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魔力ゼロの最底辺、ゴミ山で拾った「義眼」が規格外すぎた 〜魔法が絶対の世界ですが、俺には敵の動きと弱点が「線」で視えるので、当たらなければどうということはありません〜  作者: ちゃんつよ
底辺からの反逆者 ~魔力なき『砂利運び』が得た機械の瞳~

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第9話:五人目のメンバーは「魔力なき軍師」。最強パーティの戦術を、俺の眼が「最適化(アップデート)」する

 翌朝。

 高級宿『朝焼けの竪琴』のスイートルーム。

 窓から差し込む柔らかな陽光が、深紅の絨毯を照らし出している。焼きたてのパンと、極上のコーヒーの香り。

 そこは、スラム同然の安宿で暮らすヴァルにとって、別世界だった。

(……落ち着かない)

 ヴァルは最高級の革張りソファに浅く腰掛け、縮こまっていた。

 尻が沈み込むほどフカフカの椅子は、逆に座り心地が悪い。

 目の前では、アビアたちが深刻な顔でテーブルを囲んでいた。広げられているのは、次の攻略目標であるダンジョンの地図だ。

「……前回の階層主ボス戦、ギリギリだったからな」

 アビアがコーヒーカップを置き、重い口調で切り出した。

「火力が足りてない。カイル、お前がもっと前に出て魔法を撃ち込めないか?」

「無理ですよリーダー。私が前に出たら、誰が敵の側面をカバーするんです? ただでさえティアが盾を構えるので手一杯なのに」

「……悪いわね。私がもっと頑丈なら、カイルにも負担をかけないのだけど……」

 熊人のティアが、申し訳なさそうに耳を伏せた。

 彼女は巨体を生かして盾役タンクを務めているが、本来の気質は争いを好まず、人に寄り添える温厚な性格だ。年齢も三十手前、パーティ内ではアビアと並ぶ大人としての包容力があるが、今の役割は彼女にとって荷が重すぎた。

 その横で、剣士のルーナが溜息をついた。

「私への強化アウグメンタも遅れ気味よ。リーダー、敵を捌くのに必死で、全体が見えてないんじゃない?」

「……最近、敵が強いのも事実だしな」

 議論は堂々巡りだ。

 Aランクパーティとしての個々の能力は間違いなく高い。だが、何かが噛み合っていない。まるで錆びついた歯車のように。

『警告:現行フォーメーションにおける魔力ロス率35%。戦闘効率の低下により、次回遠征での生存率40%未満と予測』

 ヴァルの脳裏に、冷徹な数字が浮かび上がる。

 レティナのシミュレーションは残酷だ。このままでは、いつか彼らは全滅する。

 ヴァルは膝の上で拳を握りしめた。

 口を出すべきか。自分はただの運搬屋で、部外者だ。

 だが。

 ――『お前の眼と運搬技術は、俺たちにない武器だ』

 昨夜のアビアの言葉が、背中を押した。

 ヴァルは皆に聞かれないように小声でレティナに話しかける。

「(……レティナ。地形データ照合してくれないか)」

『肯定:当該ダンジョンは回廊が狭く、ホールが広い構造。高機動戦闘に最適です』

 いける。

 ヴァルはテーブルに広げられた地図の一点をじっと見つめ、意を決して顔を上げた。

「……あの」

 ヴァルの声に、四人の視線が集まる。

「ティアさんが前衛で盾を持つの、やめた方がよくないですか?」

 場が凍りついた。

 カイルが不機嫌そうに眉を寄せる。

「はあ……素人が何を言ってるんです。ティアが盾を捨てたら、誰が敵の攻撃を受けるんですか」

「攻撃は受けず、撹乱するんです。このダンジョンの地形ならそれが可能です」

 ヴァルは怯まずに言った。そして、地図から視線を外し、ティアを真っ直ぐに見据えた。

「それにティアさん。貴女、本当は防御魔法イージスよりも、回復魔法レパラティオの方が得意なんじゃないですか?」

「なっ……!?」

 驚きの声を上げたのは、ティアではなくカイルだった。

「ヴァル君、適当なことを言わないでください。ティアは重盾戦士ヘビィ・ガードですよ? 」

「……ううん、違うのよカイル。私は最初アビアと旅してたときは後衛だったの」

 ティアが静かに遮った。

 アビアが驚いて振り返ると、彼女は観念したように小さく息を吐き、頷いた。

「カイルたちには言ってなかったけど……実は得意魔法は回復魔法レパラティオだったの。でも、このパーティには盾役タンクがいなかったから……体を鍛えて、盾を持ったのよ」

