表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/74

第47話:怒涛の1週間(オーバーホール)と、雨の日の記憶。……10年前、少年が手渡した武器

【テトラゴニア・冒険者ギルド周辺】

 ヴァルのプレゼンから一夜明け、怒涛の一週間が幕を開けた。

 新生『ユリシーズ・アトラス』の実働部隊――アビア、カイル、ララ、そしてヴァルの四人は、テトラゴニア周辺のクエストカウンターに張り付いていた。

「次! 『ギガ・アイアン・ビートル』の討伐および、鉄鉱石20kg納品クエスト、受領!」

「おいおい、あのパーティまた行くのか? さっき帰ってきたばかりだろ」

「噂じゃ『ラボ・ゼロ』で頭がおかしくなったって話だぜ……」

 周囲の冒険者たちが引くほどの鬼気迫る形相。

 彼らの目的は金ではない。報酬の「現物支給(鉱石)」と、パンドラを稼働させるためのエネルギー(魔鉱石)だ。

 ズガンッ!!

 郊外の岩場で、アビアが修羅の如く剣を振るう。

「らあぁッ!! 邪魔だ雑魚ども! 俺たちは忙しいんだよ!」

 カイルが的確に急所を撃ち抜き、ララが素材を回収する。

 そしてヴァルは、回収した端から鉱石を背中のパンドラへと放り込んでいく。

 ガリガリ、ゴリゴリ、バキッ。

 背中の鉄塊が、咀嚼音を立てて岩を喰らう。

「……足りない。もっとだ。比重が軽い、密度が足りない……!」

『質が悪いですね、これは。次ですよ、マスター。次』

 ヴァルの目は血走り、完全に「工場長」の顔になっていた。

 一方、拠点の倉庫では。

 タルゴスとマギーが不眠不休で加工を続け、ティアが全員の食事と仮眠の世話、そしてルーナの看病に奔走していた。

 休む暇などない。

 全ては、あの「赤い絶望」を乗り越えるために。

【3日目:倉庫裏・試射場】

 金属加工の火花が散る中、カイル用の新装備が完成した。

 彼の愛用する杖の先端に、無骨な金属製のパーツ――『高圧水流ウォータージェットノズル』が装着されている。

「では、試射を行います」

「A.F.Code:02…高圧水柱イグニス・ジェッタ

 ヴァルの合図で、カイルが魔法を50%出力で放つ。

 シュンッ!!

 鋭い風切り音と共に、超高圧になった水流が噴出された。

 数メートル先に設置された厚さ2センチの鉄板が、音もなく両断され、砂地に落ちる。

「……素晴らしい」

 カイルが目を見開く。

 50%出力でも威力、切断力ともに申し分ない。これなら連発も出来るし、硬い魔物の装甲もバターのように切れるだろう。

 だが。

 カイルの顔には、どこか陰りがあった。

「……どうかされましたか? 威力不足ですか?」

 ヴァルが不安そうに尋ねると、カイルは申し訳なさそうに口を開いた。

「いえ、性能は完璧です。ですが……その、ノズルの先端をもう少し延ばせませんか?」

「延ばす? 物理的には短い方が水圧減衰が防げますが……」

「感覚の問題なのです。魔法の発射点が手元に近すぎて、照準が定まらないというか……。杖の先から『放つ』感覚がないと、実戦で狙いを外す気がします」

 ヴァルはハッとした。

 自分は効率と数値ばかりを追い求めていた。だが、使い手は人間だ。

 「撃つ感覚(ユーザー体験)」を無視した道具は、どんなに高性能でも使い物にならない。

 困惑するヴァルを、背後からタルゴスがバシッと叩いた。

「ガハハ! 遠慮せずに言えカイル! 『使いにくい』道具ってのは、どんな名剣でもナマクラなんだよ!」

 タルゴスは、ニカッと笑って親指を立てる。

「職人の独りよがりじゃあ、いい武器は作れねえ。使い手のワガママを聞いて、それを形にするのが俺たちの仕事だろ?」

「……そうですね。すみません、カイルさん」

 ヴァルは笑顔を返し、すぐに設計図を修正した。

「分かりました。パイプを20センチ延長し、内部に螺旋状の整流板ライフリングを入れて補正します。これなら『杖の延長』として扱えるはずです」

「おお……! さすがです、ヴァル君!」

 科学の理論に、魔法使いの感性が混ざり合う。

 これぞ、真の「融合」だった。

【4日目〜6日目:歩く棺桶】

 4日目。

 タートルの荷台の改造が大詰めを迎えていた。

 倉庫内には、溶接の火花と、焼けた油の匂いが充満している。

 バチバチバチッ!!

