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チュートリアル3

「さて、次は【自己成長度】について教えよう。さっき言ったステータスの強化に使うのがこれね。STR、VIT、DEX、AGI、INT、LUKの六つの成長係数を予め設定しておくことで、プレイヤーのレベルが1上昇するごとに、成長係数 × 0.1 ポイントが各値に加算される。小数点以下は切り上げね」


「なるほど。自分の成長方向を自分なりに決められるわけか」


 そういえば、以前に悠真からステータスポイントなる類似設定を聞いたことがあった。確か、レベルアップごとに貰えるポイントをステータスに割り振るのだったか。いちいち振り分けるのが面倒そうだ、とコメントした記憶がある。

 このゲームではその手間が省かれた代わりに、逐次成長係数を変更する必要があるようだ。結局面倒なことには変わりないが、私的にはこちらの方が好みではある。


「ちなみにHP、MP、SPの三つはレベルアップによる定値上昇だから注意ね。あと戦闘中の成長係数の変更は不可能だから、ちゃんと戦闘前に設定しておくこと。オーケー?」


「オーケー」


「よし。じゃあ早速、実際に割り振ってみようか」


 彼女の指示に従って、ステータスの欄から【自己成長度】の項目を開く。どうやら成長係数は六つの総合値を 100 として、5 ポイント刻みで変更できるらしい。


「横に表示されてる初期ステータスを参考に、これからの君の成長方向を決めるといい」


「ふむ……」


 やはり剣聖は超攻撃特化型のジョブなのだろう。共に初期値 50 をマークしているSTRとAGIに対し、VITはたった 10 しかない。これらの値がどう戦闘に影響するのかはまだ分からないが、少なくともヒットアンドアウェイの戦法を推奨されているのは明らかだった。


「VITの成長係数を上げるべきか否か……」


「VITは耐久力以外に、防具の装備条件達成にもある程度必要となる。ただ、君の場合はその防具自体が装備できないわけだから、頑張って上げても特に意味は無いね。精々、薄布一枚分の防御力になるぐらいだよ」


「ならいっそのこと成長係数は 0 のままにして、その分を他に充てたほうが有用か」


「そうだね。あと、DEXやINTも気持ち上げておく程度でいいと思うよ。前者は生産職、後者は魔法職が主に上げるべきステータスだからね。あとはトラップ解除や魔導書の解読みたいなギミックに対する補正ってところかな。いずれにしても、君のジョブには無縁のものさ」


「じゃあどちらも最低値で」


 そうして彼女からアドバイスを貰いつつ【自己成長度】を割り振っておよそ二十分。何とか納得のいく形にできた。



《ステータス(成長係数)》

HP(生命力):100

MP(魔力):50

SP (スタミナ):80

STR(筋力):50(40)

VIT(耐久力):10(0)

DEX(器用さ):25(5)

AGI(敏捷性):50(30)

INT(知力):20(5)

LUK(運):25(20)



「うん。なかなか良いんじゃない? 腕力と速度で敵を仕留める超速攻型ビルド。まるでシャチみたいだ。個人的には、どうしてLUKに 20 も振ったのかが気になるところだけど」


「ああ……私は昔から運が無いんだ。だからせめて、ゲーム内でだけでも幸運であれと思ってな」


「なるほどねぇ。まぁそこら辺はセンシティブな話だ。君の選択にケチをつけるつもりは毛頭無いとも。もとよりLUKはアイテムドロップやクリティカルなど、多くの確率的要素に影響するものだからね。下げるならまだしも、上げることが損なんてことは絶対に無い。ガイドAIとしてそこは保証するよ」


 彼女はそう言うと、手元のティーカップを引き寄せて一口あおった。それを見た私も同じように自分のカップを手に取って一息つく。現実と変わらぬ物理演算の所為ですっかり冷めきってしまった紅茶は、それでも胸の内がすくような暖かな味わいがあった。


「いやぁ、気が付けば早いもので、チュートリアルもあと一つの行程を残すのみだよ。寂しいなぁ……あ、もっと細かな説明が欲しい場合は、メニュー画面からヘルプ欄を参照してみてね(サムズアップしながら)」


