表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
底辺からの反逆者 ~魔力なき『砂利運び』が得た機械の瞳~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/29

第13話:目的地は『虚無の研究所(ラボ・ゼロ)』。……ところでBランクの方、僕の「眼」にはあなたの攻撃、スロー再生に見えてますよ?

「ねえヴァル君! 私の回復魔法も強化できる!?」

「私の強化魔法は!? 今までイメージだけでやってたんだけど!」

 ダンジョンから脱出した後。

 焚き火を囲むなり、ティアとルーナがヴァルに詰め寄ってきた。

 先ほど、カイルが見せた驚異的な水魔法の威力。それを目の当たりにした彼女たちが、黙っていられるはずがなかったのだ。

「お、落ち着いてください!……レティナ、彼女たちの魔法系統に合わせた最適化コードを頼む」

『了解:治癒魔法体系レパラティオ、および身体強化体系アウグメンタへの命令式コードを開示します。無駄なノイズを削除し、純粋な命令式へ圧縮します』

 ヴァルは視界に流れる文字列を読み上げ、彼女たちに「音」としてのコマンドを伝授した。

 魔法を「感覚的なイメージ」ではなく、「厳密な命令式コード」として認識させる。たったそれだけのことだが、結果は劇的だった。

「すごい……!」

 溢れた光は一瞬でカイルの傷を塞ぎ、痕すら残さない。以前なら数分かかっていた治療が、数秒で終わる。

 ルーナもまた、軽く拳を振るうだけで風を切る鋭い音をさせた。

 リミッターを外された彼女たちは、まるで新しい玩具ちからを手に入れた子供のように興奮している。

 だが、その輪の中で一人だけ、カイルは浮かない顔をしていた。

「……もし、こんな『非効率な魔法』を世界に広めたのが私の故郷だとしたら、私たちは今、世界の秩序ルールそのものを破ったことになる」

 世界最高の魔法知識を持つとされるユグド・セコイアが、意図的に人類の可能性を縛っていたとしたら。

 その事実は、Aランクパーティを目指す彼らにとっても重すぎる真実だった。

「……使徒か」

 重い空気を払拭するように、アビアが低い声で言った。

 彼は懐から、羊皮紙で作られた地図を取り出し、焚き火の明かりの下に広げた。

「ヴァル。お前が仲間に入った今なら話せる。俺たち、ユリシーズ・アトラスの真の攻略目標はここだ」

 アビアの指が、地図上のぽっかりと空いた空白地帯を指し示す。

 ノルズ・アークより内陸、三大国家とされるユグド・セコイアのさらに先。

「この世界の中心にして、内陸最大の未踏ダンジョン……『虚無の研究所ラボ・ゼロ』だ」

 その名を聞いた瞬間。ヴァルの脳内で、レティナが即座に反応した。

『検知:<< Labo-Zero >>……旧文明における「魔導工学研究所・第0番」。――本機レティナの製造元メーカーと推測されます』

 ヴァルは息を飲んだ。レティナの、故郷。

 自分のような魔力を持たない「欠陥品」が、なぜレティナのような超古代兵器と適合したのか。その答えが、そこにあるかもしれない。

『……ですが、マスター』

 思考に耽るヴァルに、レティナが補足情報を告げる。

『現在、本機の最優先事項プライオリティは書き換えられています。「帰還」よりも「マスター・ヴァルの生存」を優先。……ですが、ルーツの解析は生存率向上に寄与すると判断します』

 無機質な声だったが、ヴァルにはそれが少しだけ嬉しかった。

「……行きましょう。俺も知りたいんです。この眼の正体と、俺がここにいる意味を」

          ◇

 翌日。一行は帰路につき、タートルの荷台で揺られていた。

 話題は、これから向かう世界情勢のことになった。

「いいかヴァル。この世界は大きく三つの勢力によって統制されている」

 揺れる車内で、カイルとアビアが地図上の三点を指差して解説を始めた。

「まず、我々の目的地の前にある『ユグド・セコイア』。エルフ種が統治する大森林の国であり、秩序と統一の象徴。世界銀行としての役割も持つ」

 カイルが自分の故郷を指し、苦々しく紡ぐ。

「次に南方・隔離大陸『レオ・プライマ』。獣人族ゾーアン獅子レオ種の国で、武力と純血を重んじる軍事国家」

「そして、中央大陸の西端『セレーネ・アビソス』。魔族オルタス始祖デビル種。混沌と変化を好んで、小さい国同士を戦わせたりしてる奴らの国だ」

 アビアが声を潜める。

「そして、それぞれの国には『使徒アポストル』と呼ばれる守護者がいる。彼らは人の身でありながら、神に近い魔力を振るう化け物たちだ」

「使徒……?」

「ああ。ヴァル、お前も『三神トリニタス』って聞いたことあるだろ? 秩序・純粋・混沌を司る三柱の神。その三神を守るのが使徒の役目だ」

「三神……あれって、ただの宗教上のおとぎ話じゃないんですか?」

 ヴァルが何気なくその単語を口にした、その時だった。

 ――キィィィィィィン!!

