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振り合う袖と縁の有無

 ああ、空が青い……いや、碧い。天然の樹海である『ヴェスティージア』と比べると色の深みは負けてしまうが、青々と茂る木の葉の隙間から射す木漏れ日の美しさは『ウッドウォール』の方が断然上だ。幼い頃に両親とキャンプをしに行った山岳を思い出す。全身を吹き抜けていく風が心地良く、草花や河川の持つ独特の瑞々しさが空気と合わさって、都会には無い清涼感を生み出していた。


 だがしかし、今の私がいる森は記憶にある平穏とはかけ離れた光景となっている。

 ゴーレムの放った熱線によって内部の水分ごと蒸発した草花の焦げ跡。人間であれば致命傷と言う他ない大きな空洞をその身に負った大木。それらの周りで今尚延焼を続ける大地。端的に言って、そこは焦土と化していた。


「ゲホッ……!」


 仮想の息苦しさに咳き込みながら目線を動かすと、自身のHP残量を可視化したバーが真っ赤に点滅しながら徐々に減少し続けていた。その横には、赤の背面に橙色の炎が描かれたアイコンと、青の背面に黒色の棒のようなものが折れたアイコンが並んでいる。

 恐らく前者は火傷の状態異常効果を示すものだろう。あんな威力の熱線を、たったレベル 38 のプレイヤーが受け流せるはずもなく、まんまと腕と肩に被弾してしまったのだ。むしろHPがまだ二割弱残っている方が奇跡とも言える。


「早く、回復を…………え?」


 眼前に開いたメニュー画面を操作しようとしたその時、ようやく私は自らの右腕が焼け落ちていることに気が付いた。仮想世界故に痛みは無いが、そのゲームとは思えないリアルな炭化の描写に思わずヒュッと息を吞む。

 どうやらもう一つのアイコンはこれを示していたらしい。部位欠損による持続ダメージといったところだろう。このゲームをプレイして初めてここまでの重傷を負った。激痛の代わりに物凄い不快感が右半身を襲う。私は無事だった左手でどうにかメニュー画面を操作すると、アイテムボックスから回復薬を取り出して、一気に飲み込んだ。


「……ああくそっ、序盤のアイテムじゃ欠損は回復しないのか」


 このままでは戦闘に復帰することもままならない。それどころかゴーレムのヘイトは私に集中している。二つの状態異常により鈍化した身体を何とか動かすと、つい先程の攻撃で体勢を崩したゴーレムが身を起こしているところだった。

 もう数秒と猶予は残されていない。どうせ死ぬならいっそのこと神寵の小太刀で胸を刺そうか。そうすればデスペナルティだけは受けずに済む。もう一度『アインツトーン』からやり直す羽目になるが、今回は運が無かったと諦めて再挑戦するしかないだろう。

 夕飯が遅くなりそうだ、とため息を吐いてアイテム欄に指を置こうとしたその時、カツンと何かが頭部にぶつかり、次の瞬間盛大なエフェクトと共に視界端のHPバーが全快した。見ると、いつの間にか右腕も生えて火傷も治っている。


「リュウナっ!!」


「シャルル……どうして」


「いいからさっさと起きなさいっ!!」


 ゴーレムの真正面で槍を構える女口調の青年。眼下の敵を踏み潰すように上げられた瓦礫の足が槍の穂先と衝突し、直後に見慣れたスキルエフェクトによって弾き返された。


「あたしを守るのがタンク役であるあんたの役目でしょうがっ!! 今使ったエリクサー分はちゃんと返してもらうわよっ!!」


「……!」


 エリクサー。ファンタジーでは頻繁に登場する万能薬。それをこの私に使ったというのか。出会って一時間と経っていない即席のパーティーメンバーごときに? 彼女が?

 てっきり自分にしか使わないと思っていたが、どうやら先刻の発言は冗談ではなかったようだ。


「ゴオオオッ!!」


 未だゴーレムのヘイトはこちらにあるらしい。レーザー光線の次弾が来る前に急いで起き上がり、遠方に転がっていた聖刀を回収すると、相手の蹴りをスレスレで回避していたシャルルに向かって叫ぶ。


「シャルル、交代(スイッチ)!!」


「……! ええ、任せたわよっ!!」


 大きくバク宙して後方に下がる彼女と入れ替わるようにして前進する。次いでゴーレムが起こした地震攻撃を跳躍で回避してから、相手の脛部分に【断壁】を繰り出した。

 グラッと僅かに体勢を崩したゴーレムに、背後からシャルルのスキルが放たれる。その頭上に見える赤黒いHPバーが目に見えて削れた。


「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!」


「させるかっ!」


 一瞬だけヘイトが彼女の方へ向き、ゴーレムが半身を翻して放とうとした蹴りを【ステップフット】による移動で真正面から迎え撃つ。そのまま私は己の顔面を、あろうことかゴーレム足に叩きつけた。

 パァンッという大気の弾ける音に続いて、相手の重心が後ろに傾く。虚栄の仮面は頭部への攻撃を一日一回だけ無効化できる。CTの回復しきっていない【ジャストパリィ】の代わりに半ば賭けで使用したが、どうやら上手くいったようだ。その隙にシャルルが更に大技を繰り出し、いつの間にかゴーレムのHPは残り僅かとなっていた。


「これで決めるわっ!! 援護しなさいリュウナっ!!」


「了解!!」


 先のような投擲の構えを見せる彼女に返事をしつつ、こちらも武器を構え直す。CTの回復した【瞬歩】を起動。大木の枝を足場にして飛び回り、ゴーレムの注意を引きつつ攻撃。

