表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/63

第40話:絶望する騎士団(エリート)。……魔法反射? それ、ただの硬い「的」ですよね?

【移動中:タートル改・二階席】

 南西の国境へ向かうための、深く長い森のトンネル。

 木枯らしが吹き荒れる中を、異様な形状の車両が爆走していた。

 『強襲用装甲台車アサルト・スケーター』へと改造されたカーゴ・タートルだ。

 その背中に増設された二階席は、外の過酷な環境が嘘のように快適だった。

 対面式の革張りソファを覆うように、頑丈な幌の屋根が閉じられ、冷たい風を完全に遮断している。

「……あったかい」

 ララがソファに深く沈み込み、嬉しそうな吐息を漏らす。

 外は厳寒だが、室内はポカポカと暖かい。

 一階にある工房の炉と、タートルの脚力(推進力)を補助する魔導駆動輪からの排熱を、ダクトを通して床暖房として再利用しているのだ。

「快適でしょ? セバスチャンさんの旧宅にあった余り素材を使ったみたいよ? さすがタルゴスさんね」

 アビアたちが先行しているため、広い車内にはヴァルとララの二人きり。

 ララは自然な動作で、ヴァルの隣――機械化された左側へと座り直した。

「ですね。……これなら、長旅でも疲れないです」

 ヴァルが感心して床を撫でていると、伝声管からしゃがれた声が響いてきた。

『おう坊主! 俺様の改造はどうだ! 1階で武器を作り、2階でくつろぐ! ……まさに『走る武器工房』よ!』

 運転と炉の管理を担当しているタルゴスだ。

「すごいです、タルゴスさん! こんな風に排熱を利用するなんて……」

『発想が暴力的ですが、エネルギー効率の観点では理にかなっています』

 レティナも珍しく称賛(?)の声を上げる。

『へっ、褒めても何も出ねえぞ。……そして、こいつはお前の片手剣を改造したもんだ。ほらよ』

 ウィィン……。

 床の一部が開き、アームが一本の剣を差し出してきた。

 無骨な直剣だが、その刀身の中には熱伝導コイルが血管のように埋め込まれている。

『俺が見た限り、お前の戦闘スタイルは「超長距離」が基本だ。だが、結局は敵に懐に入られて、「接近戦」での泥仕合になることも多い……。なら、斬ると同時に傷口を焼いちまえば、再生する魔物も怖くねえだろ?』

「これは……」

 ヴァルが剣を手に取り、グリップのスイッチを入れる。

 ブブブゥゥゥン……!

 一瞬で刀身が赤熱し、周囲の空気が陽炎のように歪んだ。

『Module ID:13 "HeatEdgeヒート・エッジ"……相当の熱量兵器です。設計図を渡さなくても、概念だけでこれを作るとは……!』

 レティナが驚愕する。

 ヴァルは熱を帯びた剣を見つめ、ニヤリと笑った。

「斬撃と焼却の複合兵装か。……ありがとう、タルゴスさん。これなら、パンドラのジェネレーターと直結すれば、さらに熱効率が上がる」

 ヴァルはすぐに背中のバックパックからケーブルを伸ばし、剣のグリップへと接続し改造を施す。

 『D.N.A』に触れてから、ヴァルの機械への理解度は増すばかりだ。構造を見るだけで、最適なエネルギー経路が直感的に理解できる。

 パンドラの余剰エネルギーが循環し、刀身がさらに凶悪なオレンジ色に輝く。

 国境までの移動時間は、あと数時間。

 ヴァルが剣の調整をしている横で、ララがふと真面目な顔をした。

「……ねえ、ヴァル」

「はい?」

「私、もっと強くならないと。……アビアさんやカイルは凄い魔法が使えるし、ティアちゃんは鉄壁の守りと回復魔法がある。でも私は……」

 彼女は自分の手を見つめる。

 兎種ルプス特有の脚力と聴覚はあり、ある程度の魔法も使える。だが、決定打に欠ける。

 器用貧乏。それが彼女のコンプレックスだった。

「ヴァルの隣に立つなら、足手まといにはなりたくないの」

 その切実な瞳を見て、ヴァルは作業の手を止めた。

 足手まといなわけがない。彼女がいなければ、ティアはこの世にいないだろう。

 だが、彼女が求めているのは慰めではなく、「力」だ。

「……レティナ。ララさんの適性を解析してくれ」

『……既に解析済みです』

 脳内で即答が返ってきた。

「なら、頼む。彼女に最適な『コード』を教えてくれないか」

『……むぅ。マスターは、あのウサギに少し甘すぎではありませんか?』

 レティナの声に、ジジッという不満げなノイズが混じる。

 だが、彼女はため息交じりに(あくまで電子音で)答えた。

『彼女の魔力波長は特殊です。火や水といった物質干渉ではなく……自身の肉体への干渉に向いています。属性はID:06『Virtus(力・運動)』』

「力と運動……」

『ええ。彼女の高い身体能力と神経伝達速度。これに運動エネルギーを操作する魔法コードを組み合わせ、空気抵抗と慣性を制御すれば……理論上のトップスピードは音速に迫ります』

