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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第46話:敗走の苦味と、逆転の青写真。……魔法使い(ファンタジー)を発電所(インフラ)に変える夜

【ラボ・ゼロ・入口通路】

 キュルルルルルッ!!

 タートルがタイヤを軋ませ、全速力で洞窟を逆走していく。

「うわぁぁぁ! 来てる、まだ来てるぞォッ!」

 後部の荷台から身を乗り出したカイルが、悲鳴に近い声を上げた。

 彼らの背後には、通路の壁も天井も埋め尽くすほどの、赤い目をした魔物の波が押し寄せていた。

 ザザザザザッ……!

 数千の爪が岩肌を削る音。機械部品が軋む音。そして、飢えた獣の唸り声。

 それらが混じり合い、巨大なノイズとなって鼓膜を叩く。

 それはもはや「敵の群れ」ではない。ダンジョンそのものが彼らを異物として吐き出そうとする、赤黒い「津波」だった。

「ひっ……! 来ないで、来ないでよぉ……!」

 ティアが泣き叫びながら、気絶したルーナを抱きしめて縮こまる。

 Sランクに近い実力を持つ彼女たちでさえ、生理的な恐怖で震えが止まらない。

 個の力ではどうにもならない、圧倒的な「量」の暴力。

「振り落とされるんじゃないよ! 出口までノンストップだ!」

 マギーが叫び、ヴァルが手綱をさらに握り込む。

 ギリギリのドリフトで岩角を抜け、一行は命からがら、ラボ・ゼロの入り口から荒野へと飛び出した。

 キキーッ!!

 急停止したタートルの後ろで、追ってきた魔物たちがピタリと止まる。

 太陽光を嫌ってか、あるいはテリトリー外だからか。

 彼らは入り口の影の中から無数の赤い目を光らせ、不気味な咆哮を残して闇へと消えていった。

「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

 洞窟の外で、全員が糸が切れたように倒れ込む。

 圧倒的な敗北。

 完膚なきまでの撤退だった。

「ふぅ~……一度、テトラゴニアに戻るよ。このままじゃ全滅だ」

 御者台で震える手で煙草に火をつけたマギーが、重苦しく告げた。

 誰もが満身創痍で、その言葉に頷くことしかできなかった。

【テトラゴニア・貸倉庫】

 深夜。

 ミュータティオを起こしたルーナをベッドで休ませ、残りのメンバーは倉庫の中央にある作戦テーブルに集まっていた。

 重い沈黙が場を支配している。

 ドォン!!

 アビアが悔しさに任せて、倉庫の壁(カイルが空けた大穴の横)を殴りつけた。

「くそっ……! 通用したはずだ! なのに、なんで押し負けるんだ!」

 個々の戦闘では勝っていた。火力も足りていた。

 なのに、気づけば包囲され、リソースが尽きていた。

 マギーが静かに諭す。

「質が良くても、数には勝てない。それが『戦争』だよ」

 彼女は紫煙を吐き出す。

「Sランク冒険者だろうが英雄だろうが、あの『無限の湧きポップ』の前じゃ無意味さ。個人の魔力タンクには限界がある。対して、ダンジョンの生産力は無限……。正面から殴り合えば、先に尽きるのはこっちだ」

