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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第45話:未踏の洗礼(オーバーフロー)。……「質」で勝っても、「量」で圧殺される

【ラボ・ゼロ・入口エリア】

 多種族国家テトラゴニアのギルド支部でクエストを受注し、意気揚々と出発した一行。

 荒野を走ること数時間。タートルが到着した『ラボ・ゼロ』の入り口は、異様な光景だった。

「……なんだこりゃ。岩の中に『鉄』が混じってやがる」

 護衛としてタートルのデッキに立ったタルゴスが、壁をコンコンとハンマーで叩く。

 そこはただの洞窟ではない。

 旧文明の超巨大地下施設が、数千年の地殻変動で自然の鍾乳洞と融合し、押し潰された場所だ。

 入り口付近には、まるで岩に飲み込まれたかのように歪んだ鉄板が埋まっている。

 『MAM...TH... CA...V...』

「……古代語か? 読み取れないな」

 カイルが掠れた文字も見ながら呟く。

 判読不能だが、かつてここが何か重要な施設であったことを無言で物語っていた。

 さらに奥へ進むと、天井から垂れ下がる鍾乳石に錆びた鉄骨が絡み合い、壁からは血管のように太いケーブルが垂れ下がり、地底湖は不気味な蛍光グリーンに発光している。

 自然の雄大さと、人工物の無機質さが混ざり合った、生理的嫌悪感を催す空間。

 マギーが吸っていた煙草を携帯灰皿に押し込み、地図を広げて厳しい顔つきになった。

「さ、ここから先が『ラボ・ゼロ』だよ。……今まで数多の冒険者が挑み、誰一人として最深部へ辿り着けなかった『未踏』だからね。気を抜くんじゃないよ」

 だが、アビアたちの士気は最高潮だった。

 リーダーのアビアが、背中の大剣を親指で弾く。

「へっ、マギー婆さん! 未踏だろうがなんだろうが、今の俺たちの『魔法』なら余裕さ!」

「そうですよ。カイルの理論とヴァルの解析があれば、ドラゴンだって落とせます」

 慎重派のティアですら、この自信だ。

 合流から三日が経過し、道中の魔物相手に連戦連勝。

 連携は完璧。火力は過剰。

 今の彼らに問題があるとすれば、その溢れんばかりの自信だけだった。

「やれやれ、ガキだねぇアンタらは。……痛い目見ても知らないよ」

 マギーは呆れつつも、タートルの手綱を握り直した。

 布陣は以下の通り。

 最前線:ヴァル、アビア、カイル、ララ、ルーナ。

 中央:ティア(回復・防御担当)。

 後衛:タートル(運転マギー、護衛タルゴス)。

「行くぞ! お宝とロマンが俺たちを待ってるぞ!」

 アビアの号令と共に、一行は未踏という闇へと足を踏み入れた。

【ラボ・ゼロ・中層エリア手前】

 侵入から三時間。

 彼らの進撃は、まさに破竹の勢いだった。

「グルルルルァァッ!!」

 暗闇から襲いかかってきたのは、機械部品が肉体に癒着した異形の魔獣『メック・ベア』の群れだ。

 かつての実験動物の成れの果てか。鋼鉄の装甲板が皮膚に食い込み、その爪は岩をも砕く。

 以前の彼らなら、包囲されれば苦戦必至の相手だ。

 だが、今の彼らは次元が違う。

「行くぞ! A.F. Code... 11:FLASH-M【雷光の歩法ライトニング・ステップ】!」

 アビアが紫電を迸らせながら消える。

 目にも止まらぬ速さで駆け抜け、硬い装甲を持つ魔物を、まるで豆腐のように両断する。

 バチバチッ!

 切り裂かれた断面が電気熱で赤熱し、魔物は悲鳴を上げる間もなく絶命した。

「遅いですね。……A.F. Code... 02:PRESS-M【高圧水柱イグニス・ジェッタ】!」

 カイルが眼鏡を光らせ、指を鳴らす。

 詠唱破棄に近い速度で展開された術式により、敵集団の中心でピンポイント圧縮された水圧が敵を貫通する。

 ドォォォン!!

