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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
底辺からの反逆者 ~魔力なき『砂利運び』が得た機械の瞳~

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第25話:最強の執事、採用(リクルート)。……あの、もしかしなくても「ご本人」様ですよね?

「いきますよぉ~」

 主人は子供に言い聞かせるような軽い口調で言った。

 だが、その右中指に圧縮されている運動エネルギーは、優しさなど微塵もない。

 指の周囲の空間が、熱量に耐えきれずに陽炎のように歪んでいる。

(……来るッ!)

 ヴァルの背筋が凍りつく。

 あれはデコピンなどという甘っちょろいものではない。まともに食らえば、パイル・シールドごと腕を持っていかれる。

 純粋な筋肉の収縮のみで生み出された、致死の運動エネルギー。生物の皮を被った「攻城兵器バリスタ」だ。

 上半身が消し飛ぶ。

『警告:回避不能。防御による軽減率、0.001%以下』

 防御の手はない。回避もない。

『危険:……着弾まで3秒』

 レティナの無機質な声が、死の宣告カウントダウンを告げる。

『推奨:パイル・バンカーによる迎撃カウンター。……一点集中による衝撃の完全相殺を目標とします』

(やるしかない……!)

 ヴァルは左腕のシールドを構え、その先端にある射出トリガーに指をかけた。

『危険:……2秒』

 来る衝撃に対し、こちらからも巨大な鉄杭をぶつけ、エネルギーを殺し合わせる荒業だ。

 タイミングが1ミリ秒でもズレれば死ぬ。

『強制起動:オラクル・サイト、フルバースト』

 ブゥンッ!

 ヴァルの視界が赤く染まり、滝のような情報ログが流れ出す。

 主人の筋肉の収縮速度、指の弾性係数、空気抵抗、そしてインパクトの瞬間――すべてが数値化され、正解への道筋ラインが描かれる。

 脳が焼けるような熱を持ち、鼻から鮮血が噴き出す。

『危険:1秒』

(信じるんだ。タルゴスの鋼鉄と、レティナの計算を!)

 主人の指が弾かれた。

 同時に、ヴァルもトリガーを引いた。

 パチンッ!!

 乾いた、しかし鼓膜を破るような破裂音が響いた。

 ドォォォォォォン!!

 炸裂音と共に、パイル・シールドから巨大な杭が射出される。

 指先から放たれた不可視の衝撃波と、鋼鉄の杭。二つの「物理」が、空中の極小の一点で激突した。

 カッッ!!!!

 閃光。

 そして遅れてやってくる、爆風。

「うわぁっ!?」

「キャッ!?」

 カイルやルーナが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。

 テラスの床板が捲れ上がり、手すりが爆圧でへし曲がり、粉砕されていく。

 ズザザザザッ……!

