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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
聖都潜入編 ~物理と演算で、聖都の夜を攻略せよ~

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第29話:天井からの訪問者。……ごきげんよう。最長老(アエテルナ)様が、物理で降臨されました

【回想:数時間前】

 夕暮れの隠れ家にて。

 作戦会議の場で、ヴァルが発表したチーム分けは、カイルにとって耳を疑うものだった。

「βチームの担当は、慎重派のヘデラ議員。……メンバーはカイルさんと、セバスチャンさんです」

「……はい?」

 カイルは眼鏡をずり上げ、まじまじと隣を見た。

 そこには、優雅に紅茶を淹れている老執事、セバスチャンがいる。

「私が……セバスチャンさんとですか?」

「はい。ヘデラ邸には、正規の騎士団が警護についています。魔法戦力としてはカイルさんが適任ですが、近接戦闘において騎士団クラスを抑えられるのは、セバスチャンさんしかいません」

 ヴァルは淡々と説明するが、カイルの不安は拭えない。

 この執事は確かに強い。あの「デコピン」の威力は認める。だが、隠密行動ができるのだろうか? 筋肉で解決しようとして、屋敷ごと吹き飛ばしたりしないだろうか?

「お任せください、カイル君。……ふふ、潜入任務スニーキングなど数百年ぶり……いえ、久しぶりで胸が躍りますな」

「あ、はい……お手柔らかにお願いします……」

 こうして、魔法オタクと脳筋執事という、最も凸凹なコンビが結成されたのだった。

【現在:ヘデラ邸・裏庭】

 夜の闇に紛れ、二つの影が動いた。

 ヘデラ議員の屋敷は、高い塀と厳重な魔力防壁に守られている。だが、そんなものは今の彼らには障害にならない。

〈――全チーム、配置につきましたね。作戦開始オペレーション・スタート

 耳元の鉱石イヤホンから、ノイズ混じりのヴァルの声が届く。

 それが合図だった。

「行きます」

 カイルは勝手口の茂みから、杖の切っ先だけを突き出した。

 扉の前には、見張りの騎士団員が二名。全身をミスリル銀の鎧で固めた精鋭だ。まともにやり合えば騒ぎになる。

 だが、カイルは深呼吸し、ヴァルから教わった「コード」を口の中で小さく発した。

「……A.F.…Code:02…クリュスタッラ・ゲル」

 ヒュッ。

 風切音すらしない。

 杖から放たれたのは、透明な粘着質の氷塊だ。

 それは弾丸のように飛び、二人の衛兵の顔面にへばりつくと、瞬時に硬化した。

「んぐっ……!?」

 呼吸も、声も封じられる。衛兵たちが驚愕に目を見開き、剣を抜こうとした――その瞬間。

 トン、トン。

 いつの間にか背後に回っていたセバスチャンが、彼らの首筋に優しく手刀を落とした。

 衛兵たちは糸が切れた人形のように、音もなく崩れ落ちる。

(……速い)

 カイルは戦慄した。

(私の魔法発動とほぼ同時だ。あの巨体で、気配を完全に消して近づいたのか?)

 強化魔法アウグメンタの光も見えなかった。純粋な身体能力だけで、Aランク相当の騎士の背後を取ったのだ。

(この人、本当に何者なんだ……?)