 拡散する水流ではない。一点に収束された「水」が敵を貫き、背後の岩壁を破壊させた音だ。

「近寄らせない! A.F. Code... 04:GRAV-M【重力の檻グラヴィタス・プリズマ】!」

 ティアが展開した重力の檻に突っ込んだ魔物は、自重の数倍の負荷をかけられ、その場でペシャンコに潰れて動けなくなる。

 そこへ、ララとルーナが確実なトドメを刺していく。

「ギャオオォォォンッ!!」

 さらに奥から、巨大な中ボス級の魔物『アイアン・スパイダー』が現れた。

 全身がミスリルでコーティングされた、対魔法装甲を持つ蜘蛛だ。

 だが、それすらも彼らの敵ではなかった。

「硬いだけですね。……ヴァル君、解析を!」

「装甲の隙間、全関節部特定! ルーナさん狙って!」

「了解! ……A.F. Code... 11:BLADE-S【プラズマの牙プラズマ・ファング】!」

 ルーナが放った超高圧電流の刃が、ヴァルの指定した一点を寸分違わず切り裂いた。

 巨大な蜘蛛の足がバラバラに弾け飛び、胴体が地に落ちる。

「すげぇ……! 圧倒的じゃないか!」

 アビアが歓喜の声を上げる。

 魔力の消費を抑えるため、媒介となる魔鉱石グリットの減りは早いが、それを補って余りある殲滅力。

 硬い敵が紙のように切れ、群れがゴミのように吹き飛ぶ爽快感。

「これなら今日中に最深部まで行けるんじゃねえか?」

「ええ。計算上、リソースも十分持ちます」

 カイルも興奮冷めやらぬ様子で頷く。眼鏡の奥の瞳孔が開いていることに、自分でも気づいていない。

 ヴァルもまた、順調すぎる攻略に安堵していた。自分の解析が役に立っているという実感が、心地よかった。

 誰も気づいていなかった。

 アビアの剣を持つ手が、微かに痙攣していることに。

 カイルの鼻の奥から、鉄錆のような血の味がし始めていることに。

 その慢心こそが、未踏ダンジョンが口を開けて待っていた落とし穴だった。

【ラボ・ゼロ・深層手前】

 行程の半分ほど進んだ地点。

 異変は唐突に起きた。

「……うっ、げぇっ!?」

 最前線で索敵魔法センスを担当していたルーナが、突然膝をつき、激しく嘔吐した。

「ルーナ!?」

 駆け寄ったヴァルは、ギョッとした。

 吐瀉物に大量の血と、黒いタールのような粘液が混じっている。

 それだけではない。彼女の鼻からツーッと鮮血が流れ落ち、血の気が引き、透き通るように白くなった肌には、どす黒い血管が蜘蛛の巣のように浮き出ていたのだ。

「ひっ……な、なにこれ……!?」

 ルーナが自分の腕を見て悲鳴を上げる。

 視界が歪み、世界が回転している。

 マギーがタートルの窓から身を乗り出して叫んだ。

「ストップ!! 全員、魔法使用中止だ! 『魔力変異ミュータティオ』のレベル1だよ!」

「ミュータティオ……!?」

 アビアが愕然とする中、マギーが怒鳴る。

「当たり前だろう! アンタら現代人の貧弱な回路に、古代規格の高出力フルコードを流し続けたんだ! 脳と神経が負荷に耐えきれずショートしてるんだよ!」

 魔法とは、物理法則をねじ曲げる「毒」だ。

 魔鉱石で燃料を補充し続けたとしても、それを流すパイプ(生身の肉体)が耐えられない。

 神経が焼け、細胞が変異し、内側から崩壊する。

 ルーナは索敵のため、常時脳に負荷をかけていた。だから真っ先に限界が来たのだ。

「ティア、回復を!」

 カイルが叫ぶが、彼もまた鼻血を垂らし、ふらついている。

「わ、わかった! A.F. Code... 08:PATCH-M【生命の修復ヴァイタル・リペア】!」

 ティアが蒼白な顔で治癒魔法をかける。

 緑色の光がルーナを包む。

 だが。

「……嘘、効かない!? 傷は塞がるのに、苦しそうなまま……」

 鼻血は止まらない。震えも収まらない。

 それどころか、魔法を受けたルーナが「あぐっ……!」とさらに苦悶の声を上げ、白目を剥いて痙攣し始めた。

「馬鹿っ! 重ねがけするんじゃないよ!」

 マギーがタートルから飛び降りてくる。

「それは怪我じゃない! 遺伝子レベルの『毒(書き換え)』だ! ポーションも回復魔法も効かない、むしろ魔力を注げば悪化するんだよ!」

 その言葉に、全員が凍りついた。

 アビアの手足の痺れが、急激に悪化する。剣が重い。視界が霞む。