 土煙の中、ヴァルの身体が後方へ滑った。

 靴底が摩擦熱で煙を上げ、背中が壁に激突してようやく止まる。

「……ぐ、ぅ……」

 土煙が舞い上がり、視界を遮る。

「……ヴァル!?」

 アビアが叫ぶ。

 煙がゆっくりと晴れていく。

 そこには。

「……はぁ、はぁ……ッ」

 半壊したテラスの端で、ヴァルは立っていた。

 左腕のパイル・シールドからは白煙が上がり、パイルの先端は赤熱し、ひしゃげている。

 全身の骨が軋み、激痛が走っているが――五体満足だ。

 直撃を防ぎきったのだ。

「……はぁ、はぁ……」

 ヴァルは脂汗を流しながら、土煙の向こうを睨みつけた。

 そこには、燕尾服の袖を僅かに焦がしただけの怪物が、驚きに目を見開き――そして

「……ほう」

 主人は、まだ煙の残る指先を見つめ、目を丸くしていた。

 そして次の瞬間。

 その厳つい顔に、満面の笑みを浮かべた。

 ◇

「合格です!!」

 主人がヴァルの手を取り、上下に激しく振った。

 万力のような握力に、ヴァルの手骨がミシミシと悲鳴を上げる。

「い、痛い……!」

「素晴らしい! 魔法防壁ごまかしではなく、純粋な物理エネルギーで相殺しましたか! いやはや、痛快です!」

 主人は興奮冷めやらぬ様子で、破れた燕尾服の袖から丸太のような腕を晒している。

 アビアたちが呆然とする中、彼は半壊したテラスなど気にする様子もなく、居住まいを正した。

「失礼しました。少々、血が騒いでしまいました」

「……あんた、何者だ」

 アビアが警戒を解かずに問う。

 主人はニヤリと笑い、口を開いた。

「改めまして。私はセバスチャン……。この国、ユグド・セコイアの最長老……に仕える、しがない『筆頭執事』でございます」

「えっ!?」

 カイルが素っ頓狂な声を上げた。

「せ、セバスチャンって……あの有名な!? 最長老アエテルナ様に仕える、あの有名なセバスチャン様ですか!? 」

 ユグド・セコイアにおいて、「セバスチャン」という名は伝説だ。

 数千年前から最長老に仕え、この国において知らぬものなしと言われる生き字引のような存在。

「い、いやぁ、まさか本物にお会いできるとは……!」

 カイルが興奮して眼鏡を直す。

「いえ、滅相もない。……私はただの執事ですよ」

 セバスチャンは微笑んだ。

 その笑顔は完璧な執事のそれだったが、ヴァルの視界には警告色の文字が明滅していた。

『解析:対象の魔力保有値、国家総力に匹敵』

『推論:彼が「筆頭執事」である確率は0.01%。……彼自身がトップ(最長老)である確率99.9%』

「セバスチャン様がおられるということは、最長老様もお近くに!?」

「……いえ。あの方は現在、深い瞑想に入っておられます。俗に言う『引きこもり』というやつでして、ここ数百年ほどお姿を見ておりませんが」

(……嘘だ、この人絶対に嘘だ)

 ヴァルは冷や汗を流しながら、セバスチャンと視線を合わせた。

 セバスチャンは、ヴァルにだけ分かるように、片目を閉じてみせた。

(……口裏を合わせろってことか)

「そうだったんですね……。いやぁ、でもびっくりしました」

 カイルが安堵のため息をつく。

「最長老様の側近の方だったんですね! それならあの強さも納得です」

 カイルたちは「執事」という設定をあっさりと信じ込んだ。

 ヴァルは深い溜息をついた。気づいているのは、自分とレティナだけらしい。

 ◇

 その日の夕食時。

 修復されたテラスで、豪勢な夕食が振る舞われた。

 肉、野菜、そして高級なワイン。すべてセバスチャンの手作りだ。

 食事の手が進む中、セバスチャンが切り出した。

「よろしければ、私も皆様に同行いたしましょうか?」

「え? セバスチャンさんがですか?」

 アビアが驚く。

「実は先日、当店に『赤い髪の情報屋セイラ』の方がご来店されましてね。『面白い連中が来るから、案内してあげて』と頼まれていたのです 」

(やっぱりあの女か……!)

