初めての部活仲間
「ご、ごめんなさい。僕達あまり他人と会話するのが得意じゃなくて……」
「初対面の相手だと……さっきみたいに、何も言えないまま……」
「い、いや、こちらこそ自己紹介が遅れてしまって申し訳ない……私もこういう機会にはあまり慣れていなくて」
互いに先の失態について謝罪しながらペコペコと頭を下げ合う。ほんの少し前まで抱いていたネガティブな印象はどこへやら、漂ってくる同類の気配に私はただ驚きと微かな安心感を抱いていた。
私は一度コホンと咳払いすると、改めて二人に対し自己紹介を行なった。
「その……龍宮院七弥だ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします。僕は、雨宮冬樹、です」
「ん……雨宮雪乃」
「二人は兄妹なんだよー。見た目が物凄い似てるから一瞬どっちか分からなくなるけど、何回か会っていれば七弥ちゃんもすぐに見分けられるようになるよ。ちなみにこっちが冬樹君で、こっちが雪乃ちゃん」
「駒音、逆逆。そっちが冬樹君でこっちが雪乃さん。ていうか制服で見分けられるでしょ」
「え……えっ!? あれぇー!?」
「おやおや、先輩の目は節穴でございますかー?」
地味にムカつく笑みと共に揶揄ってきた悠真に、猫戸先輩が顔を真っ赤にして殴りかかる。コノヤロウっと握った拳を何発も彼の背中や脇に打ち込むがしかし、あまりにも非力過ぎて今一つのダメージも入っていないようだった。
「あはは……でも実際、僕達は二卵性の双子なので結構違う部分は多いんですよ」
「……冬樹兄は、臆病で……私は、コミュ障」
「もっと単純に言うと、僕は人が苦手で、雪乃は話すのが苦手なんです。それでも、昔よりはかなり話せるようになりました。僕と同じタイミングで、話そうとするぐらいには」
「兄も……初対面抜けたら、普通に……話せる」
雪乃がそう言って微笑むのを見て、冬樹の方も照れくさそうに頭の後ろを掻く。
物怖じするが会話に難は無い兄と、物怖じしないが会話に難有りの妹。確かにこの二人は似ているようで真逆なのかもしれない。それでも二人揃ってなら今のように会話が続けられる。その形は世間一般の兄弟姉妹とは若干異なるが、兄妹間の特別な繋がりとしては普通よりも格段に強固なのだろう。
「おーい、そろそろ活動を開始したいんだけど。そこの二人、不毛な争いは終わった?」
「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……私はまだ、やれるよ……」
「あ、気にせず始めちゃってください」
「うわぁ、悠真君の腰に猫戸先輩がゾンビのようにしがみついてる……」
「……哀れな……」
雪乃の発した呟きに私は無言で同意した。
そこからは早かった。日野塚先輩が執念深く張り付く猫戸先輩を悠真から引き剥がし、猫にするように脇を抱えて部屋の奥へ連れて行くと、何故か置かれていたモフモフのソファーにポイッと彼女を放った。むぐっという呻き声で生存確認を取った彼は、ヨシと頷いてから近くのホワイトボード前で柏手を鳴らしたのだった。
「さて、それでは本日の活動を開始しよう。好きな場所に座って。ゲーム同好会各位、確認するまでもなく全員揃っているね。今日は龍宮院さんが新たに来てくれたわけだし、今一度この部の活動方針をおさらいしておこうか」
「日野塚先輩、一ついいですか?」
「はい、悠真君。何かな?」
「ずっと疑問だったんですけど、ウチってそもそも部活なんですか? それとも名前にある通り同好会なんですか?」
「一応、登録名義では部活動の仲間ではあるよ。ただ、文芸部みたいに個々の作品をコンクールに出すことも無ければ、運動部みたいに何か一丸となって達成すべき目標も無い。だからこそ、ウチの活動方針は『自由気ままにゲームを楽しむ』ってことになっている」
なるほど。それであれば『ゲーム部』ではなく『ゲーム同好会』と名付けたのにも合点がいく。同好の士が寄り集まって過ごしているだけなのだから、わざわざ部活と称して義務感を持たせる必要は無いというわけだ。参加も基本的に自由なのはそういった理由からだろう。
「し、質問です。日野塚先輩」
「冬樹君、どうぞ」
「同好会の活動費用とかはどうなっているんですか? ウチが他の部活と違って学校に貢献できる面が無い以上、生徒会も予算を出し渋ると思うんですけど……」
「確かに。最悪の場合、同好会ごと取り潰される可能性も———」
「それに関しては大丈夫だよ。今のところはね」
体力の回復したらしい猫戸先輩が、ソファにうつ伏せで寝転んだ状態から顔だけ上げて答える。その台詞の意味をイマイチ理解できていない私達に、日野塚先輩こう続けた。
「実を言うと去年、このゲーム同好会は実際生徒会によって潰されかけたんだ。理由は冬樹君が懸念した通り、学校に貢献できる面が無く、予算を出す必要性が感じられないためというものだった」
「んで、当時の三年生の先輩達がどうにかして同好会を存続させようとして、無謀にもかるたの全国大会に出場を申し込んじゃったの。かるたも一応日本の伝統的なゲームなわけだから、これで良い成績残せたら同好会の存続を認めろって条件を、後だしで提示してまでね。ま、普通は無理だと思うよねぇ……」
