背炎の陣
放物線を描いて飛来する岩を互いに横っ飛びで避ける。車並みの大きさのそれは近くの大木に衝突すると、その幹に削岩機でも使ったかのような大穴を開けた。
「あ、あの腕でまだあんな真似ができるのか」
「ここに来て遠距離攻撃してくるとか……やっぱり先に片腕を潰したのは正解だったみたいね。両腕を使われていたらそれこそ、避けた先で二投目の下敷きになっていたかもしれない」
「流石にあの攻撃は弾けないぞ」
「そうね。普通なら今みたいに避けるか、打撃武器持ちの人間に砕いてもらうんだけど、私は槍であんたは剣だし、そもそもSTRが圧倒的に足りないわ。なるべくあの攻撃はさせないよう立ち回るわよ」
「承知した」
再び武器を構えてゴーレムへと肉薄する。彼女の言う通り、比較的相手に近い位置にいると先の投石は来ないようだ。代わりに左腕が低い位置からの振り抜きで二人まとめて薙ぎ払おうとしてくる。
それを【断壁】によって勢いの乗った聖刀で受け止めつつ、腕の下に滑り込ませると同時に【流々合気】を発動する。耐久値無限故に刀身は撓むことなく、その刃の上を滑るようにしてゴーレムの腕が浮き上がった。
「ナイスガードよっ!!」
シャルルは黒髪を揺らしてこちらに不敵な笑みを向けると、腕の下を通り抜けてゴーレムの左脇腹へ向かった。槍の全身がスキルエフェクトを発し始め、跳躍した彼女が右腕を突き出すのに合わせてそれが炸裂する。ガリガリと煉瓦の体表面が掘削され、その向こうにある骨組み部分まで突き刺さった。
「【誘爆芯刺】っ!!」
ドォンッと爆発音が鳴り響き、相手の肩部分の煉瓦が大きく吹き飛ぶ。完全に装甲を剝がされたゴーレムは、痛みかもしくは怒りを露わにするように咆哮を上げた。
「ゴオオオオオッ!!」
「これで落ちなさいっ!!」
大木の幹を蹴ってゴーレムの頭上に飛んだシャルルが、赤色のエフェクトを纏わせた槍を振り被る。空中での一回転を挟んで勢いのつけられたそれは、一条の彗星となって相手の身体と腕の継ぎ目を支える最後の柱を貫いた。
直後、ベキベキと鈍い金属音を立ててゴーレムの左腕が千切れ、濛々と土煙を立てて地面へと落下する。ついに主な攻撃手段を失ったそれは、無数の残骸でできた顔面に驚愕の色を浮かべながら体勢を崩した。
「よっし! これでもうアイツはただの木偶の坊同然よ。あとは体力がゼロになるまでひたすら攻撃を……って……え、なにあれ……どういうこと?」
「ゴーレムが……燃えてる?」
先刻まで全身を赤熱させていたゴーレムが、今や火だるまの如き姿となっていた。てっきり討伐に際した特殊演出かと思ったが、その頭上に表示されたHPバーはまだ目に見えて残っている。
二人揃って首を傾げかけた次の瞬間、ゴーレムの目元が怪しく光ったと思えば、姿勢を崩した状態からまるでレーザー光線のようなものがこちらに向けて照射された。
「うわっ!?」
「あっぶなっ!?」
寸でのところで光線を避ける。ゴーレムの足元から一直線に地面を削りながら進んだそれは、次いで照射された軌跡上の全てを爆風で吹き飛ばした。
「は……はぁ!? 何アレ!? あんなのもう巨〇兵じゃん!!」
「ボロボロな見た目も相まってそれっぽいな……」
などと、シャルルの台詞に同意している場合ではない。今しがた発射された光線の付近に立っていた木々が、あまりの熱量故に燃え始めている。このまま継戦すれば恐らく、周辺一帯が火の海と化すまでそう時間はかからないだろう。そうなれば、如何に頑丈な肉体を持つプレイヤーと言えども、持続ダメージによる焼死は免れない。
「見た感じ、アイツのHPはもう四割も残ってないわ。私はこのまま大技で残りを削るから、あんたはゴーレムの注意を引きなさい。あと、なるべくあのレーザー光線は出させないように」
「近接戦をしろと? 残りHPが四割を切っているとはいえ、あのゴーレムはこの森のフィールドボスだろう。あっちのHPが全部削れるより先に、こっちのHPがゼロになるぞ」