「ティア嬢ちゃん! その鉄骨を支えてくれ! リベットを打ち込むぞ!」

「は、はいっ! タルゴスさん!」

 マギーは少し離れた場所で図面を確認しながら、的確に指示を出している。

「右側が2ミリずれてるよ。修正しな」

 タルゴスとティアによって、荷台2階部分の側面には、大きく張り出すような形で金属製のデッキが増設されていた。

 鉄骨を組んで足場を作り、そこへ火薬式の「避雷針射出砲パイル・ランチャー」を左右に三基ずつ設置する。

「……これじゃもう、荷台っていうか戦車じゃない?」

 食事を運んできたルーナが、その異様な威圧感に引きつった笑いを浮かべる。

「グゥグゥ」

 近くで見ていたタートルも、牧草を食みながら同意するように鳴いた。

 その日の夕方、ワイヤーが絡まるトラブルも、元気になったルーナの繊細な指先による調整で解決し、日が暮れる頃には要塞のようなタートルが完成していた。

 そして、5日目、6日目。

 準備が進むにつれ、ヴァルの体に異変が起き始めていた。

「ぐわっ……!?」

 クエストの帰り道、倉庫の前でヴァルが背後へ仰け反るように倒れた。

 ズゴォォォォンッ……!!

 ただの転倒ではない。

 背中のパンドラが石畳に激突した瞬間、小さい地響きと共に地面が揺れ、蜘蛛の巣状の亀裂が入ったのだ。

「おいヴァル! 大丈夫か!?」

 アビアが慌てて駆け寄るが、ヴァルは亀のようにひっくり返ったまま起き上がれない。

「す、すみません……重さが、予想以上で……」

 そこにあるのは、いつものバックパックではない。

 大量の鉱石と魔鉱石を取り込み、高密度の流体金属へと変換した結果、パンドラは本来の姿を取り戻していた。

 幾何学模様が刻まれた、巨大な『黒い直方体』。

 それは文字通り「鉛の塊」と化していた。

「ぐぬぬぬ……ッ! なんて重さだ……!」

 アビアが底を支え持ち上げるが、ヴァルの体ごと沈み込むような感覚に顔をしかめる。

 ララも横から肩を貸すが、その細い腕がきしむほどの重量がかかる。

「ヴァル、これ……中に何が入ってるの……!」

「……希望、ですよ」

 顔面蒼白で、脂汗を流しながらも、ヴァルは笑っていた。

 仲間たちに支えられ、巨大な黒い箱を背負って歩くヴァル。

 ズシン、ズシン……。

 一歩ごとに骨が悲鳴を上げる。その異様なシルエットを見た街の人々は、恐れをなして道を空けた。

「見ろよ、あいつ……自分の棺桶を背負って歩いてるぞ」

「死にに行くのか……」

 棺桶。

 確かにそう見えるかもしれない。

 だが、その中身は死体ではない。魔物を葬るための「死」が詰まっているのだ。

【7日目:朝】

 ついに、全ての準備が整った。

 パンドラの重みで動けなくなったヴァルは、そのまま倉庫の床で座りながら眠って過ごし、重厚な駆動音と共に目を覚ました。

『生成完了:旧文明型自動小銃アサルトライフル、および5.56mm弾210発、30発マガジン7つです。おまけで、対物ライフルアンチ・マテリアル用マガジンを4つと……ご注文通りの装備です』

 プシュウゥゥ……。

 排熱の白煙に囲まれながら、黒い棺桶パンドラの装甲が展開する。

 中からサブアームが伸び、鈍く黒光りする「鉄の塊」を次々取り出した。

 古の時代、戦火に巻き込まれないよう武装した『永世中立国』で作られたとされる、高精度ライフル。

 寒冷地や悪環境でも動作し、精密射撃を得意とするヴァルに最適な相棒だ。

 全ての生成を終えたパンドラは、空になった空間を圧縮し、再びコンパクトなバックパック型へと折り畳まれた。

 ヴァルは素早く身支度を整えると、早起きしていたララに向き直った。

 手には、一本の真新しい「槍」が握られている。

「ララさん、これは貴女に」

「えっ、私に?」

 ララが受け取る。一見すると、何の変哲もない鈍く黒光りする鋼鉄の素槍だ。

「石突(柄の底)を、地面や手で強く叩いてみてください」

 言われた通り、ララが石突をガチン! と掌で叩く。

 カシャッ、キィィィン……!