 誰も反論できない。

 魔法という「最強の矛」が、数の暴力という「厚すぎる壁」に折られた夜だった。

 だが。

 その沈黙の中で、ヴァルだけは顔を上げていた。

 その瞳に、絶望の色はない。あるのは冷徹な計算と、解析の光。

「……戦争。魔物 対 人類か。……レティナ、今回のログを展開してくれ」

『了解。戦術データ、および敵性分布図を投影します』

 ヴァルが立ち上がる。

 敗北は終わりではない。ただの「データ収集」だ。

【翌朝・倉庫内】

 朝日が差し込む倉庫。

 ルーナもふらつきながら起きてきて、椅子に座り込んだ。「治らない二日酔いみたい……」とダルそうにしているが、峠は越えたようだ。

 気を取り直して、ヴァルはパンドラのサブアームを展開した。

 ウィィン……。

 義手の先端から、チョークのような細いアームが伸び、床に直接複雑な設計図(青写真)を描き出していく。

「戦い方を変えましょう。……正攻法ファンタジーが通じないなら、僕のやり方サイエンスで攻略します」

 ヴァルは全員を見回した。

「皆さんの魔法は『大砲』です。一発で強敵を吹き飛ばせる。……ですが」

 ヴァルは指を一本立てる。

「100匹の虫を潰すのに、大砲を100発撃っていたら、砲身(体)が持ちません。昨日の敗因はそこです」

 必要なのは単体火力じゃない。

 敵の「数」を上回る効率。

「圧倒的な『範囲攻撃エリア・アタック』と『継続制圧能力サプレッション』です」

 床に描かれた設計図が、次々と形を変えていく。

 それは、この世界の住人が見たこともない、異様な形状の武具たちだった。

「一週間ください。全員を、ラボ・ゼロ攻略専用に『換装』します」

「一週間で? 無理だろ!」

 アビアが叫ぶが、ヴァルは不敵に笑った。

「やります。……僕とタルゴスさんなら」

 指名されたタルゴスが、ハンマーを担いでニヤリと笑う。

「へっ、面白い。ドワーフの腕の見せ所だな。……設計図は見えてる。材料もある。やってやろうじゃねえか」

 ヴァルは次々と狂気の設計図アイデアをプレゼンしていく。

①アビア&タートル案:『雷撃グリッドライトニング・フィールド

「兄貴は、剣を振るのは『ここぞという時』だけにしてください」

「はあ? ふざけるな! 俺は剣士だぞ!?」

 アビアが噛み付く。剣を振るなというのは、戦力外通告に等しい。

 だが、ヴァルは真っ直ぐにアビアを見つめ返した。

「雑魚如きに、兄貴の剣を使うのは勿体ないと言っているんです」

「……あ?」

「タートルから無数のワイヤー付き『避雷針パイル』を射出します。兄貴はそこに雷を流すだけでいい。……面で制圧し、道を切り開く。貴方は『剣士』から『発電所』になるんです」

 図面が、電線で結ばれた結界のような図を表示する。

「兄貴の剣は、最深部の『ボス』を討つために温存してください。……それまでは、俺のシステムで楽をさせます」

 その言葉に、アビアの怒気がスッと引いた。

 代わりに、ニヤリと凶悪な笑みが浮かぶ。

「……へっ。発電所、か。いいじゃねえか。俺の雷で、あのクソダンジョンごと感電させてやる」

②カイル案:『高圧水流切断ウォーター・ジェット

 次に書き記したのは、カイルの杖の先端に取り付ける、無骨な金属製のパーツだった。

「なんですか、この突起は……」

「金属製の『絞り弁ノズル』です。先端の穴は0.5㎜。髪の毛一本分です」

「はあ? そんな狭い穴じゃ、水が出ないでしょう! 水魔法とは、大河の如き流れこそが至高……」

「いいえ。ここに貴方の高圧水流(PRESS)を撃ち込むんです」

 ヴァルはカイルの抗議を遮り、氷のような声で解説する。

「物理法則(ベルヌーイの定理)です。逃げ場を失った水は、極限まで圧縮され、音速を超えて噴出されます。……それはもはや水ではない。鉄すら豆腐のように切断する『刃』になります」

 カッターのように撫でるだけで、敵集団が切断される仕様。

「そ、そんなことが起こるなんて……。私が長年研究してきた魔法が、こんな小さな『金属片ゴミ』一つで覆るなんて……!」

 カイルは青ざめながらも、その理論の美しさに魅入られていた。

 魔法という芸術が、科学という暴力に敗北した瞬間だった。

③ルーナ(風)案:『粉塵爆発サーモバリック

「ルーナさんには、これを使ってもらいます」

 渡されたのは、小麦粉のような粉末が入った袋。

「ルーナの風(真空)で敵を窒息させ……空気が戻る瞬間に、この『可燃性微粒子』を撒きます」

「粉……? これでどうするの?」

「簡単です。火種を一つ放り込むだけ」

 ヴァルは袋から少量の粉を空中に撒き、ルーナに目配せをした。

 彼女がパチンと指を鳴らし、初級魔法・最小の脈動(プッスルス・ミニマ )で小さな火花を散らす。

 ボォォォォォンッ!!