 ———不意に、その首元の瓦礫の隙間に何か文字のようなものが見えた。


「あれは…………そうか、やっぱりそういう弱点もあるのか」


 はっきりとは見えなかったが、あそこに書かれている文字が私の予想通りなら、ゴーレムを一撃で屠ることができるかもしれない。


「シャルルっ!! 首元だ!! ゴーレムの首元にある文字を狙えっ!!」


「首の文字……ああそういうこと! お手柄よ、リュウナっ!!」


 そう口にした彼女の構える槍がおもむろに黄金に輝き始める。纏う魔力のオーラは、屋敷で私が【明鏡止水】を使った時と同等の圧を秘めており、それが分厚く折り重なるようにして槍の穂先を覆う。鋭い先端には紫電が舞い、彼女の見開かれた双眸が鷹の眼のようにゴーレムの急所を捉えた。


覇道葬舞槍(はどうそうぶそう)終極(フィーネ)っ!!」


 直後、一筋の光がゴーレムの首元を貫き、ズガァッという瓦礫が破砕する轟音が森に響き渡った。

 避難した大木の上から僅かに見えたのは『EMETH』……ヘブライ語で『真理』を意味する単語の頭文字である『E』が、粉々に砕け散る様だった。

 残った『METH』は同語で『死』を意味する。ヴェスティージアのゴーレムは、伝承通り最大の弱点を貫かれながらその身を大地に転倒させると、それに続いてガラガラと全身の瓦礫や煉瓦が崩れ去っていった。


「……終わった……か」


 一気に身体の緊張が抜けていく。降り立った地面がまるで磁石のように全身を引き付け、思わず膝から崩れ落ちそうになる。実際の肉体は一切疲れていないというのに、精神的な疲労というのは侮れないものだ。


「良い働きだったわよ、リュウナ。まぁ、収支的にはかなりギリギリだけど」


 見事にパーティー結成時の有言実行を果たしたシャルルが、やや小悪魔味の薄れた笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。


「そうか……だが助かった。ありがとう」


「感謝は要らないわ。その代わり、ドロップアイテムについては少し融通してもらうけど、いいわよね?」


「ちゃっかりしているな……別に構わないぞ。MVPは間違いなくそっちだからな」


 それに、今は一刻も早く第二の街に向かってログアウトしたい。視界端の時刻表示を見ると、もう夕食の時間まで十分も無い。ここから全速力で走ってもニ十分以上は遅れてしまうだろう。

 とはいえ、別に時刻を過ぎたら何かペナルティがあるわけでもない。ゴーレムの討伐と同時に周囲の炎も消えていた。もう少しだけ、この勝利の余韻を味わうのも悪くないかもしれない。


 ゴーレムのドロップアイテムを回収後、私とシャルルはその場で別れることにした。どうやら彼女の方は別の街で知り合いと待ち合わせしているらしい。最後に一応フレンド登録するか訊いてみたが、何故かそちらはきっぱりと断られた。その際あちらの表情に僅かな陰りが見えたのは気になるが、この世界で他人の事情に深く首を突っ込むわけにもいかない。

 私は改めてエリクサーの感謝を伝えてから、第二の街方向に駆け出していった。


「ん? なんか妙に肩が涼しいような……あっ」


 今の今までどうして忘れていたのか。先程右腕に光線を食らった所為で、着物の右肩から先が焼失していたのだ。これはもう繕う繕わないの話ではない。街に着いたら速攻で服屋に寄って買い替えなければ。




「……悪いわね、リュウナ。正直、あたしはあんたが苦手なのよ。正確には、あんたの喋り方が現実の……気に食わない女のそれと似ているから……我ながら酷い八つ当たりだけど」


 黒衣の槍使いは、遠くで駆ける一人の剣士に聴こえぬ声量でそう呟くと、森の南側に向かって静かに歩き出すのだった。




PN:リュウナ 所持金 [69598 G]

メインジョブ:剣聖 Lv. 39

サブジョブ:※解放条件未達成


《ステータス(成長係数)》

HP(生命力):480

MP(魔力):126

SP (スタミナ):194

STR(筋力):202(40)

VIT(耐久力):10(0)+ 50

DEX(器用さ):44(5)

AGI(敏捷性):164(30)

INT(知力):39(5)

LUK(運):101(20)


《装備(見た目)》

武器:聖刀〈無窮合一〉 ウェッポンスロット①:柞木(イスノキ)の白刀

            ウェッポンスロット②:悪夢ノ大利鎌(ナイトメアリーパー)

頭:無し(虚栄(きょえい)の仮面)

胴:無し(剣士の着物)

両手:無し(無し)

腰:無し(剣士の袴)

両足:無し(剣士の足袋)

アクセサリー:無し(清純の髪留め)


《オリジンスキル》

【剣聖ノ圧】【金剛穿刺】【明鏡止水】


《コモンスキル》

【居合切り Lv. 9】【兜割り Lv. 5】【断壁 Lv. 6】【鍔打ち Lv. 2】

【双月斬り Lv. 5】【ステップフット Lv. 10(進化可能)】【縮地 Lv. 7】

【影纏い Lv. 6】【霊鬼活殺 Lv. 4】【瞬歩 Lv. 5】【流々合気 Lv. 3】

【ジャストパリィ Lv. 3】【岩砕(がんさい)心得(こころえ) Lv. 1】【飛翔斬(ひしょうぎ)り Lv. 1】


《加護》

・剣神の加護

・■■■■(※解放条件未達成)の加護?

 この後、先の熱線は虚栄の仮面の効果を使えば容易に防げたのでは? と気付くも、時すでに遅しと第二の街到着直後にガックリと肩を落とすリュウナでした。

 まぁ、あの一瞬で熱線を受け流す判断ができただけでも充分凄いのですが……。

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