第14話:Dランクの壁と、鉄屑山脈への挑戦。……無理だと笑われましたが、最強の「銃身」を作る素材、拾ってきますね
「――申し訳ありません。このクエストの受注は許可できません」
翌日、ノアズ・アークの冒険者ギルド本部。
受付カウンターで、女性職員が申し訳無さそうに、しかしきっぱりと首を横に振った。
アビアが突き出した羊皮紙――国境付近のダンジョン探索依頼は、無情にも押し返された。
「はあ? なんでだよ。俺たち『ユリシーズ・アトラス』は、昨日付けで正規の手続きを経てパーティを組んだんだぞ?」
「はい、ですが……今回の目的地は『危険度B』以上の指定区域です。ギルド規定第8条により、Dランク冒険者の同行は認められません」
職員の視線が、アビアの背後にいるヴァルに向けられる。
Dランク『ダスト・チェイサー』。
それは、街周辺で薬草を摘んだり、浅い階層で魔鉱石採取をする程度の「駆け出し」に与えられるランクだ。
本来、国境付近のような最前線に足を踏み入れていい階級ではない。
「ふざけんな! ヴァルの実力は俺たちが一番知ってる! こいつはそこらのBランクよりよっぽど動けるんだよ!」
「そうだよ! ヴァルの動き、あんた達なんかよりずっと凄かったんだから!」
ルーナも身を乗り出し、獣耳を逆立てて抗議する。
だが、職員は困ったように眉を下げるだけだった。
「お言葉ですがアビア様。それは『パーティの支援ありき』の話ではありませんか?」
職員の言葉は正論だった。
そして、そのやり取りを聞いていた周囲の冒険者たちから、ヒソヒソと嘲笑が漏れ始める。
「ほら見ろ、やっぱり荷物持ちが足枷になってる」
「ユリシーズも落ちたな。あんな寄生虫さえいなきゃ、もっと上の依頼を受けられるのによ」
突き刺さるような視線と陰口。
ヴァルは唇を噛み締め、拳を握りしめた。
実力をつけ、仲間にも認められた。けれど、社会の評価システムはそう簡単に覆らない。
これ以上、アビアに恥をかかせるわけにはいかない。
「……やめましょう、アビアさん」
ヴァルは、カウンターに詰め寄るアビアの腕を掴んだ。
「規則は規則です。俺のせいで、皆さんに迷惑はかけられません」
「ヴァル、だがよぉ……!」
「お困りのようですね」
その時、凛とした冷たい声が割って入った。
人垣が割れ、黒いスーツに身を包んだ女性が現れる。
総ギルド長秘書、カレンだ。
「カレンさん……」
「総ギルド長より、伝言を預かっています。こちらへ」
◇
通されたのは、ギルド奥にある重厚な応接室だった。
カレンはソファに座るなり、一枚の書類をテーブルに提示した。
「ヴァル・ヴェリテクス。貴方に『特別昇格試験』の機会を与えます」
「昇格試験……?」
「本来、ランクアップには数ヶ月の実績が必要ですが、特例としてこの試験をクリアすれば、即座にBランク相当の権限を付与します」
カレンが指差した書類には、『霧の峡谷』という地名と、『指定個体』の討伐という文字が記されていた。
「『霧の峡谷』……。あそこは一年中濃霧に覆われていて、視界が効かねえ場所だ。しかも魔力探知も乱される、マギアン殺しの難所だぞ」
アビアが眉をひそめる。
「条件はたった一つ」
カレンはアビアの懸念を無視し、冷徹な瞳でヴァルを見据えた。
「パーティの手助けなし。ヴァル単独での達成」
「なっ……!? 無茶だ! あの場所でソロなんて、Aランクでもリスクがある!」
「アビア! 落ち着いて!」
アビアが激昂して立ち上がり、ティアが慌ててその太い腕を制止する。
だが、カレンは表情一つ変えない。
「貴方がただの『寄生虫』ではないと証明してください。失敗すれば……今後、ユリシーズ・アトラスへの同行は諦めていただきます」
部屋に重苦しい沈黙が流れる。
カレンの目は本気だ。これは試験という名の、選別。
どの道、このままでは目的は果たせない。
ヴァルは静かに息を吸い、顔を上げた。
「やります」
「ヴァル!?」
「証明してみせますよ。俺はもう、ただの荷物持ちじゃない」
その瞳に、迷いはなかった。
カレンはわずかに口元を緩め、頷いた。
「いい返事です。試験開始は一週間後。……準備期間を有効に使いなさい」
◇
カレンから「詳細な説明がある」とアビアたちが引き留められたため、ヴァルは一人でギルドを出ることになった。
夕暮れの街を歩きながら、ヴァルは武者震いしていた。
やってやる。俺の力で。
『警告:楽観的観測は非推奨です、マスター』
冷水を浴びせるようなレティナの声が響いた。
