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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
聖都潜入編 ~物理と演算で、聖都の夜を攻略せよ~

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第33話:共鳴破壊(レゾナンス・ブレイク)。……その「絶対防御」、波の位相を合わせて砕く

【現在:時計塔・屋上】

 半壊した時計塔の屋上。

 砂煙と鉄錆の匂いが充満する瓦礫の上で、ヴァルは体を横たえていた。

 左腕は鉄屑のようにひしゃげたシールドと共に動かない。

 右目は血で潰れ、視界を閉ざしている。

 唯一残された左眼(義眼)だけが、スコープの奥で琥珀色の光を放っていた。

 激痛。

 呼吸をするたびに、折れた肋骨が肺に刺さるような痛みが走る。

 意識が飛びそうだ。暗い海へと沈んでしまいそうだ。

 だが、ヴァルは歯を食いしばり、意識を繋ぎ止める。

 まだだ。まだ、終わっていない。

 アビアさんたちが、あの理不尽な盾に苦しめられている。

「……ハァ、ハァ……ッ」

 ヴァルは荒い息を吐きながら、顔の横にあるラジオのマイクへ手を伸ばした。

 スイッチを「ON」に入れる。自分は平気だぞ、と伝えるために。

「α、γチームへ。……今から敵の防御魔法を破壊します」

 気丈に振る舞ったつもりだった。

 しかし、彼の苦痛に満ちた呼吸音と、脳内の相棒レティナとの会話は、ノイズ混じりの電波に乗って、戦場の仲間たち全員へと届いていた。

『警告:マスター、バイタルサイン低下。これ以上の戦闘行動は生命維持に支障をきたします。直ちに撤退し、治療を……』

 脳内に直接響くレティナの声。

 だが、極限状態のヴァルにとって、それは今、思考を妨げる雑音でしかなかった。

「……レティナ……黙ってくれ。……集中できないんだ……」

 ヴァルは掠れた声で呟く。

 その独白は、数キロ離れた仲間たちの耳に、雷鳴のような衝撃として突き刺さった。

【αチーム:アビア視点】

 剣を弾かれ、後退していたアビアは、耳元のイヤホンから聞こえてきた声に戦慄した。

〈……黙ってくれ……集中できないんだ……〉

 ヴァルの声だ。だが、いつもの冷静な指揮官の声ではない。

 痛みに耐え、命を削り出しながら絞り出したような、悲痛な響き。

(レティナ? ……誰だ? ヴァルは、誰と話している?)