「まさか……知らなかったです……失礼いたしました」

 カイルがバツが悪そうに俯く。

 アビアもまた、長年の相棒が抱えていた無理と献身を改めて突きつけられ、言葉を失っていた。

「やっぱり」

 ヴァルは確信を込めて頷いた。レティナの視界には、ティアから溢れ出る慈愛のような魔力が、盾という枠に押し込められて悲鳴を上げているのが見えていたのだ。

「盾に魔力を割くよりも、ルーナさんの剣とカイルさんの魔法を合わせれば、今よりも1.5倍ほど攻撃量が上がります」

「なっ……」

 図星を突かれたのか、ルーナが目を見開く。

 アビアが鋭い眼光をヴァルに向けた。

「……続けてみろ」

 許可を得て、ヴァルはテーブルに置かれたチェスの駒を動かした。

「まず、ティアさんを最後列まで下げます。防御は捨てて、本来の適性である全体バフと回復だけに専念してください」

「ええ? でもそれじゃ、前衛がいなくなってしまうわ」

「前衛はいません」

 ヴァルはナイトの駒――アビアに見立てた駒を、敵陣の深くまで進めた。

「アビアさんが遊撃スカウトとして最前線に出て、敵を攪乱してください。あなたがヘイト(敵意)を集めて回避に徹すれば、敵陣形は崩れます」

「……俺を囮にしろと?」

「最強の囮です。その隙に、手薄になった敵の横っ腹をルーナさんとカイルさんが叩く。……これが、一番速い」

 それは、防御を捨てた『超攻撃型シフト』。

 アビアがずっと夢見ていながら、実現できなかった戦術だった。

 個々の能力を極限まで尖らせ、殺られる前に殺る。だが、それには絶対的な条件がある。

「理論はわかる。だが、俺が前に出て動き回れば、誰が全体への指示を出す? 誰がリソースを管理する?」

 戦場の真ん中で踊るアビアには、全体像は見えない。

 後衛のティアは詠唱で手一杯だ。

「俺がやります」

 ヴァルは静かに断言した。

 左眼の眼帯に、指を添える。

「俺の眼なら、全員の魔力残量と敵の動き、その予兆まで全て見えます。俺が中衛ここにいて、皆さんの動きをリアルタイムで制御します」

 沈黙が落ちた。

 それは、命を預けるということだ。魔力を持たない、最弱の男に。

 だが、アビアはニヤリと笑った。

「……面白え。試す価値はありそうだ」

「リーダー!?」

「今までのやり方じゃ限界だったのは事実だ。……決まりだ。今日からお前が俺たちの『目』になるんだ、ヴァル」

 役割は決まり、部屋の空気は一変した。停滞感は消え、新たな挑戦への熱気が満ちている。

 だが、冷静になったティアがもっともな指摘をした。

「でもアビア。理想はいいけど、司令塔のヴァル君が敵に襲われたらどうするの? 武器はこのナマクラでしょ?」

 彼女が指差したのは、ヴァルの腰にある刃こぼれしたセラミックナイフだ。

「う……」

「中衛とはいえ、Aランクの戦場だから流れ弾一発で即死しちゃうわよ。一般の魔導防具なんて、魔力のないヴァル君にはただの重い鉄屑だし」

 致命的な欠落。

 司令塔が真っ先に死んでは、元も子もない。

「まずは装備を整えるのが先決か……。アテはあるか?」

「あります。……タルゴスさんです」

 その名を聞いた瞬間。

 アビア、カイル、ティアが一斉に顔をしかめ、頭を抱えた。

「あ〜……あの『爆発魔』か……」

「腕は一流なんだけどさぁ……話が通じないのよね、あの爺さん」

「あそこはアイザック総ギルド長の肝煎りだから誰も文句言えないし……」

 どうやら、かなりの「有名人」らしい。

「と、とりあえず行ってみます」

 ヴァルは軽く頭を下げると、逃げるようにその部屋を後にした。

 背中には、まだアビアたちの期待と不安が入り混じった視線が刺さっている気がした。

 商業ギルド、技術研究棟。

 美しい魔導具が陳列されている上層エリアを通り過ぎ、ヴァルは誰も近づかない地下区画へと降りていった。

 階段を下るごとに、空気が変わる。