「わかってるわよ。いざとなったら回復アイテムをぶつけてあげるから、それまで耐え切りなさい。でないと仲良く焼死する羽目になるわよ。嫌でしょ? あたしと心中は」
青年の外見でニヤリとほくそ笑みながらそう言う彼女に、私は全身にゾワゾワと鳥肌が立つのを感じながら「まっぴらごめんだ」と返した。
「じゃ、頼んだわよ」
押し付けた、の間違いだろうとツッコミたくなる衝動を何とか抑え、聖刀を構え直しつつゴーレムを見やる。全身の炎は相手の足元の草花を徐々に燃やし、レーザー光線による火炎の檻と合わせてこちらを挟み撃ちにしようとしている。聖刀の持つ状態異常耐性がどの程度まで有効か分からないが、少なくとも直接炎に触れられるのは避けるべきだろう。
フィールドが時間経過で狭まっていくと考えればいい。その他、周囲に立ち並ぶ大木を上手く使ってゴーレムを引き付ける。全く、なんて中身のスカスカな作戦だろうか。
「でも、やるしかないか……」
一度大きくため息を吐いてから【ステップフット】を起動。レーザー光線は遠距離攻撃なので、近距離に敵がいる時は放ってこないはず。しかし、その分こちらは両脚による地震や踏み潰し攻撃などを食らうリスクが高まる。攻撃は最小限にヒットアンドアウェイを繰り返すのが有効だろう。
「【双月斬り】っ!!」
打撃属性を帯びた聖刀でゴーレムの片脚にスキルを放つ。直後、踏み潰しのモーションに入るのを察知し、すぐさま【瞬歩】で近くの大木に跳躍。数本の枝を足場にして地震攻撃を回避したら、そのまま高い位置からゴーレムの肩の断面に向けて跳ぶ。
「【金剛穿刺】っ!!」
「グオオオオッ!!」
思った通りだ。如何に無機物で形成された身体と言えど、その各部位には人間と同じように痛覚が存在する。傷口に触れれば痛みを伴うように、腕の失われた肩の断面もまた、他よりもダメージの通り易い弱点部位なのだろう。それを重点的に攻撃すればより効率的にヘイトを稼げる。だが……
「———熱っ……くはない。なるほど、これが熱によるダメージか」
攻撃するたびにゴーレムが全身に纏う炎による熱波がこちらを襲う。ダメージ量が思ったよりも少ないことから、防具などのVITに依らない固定値なのだろう。耐久力が貧弱な私としては幸いだが、それでもこのまま攻撃を続ければレベル 38 のHPなどすぐに無くなる。
「オオオオオッ!!」
おまけに、こちらが地面へ着地すると同時にゴーレムが片脚を蹴り出してくる。その速度は決して速くはないが、大質量の物体が炎を纏って向かってくるため、下手に回避しようとすれば膨張した空気と衝撃波で吹き飛ばされかねない。
「弾くしかないか……【ジャストパリィ】っ!!」
CTが回復していて助かった。【流々合気】ももう少しで再使用可能になる。各々を三十秒毎に使い回すことができればギリギリ耐えられるだろう。
聖刀に弾かれたゴーレムの片脚の先が先刻のように砕ける。片足立ちから崩れた態勢で続けざまに放てる攻撃は無い…………そのはずだった。視界の端で【流々合気】のCTが回復した表示が浮かんだ直後、その先では薄っすらとゴーレムの目元が赤く輝いていた。
「———リュウナ、避けなさいっ!!」
同時にゴーレムの弱点部位を攻撃していたらしいシャルルが、焦った表情でこちらに叫びかける。しかし、それに私が気付いた時にはもう遅かった。
苦し紛れの反撃とばかりに双眸から放たれたレーザー光線が、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。加速された時間の中、その接触まで一秒の猶予もないことを悟る。もはや回避は間に合わない。
手元の柄を握りしめ、そのまま聖刀の峰を光線の延長線上に重なるように置く。
「————」
果たして、耐久値無限の武器の峰を撫でた熱線は、受け流し損ねた一部で私の右腕と右肩を焼き焦がしながら遥か後方の大木まで突き進み、着弾地点で大爆発を引き起こした。