 内部機構が作動し、槍の穂先が瞬時に赤熱化した。

 周囲の空気が揺らぐほどの高熱。『ヒート・スピア』だ。

「わぁ……! すごい! スピアは元々得意なの」

 ララがはしゃいで穂先を振り回す。

 その無邪気な笑顔を見た瞬間、ヴァルの脳裏に強烈なデジャヴが走った。

(……あれ?)

 視界がフラッシュバックする。

 雨の降る、ノアズ・アークの郊外。

 10年ほど前。まだ自分が15歳くらい、ただの運搬屋見習いだった頃の記憶。

 当時、その護衛として雇われていたのが、若き獣人ゾーアンの女性だった。

 だが、野盗の襲撃を受け、彼女は武器を破壊され、泥の中に叩きつけられていた。

 逃げ惑う雇い主と、降り注ぐ冷たい雨。体温を奪う絶望的な寒さ。

 戦士が武器を失うことの恐怖に震えながらも、彼女は身体一つでヴァルを守ろうとしていた。

 そんな彼女に、ヴァル少年が手渡したのは、護身用で持っていた「双剣」だった。

『これを使ってください』

 それを受け取った時の、安堵と決意が混じった笑顔。

『貴方は逃げて。ここは私がなんとかするから』

 ヴァルは走り出した。そこからその獣人の女性は見ていない。

 雨の中で灯った小さな火のような温かさが、今のララの笑顔と完全に重なった。

「……まさか、あの時の護衛って……」

 ヴァルが呆然と呟く。

 ララは赤熱する槍を愛おしそうに抱きしめ、優しく、少し大人びた表情で微笑んだ。

「……ふふ。ようやく、思い出してくれたみたいね」

「ララさん、あの時の……」

「ええ、ずっと思い出すの待ってたの。あの雨の日、私に生きる武器ちからをくれた事を」

 二人の間に流れる、確かな絆。

 言葉はいらなかった。10年の時を経て、二人は「守る者と守られる者」ではなく、「対等の相棒」として再会したのだ。

 いい雰囲気になりかけた、その時。

『警告:マスター! なに、感動しているんです。エネルギー残量が低下しています。直ちに魔鉱石を補充してください』

 レティナの無機質な声が、無粋にも二人の間をぶった切った。

「……レティナ! ……お前なぁ」

 ヴァルが脱力し、ララがクスクスと笑う。

 ガチャリ。

 倉庫の扉が開き、アビア、カイル、ティア、ルーナ、そしてマギーとタルゴスが入ってきた。

 全員、『新しい装備』を身に着け、その目には闘志が宿っている。

「準備はいいか、野郎共!」

 アビアが新しい籠手を打ち鳴らす。

「おう!!」

「さあ、行きますよ。……魔物どもにリベンジです」

 ヴァルがライフルを背負い、歩き出す。

 新生ユリシーズ・アトラス。

 朝日の中、完全武装したタートルが再びテトラゴニアの門をくぐる。

 目指すは未踏の地、ラボ・ゼロ。

 再挑戦リベンジの始まりだ。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


怒涛の準備期間オーバーホール、終了です!

カイル君の「水流カッター」に、アビアの「避雷針戦車」。

そしてヴァルが背負う「黒い棺桶パンドラ」。

(あの重さ、もはや質量兵器ですね……)


そして明かされた、ララさんとの過去。

10年前の雨の日、二人は既に出会っていたんですね。

これで、彼女がヴァル君を気にかけていた理由が繋がりました。


【お知らせ】

活動報告にて、書き下ろしのSSショートストーリーを18時にアップ予定です!

本編では描かれなかった「ヴァルとララ」の出会い……。

本編の補完として、ぜひ合わせてお楽しみください!

(活動報告は、目次の上の「活動報告」タブから飛べます!)


さて、これで全員の装備と心の準備は整いました。

次回、いよいよ『ラボ・ゼロ』への再突入!

新生ユリシーズ・アトラスの「科学的無双」が始まります!


(※ネトコン14参加中です! 「ララさんエモい!」「SS読むよ!」という方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