 清潔で静謐な魔法の気配が消え、代わりに鼻をつくのは鉄錆とオイル、そして火薬の焦げた匂い。

 轟音が響き、蒸気がパイプから漏れ出している。

 むせ返るような熱気。

 だが、ヴァルは不思議とそこで深呼吸をしたくなった。

 ふわふわした絨毯の上よりも、この煤けた鉄の匂いの方が、今の自分には馴染む。自分もまた、この世界ではじき出された「異端」だからだろうか。

「おう、来たか若造! アビアの連中と組んだんだってな?」

 工房の奥から、煤だらけのタルゴスが現れた。

 昨夜の酒場とは違い、職人の顔をしている。

「話は聞いてるぜ。司令塔やるんだろ? だったら、半端な護身用なんざ役に立たねえ」

 タルゴスはニヤリと笑い、工房の中央に置かれた物体にかかっていた帆布を、勢いよく引き剥がした。

「あいつら魔法使いはスマートさを好む。……だがな、お前に必要なのはそんな上品なもんじゃねえ」

 ドンッ!!

 重厚な金属音が床を揺らした。

 そこに鎮座していたのは、武器というにはあまりにも無骨な「鉄塊」だった。

 太いシリンダー、無骨な排気口、そして先端に取り付けられた、凶悪なまでに太い鋼鉄の杭。

「これは……」

「『試作型・魔導火薬式杭打ち機(パイルバンカー)』だ」

 タルゴスが愛おしそうに鉄塊を撫でる。

「魔力なんてチャラついたもんはいらねぇ。火薬の爆発力だけで、鋼鉄の杭を至近距離から叩き込む。……『物理』の極致だ」

「か、火薬……」

 この世界では原始的とされる技術だ。魔法の方が遥かに効率が良いからだ。

 だが、タルゴスは首を振る。

「ただの火薬じゃねえ。魔鉱石の粉末を混ぜてるが……どうも燃焼が安定しなくてな。威力にムラが出る」

『解析完了:混合比率に不備あり。最適化レシピを提示します』

 レティナの声が響く。

 ヴァルの視界に、複雑な化学式と配合比率が表示された。

「……硝石75%、硫黄10%、木炭15%にしてください」

「ああん? 何言ってやがる」

「それと、粒子の直径をミクロン単位まで粉砕して均一化してください。そうすれば、燃焼速度は今の200%向上します」

 ヴァルがスラスラと告げると、タルゴスは目を剥いた。

 彼は慌てて作業台に向かい、メモを取りながらブツブツと計算を始める。

「75対10……いや、待てよ。粒子の均一化で表面積を増やせば……燃焼ガスの膨張率が……馬鹿な、完全に理に適ってやがる……!」

 タルゴスがガバッと顔を上げた。その目には、職人としての畏怖が宿っていた。

「お前、何者だ? ただの運び屋じゃねえな?」

「……ただの、マギレスですよ」

 ヴァルは静かに答えた。

 タルゴスは「へっ、とんだ食わせ物だ」と嬉しそうに笑うと、最終調整に入った。

 数十分後。

 ヴァルの右腕には、重厚なパイルバンカーが装着されていた。

 ガキンッ、と固定具が腕を締め付ける。

「……重い」

 魔法による軽量化など施されていない、純粋な鉄の重み。

 右腕が下がりそうになるのを、歯を食いしばって支える。

 だが、そのズシリとした重さが、逆に心地よかった。

『装備リンク完了。安全装置解除。……いつでも撃てます、マスター』

 ヴァルはグリップを握りしめ、トリガーに指をかけた。

 この重さは、命の重さだ。

 これを外せば、死ぬ。

 だが、当てれば――神殺しの怪物ですら貫ける。

「いい面構えだ、撃ってみろ」

 タルゴスが満足げに頷いた。

 異端の科学が生んだ鉄の牙。

 それを手にしたヴァルは、もうただの守られるだけの存在ではなかった。

【修正】(2026/01/19)

ヴァルとレティナの会話を一部修正。

ヴァルの小声は「(....)」と記載変更。


ついにアビアたちと合流!

そして手に入れたのは……男のロマン溢れる「あの武器」です。


次回、新装備の実戦投入。

Aランクダンジョンで火を噴きます!


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