第40話:絶望する騎士団(エリート)。……魔法反射? それ、ただの硬い「的」ですよね?
【移動中:タートル改・二階席】
南西の国境へ向かうための、深く長い森のトンネル。
木枯らしが吹き荒れる中を、異様な形状の車両が爆走していた。
『強襲用装甲台車』へと改造されたカーゴ・タートルだ。
その背中に増設された二階席は、外の過酷な環境が嘘のように快適だった。
対面式の革張りソファを覆うように、頑丈な幌の屋根が閉じられ、冷たい風を完全に遮断している。
「……あったかい」
ララがソファに深く沈み込み、嬉しそうな吐息を漏らす。
外は厳寒だが、室内はポカポカと暖かい。
一階にある工房の炉と、タートルの脚力(推進力)を補助する魔導駆動輪からの排熱を、ダクトを通して床暖房として再利用しているのだ。
「快適でしょ? セバスチャンさんの旧宅にあった余り素材を使ったみたいよ? さすがタルゴスさんね」
アビアたちが先行しているため、広い車内にはヴァルとララの二人きり。
ララは自然な動作で、ヴァルの隣――機械化された左側へと座り直した。
「ですね。……これなら、長旅でも疲れないです」
ヴァルが感心して床を撫でていると、伝声管からしゃがれた声が響いてきた。
『おう坊主! 俺様の改造はどうだ! 1階で武器を作り、2階でくつろぐ! ……まさに『走る武器工房』よ!』
運転と炉の管理を担当しているタルゴスだ。
「すごいです、タルゴスさん! こんな風に排熱を利用するなんて……」
『発想が暴力的ですが、エネルギー効率の観点では理にかなっています』
レティナも珍しく称賛(?)の声を上げる。
『へっ、褒めても何も出ねえぞ。……そして、こいつはお前の片手剣を改造したもんだ。ほらよ』
ウィィン……。
床の一部が開き、アームが一本の剣を差し出してきた。
無骨な直剣だが、その刀身の中には熱伝導コイルが血管のように埋め込まれている。
『俺が見た限り、お前の戦闘スタイルは「超長距離」が基本だ。だが、結局は敵に懐に入られて、「接近戦」での泥仕合になることも多い……。なら、斬ると同時に傷口を焼いちまえば、再生する魔物も怖くねえだろ?』
「これは……」
ヴァルが剣を手に取り、グリップのスイッチを入れる。
ブブブゥゥゥン……!
一瞬で刀身が赤熱し、周囲の空気が陽炎のように歪んだ。
『Module ID:13 "HeatEdge"……相当の熱量兵器です。設計図を渡さなくても、概念だけでこれを作るとは……!』
レティナが驚愕する。
ヴァルは熱を帯びた剣を見つめ、ニヤリと笑った。
「斬撃と焼却の複合兵装か。……ありがとう、タルゴスさん。これなら、パンドラのジェネレーターと直結すれば、さらに熱効率が上がる」
ヴァルはすぐに背中のバックパックからケーブルを伸ばし、剣のグリップへと接続し改造を施す。
『D.N.A』に触れてから、ヴァルの機械への理解度は増すばかりだ。構造を見るだけで、最適なエネルギー経路が直感的に理解できる。
パンドラの余剰エネルギーが循環し、刀身がさらに凶悪なオレンジ色に輝く。
◇
国境までの移動時間は、あと数時間。
ヴァルが剣の調整をしている横で、ララがふと真面目な顔をした。
「……ねえ、ヴァル」
「はい?」
「私、もっと強くならないと。……アビアさんやカイルは凄い魔法が使えるし、ティアちゃんは鉄壁の守りと回復魔法がある。でも私は……」
彼女は自分の手を見つめる。
兎種特有の脚力と聴覚はあり、ある程度の魔法も使える。だが、決定打に欠ける。
器用貧乏。それが彼女のコンプレックスだった。
「ヴァルの隣に立つなら、足手まといにはなりたくないの」
その切実な瞳を見て、ヴァルは作業の手を止めた。
足手まといなわけがない。彼女がいなければ、ティアはこの世にいないだろう。
だが、彼女が求めているのは慰めではなく、「力」だ。
「……レティナ。ララさんの適性を解析してくれ」
『……既に解析済みです』
脳内で即答が返ってきた。
「なら、頼む。彼女に最適な『コード』を教えてくれないか」
『……むぅ。マスターは、あのウサギに少し甘すぎではありませんか?』
レティナの声に、ジジッという不満げなノイズが混じる。
だが、彼女はため息交じりに(あくまで電子音で)答えた。
『彼女の魔力波長は特殊です。火や水といった物質干渉ではなく……自身の肉体への干渉に向いています。属性はID:06『Virtus(力・運動)』』
「力と運動……」
『ええ。彼女の高い身体能力と神経伝達速度。これに運動エネルギーを操作する魔法を組み合わせ、空気抵抗と慣性を制御すれば……理論上のトップスピードは音速に迫ります』
ヴァルはレティナの解説を噛み砕き、ララに伝えた。
「ララさん。炎を出そうとか、強く蹴ろうとか考えないでください。……意識するのは、空気の『壁』をなくすことです」
「壁を……なくす……」
「そう。自分が風になるんじゃない。風のほうに、道を譲らせるんです。……そのための『術式』を教えます」
ヴァルは、レティナが弾き出した最適化コードを口ずさむ。
それは魔法の呪文というより、物理法則を書き換えるシステムコマンドに近い。
「……A.F.Code...JUMP…道の加速」
シュンッ。
風が吹いたわけではない。
瞬きした次の瞬間、目の前にいたはずのララが消えていた。
「えっ?」
「……すごい」
声は、ヴァルの背後から聞こえた。
振り返ると、ララが驚いた顔で自分の手を見つめて立っていた。座席の反対側へ、音もなく移動していたのだ。
「身体が……羽毛みたいに軽かったわ」
高身体能力を持つ獣人が、さらに運動ベクトルを最適化させる。
それは、常人の目には捉えられない「最強のスピードスター」の誕生だった。
◇
【国境付近・断層ダンジョン入口】
一方その頃。
物流ルートを封鎖しているダンジョンの入り口では、地獄絵図が広がっていた。
「ひるむなッ! 撃て! 第3波、斉射ァッ!!」
金色の鎧に身を包んだ騎士団長が、悲鳴に近い号令を上げる。
展開しているのは、ユグド・セコイアが誇るエリート魔導騎士団。
彼らは一斉に杖を掲げ、上級魔法である炎弾や雷撃を放った。
ドォォォォォォン!!