 ヴァルはレティナの解説を噛み砕き、ララに伝えた。

「ララさん。炎を出そうとか、強く蹴ろうとか考えないでください。……意識するのは、空気の『壁』をなくすことです」

「壁を……なくす……」

「そう。自分が風になるんじゃない。風のほうに、道を譲らせるんです。……そのための『術式コード』を教えます」

 ヴァルは、レティナが弾き出した最適化コードを口ずさむ。

 それは魔法の呪文というより、物理法則を書き換えるシステムコマンドに近い。

「……A.F.Code...JUMP…道の加速ヴィア・アクセラ

 シュンッ。

 風が吹いたわけではない。

 瞬きした次の瞬間、目の前にいたはずのララが消えていた。

「えっ?」

「……すごい」

 声は、ヴァルの背後から聞こえた。

 振り返ると、ララが驚いた顔で自分の手を見つめて立っていた。座席の反対側へ、音もなく移動していたのだ。

「身体が……羽毛みたいに軽かったわ」

 高身体能力を持つ獣人が、さらに運動ベクトルを最適化させる。

 それは、常人の目には捉えられない「最強のスピードスター」の誕生だった。

【国境付近・断層ダンジョン入口】

 一方その頃。

 物流ルートを封鎖しているダンジョンの入り口では、地獄絵図が広がっていた。

「ひるむなッ! 撃て! 第3波、斉射ァッ!!」

 金色の鎧に身を包んだ騎士団長が、悲鳴に近い号令を上げる。

 展開しているのは、ユグド・セコイアが誇るエリート魔導騎士団。

 彼らは一斉に杖を掲げ、上級魔法である炎弾や雷撃を放った。

 ドォォォォォォン!!

 数十発の魔法が着弾し、爆炎が巻き起こる。

 だが。

「……効いてない、だと?」

 煙が晴れた先。

 そこには、無傷の巨人が悠然と立っていた。

 身長5メートル。全身が鏡のように磨き上げられた銀色の金属で構成された怪物。

 『レムナント・ゴーレム』。

 その表面は、あらゆる魔力干渉を拒絶し、反射する「対魔力金属」で覆われている。

 魔法使いにとっての天敵。

「ぐ、がぁぁぁッ!?」

 反射された雷撃が騎士団を襲い、数名が黒焦げになって吹き飛ぶ。

「馬鹿な……我々の魔法が通じないなど……!」

 騎士団長は愕然と後ずさる。

 彼らはエリートだ。強力な魔法こそが正義であり、絶対の力だと信じて疑わなかった。

 だからこそ、魔法が効かない相手に対し、彼らはあまりにも無力だった。

 物理攻撃?

 剣で殴る?

 そんな原始的な方法は、彼らの戦術マニュアルには存在しない。

 ズゥゥゥン……。

 ゴーレムが一歩踏み出す。

 逃げ遅れた若い騎士が、魔力切れで腰を抜かしていた。

 ゴーレムの巨大な腕が、無慈悲に振り上げられる。

「ひっ……助け……!」

 騎士団長は動けない。誰も動けない。

 ただ、磨り潰されるのを待つしかないのか。

 その時。

 キキキキキキキキィィィィィッ!!!!!

 戦場の空気を切り裂く、耳障りな摩擦音。

 そして、地鳴りのような重低音。

「な、なんだ!?」

 騎士たちが一斉に振り返る。

 砂煙を巻き上げ、地平線の彼方から「それ」は現れた。

 巨大な亀――いや、装甲車だ。

 六つの巨大な車輪を回転させ、信じられない速度で突っ込んでくる鉄の要塞。

『目標確認。……射線確保のため、ドリフト機動へ移行します』

「頼みますよ、タルゴスさん!」

『おうよッ! 振り落とされんじゃねえぞ!!』

 タートルが戦場のド真ん中で、急激にステアリング(物理)を切った。

 ズザザザザザザァッ!!

 巨大なタイヤが地面を削り、数トンの巨体が横滑りする。

 その遠心力を利用し、ゴーレムと若い騎士の間に、強引に車体を割り込ませたのだ。

「射線上に味方なし」

 二階席の窓が開き、そこから黒い銃身が突き出される。

 ヴァルだ。

『Send it(撃て)』

 彼は激しい横Gに耐えながら、冷静に対物ライフルのトリガーを絞った。

 ドォォォォォン!!

 魔法ではない。

 火薬の爆発によって加速された、純粋な質量の暴力。

 放たれた『徹甲弾(AP)』は、ゴーレムの振り下ろされた腕の関節――装甲の隙間へ正確に吸い込まれた。

 ガギィィンッ!!

 硬質な破砕音。

 魔法を弾くはずのミスリルの腕が、物理的な衝撃によってへし折れ、宙を舞った。

 ドスンッ。

 千切れた腕が地面に落ち、砂埃を上げる。

「な……ッ!?」

 騎士団長は、目の前の光景が信じられなかった。

 我々の魔法が傷一つつけられなかった怪物を、たった一撃で?

 プシュゥゥゥ……。

 停止したタートルのハッチが開き、白煙と共にヴァルが降り立つ。

 背中には展開された『Pandora』の四本のアームが蠢き、左手には赤熱して陽炎を放つ『ヒート・エッジ』。

 そしてその隣には、残像を纏った金髪の美女――ララが、音もなく着地していた。

 ヴァルは、助かった若い騎士に手を差し伸べることもなく、ただゴーレムを見据えて言い放った。

「下がっててください」

 それは、エリート騎士団への助言ではない。

 明確な、退去命令。

「……ここは我々が引き受けます」

 魔法が効かないなら、砕けばいい。

 単純明快な「物理」と「速度」による蹂躙が、今始まる。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


「器用貧乏」に悩んでいたララさん。

ヴァルの解析(という名のレティナの嫉妬混じりの助言?)により、音速のスピードスターへと覚醒しました!

(空気抵抗をなくすって、物理的に最強ですよね)


そして後半。

魔法が効かないゴーレムに絶望するエリート騎士団。

そこへドリフトで突っ込むタートル改!

物理(質量弾)の前では、魔法反射なんて無意味です。


次回、ヴァル&ララの無双バトル回!

魔法使いの皆様には、指をくわえて見ていてもらいましょう。


(※ネトコン14参加中です! 「ドリフト最高!」「ざまぁ展開きた!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