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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
底辺からの反逆者 ~魔力なき『砂利運び』が得た機械の瞳~

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第2話:強制起動(ブート)。魔力ゼロの俺に、敵の「死角」が線で視える

「が、あああああああああああああッ!!」

 絶叫が、廃墟の闇に木霊する。

 痛い。熱い。

 左目が焼けた鉄串で貫かれ、そこから無数の虫が脳内へ這いずり込んでくるような感覚。

 ヴァルは頭を抱え、瓦礫の上をのたうち回った。

 レンズから飛び出した極細のナノワイヤーが、角膜を突き破り、眼球内部を食い荒らしながら視神経へと接続されていく。

 それは人体が耐えられる苦痛の限界を超えていた。

『――ハードウェア接続完了。神経同調率ニューロ・シンクロ、クリア』

 脳髄を直接揺らすような機械音声が響く。

『中枢神経へのアクセス権を取得。OS起動(ブート)します』

「は、あ……あ、ぐ……ッ!」

 ヴァルは痙攣し、白目を剥いた。

 意識が飛びそうになる。だが、それを許さないかのように、脳の奥底で強制的な覚醒信号が弾けた。

 その背後。

 肉を裂く音と共に、血の匂いが漂う。

 エーテル・ハウンドだ。冒険者たちを食い殺した魔獣が、次の獲物――悶え苦しむヴァルを見つけ、喉を鳴らしている。

 距離は五メートルもない。

 死ぬ。

 今度こそ、確実に。

『警告:敵性体、至近距離に接近。脅威度判定:A(致命的)』

 無機質な声が、死へのカウントダウンを告げる。

『生存推奨行動を開始。マスター、目を開けてください』

「う、うぅ……!」

 命令されるがまま、ヴァルは鉛のように重い瞼をこじ開けた。

 その瞬間。

 バチッ、バチチチッ!

 左目の視界が、ノイズまみれの映像のように激しく明滅した。

 そして、世界が一変する。

 暗闇は消え失せた。

 代わりに広がったのは、琥珀色(アンバー)の光線で描かれた、ワイヤーフレームの電子世界だった。

 壁、瓦礫、そして目の前の魔獣。

 すべての輪郭が発光する線で縁取られ、闇の中にくっきりと浮かび上がっている。

「なんだ……これ……?」

 左目だけが、別世界の光景を見ている。

 右目は現実の闇を、左目は電子の光を。

 脳が処理しきれず、激しい眩暈(めまい)がヴァルを襲う。

『視覚拡張、正常稼働。……対象の攻撃準備を確認。来ます』

 ハウンドが地を蹴った。

 速い。通常なら目でも追えない速度だ。

 だが、今のヴァルの左目には、ハウンドの動きが「赤い軌道予測線」としてハッキリと見えていた。

『左へ一歩動き、頭を下げてください』

「へ……?」

 思考する暇はなかった。

 脳に直接信号を送られたかのように、ヴァルの身体が勝手に反応した。

 ガクン、と膝が折れ、上体が左へ傾く。

 ヒュンッ!!

 風切り音。

 ハウンドの鋭利な爪が、ヴァルの髪の毛数本を削ぎ落として通り過ぎた。

 コンマ一秒でも遅れていれば、首が飛んでいたタイミングだ。

「ひっ……!」

 ヴァルは無様に尻餅をつく。

 避けられた。いや、避けさせられた。

 恐怖で腰が抜けているのに、身体の制御権を半分奪われているような、奇妙な感覚に陥る。

『回避成功。ですが、武装がありません』

 視界の端に、警告のウィンドウがポップアップする。

 そこには小さく、不穏な文字列が流れていた。

 『警告:CPU演算負荷増大。外部脳領域へオフロード中……』

 ズキリ、とこめかみが痛む。

 ヴァルの脳味噌を、勝手に計算機として使っている痛みだ。

『スキャン完了。右前方、二メートル。瓦礫の下にID:10相当の兵装を確認』

 視界の中で、瓦礫の一部が緑色にハイライトされた。

「へ、兵装……?」

『拾ってください。生き残りたければ』

 ハウンドが反転し、再びこちらへ向き直る。

 迷っている時間はない。ヴァルは這うようにして緑色の光へ飛び込み、泥の中に埋もれていた「それ」を掴み取った。

 それは、錆びついた鉄くずではなかった。

 泥を拭うと現れたのは、白く透き通るような刃を持つナイフ。

 旧文明の遺産――『セラミックナイフ』だ。

 何百年も土の中にあったはずなのに、刃こぼれ一つなく、妖しい輝きを放っている。

「こ、これで戦えってのか……!?」

 ヴァルは震える手でナイフを構える。

 だが、相手は凶悪な変異種だ。ナイフ一本で勝てる相手ではない。

 しかも、今度は一匹ではない。

 闇の奥から、さらに二匹のハウンドが現れ、ヴァルを包囲するように展開した。

『敵性体、三体を確認。同時攻撃を予測』

 絶望的な状況。

 だが、脳内の声はあくまで事務的だった。

『推奨:強制照準(フォース・ロックオン)による各個撃破。……視覚同期率を最大まで引き上げます』

「おい、何をす――」

 ギュルンッ!!!