数十発の魔法が着弾し、爆炎が巻き起こる。
だが。
「……効いてない、だと?」
煙が晴れた先。
そこには、無傷の巨人が悠然と立っていた。
身長5メートル。全身が鏡のように磨き上げられた銀色の金属で構成された怪物。
『レムナント・ゴーレム』。
その表面は、あらゆる魔力干渉を拒絶し、反射する「対魔力金属」で覆われている。
魔法使いにとっての天敵。
「ぐ、がぁぁぁッ!?」
反射された雷撃が騎士団を襲い、数名が黒焦げになって吹き飛ぶ。
「馬鹿な……我々の魔法が通じないなど……!」
騎士団長は愕然と後ずさる。
彼らはエリートだ。強力な魔法こそが正義であり、絶対の力だと信じて疑わなかった。
だからこそ、魔法が効かない相手に対し、彼らはあまりにも無力だった。
物理攻撃?
剣で殴る?
そんな原始的な方法は、彼らの戦術マニュアルには存在しない。
ズゥゥゥン……。
ゴーレムが一歩踏み出す。
逃げ遅れた若い騎士が、魔力切れで腰を抜かしていた。
ゴーレムの巨大な腕が、無慈悲に振り上げられる。
「ひっ……助け……!」
騎士団長は動けない。誰も動けない。
ただ、磨り潰されるのを待つしかないのか。
その時。
キキキキキキキキィィィィィッ!!!!!
戦場の空気を切り裂く、耳障りな摩擦音。
そして、地鳴りのような重低音。
「な、なんだ!?」
騎士たちが一斉に振り返る。
砂煙を巻き上げ、地平線の彼方から「それ」は現れた。
巨大な亀――いや、装甲車だ。
六つの巨大な車輪を回転させ、信じられない速度で突っ込んでくる鉄の要塞。
『目標確認。……射線確保のため、ドリフト機動へ移行します』
「頼みますよ、タルゴスさん!」
『おうよッ! 振り落とされんじゃねえぞ!!』
タートルが戦場のド真ん中で、急激にステアリング(物理)を切った。
ズザザザザザザァッ!!
巨大なタイヤが地面を削り、数トンの巨体が横滑りする。
その遠心力を利用し、ゴーレムと若い騎士の間に、強引に車体を割り込ませたのだ。
「射線上に味方なし」
二階席の窓が開き、そこから黒い銃身が突き出される。
ヴァルだ。
『Send it(撃て)』
彼は激しい横Gに耐えながら、冷静に対物ライフルのトリガーを絞った。
ドォォォォォン!!
魔法ではない。
火薬の爆発によって加速された、純粋な質量の暴力。
放たれた『徹甲弾(AP)』は、ゴーレムの振り下ろされた腕の関節――装甲の隙間へ正確に吸い込まれた。
ガギィィンッ!!
硬質な破砕音。
魔法を弾くはずのミスリルの腕が、物理的な衝撃によってへし折れ、宙を舞った。
ドスンッ。
千切れた腕が地面に落ち、砂埃を上げる。
「な……ッ!?」
騎士団長は、目の前の光景が信じられなかった。
我々の魔法が傷一つつけられなかった怪物を、たった一撃で?
プシュゥゥゥ……。
停止したタートルのハッチが開き、白煙と共にヴァルが降り立つ。
背中には展開された『Pandora』の四本のアームが蠢き、左手には赤熱して陽炎を放つ『ヒート・エッジ』。
そしてその隣には、残像を纏った金髪の美女――ララが、音もなく着地していた。
ヴァルは、助かった若い騎士に手を差し伸べることもなく、ただゴーレムを見据えて言い放った。
「下がっててください」
それは、エリート騎士団への助言ではない。
明確な、退去命令。
「……ここは我々が引き受けます」
魔法が効かないなら、砕けばいい。
単純明快な「物理」と「速度」による蹂躙が、今始まる。
【あとがき】
読んでいただきありがとうございます!
「器用貧乏」に悩んでいたララさん。
ヴァルの解析(という名のレティナの嫉妬混じりの助言?)により、音速のスピードスターへと覚醒しました!
(空気抵抗をなくすって、物理的に最強ですよね)
そして後半。
魔法が効かないゴーレムに絶望するエリート騎士団。
そこへドリフトで突っ込むタートル改!
物理(質量弾)の前では、魔法反射なんて無意味です。
次回、ヴァル&ララの無双バトル回!
魔法使いの皆様には、指をくわえて見ていてもらいましょう。
(※ネトコン14参加中です! 「ドリフト最高!」「ざまぁ展開きた!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)




