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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第44話(前編):紫煙の講義(アカデミック・タイム)。……おば様、魔法は「数式」なんですか? 感覚派の私は目が回ります

【移動中:タートル・車内】

 聖都ユグド・セコイアを出発してから、三日が過ぎた。

 一行を乗せたタートルは、荒涼とした大地をひた走っている。

 目指すは、未踏ダンジョン『ラボ・ゼロ』の手前に位置する最大の都市、多種族国家『テトラゴニア』だ。

「……それにしても、セバスチャンさんの見送りは凄かったですね」

 ヴァルが遠い目をして呟く。

 出発の際、最強の執事は屋敷の門にしがみつき、「マギー! ヴァル君! どうかご無事でぇぇぇッ!!」と、近所迷惑なほどの大音量で号泣していたのだ。

 あの姿を見れば、誰も彼が世界最強の使徒だとは思うまい。

「はん。あの筋肉ダルマ、私がいないのをいいことに、また羽根を伸ばす気満々だったけどね」

 対面座席で足を組み、優雅に煙草を燻らせているのは、今回の旅の案内人ガイド――マーガレット・アエテルナだ。

 彼女は窓の外へ紫煙を吐き出し、鋭い視線をララへと向けた。

「……はぁ。見てられないねぇ」

「えっ?」

 ララがビクリと肩を揺らす。

 彼女は暇を見つけては、手のひらで魔力を練り上げる訓練をしていたのだが、それをマギーに鼻で笑われたのだ。

「惜しいねぇ。いい魔力(素材)を持ってるのに、使い方が『原始人』レベルだよ」

「げっ、原始人……!? 私、結構うまく戦えてるつもりなんですけど……」

「力任せに垂れ流してるだけさ。例えるなら、ティーポットに注がれたお湯を、蓋も押さえずにティーポットごとひっくり返しているようなもんだ。……お湯は溢れるし、火傷するだろ?」

「う……」

 ララは言葉に詰まる。確かに、ヴァルに簡易術式コードを教えてもらったとしても、彼女の魔法はどこか感覚的で、燃費が悪いのが欠点だった。

「では、おば様。……どうすればいいんですか?」

 ララが問うと、マギーは懐から一冊の分厚いノートを取り出した。

 ボロボロに使い込まれた革の表紙。そこには金文字で『聖都学術院・研究記録』と記されている。

「しっかりコップに注ぐには、お湯の量と傾き(角度)がいるのさ。……いいかい? 魔法ってのは『願い』や『奇跡』じゃない。厳格な『手順プロトコル』なんだよ」

 マギーがノートを開く。ヴァルもララも、そして運転中のタルゴスまでもが顔を覗き込み、そのノートに釘付けになった。

 そこに書かれていたのは、魔法陣や呪文ではない。

 幾何学的な回路図と、目が回るほど緻密な物理数式コードの羅列だった。

「いいかい。この世界の現象(魔力操作)は、物理学的原理に基づき11個の『ID』として分類される」

 マギーは教鞭代わりのシガレットホルダーで、ノートの記述を指し示した。

「あんたたちが学校で習う『攻撃魔法』だの『強化魔法』だのってのは、後付けの俗称さ。一旦忘れな。本質はここにある」


I. 物理干渉系(Physical)

ID:01 イグニス(熱力学):

「分子運動の加速による熱エネルギー変換。初級魔法の『ほのかな光ルメン・アウラ』なんかがこれさ。着火してるんじゃない、分子を擦り合わせてるんだ」

ID:02 アークァ(流体力学):

「液体の粘性と表面張力の操作。『水滴の振動プッルスス・ドロップ』は、水を操ってるんじゃなく、水の『動きやすさ(水圧)』をいじってる」

ID:03 アーエル(気体力学):

「気圧操作による風の生成。高気圧と低気圧を人工的に作れば、勝手に風は吹く」

ID:04 テッラ(重力場):

「局所的な質量の変更。初級魔法『大地の振動テルス・バイブ』は土属性の基礎として教えられるね」

「これらはエネルギー変換の基礎だ。一番扱いやすく、応用も効く」


II. 構造干渉系(Structural)

ID:05 エレメンタ(物質変換):