 ヴァルの意思とは無関係に、「左目だけ」が眼窩の中で強引に動いた。

 まるで独立した生き物のように。

「うぐっ、おぇぇ……ッ!?」

 強烈な吐き気が込み上げる。

 顔は正面を向いているのに、左目だけが右端にいる敵を凝視している。

 平衡感覚が狂い、酷い3D酔いに襲われる。

 視界の中央、ハウンドの胸部にある魔力結晶(コア)に、赤いマーカーが吸着(ロック)された。

『マーカー位置へ刺突を』

「無理だ! こんな気持ち悪い状態で……!」

『実行してください』

 ハウンドたちが同時に跳躍した。

 三方向からの死の牙。

 ヴァルは反射的に目を瞑りそうになるが、左目はカッと見開かれたままだ。

 赤い予測線が交差する。

 その隙間、針の穴を通すような「安全地帯」が光り輝く。

「くそっ、あああああッ!」

 ヴァルは吐き気をこらえ、光の導くままにナイフを突き出した。

 それは素人の動きではなかった。

 最短、最速。物理法則の隙を突く、完璧なカウンター。

 ズプッ。

 セラミックの刃が、先頭のハウンドの硬い結晶皮膚を紙のように貫き、心臓を一突きにした。

「ギャッ!?」

 断末魔を上げる暇もなく、一匹目が崩れ落ちる。

 だが、左目の動きは止まらない。

 ギュルンッ!

 再び不快な動きをして、次の敵を捉える。

 視界がグルグルと回る。脳漿がかき回される。

『重心低下。右脚を軸に旋回。水平斬撃』

 ヴァルの身体は操り人形のように沈み込み、二匹目のハウンドの爪を紙一重で下から潜り抜ける。

 そのまま遠心力を利用して回転。ナイフを敵の喉元へ叩き込んだ。

 ザシュッ!

 鮮血が舞う。

 ヴァルは自分の身体が起こしている殺戮劇を、どこか他人事のように感じていた。

 俺じゃない。

 俺がやっているんじゃない。

 この「眼」が、俺を使ってこいつらを殺しているんだ。

 最後の一匹が恐怖に怯み、後退ろうとする。

 だが、左目のロックオンは決して逃がさない。

『対象の逃走準備を確認。追撃を開始……マーカーへ投擲してください』

 ハウンドが泥を蹴り、背中を向ける。

 その瞬間にはもう、ヴァルの腕は振り抜かれていた。

 吸い込まれるような軌道。

 ナイフは無防備なハウンドの後頭部に深々と突き刺さり、その巨体はドサリと地に伏した。

 ――静寂。

 三匹の魔獣の死体が転がる中、ヴァルはその場に膝をついた。

「はぁ、はぁ、はぁ……おえぇ……ッ」

 胃液が逆流し、地面に嘔吐する。

 激痛、疲労、そして脳を酷使されたことによる強烈な頭痛と鼻血。

 頭が割れそうだった。

『脅威排除完了。システム・オールグリーン』

 左目の視界に、安っぽいファンファーレのような文字が流れる。

 ヴァルは涙目でそれを睨みつけた。

「ふざけるな……なんだよ、これ……」

「俺の目、どうなっちまったんだよ……!」

 震える手で左目に触れる。

 そこには、硬質なレンズの感触があった。もはや自分のものではない、冷たい異物の感触。

『……初期戦闘シークエンス終了。これより通常モードへ移行』

 脳内の声は、ヴァルの絶望などお構いなしだ。

『マスター、本ユニットの識別名パーソナル・ネームを登録してください』

「な、名前……?」

 ヴァルはこめかみを押さえながら、うめくように声を絞り出した。

「んなこと、言ってる場合かよ……! 死ぬかと思ったんだぞ……!」

『デフォルト設定での運用は推奨されません。登録をお願いします』

「だ、か、ら……! うるせぇな……!」

 AIは執拗に登録ウィンドウを点滅させる。

 そこには、情報のログが表示されている。

 【Unit Type: Prototype Module ID: 00 - Providence Retina】

 意識が朦朧としている中、視界の端でチカチカと主張する文字列。その末尾の単語が、なんとなく目に入った。

「……レティナ?」

 ただ、そこに書いてある文字を読んだだけだった。

 だが、AIはそれを聞き逃さなかった。

『……音声入力を確認。識別名「レティナ」で登録します』

「は? 違う、俺はただ……」

 書いてあるのを読んだだけだ、と言おうとしたが、言葉にならなかった。

『登録完了。宜しくお願いします、マスター・ヴァル』

 ピロン、という電子音と共に、琥珀色の光が一度だけ優しく瞬いた。

 システムが再起動し、ワイヤーフレームの表示が消え、通常の(といっても高解像度すぎる)視界に戻る。

 ヴァルは頭を抱え、瓦礫の山に大の字に寝転がった。

 天井を見上げると、ダンジョンの薄暗い岩肌が見える。

 左目の端には、今の心拍数や、残りの体力が数値として表示され続けているが、それがどのような情報なのかは今のヴァルにはわからない。

「……とんだ災難だ」

 逃げられない。

 この異物は、もう自分の一部になってしまった。

「どうすんだよ、これから……」

 ただの運搬屋だった彼の日常は、この瞬間、完全に崩壊した。

 取り返しのつかない「何か」を背負わされた重みに、ヴァルは深く、重い吐息を闇に溶かした。



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