りながら眠って過ごし、重厚な駆動音と共に目を覚ました。
『生成完了:旧文明型自動小銃、および5.56mm弾210発、30発マガジン7つです。おまけで、対物ライフル用マガジンを4つと……ご注文通りの装備です』
プシュウゥゥ……。
排熱の白煙に囲まれながら、黒い棺桶の装甲が展開する。
中からサブアームが伸び、鈍く黒光りする「鉄の塊」を次々取り出した。
古の時代、戦火に巻き込まれないよう武装した『永世中立国』で作られたとされる、高精度ライフル。
寒冷地や悪環境でも動作し、精密射撃を得意とするヴァルに最適な相棒だ。
全ての生成を終えたパンドラは、空になった空間を圧縮し、再びコンパクトなバックパック型へと折り畳まれた。
ヴァルは素早く身支度を整えると、早起きしていたララに向き直った。
手には、一本の真新しい「槍」が握られている。
「ララさん、これは貴女に」
「えっ、私に?」
ララが受け取る。一見すると、何の変哲もない鈍く黒光りする鋼鉄の素槍だ。
「石突(柄の底)を、地面や手で強く叩いてみてください」
言われた通り、ララが石突をガチン! と掌で叩く。
カシャッ、キィィィン……!
内部機構が作動し、槍の穂先が瞬時に赤熱化した。
周囲の空気が揺らぐほどの高熱。『ヒート・スピア』だ。
「わぁ……! すごい! スピアは元々得意なの」
ララがはしゃいで穂先を振り回す。
その無邪気な笑顔を見た瞬間、ヴァルの脳裏に強烈なデジャヴが走った。
(……あれ?)
視界がフラッシュバックする。
雨の降る、ノアズ・アークの郊外。
10年ほど前。まだ自分が15歳くらい、ただの運搬屋見習いだった頃の記憶。
当時、その護衛として雇われていたのが、若き獣人の女性だった。
だが、野盗の襲撃を受け、彼女は武器を破壊され、泥の中に叩きつけられていた。
逃げ惑う雇い主と、降り注ぐ冷たい雨。体温を奪う絶望的な寒さ。
戦士が武器を失うことの恐怖に震えながらも、彼女は身体一つでヴァルを守ろうとしていた。
そんな彼女に、ヴァル少年が手渡したのは、護身用で持っていた「双剣」だった。
『これを使ってください』
それを受け取った時の、安堵と決意が混じった笑顔。
『貴方は逃げて。ここは私がなんとかするから』
ヴァルは走り出した。そこからその獣人の女性は見ていない。
雨の中で灯った小さな火のような温かさが、今のララの笑顔と完全に重なった。
「……まさか、あの時の護衛って……」
ヴァルが呆然と呟く。
ララは赤熱する槍を愛おしそうに抱きしめ、優しく、少し大人びた表情で微笑んだ。
「……ふふ。ようやく、思い出してくれたみたいね」
「ララさん、あの時の……」
「ええ、ずっと思い出すの待ってたの。あの雨の日、私に生きる武器をくれた事を」
二人の間に流れる、確かな絆。
言葉はいらなかった。10年の時を経て、二人は「守る者と守られる者」ではなく、「対等の相棒」として再会したのだ。
いい雰囲気になりかけた、その時。
『警告:マスター! なに、感動しているんです。エネルギー残量が低下しています。直ちに魔鉱石を補充してください』
レティナの無機質な声が、無粋にも二人の間をぶった切った。
「……レティナ! ……お前なぁ」
ヴァルが脱力し、ララがクスクスと笑う。
ガチャリ。
倉庫の扉が開き、アビア、カイル、ティア、ルーナ、そしてマギーとタルゴスが入ってきた。
全員、『新しい装備』を身に着け、その目には闘志が宿っている。
「準備はいいか、野郎共!」
アビアが新しい籠手を打ち鳴らす。
「おう!!」
「さあ、行きますよ。……魔物どもにリベンジです」
ヴァルがライフルを背負い、歩き出す。
新生ユリシーズ・アトラス。
朝日の中、完全武装したタートルが再びテトラゴニアの門をくぐる。
目指すは未踏の地、ラボ・ゼロ。
再挑戦の始まりだ。
【あとがき】
読んでいただきありがとうございます!
怒涛の準備期間、終了です!
カイル君の「水流カッター」に、アビアの「避雷針戦車」。
そしてヴァルが背負う「黒い棺桶」。
(あの重さ、もはや質量兵器ですね……)
そして明かされた、ララさんとの過去。
10年前の雨の日、二人は既に出会っていたんですね。
これで、彼女がヴァル君を気にかけていた理由が繋がりました。
【お知らせ】
活動報告にて、書き下ろしのSSを18時にアップ予定です!
本編では描かれなかった「ヴァルとララ」の出会い……。
本編の補完として、ぜひ合わせてお楽しみください!
(活動報告は、目次の上の「活動報告」タブから飛べます!)
さて、これで全員の装備と心の準備は整いました。
次回、いよいよ『ラボ・ゼロ』への再突入!
新生ユリシーズ・アトラスの「科学的無双」が始まります!
(※ネトコン14参加中です! 「ララさんエモい!」「SS読むよ!」という方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)




