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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
聖都潜入編 ~物理と演算で、聖都の夜を攻略せよ~

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33/50

第30話:暴走する合成獣(キメラ)。……そして、「眼(司令塔)」は沈黙した

【作戦開始直前:移動中】

 聖都の深い闇の中を、二つの影が音もなく駆けていた。

 γチーム。

 担当は、武闘派として知られるカルドゥス議員の屋敷だ。

 メンバーは、盾役タンクに回ったティアと、遊撃として攻撃特化のララ。

 張り詰めた空気を和らげるように、ララがふと口を開いた。

「ねえ、ティアちゃん」

「は、はい?」

「アビアさんとはどうなの? お似合いだと思うけど」

 唐突な問いかけに、ティアは巨大なシールドを抱えたまま、ボッと顔を赤くした。

「そ、そんな! アビアは頼れるリーダーで……大切な仲間で……!」

「ふふ、顔が真っ赤よ」

「うぅ……からかわないで。……でも」

 ティアは夜空を見上げ、少しだけ目を細めた。

「いつか、全部終わって平和になったら……装備を置いて、あの人と一緒にゆっくりお酒でも飲めたらって、そう思います」

「……そっか。ささやかだけど、素敵な夢ね」

 ララは優しく微笑む。

 熊獣人ウルサスのティアは、その巨体と怪力に反して、誰よりも繊細で心優しい女性だ。彼女の守る背中が、どれほど温かいか、チームの全員が知っている。

「ララこそ……ヴァル君のこと、放っておけないんでしょう?」

 今度はティアが問い返す番だった。

 ララは少し驚いた顔をして、それから苦笑交じりに遠くを見た。

「……そうね。あの子、強いフリして危なっかしいから」

 脳裏に浮かぶのは、必死に強がって、震える手で銃を握る青年の姿。

「世界を敵に回しても平気そうな顔してるけど、誰かが手を引いてあげないと、どこかへ行っちゃいそうで」

「ふふ、お姉さんね」

「あら、これでも母性はあるのよ?」

 二人は顔を見合わせ、クスリと笑い合った。

 ティアも、ララがなぜヴァルをそこまで気に掛けているのか、という深い詮索はしない。それぞれの事情がある、アビアにもあるように彼女にも。

 互いの胸にある「守りたいもの」を確認し合う。それは、これから死地へ向かう戦士たちが交わす、小さな誓いだった。

「さあ、行きましょう。早く終わらせて、みんなで帰らなきゃ」

「うん!」

 二人の表情から笑みが消え、戦士の顔へと切り替わる。

 目の前には、カルドゥス議員の屋敷が静かに佇んでいた。

【現在:カルドゥス邸】

 屋敷の周囲は、異様な静寂に包まれていた。

 護衛の気配がない。門番すら立っていない。

〈……全チーム、配置につきましたね。作戦開始オペレーション・スタート

 イヤホンから、ノイズ混じりのヴァルの声が届く。

 二人は頷き合い、正面の扉を蹴り開けて突入した。

「カルドゥス議員! 大人し……く……!?」

 ティアの警告は、途中で凍りついた。

 エントランスホール。

 そこに広がっていたのは、地獄だった。

 豪奢な絨毯は、どす黒い血で染まりきっている。

 そこら中に転がっているのは、屋敷のメイドたちの無残な遺体。

 そして、その血の海の中心に、一人の男が立っていた。

 武闘派議員、カルドゥス。

 彼は全身を返り血で濡らし、虚ろな目で天井を見上げていた。

「あ……が、ぁ……」

「うっ! ひどい臭い……」

 強烈な鉄の臭いに、ティアが鼻を覆う。だが、彼女は盾を構え直し、毅然と告げた。

「貴方を確保します! 抵抗はやめて……」

「……待ってティア、様子が変よ」

 ララが鋭く警告した。

 カルドゥスの肉体が、泡立つように脈動している。

 次の瞬間。

 ブチブチブチッ!!

 不快な音と共に、カルドゥスの背中が盛り上がり、皮膚を突き破って「何か」が飛び出した。

 それは、昆虫の節足であり、爬虫類の鱗を持つ腕であり、猛禽類の翼だった。

「ギ、ギシャブブダダバアアアオオオオオッ!!」

 絶叫。

 人の形が崩れ去る。

 右足は馬のように太く歪み、左足は鉤爪を持つ鳥のそれへと変貌する。

 人間の腕は裂け、猛獣の剛腕が再生する。

 それはもはやエルフではない。あらゆる生物の特徴を悪夢のように継ぎ接ぎした、冒涜的な合成獣キメラだった。

「な、何なのコイツ!? 人間じゃない……!」

「化け物……!?」

 二人が戦慄する中、理性を失った怪物が床を砕いて突進した。

「来るッ! ティア!」

「防ぐッ!」

 ティアがタワーシールドを地面に突き立て、防御する。

 だが。

 ドォォォォォンッ!!

