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【第3章完結済】魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
虚無の研究所(ラボ・ゼロ)編 ~鋼鉄の理(ロジック)と、3000年の箱舟(アーク)~

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第42話:執事の職場放棄(サボタージュ)。……エリート騎士団長は、泥にまみれて「石拾い」

【国境付近・断層ダンジョン入口】

 ガシャン、と乾いた音と共に黒焦げになった残骸が地面に落ちる。

 巻き上げられた砂煙が風に流されていく。

 戦場に横たわるのは、砕かれたレムナント・ゴーレムの残骸と、黒焦げになった魔物の山。

 そして、呆然と立ち尽くす魔導騎士団の姿だった。

「……終わった、の?」

 近くでへたり込んでいた若い女騎士――リリアは、震える声で呟いた。

 死を覚悟した瞬間、目の前に現れた黒鉄の背中。

 それは、彼女が知るどの騎士よりも頼もしく、そして孤独に見えた。

 カシャン、と乾いた音がする。

 背中を見せていた青年、ヴァルがゆっくりと振り返り、こちらへ歩み寄ってくる。

 逆光で表情は見えないが、その背中から伸びる四本の機械腕サブアームが、まるで神話の阿修羅のように蠢いている。

 怖い。けれど、目が離せない。

「……怪我は、ないですか?」

 ヴァルがリリアの目の前で膝をつき、手を差し出した。

 ぎらりと光る、焼色テンパーカラーの金属の左手。

 リリアの肩がビクリと跳ねる。その反射的な拒絶を見て、ヴァルはハッとしたように手を引っ込めた。

(……しまった。これじゃ怖がらせるだけだ)

 戦場の興奮で忘れていた。今の自分は、一般人から見れば「異形」そのものだ。

 ヴァルは苦笑し、義手の左手を背中へ回すと、改めて生身の「右手」を優しく差し出した。

「すみません。驚かせちゃいましたね。……立てますか?」

 その配慮に、リリアの心臓がドクンと跳ねた。

 圧倒的な強さを持つ「怪物」だと思っていた。

 けれど、差し出されたその手は、節くれ立って豆だらけの、温かい人間の手だった。

 強くて、でもどこか自信なさげで、不器用な優しさ。

「あ、ありがとう……ございます……」

 リリアは頬を朱に染め、震える手でその手を握り返した。

 温かい。

 力強く引き上げられる感覚と共に、彼女の中で「憧れ」とは違う、もっと熱い何かが芽生えるのを感じた。

 いわゆる、吊り橋効果。あるいは、初恋の衝撃。

 その様子を、少し離れたタートルの上から、ララがじっと見つめていた。

 長い耳がピクリと動く。

(……あの顔。私が初めてヴァルに助けられた時と、同じだ)

 ララの目が、すぅっと細められる。野生の勘が告げていた。

 あれは、ライバルの目だ。

 だが、その甘い空気を切り裂く怒声が響いた。

「貴様ァッ!!」

 金色の鎧をガチャガチャと鳴らし、騎士団長が割り込んできたのだ。

 彼はリリアの手を乱暴に払い除け、ヴァルを睨みつける。

「マギレスの手を借りるとは何事だ! 騎士団たるもの、自らの足で立て!」

「だ、団長! 彼は私を助けて……」

「黙れ! 貴様らの失態だぞ! その上、こんな得体の知れない流れ者に助けられるなど、騎士団の面汚しだ!」

 唾を飛ばして喚く団長。

 助けられた礼を言うどころか、部下への責任転嫁とヴァルへの罵倒。

 ヴァルは溜息をついた。

 こういう手合いには慣れている。反論しても無駄だ。適当にあしらって立ち去ろうとした、その時だった。

「……おや。随分と騒がしいですね」

 突如。

 騎士団長の背後が一瞬歪み、ぬぅっと人影が湧き上がった。

 物理的な出現ではない。『空間の移動アイテール・トランス』による介入。

「セ、セバスチャンさん!? なんでここに!?」

 ヴァルが素っ頓狂な声を上げる。

 だって彼は、ユグド・セコイアの執務室で紅茶を淹れていたはずだ。タートルには乗っていなかった。

 現れた老執事は、驚くヴァルに向かって人差し指を立て、「シーッ」とウィンクしてみせた。

「アイザック様の書類仕事(地獄)から……いえ、皆様の旅の安全が気になりまして。……こっそり後を追わせていただいたのです」

(……サボって逃げてきたんだ、この人)