「物質の原子配列の組み換え。いわゆる錬金術や、『石化』なんかが該当する」

ID:06 ヴィルトゥス(運動学):

「慣性と運動ベクトルの操作。『身体強化ブースト』は筋力を上げてるんじゃない。身体にかかる抵抗を減らして、出力効率を上げてるんだ」


「ララ、あんたが得意なのは『06』だね。無意識に筋肉の収縮速度と反発係数をいじってる」

「ま、待ってください! 目が回ります……!」

 ララが頭を抱えた。その目は渦巻きになっている。

「学校では『熱き太陽をイメージせよ』とか『風の声を聞け』って習いました! 分子? 運動ベクトル? なんですかそれ!?」

 魔力持ちの彼女にとって、魔法とは感覚的な「芸術」だった。それを無機質な「数式」として突きつけられ、脳が拒絶反応を起こしているのだ。

 だが、魔力を持たないヴァルは違った。

「……いや、分かります。すごくしっくり来る」

 彼はノートの数式を食い入るように見つめている。

「イメージはあくまで『起動キー』で、実際の中身はこの数式通りに動いてるんだ。……だから、イメージが曖昧だと不発エラーが起きる」

『ガハハ! そりゃいい!』

 伝声管から、運転に戻ったタルゴスの笑い声が響いた。

『俺たちドワーフが鉄を打つのと同じだ。感覚で剣は打てねえ。温度管理と含有量の『計算』があって初めて名剣になる。……へぇ、魔法ってのはてっきりフワフワしたもんかと思ってたが、案外『こっち側』の技術なんだな』

 魔力を捨て、物理に魅入られたタルゴスもまた、マギーの理論に強く共感していた。

「……では、おば様。もっと気合いとかじゃなくて計算しろってことですか? 」

「そういうことさ。……理解が早くて助かるよ」

 マギーは満足げに頷き、ページをめくった。


III. 概念干渉系(Conceptual)

ID:07 センス(波形工学): 光や音の波長操作。幻術や索敵。

ID:08 アニマ(遺伝子工学): 生体情報の書き換え。治癒や変身。

ID:09 テンポラ(時空物理): 時間流の主観的・客観的操作。

ID:10 アイテール(次元幾何学): 空間座標の接続。転移魔法。


「ここからは神の領域だ。一歩間違えば存在ごと消滅する、危険なカテゴリさ」

「……あれ?」

 ふと、ヴァルが違和感に気づく。

「マギーさん。『雷』がないですよ? 炎や水があるなら、雷魔法も基礎なんじゃ……」

 その問いに、マギーは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……ああ、それかい。『ID:11 フルメン(電磁気学)』だね。……強いて言うなら、構造干渉でもあり、概念干渉でもある特殊な枠だね」

「なんで11番目なんですか? 順番的におかしくないですか?」

「あのアホ(セバスチャン)が体系化する時に、うっかり忘れてたのさ」

「は?」

「『雷なんてプラズマ化した風だろう? ID:03に含まれる』とか適当なことを言ってねぇ……。後から電子の動きだと気づいて、慌てて付け足したんだよ。だからこれだけ番号が浮いてるのさ」

 ヴァルは脱力した。

「……あの人らしい」

 最強の使徒の、あまりにも人間臭いミス。

 だが、その会話の裏で、レティナだけは戦慄していた。

『…………(ID照合。……合致します。人類が忘却し、魔法として体系化していたこれらの分類コードは、私のデータベースにある『物理法則干渉プロトコル』と完全に一致します)』

 レティナは、ヴァルには干渉出来ない思考領域で、パズルのピースを組み上げていく。

 パンドラに搭載されている機能。

 たとえば『ヒート・エッジ』はID:01(熱力学)の応用であり、ヴァルの義手はID:06(運動学)の結晶だ。

(魔法とは、失われた科学技術の『インターフェース』だったのですか……)

 ヴァルはノートから顔を上げ、マギーを見つめた。

「マギーさん。……この分類(ID)をセバスチャンさんが決めたのはわかりました。でも、誰がこの大元のルール(魔法)を作ったんです? 自然発生にしては、あまりに人工的すぎますよね」