「ぐ、ぅぅッ!?」

 重い。あまりにも重すぎる。

 戦車でも受け止めるティアの膝が、一撃で折れそうになる。

 純粋な物理質量と、暴走した強化魔法アウグメンタによる理不尽な暴力。

「ララ、今よ!」

「任せて!」

 ティアが受け止めた一瞬の隙を突き、ララが背後へ回り込む。

 双剣に魔力を乗せ、キメラの無防備な首筋へと斬りかかる。

 確実な一撃。

 だが。

 ガギィンッ!!

「なっ!?」

 刃が、何もない空間で弾かれた。

 見えない壁。

 それも、ただの障壁ではない。ララの攻撃は弾くのに、キメラの触手はその壁をすり抜けて、ララに襲いかかってきたのだ。

「きゃあっ!?」

「ララ!」

 ララは空中で身を捻り、紙一重で触手を回避するが、頬を浅く切り裂かれた。

「一方通行!? 敵の攻撃だけ通して、こっちの攻撃は弾くっていうの!?」

 『斥力の壁リジェクション・ウォール』。

 それは物理的な攻撃や投擲物を跳ね返す中級メディア魔法。ただの暴走した怪物が使えるような代物ではない。

 誰かが、この怪物に「兵器」としての細工を施したのだ。

 絶望的だった。

 相手は、元々冒険者でありスタミナがある怪物だ。さらに、こちらの攻撃は一切届かず、あちらの攻撃だけが届く理不尽な盾を持っている。

〈――アビアさん、強力な防御魔法イージスあり! 時間を稼いでください!〉

 イヤホンからヴァルの声が響く。彼はαチームの支援で手一杯のようだ。

〈……γチーム、カルドゥスの動きが変です、距離を取って!〉

「取ってるわ! でも、攻撃が通じないの!」

 ララが叫ぶ。つい、一方向だというのを忘れてしまう。

 ティアの回復魔法レパラティオで、頬の傷は癒える。

 が、ティアの盾が限界に近い。ミスリル合金の表面が、キメラの爪撃の一発で削り取られていた。

「ティア! 貴女、下がりなさい!」

 このままでは、ジリ貧だ。

「…わ、分かった! …風の壁ツェーラス・ムールス!」

 後退しつつ防御魔法イージスを発動させるティア。

 Aランクパーティらしい柔軟な動きをする。が、ララは目の前のプレッシャーから目を離せない。

 声にもならない言葉を発している異形ソレを。

「ヴァル……! ヴァルに弱点を聞かないと……!」

 ララは必死にイヤホンの声に問いかけてしまう。

 あの「眼」なら。

 あの理不尽な壁の隙間も、キメラの弱点も、見つけてくれるはずだ。

「ヴァル! 攻撃が通じないの! 指示を……」

 その時だった。

 ドォォォォォォォォォン!!

 遠くで、街を揺るがすほどの爆発音が轟いた。

 ララとティアが反射的に視線を向ける。

 窓の外。

 街の中心に聳え立つ、時計塔の最上階が――爆発に包まれて吹き飛んでいた。

「え……?」

 あそこは。

 司令塔がいる場所。

「嘘……ヴァル!?」

 ザザッ……、ザー…。

 イヤホンから流れていたノイズが流れ出す。

 声がなくなる。

 ただの静寂。

「あ、あぁ……」

 ティアの顔から血の気が引いていく。

 目の前には、涎を垂らして爪を振り上げる不死身のキメラ。

 そして、唯一の希望だった「眼」は、爆発の中に消えた。

 その光景を、近くの屋根の上から眺める人影があった。

 道化のような奇抜な服を着た、魔族の男――アポロギア。

「ギャハハハハ! 素晴らしい。なんて、綺麗な姿だろうねカルドゥスくぅん……」

 大きな爆発と、ティアたちの悲鳴をBGMに、彼はゲラゲラと笑っていた。

 その足元には、傷だらけで気絶している赤い髪の女――情報屋セイラが転がされている。

「さあ、頼みのマギレスはいないぞォ? ……実験ショーの始まりだ」

 男の嘲笑が、聖都の夜に溶けていった。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


γチーム、絶体絶命です。

物理も魔法も弾く「一方通行の壁」を持つキメラ。

そして、ラストの爆発……。

頼みの綱である司令塔からの通信が途絶えました。


ヴァルは無事なのか? そして、この理不尽な怪物をどう攻略するのか?


次回、視点はαチーム(アビア&ルーナ)へ!

彼らの前にもまた、因縁の相手が立ち塞がります。

すべての戦場が地獄と化す聖都の夜。

まだまだ激戦は続きます!


(※ネトコン14参加中です! 「続きが気になる!」「ヴァル生きててくれ!」と思った方は、応援ブクマいただけると嬉しいです!)

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