 アビアは目の前の敵――ドーピングで暴走するBランクの男を見据えながらも、意識は無線に向いていた。

 通信の向こう側で、ヴァルが「何か」と会話している。

 それは仲間への指示ではない。もっと根源的な、自分自身への問いかけのような独白。

〈……アビアさんたちの前の『壁』を壊すんだ。……演算リソースを、全部こっちに回せ〉

 ザザッ、とノイズが走る。

 アビアは息を呑んだ。

 あいつは、自分の命を代償にしてでも、俺たちを支援しようとしている。

「馬鹿野郎……! 無茶をするなヴァル!!」

 アビアが叫ぶ。だが、一方通行のラジオでは、その声は届かない。

【時計塔・屋上】

「……アビアさんたちの前の『壁』を壊すんだ。……演算リソースを、全部こっちに回せ」

 ヴァルには、仲間の悲鳴は聞こえていない。

 あるのは、目の前のスコープ越しの世界と、脳内の警告音だけだ。

「……これは命令だ、レティナ。『D.N.A』に直接繋いでくれ」

 ヴァルの言葉に、レティナが一瞬沈黙する。

 『D.N.A(Data Network Archive)』。

 それは旧文明の遺産である保存されたデータ集積場。遥か天空、世界中の『どこにいても繋がる』ことができる知識の源泉。

 その領域への直接接続を意味する禁断のコード。

 生身の脳で接続すれば、膨大な情報の濁流に自我が流され、廃人になるリスクがある。

『理解不能です。……なぜ、そこまでするのですか? 自身の生存確率を著しく低下させてまで、他者を守る行動に合理的根拠が見当たりません』

 機械であるレティナには理解できない。

 生存本能こそが生物の最優先事項であるはずだ。そう定義されているから、そう答える。

 だが、ヴァルは血に濡れた唇を歪め、ふっと笑った。

「……それが、人間ってやつなんだ。……理屈じゃない」

 大切な仲間が傷つくくらいなら、自分の身が砕けたほうがマシだ。

 だって、こんなマギレスをここまで拾い上げてくれたんだから。

 そんな馬鹿げた計算式が成り立つのが、人間の心だ。

『…………』

 レティナの思考回路の中で、無数のエラーログと、新たな定義ファイルが生成されていく。

 非合理。自己犠牲。愛。

 それらを総称して、「人間」と定義する。

『……了解。オーダーを受諾します』

 レティナの声色が、わずかに変わった気がした。

 ただの機械的な音声ではない。主人の覚悟に寄り添うような、意思のある響き。

『……ただし、本当に危険になった場合は、マスターの意思に関わらず強制シャットダウンを行います。……死なせません、マスター』

「フッ……随分と人間っぽいな、その発言……」

『!? ……思考ルーチンにノイズ発生。……実行します』

 ブオォン……!!

 ヴァルの左眼が、かつて霧の峡谷で見せたような、激しい青白い光を放った。

 リミッター解除。

 『Oracle(オラクル) Sightサイト』全稼働。

 グギギギギ……!

 脳が沸騰するような熱量。

 鼻から、耳から、そして潰れた右目の隙間から、ツーッと新たな血が流れ落ちる。

 だが、ヴァルの意識は鮮明だった。

 視界が書き換わる。

 数キロ先のアビアたちの戦場。

 Bランクの男が展開している『拒絶の壁』。

 今まで「見えない壁」として認識されていたそれが、無数の数式と幾何学模様の集合体へと分解されていく。

 魔力の流れ。密度。揺らぎ。

 そして――「波」が見えた。

 光が「光子」という波と粒子の性質を持つように、魔力もまた「魔子まし」として波打っている。

 どんなに強固な壁も、魔力という波で構成されている以上、固有の振動数を持つ。

 その波と完全に逆の位相を持つエネルギーをぶつければ、波は相殺され、霧散する。

『解析完了。周波数特定。……逆位相による共鳴破壊レゾナンス・ブレイクシークエンス、準備よし』

 レティナの報告と共に、スコープの中心に極小の「点」が表示された。

 それは、壁の魔力が一点に収束する「かなめ」の場所。

「ID04:REPULSリパルス。……強固な斥力か。波である以上は壊せる」

 ヴァルは呟く。

 その声は、もはや痛みに喘ぐ青年のものではない。

 冷徹に標的を解体する、機械仕掛けの死神の声だった。

 ヴァルは全てのデジタルな補助表示ウィンドウを視界から消去した。

 ノイズを捨てる。

 『D.N.A』からダウンロードされた、古の射手スナイパーの記憶と技術スキル。そのインストールは完了した。

 素早くポケットから五発ほどの弾を出し、ライフルの右側に並べる。

 必要なのは、風の情報と、標的との距離、そして己の感覚だけ。

 ターゲットは、Bランクの男ではない。

 男の目の前に展開されている、不可視の盾の「一点」。

 直径わずか数センチの、魔力結束点。

(殺しはしない。……だが、その自慢の盾だけは貰う)