 アドレナリンで麻痺していただけで、彼らの体も限界寸前だったのだ。

 ヴァルは即断する。

「フルコード中止! 全員、『簡易術式(出力50%)』に切り替えてください!」

「で、でもそれじゃ……!」

「命に関わります! 落として!」

 出力を落とす。

 だが、それはこの状況下では「死」を意味する悪手でもあった。

「グルルルルル……!」

「キシャァァァァッ!!」

 奥の暗闇から、無数の赤い目が光った。

 湧き出る敵の数が、先程までの比ではない。倍、いや十倍以上に増え始めている。

 まるで、こちらの火力が落ちるのを待っていたかのように。

「くそっ、喰らえ! ……っ、硬ぇ!!」

 アビアが剣を振るうが、出力を落とした斬撃では、強化された魔獣の装甲を断ち切れない。

 ガキンッ!

 弾かれ、火花が散る。

「倒しきれません! 数が多すぎます!」

 カイルの魔法も小規模になり、敵の進軍を止められない。

 質を落とした途端、圧倒的な「量」に押し込まれる。

 ドゴォッ!!

 アビアが敵の爪を受け止めきれず、吹き飛ばされる。

「ぐあっ!?」

「アビア!」

 ララがカバーに入るが、彼女もスタミナの限界が近い。動きにキレがない。

 じりじりと後退する一行。

 回復不能のルーナを抱え、全員が満身創痍。

 アビアは血を吐き捨て、リーダーとしての苦渋の決断を下した。

「くそっ……一時撤退だ! タートルまで下がれ!」

「……ヴァル、敵の規模は!?」

 ララが叫ぶ。

 ヴァルはマギーから受け取った地図データと、自身の『オラクルサイト(広域スキャン)』をリンクさせた。

「レティナ、敵性反応を表示だ」

『了解。……警告。数が異常です。計測不能オーバーフロー!』

 ブォン。

 ヴァルの視界に、レーダー画面が展開される。

 彼は息を呑み、言葉を失った。

「……なッ!?」

 そこには、自分たちを取り囲む数百の赤い点が表示されていた。

 だが、絶望の本番はそこではない。

 その奥。ダンジョンの深層部。

 そこが、「真っ赤な海」のように埋め尽くされていたのだ。

「……ダ、ダメだ。数が違いすぎる」

 震える声が出た。

 一個小隊でどうにかできる数ではない。万単位だ。

 まるで、奥にある何らかの巨大プラントで、魔物が工業製品のように「量産」されているかのような、異常な密度。

 未踏ダンジョン。

 そこは、生半可な「最強(質)」が、圧倒的な「数(量)」の暴力によって、塵芥のように磨り潰される場所だった。

 ヴァルは叫んだ。

「全員、タートルに乗ってください! マギーさん、運転代わります!」

「あいよ! 飛ばしな坊主!」

 マギーが意識のないルーナを受け取り、荷台へ担ぎ込む。

 ヴァルが運転席に飛び乗り、魔導駆動輪を限界まで回した。

 ギュルルルルルッ!!

 タートルがその場で180度スピンターンを決める。タイヤが焦げる臭いが充満する。

「乗れぇぇぇッ!!」

 アビアたちが転がり込むように乗車する。

「タートル、全速力だ! 逃げるぞ!!」

「グゥゥゥッ!!(了解!)」

 キキキキッ!!

 タイヤを軋ませ、タートルは入り口へ向かって爆走を開始した。

 背後からは、赤い津波のような魔物の群れが、地響きと共に迫っていた。

【修正】(2026/02/06)

ティアの序盤のセリフを修正しました。

ありゃ→あれば


【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


「最強になったから余裕でしょ!」

……と思いきや、未踏ダンジョンは甘くありませんでした。


カイルの理論フルコードは強力ですが、生身の人間には「毒」となる。

そして、質を落とした途端に襲いかかる、圧倒的な数の暴力。

(レーダーが真っ赤になる絶望感、伝わりましたでしょうか?)


ルーナさんが心配です。

回復魔法も効かない状況、どう切り抜けるのか。

次回、撤退戦と対策会議(そして新たな武器の予感?)です!


(※ネトコン14参加中です! 「数の暴力怖い!」「ルーナ大丈夫?」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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