巨大ゴーレム VS 即席ペア
大型の魔物と戦う際に気を付けるべきは、その攻撃力の高さではなく攻撃範囲の広さだという。そも図体がでかい上に質量も半端ではないため、直撃を避けたとしても衝撃波だけでかなりダメージを負うらしい。故に、攻撃の合間を縫って敵にカウンターを仕掛けるアタッカーも防御面には気を配る必要があり、タンクとなるプレイヤーは更に自身のVITやHPを補強するスキルおよび装備を整えなくてはいけない。
つまるところ、十分な対策無しに真っ向から挑んでよい相手ではないのだ。ましてや全プレイヤー中(恐らく)最低値のVITである初心者を壁役に、たった一人のアタッカーで討伐を目指すなど常軌を逸している。少なくともあと一人回復役がいなければまともに機能しない、と私の知る人達なら口をそろえて言うに違いない。
「オオオオオッ……!!」
全身を赤熱させたゴーレム(暴走状態)が、こちらの蛮勇さと無謀さに怒りを露にしたような咆哮を上げる。実際無謀なのでぐうの音も出ないが、妙な約束をしてしまった以上もう引き下がれない。
「時々地震を起こして動きを止めに来るから、アイツの足が垂直に上がったら気を付けなさい。他は全部避けるかパリィして。攻撃自体は基本的に大振りだから隙は多いけど、油断すると踏みつぶされるから。あんたはとりあえずアイツのヘイトを稼ぐことだけに集中して」
「わかった。だが随分とアレの動きに詳しいな。今回が初めてじゃないのか?」
「おね……知り合いから聞いたのよ。正しい攻略法さえ見つければ、今の私でも倒せるって言われて……丁度週末にイベントもあるし、今日はそれに向けた腕試しみたいな感じね。あんたはどうしてここに?」
「私もイベントに参加しようと思っていたんだが、そのためには第三の街まで行く必要があると聞いてな。今日中に第二の街まで向かって、明日にまた第三の街を目指すつもりだったんだ」
「それはご愁傷様。この私に捕まるなんて運が無かったわね」
「ああ。LUKの成長係数をもっと上げておくべきだった」
まぁ、どうせ上げても上げなくてもリアルラックが低い私だ。何らかの形でトラブルには巻き込まれる運命だったのかもしれない。それがシャルルだったというだけの話だろう。
「じゃ、あとはよろしくね。私はまずあの左腕を落としてくるから」
彼女はそう言うと、脚力強化と跳躍のスキルを駆使して瞬く間に周囲の大木群を登っていった。非常に慣れた動きだ。ルナセラほどではないにしろ、体操関係の才能は人並み以上にあるらしい。
「才に性格は起因しないのか……」
かく言う私も他人の事を言える立場ではないが、少々この世の残酷さに頭痛がしてきそうだった。
こめかみを押さえつつ正面を見やる。ズンズンとこちらに向かってくるゴーレムの歩幅は先程よりもやや短く、テンポも早めになっていた。ふぅ……と軽く息を吐いて覚悟を決める。
「やるしかないか……」
おもむろに聖刀を下段に構えて駆け出す。相手側の移動速度は依然上がらない。歩行の概念はあっても走行の概念は無いようだ。代わりに振り上げられた左腕が、風圧と共にこちらの頭上へと落下してくる。
私は【ステップフット】を起動すると、一度右に大きく移動してから次いでフェイントをかけるように左へ方向転換した。予想通り、ゴーレムの腕は私のいる場所から大きく右にズレた位置に着撃し、土煙を巻き上げた。
「よし。この隙に私も脚を……なっ!?」
今しがた地面に叩きつけられた左腕が、そのまま大地を抉りながら迫ってくるではないか。私は思わず【瞬歩】を使って斜め上に跳躍すると、丁度その先にあった大木の枝を片手で掴みぶら下がった。
「なるほど……単に腕を振り下ろすだけじゃないのか」
ステップフットの効果が切れる直前に木の幹を蹴ると、私はその勢いを利用してゴーレムの右脇腹へ刀を振り抜いた。打撃属性を含むおかげで胴体の煉瓦は幾つか削れたが、足の指を破壊した時のような手応えは無い。降り立った地面を再び駆け出し、相手のヘイトが常に自分へ向くよう立ち回る。
「【一刺穿硬】っ!!」
背後に回ったシャルルが槍の穂先をゴーレムの肩に突き刺さる。良いダメージが入っているのかその巨体が大きく揺れる。しかし、その所為でヘイトが切り替わったのか、地上へ降りた彼女の方へゴーレムの腕が伸びた。
「グオオオッ……!」
「リュウナっ!!」
「わかっているっ!!」
聖刀を振り被りながら【縮地】によってシャルルとゴーレムの間に入る。
まずは一回目。自前の動体視力を活かして巨腕と刀が接触する寸前にスキルを発動する。
「【ジャストパリィ】っ!」
直後、鈍い金属音と共にゴーレムの手の指にあたる瓦礫が一瞬で砕け散る。弾かれた左腕は近くの大木に衝突し、姿勢を大きく後ろに崩させた。その隙に今度はシャルルが巨体の脇に移動して跳躍する。ガギィッという音が肩の付け根で鳴り、大量の煉瓦を飛び散らせた。
「まだよ。ちゃんとあんたも攻撃してヘイト管理しなさい」
「それに関しては問題無い。詳しくは言えないが、先のパリィでシャルルに向いていたヘイトの大半を削り取った」
「はぁ? なにそれ。そういうスキル持ちってこと?」
「まぁ、そんなところだ」
実際は武器がそうなのだが、これ以上は個人情報なので黙っておくことにする。
柞木の白刀と共にウェッポンスロットにセットされたもう一つの武器……名を『悪夢ノ大利鎌』という。ユニーククエスト『夢幻の跡にて姫は嘆く』のクリア報酬として、私はこの武器を獲得していた。
その効果は、敵を攻撃時に確率で対象からヘイトを一部刈り取るというもの。自分以外のヘイトも対象となり、成功した場合は刈り取った分のヘイトに応じて自身の SP を回復しつつ、ノックバック効果を付与できる。
マオ先輩曰く、大人数での戦闘にはあまり向かない効果だという。特にタンクのプレイヤーが自分以外にいる場合、ヘイト管理が逆に機能しなくなってしまうからだ。故に、使い時はソロプレイ時か自分がタンクになる場面に限られるのだが、まさかこんな形で使う羽目になるとは思わなかった。
「ふぅん……別にいいけど、あまりスキルに頼り切りなのもダメよ。普通に足元を掬われるから」
「忠告どうも」
「基本知識……よっ!!」
「ゴオオオオッ……!」
見事な空中機動でゴーレムの首に追撃を仕掛けるシャルル。それに合わせて私も腕や足の関節部分へ、チマチマとダメージを与えていく。
案外彼女はゲーム戦闘に関して、上級者並みの経験と常識判断を持ち合わせているようだ。性格がアレでなければ、普通にゲーム同好会の皆と話が合うかもしれない。
「そろそろHPも半分切る頃合いね。行動パターン変化するから気を付けなさい」
「了解だ」
そう返事した直後、赤熱したゴーレムの腕が地面に突き刺さり、次いで地響きと共に茶色の巨岩が引き抜かれる。奴はそのまま腕を前回りに回転させ、投石機のように岩を投げてきた。