「情緒不安定なのか……?」


「いいや、これ以上無く安定しているとも。あたしというガイドAIのキャラはいつもこんなものなのさ。さてさて、君に最後のチュートリアルを説明する前に一つ確認しておくことがある。なに、簡単な質問さ。気楽に答えてくれたまえよ」


 彼女はそう言うと眼下に残っていた一枚のクッキーを取り上げる。淡くシナモンの振りかけられたその表は星屑のように輝いている一方、裏は何ということのない気泡の空いた茶色の面であった。


「君は魔物と戦う方が好き? それとも人間と戦う方が好き?」


 妙な問いかけだった。数秒迷った後、私は「やってみないと分からない」と答えた。


「ふむ……よろしい」


 そう呟いた彼女はクッキーを頬張ると、その細い指をパチンと鳴らした。直後、目の前にあったティーテーブルやクッキーの皿、さらには今の今まで持っていたはずのカップまでもが一瞬で消失した。

 私が驚きのあまり立ち上がると、その隙に今度は椅子までも消え……いつの間にか、ガイドAIの女の姿もなくなっていた。


『あたしが君に教える最後のチュートリアルは【スキル】についてだ』


 何処からともなく聞こえてきた彼女の声が庭園内に響き渡る。脳内に直接語りかけるような声音に、私は怪訝な顔をしながら尋ねた。


「スキル……ゲームじゃよくある切り札みたいなものか?」


『そうそう。まぁ、種類も数も豊富な上に使っても減らない切り札だけどね。そして、今から君にはスキルの使い方を教えると同時に、こちらが用意したNPCと戦ってもらう。要は、習うより慣れよってね』


〈チュートリアルクエスト『門出の一戦』が開始されます〉


「……はぁ?」


 そんな間の抜けた声が私の喉から発せられた瞬間、突如として正面で光の渦が立ち昇り、その中から人が現れた。

 それは紛うこと無き騎士だった。絵物語に描かれるような白銀の鎧を纏い、同色の甲冑で顔全体を覆った彼もしくは彼女は、その腰に一本の西洋剣が携えながら無言でこちらを見つめていた。


 ……まさかとは思うが、先の質問の解答如何によって戦う相手が決まる仕組みだったのか?

 何はともあれ初っ端から物凄いハズレを引いてしまった。ゲーム世界でも不運は健在らしい。


『安心して。彼はただの案山子だ。まぁ、ちょっと攻撃してきたり避けたりするけど、それ以外は心も何も無い案山子同然の相手だとも』


「それ、貴女が言っても全然説得力無い……というか、攻撃する時点で案山子じゃ……いや、ある意味本来の用途を考えれば間違いでもないのか?」


 はてさて畑の案山子は武器を持っていたか。その場合は(くわ)(すき)だろう。

 脳が若干バグり始めた矢先、おもむろに騎士が腰の剣を鞘から抜き放つ。ガラス張りの天蓋から射し込む陽の光が刃によって反射され、その刀身を白い帯がゆっくりと舐めた。


『武器は脇に差してるそれを使いな。ていうか、それ以外に君が使える武器無いから』


「剣聖は武器も縛りなのか……」


 言われた通りこちらも腰の刀を抜き放つ。白い刀身に波打つ刃文は、禍々しさよりもむしろ神々しさを放っている。いったいどれほどの名刀なのか。そもそも銘は何というのか。今すぐに確認したいが、騎士がそれを待ってくれるとも思えない。

 兜に隠れた彼の表情は全く伺い知れないが、不思議とこちらを真っ直ぐに見ていることだけは分かる。聞こえる息遣いは自分のものだけ。案山子という言葉は文字通り中身もなのだろうか。


 果たして、緊張を破ったのは騎士の方からであった。最小限の予備動作で足を蹴り、金属の鎧を鳴らして迫り来る。数瞬の後、目の前で二対の剣閃が弾けた。

 最先端なのにスパルタなガイドAIさん。実はスパルタじゃないんですよね。

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