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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
底辺からの反逆者 ~魔力なき『砂利運び』が得た機械の瞳~

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第17話:Bランク昇格と、戦場の耳鳴り。……そんな殺気立ってちゃ、お姉さんが癒やしてあげられないわよ?

 冒険者ギルド、中央カウンター。

 夕刻のギルドは、クエストを終えた冒険者たちの熱気と喧騒で溢れかえっていた。

 ビールを煽る音、自慢話、そして獲物の査定を待つ列。

 その只中に、ヴァルは立っていた。

「おいおい、見ろよあのマギレス。またゴミ拾いか?」

「Dランクのくせに『霧の峡谷』まで行ったんだってな。命知らずというか、なんというか」

「どうせ逃げ帰ってきて、落ちてる素材を拾っただけだろ」

 背中から突き刺さる一部の嘲笑。

 拍手や歓声の中、素直に喜べない層は必ず存在する。

 普段なら聞き流せるはずのその声が、今のヴァルには耐え難い「ノイズ」として響いていた。

『音源定位:後方5メートル。対象2名。脅威レベルE』

『会話内容をテキスト化。……不要な侮蔑スラングを検知』

 右耳のデバイスが、補助演算サブモードでも聞きたくもない悪口をすべて拾い上げ、視界の隅に字幕として表示してしまう。

 雑音だらけだ。

 ヴァルはこめかみを指で押さえ、脂汗を滲ませながらカウンターに重い麻袋を置いた。

「……査定をお願いします」

「はいはい。Dランクのヴァルさんですね。……中身はなんです?」

 受付の職員は気だるげに欠伸を噛み殺し、袋の紐を解いた。

 その直後だった。

 職員の動きが凍りついたのは。

「――っ!?」

 袋から転がり出たのは、艶やかな銀色の毛皮。

 そして、握り拳大の、まばゆい光を放つ結晶体だった。

 職員の目が限界まで見開かれる。

「ミ、ミスト・ジャガーの毛皮……!? しかも、傷一つない完品ミント・コンディション!?」

「ええ。眉間を一撃で抜いたので、皮は無傷です」

「そ、それに……こっちは……嘘でしょ!?」

 職員が震える手で結晶体を持ち上げる。

 その輝きに、周囲の喧騒が一瞬で静まり返った。

 Bランク上位指定個体、『ファントム・レックス』のコア

 本来、核は魔獣の身体の深奥にあり、倒す過程で傷ついたり砕けたりするのが常だ。だが、この核は違う。

 外殻の一点に、針で突いたような微細な貫通痕があるだけ。中身は完全に保たれている。

 それは、神業のような狙撃で仕留めた証だった。

 本来なら、数十人の討伐隊を組んでようやく撃退できるかどうかの怪物の心臓だ。

「損傷なし……純度98%……。こ、これほどの品質、市場には出回りませんよ!?」

「……そうですか。それで、いくらになりますか?」

「あ、あの、少々お待ちを! ギルド長代理を呼んできます!!」

 職員が慌てて奥へ走る。

 残されたカウンターの周囲で、ざわめきの質が変わった。

 侮蔑ではない。畏怖と、嫉妬と、信じられないものを見る目。

「お、おい…あれレックスの核って……マジか」

「あいつがやったのか? あの『魔力なし』が?」

「馬鹿な。ありえねえ……」

 称賛の声ですら、ヴァルにはうるさかった。

『解析:周囲の心拍数上昇を確認。注視されています』

『警告:精神的ストレス負荷増大。交感神経が鎮まりません』

(……頼むから、黙っててくれ)

 ヴァルは心の中で叫んだ。

 英雄的な扱いを受ける一方で、脳内はずっとサイレンが鳴り響いているような感覚だった。

 勝利の代償は、あまりに大きかった。

          ◇

 正式な査定結果が出たのは、それから一時間後だった。

 報酬額は、ヴァルが過去に稼いだ総額を優に超えていた。

 そして何より――。

「おめでとうございます、ヴァル・ヴェリテクス様。規定により、本日付で『Bランク』への昇格を認定します」

 手渡されたのは、鈍く光る銀色の認識票タグ

 一人前の冒険者の証だ。

「やったな、兄弟!! すげえぞ!」

「ヴァルやったね! 今夜は宴会しよ! 奢ってね!」

 ロビーで待っていたアビアが背中を叩き、ルーナが尻尾を振って飛びついてくる。

 ヴァルは力なく笑った。

「……ああ。ありがとう、みんな」

 嬉しいはずだった。

 ずっと見下されていた自分が、実力で彼らを黙らせたのだ。

 けれど、頭の奥で響くキーンという耳鳴りが、喜びを塗りつぶしていく。

(……休みたいな。静かな場所で、何も考えずに……)