 カイルが冷や汗を拭っていると、再びイヤホンからヴァルの緊迫した声が響いた。

〈――αチーム、前方敵! ルーナさん、建物内の敵殲滅! アビアさんは正面のリーダーを引き付けて!〉

 セタリア邸を担当するアビアたちの戦闘が始まったようだ。

 爆発音こそ聞こえないが、ヴァルの早口な指示から激戦が伝わってくる。

〈γチーム、カルドゥスの生体反応が増大中。……ティアさん、警戒して! ララさん、遊撃に徹してください!〉

 γチームも戦闘に入った。

 全ての場所で、同時に戦いが動いている。

 カイルは身を引き締めた。自分たちも遅れるわけにはいかない。

 セバスチャンがニコリと笑いかけた。

「お見事です、カイル君。無駄のない、美しい術式でした……(フルコードではない省略術式だが……やはり、ヴァル君の影響か)」

「い、いえ……セバスチャンさんこそ」

 二人は無言で頷き合い、屋敷の壁面に張り付いた。

〈……βチーム。ターゲットは3階、北側の執務室です〉

 他チームへの指示の合間を縫って、ヴァルの声がこちらへ向けられる。

〈ですが、内部の魔力反応が多数。階段と廊下には騎士団が待ち構えています。正面からの突破は時間がかかります〉

 階段には伏兵がいる。慎重派のヘデラらしい配置だ。

 カイルが舌打ちする。

「チッ……外から魔法で壁を壊しますか? でもそれじゃあ音が……」

「おや、それは困りましたな」

 セバスチャンが夜空を見上げる。

 そして、名案を思いついた子供のような、無邪気な笑みを浮かべた。

「ではカイル君、ショートカット致しましょうか」

「は?」

 セバスチャンが優雅に手を伸ばし――カイルの腰を掴んだ。

 次の瞬間、カイルの身体は宙に浮いていた。

 米俵のように、小脇に抱えられたのだ。

「えっ、ちょっ、なにするんですか!?」

「舌を噛まぬよう、ご注意を」

 タンッ!

 セバスチャンが地面を蹴った。

 いや、蹴ったのは「壁」だ。

 重力を無視し、垂直な壁面を駆け上がる。

「ひぃぃぃぃっ!?」

 カイルの悲鳴は、風圧で喉の奥に押し込まれた。

 一階、二階、三階――。

 一瞬で視界が上昇し、気づけば二人は屋根の上に立っていた。

「よいしょ……、到着です」

「……」

 セバスチャンがカイルを降ろす。

 カイルは涙目でへたり込んだ。魔法使いの常識(および三半規管)に対する冒涜だ。

 イヤホンからは、まだヴァルの指示が続いている。

〈アビアさん、強力な防御魔法イージスあり! 時間を稼いでください! ……γチーム、カルドゥスの動きが変です、距離を取って!〉

 他が必死に戦っている中、自分だけが「物理エレベーター」で運ばれてしまった罪悪感と情けなさで、カイルはさらに小さくなった。

〈……えっ、ちょ、セバスチャンさん? まさか登ったんですか? ……〉

 イヤホン越しに、ヴァルの呆れ返った溜息が聞こえた。

 彼の「眼」には、この暴挙の一部始終も見えていたのだろう。

〈ターゲットは真下です。……そこ。ちょうど今、足元にいます〉

「承知いたしました」

 セバスチャンは屋根瓦の位置を確認し、手袋をキュッと締め直した。

「さぁ、いきますよぉ」

 彼は深く腰を落とし、屋根に向かって正拳突きを構えた。

 魔力はない。あるのは、洗練された「武」の極致。

「お、おいまさか……!」

「失礼、致しますッ!!」

 ズドォォォォォォォォン!!

 爆音が夜の静寂を粉砕した。

 屋根が、天井が、そして床板が、一点に集中した衝撃波によって綺麗に打ち抜かれる。

 カイルは瓦礫と共に、自由落下していった。

 3階、執務室。

 ヘデラ議員は、震える手でワイングラスを握りしめていた。

 広い部屋の隅には、年端もいかない子供や、魔力の少ないメイドたちが怯えて集められている。

 外の様子がおかしい。警備の騎士たちはなぜ何も連絡をしてこない。

 何かが来る。だが、どこから? 廊下は封鎖した。窓も強化ガラスだ。

 ドゴォォォォンッ!!

 突然、天井が爆発した。

 瓦礫と土煙が舞う中、二つの影が降り立つ。

 一人は、腰を抜かした優男カイル

 そしてもう一人は――埃一つ付けず、優雅に一礼する、銀髪の老紳士。

「ごきげんよう、ヘデラ様。……夜分遅くに、天井から失礼いたします」

 セバスチャンが顔を上げた。

 その顔を見た瞬間、ヘデラ議員の顔色が、恐怖で真っ白に染まった。

 グラスが手から滑り落ち、カシャーンと砕け散る。

「ひ、ヒィッ……!? そ、その顔は……まさか……!?」

 ヘデラは知っている。

 長老議会の最深部。そこに飾られている、建国の英雄の肖像画を。

 そして、数百年前、若き日の自分が一度だけ遠目に見かけた、絶対的な支配者の姿を。

「さ、最長老アエテルナ様ァ!? な、なぜここに!?」

「えぇぇぇ!?」

 絶叫したのはヘデラだけではない。カイルも素っ頓狂な声を上げてセバスチャンを凝視した。

 最長老。

 この国の神話に等しい存在。それが、この脳筋執事だと!?