 スコープの倍率を上げる。

 さらに、ヴァルの集中力が極限まで高まり、世界が収束していく。

 数キロ先の空気が、レンズのように歪んで見える。

 顕微鏡を覗くように、防壁の微細な揺らぎが、巨大な波のように拡大されて見えた。

 それは機械レティナの予測すら超えた領域。

 人間のみが到達できる、極限の集中状態ゾーン

 風が止まった。砂煙が収まり視界が晴れる。

 心臓の鼓動が、指先のトリガーと同期する。

 ドクン。

 今だ。

 ヴァルは瓦礫に寝そべったまま、右手だけでボルトハンドルを掴んだ。

 ガチャン。

 硬質で重厚な音が、マイクを通じて戦場に響く。

 ボルトを引き上げ、後方へ引く。

 排莢口から空薬莢が弾け飛び、カランと乾いた音を立てて瓦礫の上を転がった。

 ジャキッ。

 ボルトを押し込み、次弾を薬室へ送り込む。

 込められたのは、タルゴスが手作りした特製の『カオス・スチール弾』。

 魔力を帯びた黒鉄の弾丸。

 カチャリ。

 ハンドルを倒し、閉鎖ロック

 一連の動作は、儀式のように美しく、そして重々しい。

 その音が聞こえた瞬間、アビアも、カイルも、そしてティアも確信した。

 来る。

 彼の一撃が、この理不尽な状況を打ち砕くのだと。

 引き金を絞る。

 ――爆音。

 マズルブレーキから噴き出した炎が、時計塔の闇を切り裂いた。

 音速を超えて飛翔する弾丸は、衝撃波を纏い、物理的な距離を一瞬で食い潰す。

 それは一直線に、アビアの目の前にある「絶対防御」へと吸い込まれていった。

【αチーム:戦場】

「逃げ回ってんじゃねえぞオラァァァ!!」

 Bランクの斧使いが、勝利を確信して斧を振りかぶった瞬間だった。

 空を切る音。身体の動きが止まる。

 続けて聞こえてきた、ドォンと腹に響く、聞いたこともないような破裂音。

 一体、何が起こったんだ。そして、――

 キィィィィィィン……!!

 不快な、耳をつんざくような高周波音が響き渡った。

 空間が悲鳴を上げたかのような音。

 直後。

 パリーーーーーーンッ!!

 盛大な音がして、男の目の前にあった「見えない壁」が、まるでガラス細工のように粉々に砕け散った。

 キラキラと光る魔力の破片が、夜空に舞う。

「は……?」

 男が間の抜けた声を上げた。

 何が起きたのか理解できない。

 絶対無敵の盾。あの御方から授かった最強の魔法が、砕けた?

 カラン……。

 石畳を叩く乾いた音がして、男の足元に「何か」が転がった。

 それは、ひしゃげた黒い金属塊。

 一発の弾丸。

 全ての運動エネルギーと魔力を、壁の破壊(相殺)のみに使い切り、役目を終えて落ちたのだ。

「ひっ……!?」

 男は腰を抜かし、後ずさった。

 傷一つない。

 だが、自分の足元にあるその「死の塊」を見た瞬間、本能的な恐怖が全身を支配した。

 もし。

 もし、この弾丸が「壁」ではなく、「自分」を狙っていたら?

 壁ごと貫くこともできたはずだ。

 頭を吹き飛ばすこともできたはずだ。

 それをしなかったのは、慈悲か、それとも――「いつでも殺せる」という、圧倒的な強者の証明か。

「あ、あぁ……」

 男の戦意は、壁と共に完全に粉砕されていた。

 斧を取り落とし、ガタガタと震えながら空を見上げる。

 遥か彼方。

 半壊した時計塔の上から、青白い隻眼の魔人が自分を見下ろしている気がした。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


本日2話目、反撃編です!

満身創痍のヴァルと、進化するレティナ。

共鳴破壊レゾナンス・ブレイク」による一撃、いかがでしたでしょうか?


魔法を「波」として解析し、逆位相で相殺する。

マギレスだからこそ辿り着いた、魔法殺しの理論です。

(足元に転がる弾丸を見て震える敵……ざまぁですね!)


これでαチームの壁は崩れました。

次はγチームの「キメラ」と「一方通行の壁」。

そして、ヴァルを撃った魔導師たちへの「お返し」です。


次回、怒涛の反撃はまだまだ続きます!


(※ネトコン14参加中です! 「狙撃シーン痺れた!」「レティナ可愛い!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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