 一瞬にして、倉庫の空気が爆発的に膨張し、熱波が全員の顔を撫でた。

「きゃあっ!?」

「うおっ!?」

「……これが粉塵爆発です。密閉空間での威力は絶大。……ただし、深層へ向かう一本道では使いません。僕らが生き埋めになりますから。これは囲まれた時の『最終手段(切り札)』です」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 それまで黙っていたティアが叫んだ。

「洞窟ごと吹き飛ばす気!? そんなことしたら、爆風で私たちまで死んじゃうじゃない!」

「だからこそ、ティアさんの出番です」

「え?」

「この爆風を制御するために、『重力プレス』を使ってもらいます」

「重力プレス?」

「敵を吹き飛ばすだけではなく、重力で爆風も魔物も一箇所に『圧縮』してください。そこへカイルさんとアビアさんが攻撃を集中させる。……貴女は守る盾だけじゃない。更に敵をまとめる『掃除機』になってください」

「そ、掃除機……」

 ティアは遠い目をした。もうツッコむ気力もなさそうだ。

 常識外れの、殺意に満ちた提案の数々。

 マギーが目を丸くし、やがて低い声で笑い出した。

「……呆れたね。魔法使いを『発電機』や『裁断機』扱いするなんて」

 彼女は新しい煙草を取り出す。

「……悪魔の発想だ。昔の人間マギレスが世界の中心だった理由がよく分かるよ。魔法という『奇跡』すら、効率的な『暴力』に変えちまうんだね 」

「で、ヴァル。お前はどうするんだ?」

 アビアの問いに、ヴァルは懐から残った魔鉱石の小袋を取り出した。

「俺は……こいつが必要です。また一週間、死ぬ気で稼ぎましょうね、兄貴」

 そう言って、笑顔でパンドラの投入口へ魔鉱石を放り込む。

 ガリッ、ボリボリ。

 ついでに、その辺にあった岩石も放り込む。

『警告:マスター、不純物が多すぎます。純粋なグリット(魔鉱石)を要求します。岩は美味しくないです』

「こらレティナ、好き嫌いするんじゃありません。質より量だ。今は腹を満たせ」

 いつものお返しとばかりにツッコミを入れるヴァル。

 パンドラの内部メモリには、彼自身が使うための『新兵器』の設計図が既にセットされている。

 これを生成するには、膨大なエネルギーと金属が必要なのだ。

「タルゴスさん、皆の装備のアタッチメントと、タートルの改修を頼みます。俺は自分の武器生成に集中します」

「おうよ! 忙しくなるぜぇ! 炉の火を絶やすなよ!」

 タルゴスが腕まくりをして作業場へと走る。

 マギーも立ち上がった。

「私も手伝うさ。レムナントいじりには自信があるんでね。微細な加工くらいなら手伝えるよ」

「……ねえ、私の分は?」

 ララが不安そうにヴァルの袖を引いた。

 ヴァルは優しく微笑む。

「ララさんには、とっておきの『サプライズ』がありますよ。……楽しみにしていてください」

『また贔屓ですか? マスター』

(うるさいぞ、レティナ)

 期間は一週間。

 敗走の夜は終わり、復讐を誓う職人たちの怒涛の一週間が幕を開けた。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


昨日の敗北から一夜明け。

落ち込んでいる暇はありません。

ヴァルによる「科学的改造手術(?)」の始まりです。


剣士は「発電所」に。

水魔法は「高圧切断機」に。

風魔法は「粉塵爆発」に。


魔法という「奇跡」を、効率的な「暴力装置」へと作り変える。

これぞマギレス(科学使い)の本領発揮ですね!

(カイル君のプライドがズタズタですが、強くなるからOK!)


次回、一週間の準備期間を経て、新生・ユリシーズ・アトラスが完成します。

そしてララへの「サプライズ」とは……?

リベンジマッチにご期待ください!


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