 アビアが懐からメモを取り出す。セイラから渡された『世界樹の止まり木の執事』という走り書き。すべては彼女の手のひらの上だったわけだ。

 やはり、すべて仕組まれていたのだ。

「えっ? でも、お店は?」

「臨時休業します。……実は」

 セバスチャンはハンカチを取り出し、涙を拭う仕草をした。

「現在、主(最長老)が不在なのをいいことに、議会の『急進派』どもが我が国を私物化しております。……執事として、主の庭が荒らされるのを見過ごすわけにはいきません」

 ウソ泣きだ。

 肩の筋肉が、笑いを堪えるようにピクピクと動いている。

『解析:虚偽(False)判定。……対象の心拍数に変化なし。完全に演技です』

 レティナのログが冷酷に真実を告げる。

 この人は単に、久しぶりに暴れたいだけだ。あるいは、セイラと結託して何かを企んでいるか。

 ヴァルはチラリとセバスチャンを見た。

 セバスチャンはハンカチの隙間から、ニヤリとヴァルにウインクを送ってきた。

「なんて忠義に厚い方だ……!」

 だが、カイルは感動して目を潤ませている。

「カイル、お前なぁ……」

 アビアが呆れるが、この規格外の戦力が味方になるのは心強い。

 だが、これから向かうのは敵地の中枢だ。この規格外の戦力が手に入るのは、喉から手が出るほど欲しい。

 アビアがヴァルを見る。ヴァルは諦めたように、小さく頷いた。

「……わかりました」

 アビアは覚悟を決めて頷いた。

「我々のパーティに、『最強の執事』をお迎えします。……よろしくお願いします、セバスチャンさん」

 ◇

 翌朝。

 宿の裏手側にある応接室を作戦室に変え、A国潜入に向けた最終確認が行われていた。

「現在、国境ゲートは厳戒態勢でした。貨物用ゲートも含め、警備及び検問はかなり注意が必要です」

 カイルが地図を広げながら、自身の目で偵察した結果を報告した。

 机には、アイザックから託された『正規の通行証』がある。だが、当初の予定通りに行く確率は未知数だ。

 カイルはアビアと頭を抱えている。

「どうしましょうか。全員で正面突破はリスクが高いですし、かといって荷物を置いていくわけにも……」

「……なぁヴァル。お前ならどうする?」

 アビアが、いつものようにヴァルに意見を求めた。

 困った時のヴァル頼み。それはこのチームの常になりつつあった。

 ヴァルは少し考え、地図上のルートを指差した。

「チームを分けましょう。俺とタルゴスさんは、通行証を使って『商人』として正規ルートで入国します。……セバスチャンさんは顔パスでいけますよね?」

「ええ。門番たちは私の顔を見れば、道を空けるでしょう」

 セバスチャンが胸を張る。

「で、アビアさん、カイルさん、ティアさん、ルーナ、ララさんは……予定通り、タートルのコンテナ内部に隠れて『貨物』として潜入してください」

 アビアたちが頷く。

 問題は、中に入ってからだ。

「潜入後はどうします? 議員一人一人を捕縛して回りますか?」

 セバスチャンが物騒なことを言う。

「いや、それでは時間がかかりすぎる。騒ぎになれば兵士に囲まれるしな」

 アビアは首を横に振った。

 今回の目的は、あくまで『急進派の鎮圧』だ。

 戦いを大きくすることは得策ではない。

 最短かつ、隠密に動く必要がある。

『提案:敵勢力は分散していると想定。こちらもチームを分け、同時多発的に拠点を制圧すべきです』

 レティナの案をヴァルが伝える。

「なるほど。……ですが、それでは誰が議員かわかりませんし、離れた場所での連携はどうするのです?」

 カイルがもっともな疑問を口にする。

 この世界の通信の手段は限られている。遠距離で届く無線などない。

 有線での魔力通信はあるが、高コストで傍受されるリスクも高い。

「おや、ターゲットの居場所であれば私めがわかります(匂いで)」

 セバスチャンがカイルに答える。

「……ですが、互いに離れてしまえばカイル君が言うように連携はどうしますかな? 」

 連携が出来ないのはこちらも同じだ。そこをどう掻い潜るのかヴァルは頭を悩ませていた。

『検索:……検索開始。通信の確保を目的として、D.N.A.よりデータベースを参照中』

「ふむ……ヴァル君は、何か考えがおありのようだ」

 皆が頭を悩ませている中で、セバスチャンが横目でヴァルに視線を向ける。

(俺に何とかしろってことか……)

 魔法を使えないマギレスが、魔法使い達の監視網をどう掻い潜るのか。それを見定めている目だ。

「……はい、あります」

 ヴァルは答えた。

「魔法使いには聞こえない、俺たちだけの『声』を使う方法が」

 棚に飾られている魔鉱石が、朝日を受けて鈍く輝いた。

【あとがき】


読んでいただきありがとうございます!


「デコピン vs パイルバンカー」。

この字面だけでも面白いですが、ヴァル君は見事に物理で物理を制しました。

(腕が砕けなくて本当によかった……)


そして仲間になったセバスチャン。

「ただの執事」と言い張っていますが、レティナの解析ではほぼ「最長老ご本人(99.9%)」。

引きこもりをやめて暴れたいだけのおじいちゃん(?)ですが、戦力としては頼もしすぎますね。


次回、潜入作戦開始!

魔法が飛び交う敵地で、ヴァルが用意する「秘密の通信手段」とは?

科学の力で通信網を構築します!


(「物理対決熱かった!」「執事キャラ濃すぎw」と思った方は、評価・ブクマいただけると嬉しいです!)

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