 ヴァルは全てを悟った。

 最強の執事は、最強の職場放棄の達人でもあったのだ。

 セバスチャンは優雅に手袋を直し、ゆっくりと騎士団長へ向き直った。

 その瞬間。

 戦場の気温が、氷点下まで下がった錯覚を覚えた。

「……して、騎士団長殿。命の恩人に対し、その態度は如何なものでしょう?」

 声色は穏やかだ。顔も微笑んでいる。

 だが、目が笑っていない。

 騎士団長の背後には、巨大な修羅の幻影が見えるほどの、圧倒的なプレッシャーが立ち上っている。

「あ、あ、貴方様は……」

 騎士団長の顔から血の気が引く。

 その銀髪、その燕尾服、そしてこの国で唯一許された「最長老の紋章」。

 見間違えるはずがない。教科書に載っている、建国の英雄。

「さ、最長老アエテルナ様……!?」

 騎士団長はその場にへたり込み、腰を抜かした。周囲の騎士たちも一斉に平伏する。

 ユグド・セコイアにおいて、彼の言葉は王の言葉よりも重い。神の代行者なのだから。

「おや。私を知っておりましたか。……では、話が早いですね」

 セバスチャンはニコリと笑い、ヴァルの肩に手を置いた。

「紹介が遅れました。こちらのヴァル君は、私の個人的な『友人』です。……彼への侮辱は、この私が許しませんよ?」

「ひ、ひぃぃッ! も、申し訳ありません!! 知らなかったとはいえ、ご無礼を……ッ!」

 団長が額を地面に擦り付けて謝罪する。

 その滑稽な姿に、ヴァルは少しだけ胸がすく思いだったが、同時にセバスチャンの影響力に戦慄した。

「謝罪は結構です。言葉よりも行動で示していただきましょう」

 セバスチャンは周囲を見渡した。

 そこら中に散らばっているのは、倒された魔物たちの死骸と、そこからドロップした大量の魔鉱石。

「この散らかった戦場の清掃と、魔鉱石の回収をお願いできますか? 貴重な資源ですから、小魔鉱石の一つに至るまで残さず」

「は、はいぃぃッ!! 直ちに!!」

「総員、回収開始ィィッ!! 這いつくばってでも拾えぇッ!!」

 号令と共に、プライドの高いエリート騎士たちが、泥にまみれて必死に石拾いを始めた。

 場が収まったところで、リリアがおずおずとヴァルに近づいてきた。

 その瞳は、熱っぽい輝きを帯びている。

「あ、あの! 先ほどは本当にありがとうございました! せめて、貴方のお名前を……!」

 一歩踏み出し、ヴァルの手を取ろうとするリリア。

 だが。

 シュンッ!!

 風切り音と共に、ヴァルとリリアの間に「壁」が割って入った。

 残像を残して現れた、ララだ。

 彼女はリリアを鋭い視線で一睨み(威嚇)すると、無言のままヴァルの首根っこを掴んだ。

「……行くわよ、ヴァル」

「えっ、ララさん!?」

「(……これ以上はまずいわ。変な虫がつく前に回収しないと)」

 ララはヴァルを米俵のように担ぎ上げると、強化された脚力でタートルへと大ジャンプした。

「うわぁぁぁ!? ……あ、すいません! 俺はヴァルです! ヴァル・ヴェリテクスです!」

 宙を舞いながら、ヴァルは叫んだ。

 せっかくの出会いが、物理的な強制退場によって幕を閉じる。

「おや、置いていかれるところでした」

 セバスチャンもまた、騎士たちが集めた山のような魔鉱石を木製のコンテナに入れ、軽々と担ぎ上げると、優雅に跳躍してタートルへと飛び乗った。

 ゴォォォォ……ッ!

 タートルが砂煙を上げ、猛スピードで走り去っていく。

 残されたリリアは、砂塵の中でその背中を見つめ、胸の前で手を組んだ。

「ヴァル様……」

 遠ざかる背中。

 リリアは、自分の胸元を強く握りしめた。鎧越しにも、心臓の早鐘が聞こえる。

 騎士団長に罵倒された時、何も言い返せなかった自分。

 ヴァルに助けられた時、何も出来なかった自分。

 彼の隣にいたあの金髪の女性のような、強さと美しさが自分にはない。

(……あの人の隣に立つには、今のままじゃダメだ)

 ただ守られるだけの存在。エリートという肩書にぶら下がっているだけのお飾り。

 そんなものでは、あの「英雄」の視界に入ることすら出来ない。

(騎士の称号も、エリートの誇りも、全部捨てて……)

