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一人旅

 すみません。後書きのカーソルについての内容が一部間違ってたので修正しました。

 あれよあれよと金曜日。BOOのイベントを明後日に控えた今日、私は先輩からのアドバイスにより放課後の部活を欠席し、第二の街『ツヴァイストレ』に向かうべくBOOにログインしていた。というのも、イベントが開催されるのが第三の街であるため、明日までにはそこへ辿り着く必要があるのだ。

 帰宅後、すぐに洗濯物を取り込んでから夕食の下準備を済ませ、VR機器のヘッドセットを装着した私は、前回のログアウト場所であるアインツトーンの噴水広場へと降り立つと、樹海『ヴェスティージア』への道が伸びる南側ではなく東側の門から平原へと向かった。


「……あ、そうだ。アレを使ってみるか」


 久々のメニュー操作に少し手間取りながらも、アイテムボックスから目当てのモノを見つけ出す。それを見た目装備欄の頭部に選択して完了を押す。すると、瞬時に顔面が透明な膜のようなものに覆われた。


 嘆きの屋敷でマルク王と戦った際の報酬『虚栄の仮面』。見た目こそオペラ座の怪人が身に着けるような(あや)しい白仮面だが、これを使うと自らの顔を含めた全身が白色の靄に覆われる……ように周りからは見えるらしい。効果は魔物からの認識をある程度阻害するのと、頭部への攻撃を一日一回だけ無効化できるというものだ。

 見た目装備として扱うだけでも効果を発揮するため、剣聖である私でも恩恵を得られる。そして何よりも、現実に近いこの顔を隠すことができるのでリアルバレの心配も無い。一石二鳥、いや、三鳥分の価値はあるだろう。着け心地もそんなに悪くない。

 強いて言えば、見た目が不審者か魔物擬きとなってしまうのが欠点かもしれないが、それもなるべく人と遭遇しなければいいだけの話だ。


「とりあえず、夕飯の時間までには街に着かないと……」


 地図(マップ)を開いたままレミニス平原を駆ける。一面が原っぱで覆われていた南側とは異なり、こちら側には北東に広がる森林地帯と遥か向こうの山嶺を望みながら、河川に沿って上っていく街道が続いていた。

 川の流水が奏でる涼やかな音色と、頬を撫でる暖かく乾いた空気はまるで春真っ盛りのような心地よさを湛えており、ここ数日の悪天候によって荒んだ心が洗われるようである。次また訪れる機会があれば、是非ともこの雄大な自然の美しさを堪能したいものだ。


 仮面のおかげか道中の魔物にはほとんど見向きもされなかった。たまに音に反応して襲い掛かってくるタイプもいたが、屋敷の一件でだいぶレベルの上がった今では序盤の雑魚敵など相手にもならない。とはいえ、あまり敵を倒さなさ過ぎるのもスキル習得が滞るので、なるべく進行速度を落とさずにチマチマと狩っていった。


「ん……?」


 平原を抜けて道なりに森林地帯へ入ってから十数分。樹海とはまた異なる植生の広がる周囲を眺めていると、遠くから何やらズン、ズンと地響きのような音が聞こえてきた。その音は段々とこちらに近づいており、それに合わせて今度はメキメキと太い木の幹が複数本折れるような音が鳴った。


「冗談だろう……?」


 少なくとも五十メートル以上は距離が空いているはずだ。しかし、そんな遠方であってもその魔物の姿はしっかりと目に捉えることができる。

 赤茶色の体表面は恐らく風化した煉瓦と赤錆によるものだろう。歩みを進める度に背部の土埃が舞い散り、振られた両腕がゴリゴリと近くの木々の表面を削っている。岩石のような足が薙ぎ倒された草木を踏み砕き、その震動がこちらまではっきりと伝わってくる。


 家が動いている。最初に思いついた感想はまさしくそれだった。

 まさかあれが悠真の言っていた、エリアボスのゴーレムというやつか。何という大きさだ。普通に我が家に手足が生えたぐらいの大きさはあるぞ。一体どういう原理で動いているのだろうか。そもそも何故あんな巨体が自重で潰れず歩行できているんだ。


「ファンタジー……恐るべし」


 あんな森林破壊の権化のような魔物まで存在するとは……というか、あれはプレイヤーが戦って勝てる相手なのか? 文字通りスケールが違いすぎる。刀なんて刺しても刺さらなそうだし、斬ろうとしても弾かれそうだ。

 ゴーレムはそのままズムズムと鈍重な動きでこちらに向かってくる。名前が表示されていないということは、まだ私を敵性存在として認識できていないのかもしれない。


「今のうちに隠れて……」


「ゴオオオオッ……!!」


「……っ!?」


 なんだ、いきなり雄叫びのようなものを上げて……ん?

 顔が……いや、あれを顔を見ていいのかわからないが、とにかく奴の頭部っぽいものがまるで石臼のようにズズズと回転し、次いで建物の残骸を纏った身体が方向転換した。


 どうやら私以外の敵性存在から攻撃を受けたらしい。奴の正面十数メートルの草むらの辺りから小さな影が飛び出す。それは槍を構えた一人の男だった。頭上に浮くカーソルは緑色———プレイヤーだ。

 全身黒ずくめの装備を纏った彼はゴーレムの胸部に思いっきり槍の穂先を突き立てるが、ガキンッという金属音がした以外には外殻の煉瓦を少し削った程度で、今一つ効果は薄いようだった。


「ちょっ、(かた)過ぎ……くっ」


「あっ……!」


 攻撃の反動で跳躍した彼にゴーレムの巨腕が襲い掛かる。その巨体故に動きは鈍重だが、空中で身動きの取れない相手まで逃がす程遅くもない。黒板並みの大きさの平手が彼を正面からのみ込み、小蝿を叩き落とすかのごとく振り抜かれた。


「がはっ!?」


「まずい……!」


 思わず補助系スキルを全起動して走り出す。他人の戦闘に乱入するのはマナー違反と悠真からは聞いていたが、流石に目の前で人が魔物にやられそうになっているのを見過ごすことはできない。

 先の攻撃で地面に叩きつけられた男に追撃とばかりにゴーレムの足が上げられる。私は両者の僅かな隙間に侵入し聖刀を構えると、つい先日獲得した新スキルを使用した。


「【ジャストパリィ】っ!!」


 ジャストパリィは武器で受けた攻撃を確実に弾き返すことができる。魔法や防御貫通といった特殊効果付きの攻撃は防げないらしいが、タイミングさえ合わせればそれこそ巨人のタックルでも弾き返せるという。

 加えて、今の聖刀のウェッポンスロットには『柞木(イスノキ)の白刀』がセットされている。故にパリィ時の一撃は確定でクリティカルとなり、さらに物質(マテリアル)系の魔物の苦手とする打撃属性を帯びた斬撃は、ガラクタで継ぎ接ぎのゴーレムの足先を容易に粉砕した。


「グオッ……?」


「は……」


「え……」


「ゴオオオオ……」


「「えぇーっ!?」」


 ズズーンッと背中から態勢を崩す相手を見て、私と彼は同時に驚きの声を上げるのだった。

 今更ですが、この世界の住人は各々カーソルの色によって見分けることができます。プレイヤーは緑色、NPCは青色、魔物やイベントバトルで戦うNPCは非敵対時に白、敵対時に赤へと変化します。敵の強さによって変化するのはネームカラーのみです。白(雑魚) → 黒(難敵)

 また、犯罪を犯したプレイヤーはカーソルが黄色や赤に変化し、犯罪者表示がプレイヤーネームの横に付きます。……ありきたりですかね。

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