          ◇

 喧騒から逃れるように、一行はギルド併設の酒場『酔いどれの鯨亭』へと移動した。

 いつもの定位置。アビアたちがよく座っているテーブルだ。

 だが今夜は、先客がいた。

「……あら。随分と賑やかね」

 その女性は、椅子に座っていても分かるほどの長身だった。

 190センチ以上はあるだろうか。鍛え抜かれたしなやかな肢体からだは、戦士としての完成度を物語っている。

 黄金色の体毛に覆われた、獣人ゾーアンルプス種。

 長く伸びた耳が、酒場の喧騒の中でも優雅に揺れている。

「ララ!?」

 ティアが目を丸くして駆け寄った。

「久しぶりね、ティア。……ふふ、いい顔つきになったわ。少し自信がついたのかしら?」

 ララと呼ばれた女性は、立ち上がってティアを迎え入れた。

 巨躯のティアですら、ララの前では少し小さく見える。

 あふれ出る母性と、絶対的な強者の余裕。

 ララはアビアたちに軽く挨拶を済ませると、ふと、ヴァルの方へ視線を向けた。

「……そこのボウヤ。顔色が悪いわよ」

「え……」

「ここへ座りなさい」

 ララは自分の隣の椅子をポンと叩いた。

 ヴァルが戸惑いながら腰を下ろすと、ふわりと甘く、それでいて柑橘系のような香りが鼻をくすぐった。

 気持ちの良い安心感、不思議な匂いだ。

 すると、ララの大きく温かい手が、ヴァルの背中にそっと添えられた。

「……可哀想に。まだ戦場の匂いが抜けていないのね」

「戦場の、匂い……?」

「ええ。神経が張り詰めて、悲鳴を上げている。……耳元のその機械のせいかしら?」

 ララの手から、じんわりとした熱が伝わってくる。

 その熱が背中から心臓へ、そして脳へと染み渡り、張り詰めていた糸を優しく解いていくような感覚。

『……解析不能。心拍数低下。交感神経の異常興奮、急速に鎮静化を確認』

『……不思議ですね。システムによる強制介入なしで、バイタルが安定していきます』

 レティナの戸惑うような声。

 視界を埋め尽くしていた警告アラート(赤)が、スーッと消えていく。

 ヴァルは大きく息を吐き出した。

「……はぁ……」

 泥のように重い疲れが、ようやく身体から抜け落ちていく。

 この人の隣なら、休める。そう直感してしまった。

 ララとの自己紹介を済ませる。が、安らぎの時間は長くは続かなかった。

 バンッ!!

 酒場の扉が勢いよく開かれ、カイルが飛び込んできたのだ。

「分かったぞ! 分かったんです!」

 カイルは髪を振り乱し、興奮状態でテーブルに駆け寄ってきた。

「魔法はイメージじゃない! 言語だ! 記述なんだ! ヴァル君が書いたあの式、あれは古代語の文法と数学的構造が完全に一致して――」

「おいカイル、落ち着け。酒場だぞ」

 アビアが窘めるが、カイルの耳には入っていない。

 彼は研究の成果を捲し立て、ヴァルの肩を掴んで揺らす。

「君の眼はどうなっているんだ!? あれはどこで手に入れた!? もっと見せてくれ!」

 その、狂気じみた熱量。

 アビアが眉をひそめ、どこか責任を感じるような、痛ましい目でカイルを見る。

 その時だった。

 ガシャーン!!