『現在の装備――片手剣およびパイル・シールドにおける、霧の峡谷での単独生存率は45%未満です』
「45%……? 半分以下かよ」
ヴァルは足を止めた。
『原因は「射程」です。霧により視界不良の敵に対し、近接専用のパイルバンカーでは、接敵=被弾のリスクが高すぎます。相手が飛行型なら手も足も出ません』
言われてみればその通りだ。
今まではカイルが遠距離から攻撃し、アビアやルーナが隙を作ってくれていた。
ソロとなれば、近づく前にやられる。
「じゃあどうすればいい!? 魔法なんて使えないし、弓矢の才能なんて……」
『推奨:中・遠距離物理兵装の導入。……現在、マスターの知識領域には存在しない、旧文明の設計データを展開します』
ヴァルの視界に、青い光の図面が展開される。
『出力開始:視覚野へ設計データを投影。……マスター、手元の紙にこの「線」をなぞってください』
それは、魔法使いが見れば「鉄屑」と笑うであろう、だが洗練された暴力の形をしていた。
『――火薬式投射兵器。これを、商業ギルドのタルゴス・ウッドルーンへ発注してください』
◇
鉄を打つ音と、重油の匂いが充満する工房。
ヴァルが真剣な表情で広げた図面を見て、偏屈なドワーフ、タルゴスの動きが止まった。
「……おい、坊主。こりゃあ何だ?」
「『リボルバー』と、『ライフル』……だそうです」
タルゴスの脂ぎった指が、図面の上を震えながらなぞる。
そこに描かれているのは、現代では一般的な魔鉱石スロットも、魔力回路もない。純粋な機械の仕掛け。
一つは、レンガのようなごついフレームを持つ、回転式弾倉を備えた大型拳銃。
ModuleID:20『スラグ・リボルバー』。
通常の拳銃とは次元が違う。熊すら一撃で屠るであろう、50口径(約12.7mm)という規格外の弾丸を5発装填する、確実性を重視した"携帯大砲"。
もう一つは、長大な銃身を持つ、狙撃用ライフル。
ModuleID:30『アンチマテリアル・ライフル』。
巨大な反動抑制器と、精巧なボルトアクション機構。
対魔物用の「炸裂弾」と、対マギアン用の「徹甲弾」を撃ち分ける、もはや人ではなく車両や建造物を破壊するための怪物だ。
「魔法付与なしで……火薬の爆発だけで鉄を飛ばすだと……? 正気じゃねえ」
タルゴスは呻くように言った。
この世界の常識では、飛び道具とは「風魔法で加速させる」か「魔力で誘導する」ものだ。
だが、この設計図には「物理法則」という名の美学が詰まっていた。
「だが……美しい構造だ。無駄がねえ」
タルゴスの顔に、職人としての凶悪な笑みが浮かぶ。
「面白い。やってやるよ。ハンドガンの方は3日で仕上げてやる」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「だが、ライフルの方は無理だ」
「えっ……」
「構造が複雑すぎる上に、負荷がデカすぎる。そこらの屑鉄じゃ、一発撃っただけで銃身が破裂するぞ。……作るなら、他の素材が要る」
タルゴスは金槌で作業台を叩き、北の方角を指差した。
「『鉄屑山脈』。あそこから、ジェネシス級のレムナント――『カオス・スチール』を持ってこい。それがありゃあ、最強の銃身を創り出してやる」
鉄屑山脈。
それは、過去の文明の遺物が山のように投棄され、自然変異を起こした危険地帯。
だが、迷っている暇はない。
「……分かりました。取ってきます」
ヴァルが覚悟を決めて工房を出ようとした、その時だった。
「おい、待ちな」
入り口に、大きな影が立っていた。
不機嫌そうに腕を組んだ、鍛え上げられた体躯の男――アビアだ。
「一人で格好つけてんじゃねえよ、ヴァル」
ニヤリと笑うリーダーの登場に、ヴァルは驚きつつも、安堵の息を漏らした。
読んでいただきありがとうございます!
ついに来ました、ロマン武器!
今回のテーマは「魔法社会への反逆」です。
魔法が使えないなら、科学(物理)で戦えばいいじゃない。
ということで、ヴァル君の新しい相棒は「銃」になります。
しかも、ただの銃ではありません。
「50口径リボルバー」に「対物ライフル」。
魔物だろうが何だろうが、物理運動エネルギーで粉砕する気満々です。
タルゴス親父の職人魂にも火がつきました。
次回は素材集めのため、アビアさんと共に「鉄屑山脈」へ。
魔法VS科学、そしてパーティの絆。
熱い展開になりますので、お楽しみに!
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