 リリアは決意を込めて、砂煙が消えた地平線を睨み据えた。

 その瞳には、消えることのない恋の炎と、戦士としての新たな覚悟が灯っていた。

「必ず……また」

【移動中:タートル・車内】

 再び走り出したタートルの車内。

「ふぅ、良い運動でした」

 セバスチャンは涼しい顔で紅茶を啜り、ララは不機嫌そうに窓の外を見てそっぽを向いている。

 ヴァルは二人の間でオロオロしていたが、そこへ脳内から無機質な声が割り込んだ。

『警告します。マスターは女性に甘いです。……あと、エネルギー残量低下。および、自己修復材メタルの不足』

 レティナだ。ちょっとした釘を差しつつ、警告を出す。

『マスター。先程の戦闘とヒート・エッジの使用、および出力向上に伴い、大量のエネルギーと流体金属の補給が必要です』

「え!? ちょこちょこ補給してたじゃないか!」

『あれはアイドリング分です。戦闘機動バトルモードの燃費を甘く見ないでください。……直ちに補給を要求します』

「……分かったよ。手持ちの予備を入れる」

 ヴァルが諦めて操作すると、背中の『パンドラ』が変形を開始した。

 ガシャン、ガコッ、ウィィン……。

 装甲板が複雑にスライドし、バックパックの上部に、内部の炉へと直結した巨大な「投入口ホッパー」が展開される。

 パカッ。

 まるで、餌をねだる巨大な雛鳥(ただし鉄製)の口だ。

「……マジかよ」

 ヴァルは懐から財布を取り出し、なけなしの金で買った魔鉱石を取り出そうとする。

 だが、それを見たセバスチャンが、ニッコリと笑って横から手を出した。

「ヴァル様。それならば、先程彼らから『寄付』していただいた、こちらをどうぞ」

 ドサッ。

 テーブルに置かれたのは、騎士団長たちが必死に集めた、山のような魔鉱石と魔物の素材だった。

「おお! ありがとうございます!」

 ヴァルは歓喜し、魔鉱石を次々とパンドラの投入口へ放り込んだ。

 ガガガッ! バキボキッ! ゴゥン……!!

 豪快な粉砕音が車内に響く。

 投入された硬質な鉱石が、内部の特殊グラインダーによって瞬時に粉末化される。

 さらに、炉心からの高熱がそれを溶解し、魔力を純粋なエネルギーへと還元していく音。

 背中のバックパックが熱を帯び、脊髄コネクタを通じて、ヴァルの体内へ奔流のような力が流れ込んでくる。

「くぅ……っ!」

 熱い。だが、不快ではない。

 空腹の胃袋に極上のスープが満ちるような、強烈な充足感。

 魔鉱石から分離された不純物(金属成分)は流体金属の材料となり、ヴァルの背中のコンテナに保管され、次の武器を生み出すための「血肉」へと変換されていく。

 棺桶パンドラの中身が、再び満たされていく感覚。

『……Moreもっと

「えっ、もうないぞ」

『……マスター。さっき、財布から出そうとしていた分がありますね?』

「はあ!? 充分補給しただろ!?」

『隠しても無駄です。エネルギー充填率、まだ60%。……投入してください』

 投入口が、催促するようにカションカションと開閉する。

「鬼かお前は! 俺の財布が軽くなるぅぅ……!」

 頭を抱えて叫ぶヴァル。

 その横で、ララがジト目を向けていた。

(……またレティナと話してるのね)

 ヴァルが一方向無線機ラジオを使っていることは知っている。

 だが、その困り顔は、まるでわがままな女性に振り回されている男の顔そのものだ。

(……油断ならないわね。今度、私も会話に混ぜてもらって、何を吹き込まれてるのか確認しなくちゃ)

 女の勘は、人工知能相手にも鋭く警戒警報を鳴らしていた。

 なけなしの魔鉱石を投入する。

 ガリガリガリ……。

 無慈悲な咀嚼音と共に、ヴァルの全財産が飲み込まれていく。

 強くなっても、エリート騎士団を圧倒しても。

 大食らいの相棒レティナを抱えるヴァルの、「トホホ」な貧乏生活はまだまだ続くのだった。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


本日はコメディパートです(笑)。

最強の執事セバスチャン、まさかのサボタージュ。

騎士団長に「石拾い」をさせるシーン、書いていてスカッとしました。


そしてララさんの嫉妬&強制回収。

リリアちゃんも良い子なので、いつか再会してほしいですね。


ラストはパンドラの大食らいっぷり。

いくら強くても、燃料費(食費)で破産しそうなヴァル君……頑張れ!


次回、いよいよアビアたちと合流!

そして「ラボ・ゼロ」へ向かいます!


(※ネトコン14参加中です! 「石拾いざまぁw」「パンドラよく食べるね」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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