 不快な高周波音が脳内で炸裂し、彼は頭を抱えた。

『警告:アクセス拒否。用語「三神トリニタス」に関連する情報はプロテクトされています』

『翻訳:アポストル=システム管理者。三神=■■■(System Error: Forbidden Data)』

 レティナの声がノイズ混じりになり、視界に赤い警告表示が明滅する。

(なんだ……? 『神』の情報にはアクセスできないのか?)

 使徒は、ただの国の代表ではない。世界の「管理者」としての役割を持っている。

 レティナの異常な反応から、ヴァルは本能的にそれを感じ取っていた。

          ◇

 数日後。一行は拠点都市ノルズ・アークへ帰還した。

 冒険者ギルド本部の重厚な扉を開けると、そこは夜の熱気と喧騒に包まれていた。

 クエストを終えた冒険者たちが持ち込んだ酒を酌み交わし、自慢話や愚痴を怒鳴り合っている。汗とエール、そして鉄錆の匂い。

「おっ、ユリシーズ・アトラスのお帰りだぞ!」

「なんだアビア、今回は早かったじゃねえか。まさか撤退か?」

 誰かの野次が飛び、ドッと笑いが起きる。

 だが、アビアたちがカウンターにドサドサと袋を広げた瞬間、その笑い声は凍りついた。

「……は?」

 受付嬢が目を見開き、震える手で素材を検分する。

「……ジャイアントバットの羽根12枚、すべて完品? それに、このカオス・スパイダーの糸と外殻は……」

 彼女の声が、静まり返ったギルド内に響き渡る。

「か、過去最高品質……それに、クリアタイムはギルド最短記録を更新しています!」

 ざわっ、と空気が揺れた。

 冒険者たちが信じられないものを見る目で、アビアたちを見る。

「おい嘘だろ……あのスパイダーのダンジョンだぞ?」

「魔法で焼いたら糸も回収不能なはずだ。どうやって倒せばこんなに綺麗に残るんだよ?」

 アビアはニカッと笑い、親指で隣のヴァルを指した。

「俺たちの手柄じゃねえよ。勝因は、新しい軍師様ヴァルの『眼』のおかげさ。指示通りに動いたら、簡単に完封できたんでな」

 その言葉に、周囲の空気が冷ややかなものに変わった。

 賞賛から、嫉妬と侮蔑へ。

「へっ、マギレスが軍師だってよ……」

「笑わせるな。どうせAランクのパーティに寄生して、おこぼれを貰ってるだけだろうが」

 雑音ノイズ

 ヴァルは表情を変えず、精算書の確認を続けていた。

 だが、その無関心な態度が、一部の者の癇に障ったらしい。

「おい、無視してんじゃねえぞ」

 ドカ、とカウンターを蹴る音が響いた。

 立っていたのは、身の丈2メートルはあろうかという巨漢の冒険者だった。

 Bランク『鉄の戦斧』のリーダー。先日、同じエリアの攻略に失敗し、傷だらけで逃げ帰ってきた男だ。

「俺たちが死ぬ気で挑んでダメだった場所を、こんな雑魚マギレスのお守り付きでクリアしただと? ……調子に乗るなよ、『荷物持ち』が」

 男の顔は酒で赤く染まり、目は嫉妬で濁っている。

 彼は太い腕を振り上げ、ヴァルの胸倉を掴もうと踏み込んだ。

「痛い目見ないと分からねえようだなッ!」

 その動きは、周囲の冒険者には見えないほどの速さだったかもしれない。

 だが、ヴァルの左眼には、それはあまりにも遅く、退屈な映像として映っていた。

『敵性動作検知。……脅威レベル:低(Eランク相当)』

『右腕軌道予測、表示。回避推奨ルート、算出完了』

 視界に赤い予測ラインが走る。

 男の手がどこを通り、重心がどう崩れるか。全てが数式として描かれている。

 ヴァルは精算書から目を離さず、予測線に従って半歩だけ、右足を引いた。

 ブンッ!!

 男の剛腕が、ヴァルの鼻先数センチを通過する。

 掴むはずだった獲物を失い、全力で振り抜いた腕が空を切る。

 その凄まじい遠心力は、泥酔した男の体を独楽こまのように回転させた。

「あ……?」

 男の視界が回転し、その顔面が勢いよく硬いオーク材のカウンター角に向かっていく。

 ゴガッ!!