 そう。

 まるで、誰かが世界のプログラムを書き換えたかのような、整然としすぎた法則性。

 マギーはシガレットホルダーの向きを変え、煙草を吸うとふぅっと長く煙を吐き出した。

 その瞳が、数千年前の遠い過去を見つめるように細められる。

「……鋭いね、坊や。それは遥か昔、空から降ってきた『災厄』と、それに抗おうとした旧文明の……」

 そこまで言って、彼女は自嘲気味に首を振った。

「……っと、これ以上は年寄りの昔話だ。興味があるなら、テトラゴニアの学者様にでも聞きな。私の専門は『鍵開けダンジョン』だからね」

 マギーは煙草の火を消し、ヴァルの目を真っ直ぐに見据えた。

「だが、一つだけ覚えておきな。『魔法は奇跡なんてものじゃない』」

 彼女は断言する。

「魔法とは、魔力という不純物によって歪められた『即席物理法則インスタント・フィジクス』だ」

「即席……?」

「そうさ。本来あるべき物理定数に、無理やり『魔力』という変数を代入して、結果をねじ曲げている。……水が高い所から低い所へ流れるのが物理だとしたら、それを逆流させるためにポンプ(魔力)を使うのが魔法さ」

 マギーはヴァルの機械の左腕を指差した。

「本来の物理法則ルールをバグらせて、火の無い所で燃やしたり、人を飛ばしたりする。それが魔法の正体だよ」

「……」

「だが、お前たちマギレスは違う。お前たちは、その『魔力ノイズ』の影響を受けない『純粋な物理オリジナル』だ」

 ヴァルは自分の手を見つめた。

 ずっと、コンプレックスだった。

 魔力がないから、魔法が使えない。みんなと同じことができない。

 世界から弾かれた「欠陥品」だと、ずっと思っていた。

 けれど、マギーの言葉は逆だ。

 弾かれたのではない。染まらなかったのだ。

「魔力を持たないからこそ、坊やは世界を『正しく』認識できる。歪められた法則に惑わされず、純粋な計算と物理で対抗できる」

「だからこそ、坊やの計算(科学)は、魔法で満たされた世界を修正デバッグできるのさ」

 カチリ。

 ヴァルの中で、全てのピースが嵌まる音がした。

 自分がパンドラを使える理由。レティナの解析眼が「魔法」を「データ」として読み解ける理由。

 自分は「落ちこぼれ」ではなかった。

 歪んだ世界のルールを測るための、唯一の「正しい定規」。

 正常に戻す者――デバッガーだったのだ。

「……ありがとうございます、マギーさん。霧が晴れました」

 ヴァルの顔から、長年の迷いが消えていた。

 自分には、自分の戦い方がある。魔法使いにはできない、物理屋マギレスだけの戦い方が。

「ふん。礼には及ばないよ。……さあ、テトラゴニアまで少し寝るかね。年寄りは長話ですぐ疲れるんだ」

 マギーは照れ隠しのように帽子を目深に被り、シートに深く沈み込んだ。

 タートルは荒野を駆ける。

 目指すは、政治・商業・軍事・魔力の四勢力が拮抗する混沌の都市『テトラゴニア』。

 そこで待つ仲間たちとの合流に向け、ヴァルの決意は固まった。

 ――そして、一足先にテトラゴニアに到着しているアビアたちは。

 宿の一室で、カイルを中心に眉間に皺を寄せ、何やら深刻な表情で頭を抱えていた。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


マギーさんによる「魔法の授業」でした。

魔法を「ID」で分類し、物理学で説明する。

そして、マギレスこそが世界を正しく認識できる「デバッガー」であるという真実。


これまでの「魔法が使えない=落ちこぼれ」という常識が、ひっくり返りました。

(セバスチャンが雷を忘れてたのはご愛嬌ですw)


これでマギレスが世界と戦う理由が開示されましたね…!


ちなみに、今回登場した「魔法ID」や物理法則の設定については、

そのうち活動報告などで分かりやすく一覧にまとめますので、お楽しみに!

(今は「なんか凄そう!」くらいの理解で大丈夫です!)


次回は、先行しているアビアたちのお話。

カイル君が何やら頭を抱えているようです。

テトラゴニアでの合流に向けて、物語が動きます!


(※ネトコン14参加中です! 「設定が深い!」「デバッガーかっこいい!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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