「だけど先輩の一人に百人一首が滅茶苦茶得意な人がいて、その人がなんと初出場で上位入賞しちゃったもんだから、生徒会は大慌て。半ばまで進めていた廃部手続きを差し戻して、渋々同好会継続の契約書に判を押した。その期間が向こう二年間……つまり、僕らが卒業する少し手前まで有効なんだよ」
「だから、今のところは大丈夫だと」
「うん。それでも君達が三年に上がる頃には、廃部の話も復活するかもしれない。だから一応、僕らの方で色々と生徒会と交渉してみようとは考えている」
「というと、生徒会の仕事の下請けをする代わりに、廃部を見逃してもらう……とかですか?」
咄嗟に思いついたらしい例を冬樹が日野塚先輩に尋ねる。しかしやはりと言うべきか、彼はすぐに首を左右に振った。
「残念ながら、そういう類の裏技は学校側が禁止している。生徒会による特定の部活への依怙贔屓と受け取られかねないからね。公平性を保つ必要がある以上、交渉の手札は常に自分達が持っているものに限定される。要は過去の実績や将来性、部活の人気度合いなどが秤にかけられるってことだ」
「過去の実績は兎も角、残り二つに関しては現状限りなく薄いっすね……」
「ま、その過去の実績ですら殆ど偶然の産物だからね。だってその先輩が百人一首得意だった理由が、『イケメン百人一首』って乙女ゲームでキャラの好感度上げるために、ひたすら歌読んでたからだよ? 爆笑通り越して狂気に触れてるよ。あと友人キャラに『忍ぶれど~』の歌を贈ったら、何故か百合の花が咲いたって裏ルートも———」
「はいはいとにかくね。現状僕らにできることは一つだけ。実績を作ること。これ以外に二年後の同好会存続の道は無い。かと言って、他の部活のように大会で好成績を残すために、今の活動方針を曲げるのも避けたい。このままだと二律背反に苦しみそうなところだけど……」
日野塚先輩はそこで一度台詞を切ると、背後のホワイトボードにペンで何やら文字や記号を書き始めた。それはどこか見慣れた言葉であり、つい先日も目にした記号であった。こちらに背を向けたまま先輩は話を再開する。
「一つ手が無い事もない。運営の告知通りなら今からおよそ三か月後、丁度夏休みの終盤頃にBOO内で今年二回目の P v P の大会が行われるはずだ。この大会にこの場の全員で出場し、誰か一人でも上位に入賞することができれば、昨年の功績と合わせて少なくとも向こう三年は同好会を存続させることが可能になる……はず」
「はず……なんですか?」
「まだ生徒会と交渉していないから確証は無い。けど、この大会は来週にあるような通常イベントと違って、実際に運営側から入賞者に賞金が出る。BOOのプロモーションや、フルダイブ型ゲームのeスポーツ業界への展開を目的としたものらしいからね。それなら、他の部活の全国大会やコンクールとほぼ変わらない。生徒会が首を縦に振らない理由は無いだろう、と僕は考えている」
日野塚先輩はそう言ってカポッとペンの蓋を閉じた。一年生は全員唖然としていた。恐らく猫戸先輩だけは事前に聞かされていたのだろう。ソファの上で両肘を突きながらニヨニヨと笑う姿は、あちらの世界の彼女を彷彿とさせた。
「ま、全ては生徒会との交渉が上手くいってからだ。とりあえず、皆には僕がそういう心積もりだということを知ってもらいたかった。以上、話終わり。うん、かなり大元から脱線しちゃったね」
「あれ? そういえば私達何を話すつもりだったんだっけ?」
「同好会の活動方針についてですよ。そこから俺と冬樹の疑問があって、生徒会の話になり……って感じで内容が発展しましたね」
「おお……まるで産業革命みたいな早さだね」
「ちょっと何言ってるかわかんないです」
「……むしろ高度経済成長……」
「ば、バブルの到来……?」
「そして瞬く間に弾ける」
「失われた三十年…………皆意外と近代史強いね」
「あれ? これって俺がおかしいんです?」
安心しろ悠真。多分発端の猫戸先輩以外誰も何も分かっていない。私も単にニュアンスだけで連想ゲームをしていただけだ。
そして、自由気ままにゲームを楽しむことがゲーム同好会の活動方針ならば、これもまた活動の一つと言えるのだろう。些か想像とは異なったが、これはこれで中々悪くない。
ふっ、と内心溢した笑みとは裏腹に窓の外では未だに雨が降り続いていた。
『イケメン百人一首』。ある日、主人公は入学した高校のかるた部体験入部をきっかけに、様々なイケメン達と百人一首をすることになる。かるたを取る時に偶然手と手が重なってトゥンク。前のめりになり過ぎてイケメンに倒れかかってしまいトゥンク。相手高校のイケメンとの勝負に勝ち、「あんた、おもしれー女だな」と興味を持たれてトゥンク。総勢十数人のイケメン達と繰り広げる新感覚乙女ゲーム。
実は友人キャラ数名との裏(百合)ルートもある。逆もある? 婦(腐)女子ご用達。
これをやると、何故か現実でイケメンよりも百人一首に意識が向かうようになる。
上の閑話ですか? いやぁ……流石に書きたくないですね。