 鈍く、しかし重い音がギルド中に響き渡った。

「ぐべっ……!?」

 巨漢が白目を剥き、そのまま床に沈む。自爆だ。

「……おっと」

 ヴァルは倒れた男を心配し、屈んで呟いた。

「足元が滑ったんですか? 酒はほどほどにした方がいいですよ」

 静寂。

 誰もが言葉を失う中、騒ぎを聞きつけたギルド長の秘書、カレンが現れた。

 彼女は倒れた男を一瞥し、すぐに冷徹な視線をヴァルへと移す。

「そこまで。ギルド内での私闘は禁止です」

 カレンは淡々とその場を収めたが、その氷のような青い瞳は、微かに細められていた。

(偶然じゃない……今の最小限の回避動作。未来が見えているかのような動き……)

 彼女の手元のタブレット端末で、ヴァルの評価ランクが『最重要監視対象』へと書き換えられる。

「よくやったぞ、ヴァル」

 アビアは小声でヴァルを小突きつつ、メンバーたちと共に早々にギルドを後にした。

          ◇

 彼らはその足で、情報屋セイラの店を訪れた。

 カランコロン、とドアベルが鳴る。

「あら、いらっしゃい。……ふうん? 良いことあったみたいね」

 カウンターの奥で、セイラが紫煙をくゆらせながら妖艶に微笑んだ。

 彼女の鋭い視線が、アビアたちの全身をねめ回す。

「ユグド・セコイアの情報が欲しい」

「それはちょっと高いわよ?」

 セイラはアビアから代金を受け取ると、裏ルートの情報を記したメモを滑らせた。

「気をつけてね。あそこは今、少しピリピリしてるみたいだから」

「助かります、セイラさん」

 いつもの妖艶なやり取り。だが、ヴァルの「眼」は誤魔化せなかった。

『警告:対象セイラの心拍数、および体表面温度の異常を検知。……彼女は極度の恐怖状態にあります』

 指先が、わずかに震えている。

 アビアたちが店を出ようとした時、ヴァルだけが足を止め、彼女に向き直った。

「セイラさん」

「……なに?」

 彼女は余裕の笑みを崩さない。だが、レティナのアラートは鳴り止まない。

「何かあったんですか? 怖がっているみたいですけど……」

 ピクリ、とセイラの表情が凍りついた。

 能面のような顔から、ゆっくりと「情報屋」の仮面が剥がれ落ちていく。

「……別に何でもないわ。用が済んだら出ていって。今日はもう店じまいだから」

「……はい、ありがとうございました」

 一行は店を後にする。

 だが、ヴァルは扉を出る直前に振り返り、最後に声を掛けた。

「……何かあったらすぐに教えてくださいね」

 セイラは一瞬驚き、そしてどこか寂しそうに微笑んだ。

「……そうね。今の君ならあるいは……」

 消え入りそうな震える声。

 それは、世界を裏で操るような「魔族」としての顔ではなく、ただの暴力に怯える「人」の顔だった。

          ◇

 店を出た彼らの背中を、夜の闇が見送る。

 一方、静まり返った店内に残ったセイラ。

 彼女の背後の影から、不気味な笑い声が響いた。

『ヘェ~、アイツがねェ……良いのを見つけたなァ』

 粘り気のある嘲笑。

『最高のおもちゃじゃないかァ、なァセイラ? ……キキキッ、壊しがいがありそうだネェ……!』

 セイラは震える手で自身のカップを握りしめ、青ざめる。

「……邪魔しないで、クソ兄貴。……アレは私の客よ……」

 ケタケタ笑いながら、その闇は静かに消えていった。


あけましておめでとうございます!

実は私、元日からお仕事でした……(白目)。


仕事のストレスと疲れを癒やすため、浴びるようにお酒を飲んでいたら、見事に撃沈して更新できませんでした。

「働きながら飲む酒が一番うまい」のが悪いんです。

作中でヴァル君に「お酒はほどほどに」と言わせている自分が一番できていません。反省。


さて、久しぶりの更新となる第13話です!

前半は、ティアとルーナの魔法も「コード」として最適化(強化)されました。

そして後半は、ギルドでの一幕。

ヴァル君にかかれば、格上のBランク冒険者の攻撃も、ただの「遅いデータ」に過ぎません。

精算書を見ながら半歩下がるだけの回避、書いていてとても楽しかったです。


ラストには不穏な影も……。

物語の目的地も「ラボ・ゼロ」と判明し、ここからさらに世界が広がっていきます!


今年も本作を(そして労働と酒に生きる作者を)生温かく見守っていただければ幸いです!

感想・評価いただけると、二日酔いも吹き飛びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