 近くの酔客が手を滑らせ、酒瓶を床に落とした。

 ただの事故。

 よくある酒場の風景。

 だが――ヴァルの「眼」には、それが違って映った。

『警告:破裂音を探知。破片の飛散予測――被害想定確認中』

『モード:緊急回避エマージェンシーに強制移行』

 思考するよりも早く、身体が動いてしまう。

 ヴァルは反射的にテーブルの下へスライディングし、右手のホルスターからリボルバーを抜き放った。

 カチャリ。

 撃鉄を起こし、銃口を音の発生源へ向ける。

 その一連の動作は、あまりにも洗練され、あまりにも異常だった。

「ひっ……!?」

 瓶を落とした客が、銃口を向けられて腰を抜かす。

 酒場が凍りついた。

「……あ」

 ヴァルは我に返った。

 自分は何をしているのか。レティナの出す指示と目から見える線を無意識でもなぞってしまう。

 ただ瓶が割れただけなのに。ここは戦場じゃないのに。

 なのに、指はまだトリガーにかかったままだ。

「く、そ……俺は、何を……」

 手が震える。銃が重い。

 自分の身体が、自分のものではないような恐怖。

 このままでは、いつか本当に誰かを殺してしまうんじゃないか。

「……大丈夫よ」

 震えるヴァルの手に、上からそっと、ララの手が重なった。

 銃口をゆっくりと下ろさせる。

「ただの音。瓶が割れただけ。……ここでは誰も、あなたを傷つけない」

「ララ、さん……」

「深呼吸して。……そう、ゆっくり」

 ララの落ち着いた声。

 そして、あの甘い香り。

 ヴァルの呼吸が整い、殺気立っていたオラクル・サイトの光が、ゆっくりと収束していく。

『脅威判定、取り消し。……モード、通常ノーマルへ移行』

 ヴァルはホルスターに銃を戻し、力なく椅子に座り込んだ。

 自己嫌悪で顔が上げられない。

「……すまない、ヴァル。俺がカイルを止められなかったせいだ」

 アビアは何かを察し、悔しそうに拳を握る。

 テーブルには、重苦しい沈黙が落ちていた。

          ◇

「あら。随分と盛り上がってるじゃない」

 その沈黙を破ったのは、意外な人物だった。

 少し頬を紅潮させ、軽く冗談めいた皮肉を混ぜ、とろんとした目をしたカレンが立っていたのだ。

 いつもの鉄壁のスーツ姿だが、胸元のボタンが一つ外れ、眼鏡も少しずれている。

「カレンさん……?」

「いーえ、今はただのカレンよ。アイザックと少し飲んできたの。……ふふ、あなたたち、Bランク昇格おめでとう」

 カレンは上機嫌に笑い、ヴァルの肩をポンと叩いた。

 この人は、オフの時はこんなに緩いのか。

 だが、次の瞬間。

 カレンが眼鏡の位置をクイッと直すと、その瞳から酔いが消え失せた。

「――さて。ここからは仕事の話よ」

 氷の秘書への変貌。

 場の空気がピリリと引き締まる。

「総ギルド長からの伝言です。明日、ヴァル含めユリシーズ・アトラスにギルド本部へ来てほしいとのことです」

「……」

 アビアが息を呑む。

「ある『物資』を極秘裏に輸送してほしいの。……詳細は現地で。拒否権はないわ」

 カレンの視線は、有無を言わせない鋭さを帯びていた。

 だが、ヴァルにとってはアイザックに会えというセイラの言葉がよぎる。断る理由はなかった。

「……分かりました」

 ヴァルが答えると、横で話を聞いていたララが、静かにグラスを置いた。

「……ふふ、男の子ね」

 ララはチラリと、ヴァルの右耳を見た。

 そこにはまだ、消えきらない赤い光が明滅している。

 ララは艶然と微笑み、ヴァルの頭をくしゃりと撫でた。

「…ラ、ララ…さん?」

 戸惑うヴァルだったが、その仕草はどんな魔法よりも力強く、ヴァルの心を暖めた。

【お詫び】更新が大変遅くなりました!!(土下座)


読者の皆様、申し訳ありません!

「リアル仕事」という名のダンジョンボス(休日の仕事)が予想以上に手強く、この時間の更新となってしまいました……。


正直に白状します。

今の作者の精神状態は、作中のヴァル君と完全にリンクしております。

耳鳴りはしませんが、足腰が悲鳴を上げています。


そんな限界状態の中、今回は「癒やし」の回です。

新キャラのララさん。

強くて、大きくて、包容力のある獣人お姉さん。

執筆しながら「頼む……俺のことも癒やしてくれ……!」と本気で願っておりました。

彼女の優しさが、ヴァル君だけでなく、この時間まで待っていてくださった皆様の心にも届けば幸いです。


次回は、いよいよ総ギルド長アイザックからの任務。

物語が大きく動きます。


更新が遅れた分、次はもっと楽しんでいただけるよう頑張ります!

(「お仕事お疲れ!」「ララさん最高!」という評価・ブクマをいただけると、作者のHPが回復します……!)

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