「カイル君、関係ない者がいます。こちらに誘導を」

 セバスチャンはヘデラの驚愕を無視し、部屋の隅で震える市民たちに優しく声をかけた。

 彼の纏う空気は、さっきまでの破壊者とは異なり、慈愛に満ちた守護者のそれだった。

「侵入者だッ! 向かえぇぇッ!!」

 外から怒号が聞こえてくる。先ほどの音でさすがに気づかれたようだ。

「……ヘデラ様。貴方にはあとでゆっくり聞きたいことがあります」

 セバスチャンが振り返る。

 その笑顔は、ヘデラにとっては今や死刑判決に等しい絶望の意味をなしていた。

 そして、その混乱の中、部屋の外から護衛の騎士団たちが雪崩れ込んでくる。

 重装歩兵が十名以上。狭い室内が一気に殺気で満たされた。

「カイル様」

 セバスチャンは動かなかった。代わりに、カイルの肩に手を置く。

「貴方の魔法で、彼らを眠らせて差し上げなさい。……今の貴方なら、出来ます」

「む、無理です! 狭い室内で、これだけの人数を相手に……!」

「いいえ。……イメージを捨て、ただ『ことわり』を紡ぐのです」

 セバスチャンがカイルの耳元で、ある言葉を囁いた。

 それは、既存の魔法体系には存在しない、未知のコード。

「A.F.Code:02……FLUID-M……」

 カイルの背筋に電撃が走る。

 その言葉を聞いた瞬間、脳内でパズルのピースが組み合わさるような感覚があった。

 魔力の流れ、空気中の水分、ベクトルの指向性。全てが数式のように整列する。

「……『水流の渦アクア・ヴォルテクス』!!」

 カイルが杖を振るった。

 その瞬間、部屋の空気がねじれた。

 何もない空間から激流が出現し、渦を巻いて騎士団たちを飲み込む。

 ただの水ではない。高速回転する水流は、鎧の隙間に入り込み、呼吸を奪い、彼らの平衡感覚を破壊して壁際へと叩きつけた。

 ドシャアァァッ……!

 一撃。

 十名の騎士団が、泡を吹いて気絶し、積み重なった。

 部屋は水浸しだが、カイルとセバスチャン、そして保護した市民たちの足元だけは濡れていない。完璧な制御だ。

「……す、すごい……」

 カイルは自分の手を見つめ、震えた。

 これが、魔法の真の姿なのか。

「セバスチャンさん……これは、このコードは!!」

 カイルは振り返り、目の前の執事に問うた。

 このコードを知っているということは、彼はただの長寿のエルフなどではない。

 この魔法体系システムそのものを熟知している――あるいは、創り出した者。

「貴方様は……本当は……」

 セバスチャンは人差し指を口元に当て、茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせた。

「今はただの執事ですよ。……ですが、貴方の魔法、見事でした」

 彼はカイルの肩をポンと叩く。

「いずれ、貴方には『魔法の真実』……私たちが隠してきた世界のことわりを、お教えしましょう」

 その言葉は、カイルにとって何よりの衝撃であり、福音だった。

 魔法に魅せられ、故郷を捨ててまで探求の旅に出た異端児。

 彼が追い求めていた答えの全てを持っている人物が、今、目の前にいる。

「……はいッ……!!」

 カイルは眼鏡の奥で涙を滲ませ、深く頷いた。

 ヘデラ議員は、すでに腰を抜かして気絶している。

 βチーム、制圧完了。

〈――γチーム、ララさん! 気を付けて!〉

 イヤホンから、再びヴァルの鋭い声が響く。

 どうやらティアとララたちの戦場は、佳境を迎えているようだ。

 その頃。

 αチーム――アビアとルーナの方では、因縁の相手との激しい戦闘が始まろうとしていた。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


βチーム、制圧完了!

セバスチャンさん、壁を走ったり天井をぶち抜いたり、やりたい放題でしたね(笑)。

そして明かされた正体。ヘデラ議員の絶望した顔が目に浮かびます。


でも今回の主役はカイル君です。

最長老の導きで、「真の魔法」の一端に触れました。

今まで理論派として頑張ってきた彼が報われる瞬間、書いていて嬉しかったです。


さて、他チームの状況は?

次回、αチームのアビアとルーナが、因縁の相手と激突します!


(※ネトコン14参加中です! 「カイル覚醒熱い!」「執事強すぎw」と思った方は、応援の星やブクマいただけると嬉しいです!)

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