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格闘ゲームと先輩の威厳

 もうちょっとだけ日常回続きます。

 高校生の一人暮らしというのは地味に忙しい。平日は朝早くから自分の弁当と合わせて朝食を作り、食事を終えたらすぐに学校へ行く準備をする。余った時間で冷蔵庫の中身を確認し、放課後にスーパーへ寄るかどうかを判断。ここへさらに洗濯物を干す工程が加わると、いつも以上に早起きしなければならない。


 学校が終わったら途中でスーパーへ寄って足りない食材を補充。その必要が無ければ直帰し、干していた洗濯物を取り込んで畳む。夕食の支度までの短時間で学校の宿題をある程度終わらせたら、夕食と翌日の弁当用の総菜を同時に作る。この時、少し夕食を多めに作っておくと翌朝の手間が省けるので楽だ。

 夕食を終えたら風呂を沸かし、途中だった学校の宿題や他の諸用を済ませればようやく一息吐ける頃合いだ。スマホのアプリで翌日の天気を確認しつつ少しダラダラ……その後、風呂に入ってから就寝の準備を終えたところで洗濯物が溜まっていれば、翌朝に完了するように洗濯機をセット。戸締りをしっかり確認してから自室へ向かい、明日の学校の準備をしてから早めに就寝である。


「……とまぁ、こんな感じです」


「す、凄いね……現役の主婦並みに細かなタイムスケジュールじゃん」


 七弥ちゃんは普段どんな生活してるの、と話題を振った張本人の猫戸先輩が目を猫のように丸くする。同時に、横で会話を聞いていた悠真が何やら気まずそうな表情をして口を開いた。


「七弥……俺、もしかしてかなりお前に無理させるような提案してたのか……?」


「BOOのことか? …………いいや、別にそうでもない。平日は土曜以外ほぼログイン不可能だが、例のイベントのある日曜日は終日暇な私だ。普段は空いた時間を家の掃除や趣味の小説漁りなどに利用しているが、それらを平日の午後にこなすことも別段難しくはないからな」


 それでも普通の高校生よりも時間が無いのは明白である。私がもう少し素早く家事をこなせれば良いのだが、如何せんまだまだ経験が足りない。


「せめて兄か姉がいれば多少は楽だったのかもしれませんが……」


「じゃあ私が七弥ちゃんのお姉ちゃんになろうかっ!?」


「と、唐突なぶっ飛び発言きた……!」


「……猫センパイ……ちょっと変人」


「ちょっとか? 本当にちょっとか?」


「む、月の字の言う通り……訂正、猫センパイはだいぶ変人」


「よし」


「よし、じゃないんだよ。君達二人は私という先達への敬意が足らなすぎない?」


 当人からの言葉に悠真と雪乃は顔を見合わせると、次いで至極怪訝な表情のまま同時に首を傾げた。それに猫戸先輩は膨れっ面でぷんすか怒り、そんな彼女を日野塚先輩が再び止めにかかる。一日空けて水曜となる今日も、ゲーム同好会の雰囲気は一昨日と何も変わらぬままであった。


「ぐぬぬ、こうなったらゲームで勝負だ! 『大戦争ブレイクシスターズ』やるよ!」


「あ、すみません。俺これから日野塚先輩とチェスやる先約があって」


「私も……冬樹兄と素材周回ある」


「ガーンッ」


 両者から対戦を丁重に断られた猫戸先輩。その威厳は、もはや先輩と呼ぶのもままならない程に落ちていた。しょぼくれた背中はまるで雨の日に捨てられた子犬、もとい子猫のようである。故にと言うべきか、私の手が自然と彼女の小さな肩を叩いたのは道理だったのかもしれない。


 ゲーム同好会の部室には色んなゲーム機器があった。その中でも猫戸先輩は、テレビモニターに接続された板状の機器とワイヤレスのコントローラを二つ取り出すと、片方を私に差し出してきた。


「七弥ちゃんは『新天道ヌイッチ』使ったことある?」


「新てん……何ですかそれ?」


「噓でしょ、ヌイッチ知らないの!? え、もしかして他の家庭用ゲーム機とかも持ってない感じ?」


「そうですね。この間使ったVRゲームのヘッドセットが人生で初めて触れたゲーム機です」


「マジかぁ……もしかしなくてもご両親が厳しい感じ?」


「いや、七弥の場合は単にゲーム自体に興味が無いだけです。元から世俗に疎かったというか何というか……あ、待ってください先輩それはああああっ!!」


「余所見はいけないねぇ、悠真君」


 遠くから会話に口を挟んできたと思えば、日野塚先輩による痛恨の一手に頭を抱える悠真。そのテンションのふり幅の激しいこと。私は半笑いで彼を一瞥してから、再び猫戸先輩に向き直った。


「その……一応は悠真の言った通りです。すみません、ゲームに興味無いのに入部してしまって……」


「いいのいいの! ウチはたとえ幽霊部員でも歓迎な部だから全然問題無し。それに七弥ちゃんもBOO始めたわけだし、もう立派なゲーマーだと私は思うよ。こっちこそ変な勘繰りしてごめんね」


「とんでもないです。ありがとうございます、先輩」


 私が感謝の言葉を伝えると彼女はおもむろにこちらの頭を撫でてきた。ソファに座っている所為かそれほど目線の高さは違わない。先は軽い冗談のつもりで言ったつもりだったが、案外自分に姉がいたとしたらこんな感じなのだろうかと思ってしまう。とはいえ、性格が真逆過ぎて喧嘩が絶えなさそうな気もするが。


「よーっし、今日は私が直々にこのゲームのプレイ方法を伝授しようじゃないの! 先輩らしく! 手取り足取り色々と……ぐふふふ」


 奇怪な笑い声と共にその丸眼鏡の奥が怪しげに光る。表情が数秒前と明らかに違って見えるのは何故なのか。そして、この背中に走る異様な悪寒の正体は一体なんなのか。

 この後、開始された『大戦争ブレイクシスターズ』において、猫戸先輩はやけに柔道やプロレスの寝技を使ってきたのだが、途中から参戦した雨宮兄妹によって速攻袋叩きにされ、さらには日野塚先輩との勝負に負けた悠真が私のキャラで圧倒してしまった。彼女の威厳がどうなったかは言うまでもないだろう。

 ちなみに、七弥はコントローラ操作時に一緒に身体が動いてしまうタイプです。

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