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再会はデジャヴのように

 あれよあれよと時は進んで放課後。篠田とその取り巻き達は、朝の一件からずっと鳴りを潜めている。どうやらこちらを危険人物として認識したらしく、何人かが偶にこちらを睨んでは目が合いそうになるとすぐに顔を逸らしていた。その様子を見た周りの人間がまた妙な噂を立てないか心配だが、少なくとも前よりは聞こえてくる陰口が減った気がする。


「七弥、今日どうする?」


 ホームルームを終えた矢先、前の方から寄ってきた悠真が問うてくる。その真意は明らかだ。それにあれほど関わっておいて今更顔を出さない方が不自然だし、何より良くしてくれた彼らへの礼儀に欠ける。

 私は学校指定の鞄のチャックを閉めると、彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。


「行く」


「おし。それじゃあ一緒に行こうぜ」


 それを合図に席から立ち上がると、未だ喧騒の絶えない教室を悠真と並んで後にした。




「ね、ねぇ……篠田さん。やっぱりあの二人って付き合ってるの……?」


「知らないわよ。多分付き合ってはいない……はず」


「本当に? あの子が嘘吐いてるとかは……」


「さぁ? それもあるかも……けど、ちょっと意外だった……」


「え、どういうこと? ていうかその首の痣、どうしたの?」


「……別に。少し加減を間違えただけよ」


 彼女はそう言って首元に手を当てると、他の女子達と一緒に教室を出ていった。



             ○   ○   ○



「ようこそ我らがゲーム同好会の部室へ」


「歓迎するよ七弥ちゃん!」


 うーん、つい二日前にも似たような台詞を聞いた気がする。

 あの時と違うのは周りをゾンビや喰人種(グール)が徘徊していないところと、部屋の広さが安全地帯の半分ぐらいしかないところだ。目の前でクラッカーをパァンと鳴らすのは当然、猫戸先輩である。


「お邪魔します」


「先輩達、相変わらず準備早いっすね。俺が連絡したのたった一分前ですよ?」


「何言ってるの。一分もあれば剣を何本改造できると思ってるの?」


「1秒が 60 フレームだから単純計算で 3600 フレームもあるしね。むしろ長い」


「うわぁゲーム脳……日野塚先輩に至っては人間の思考じゃない」


 ドン引きする悠真をよそに私は改めて二人に目を向けた。

 猫戸先輩はこの場の誰よりも背が低いところはゲーム内と同じだが、濡れ羽色の髪は直毛で癖が全く無く、ミディアムに可愛らしく切り揃えられている。加えて、きちっと羽織られたブレザーに校則順守のスカート丈と赤色のリボン、そして極めつけにその目元で怪しく光る丸眼鏡には、絵に描いたような優等生らしさがあった。

 一方の日野塚先輩はゲームの時よりもやや小太りだが、悠真よりも背丈のあるおかげで遠目にはガタイが良く見える。校則順守の髪型に黒縁の四角眼鏡。やや暑がりなのか、ジャケットを脱ぎワイシャツ一枚になった姿はまるで、ホッキョクグマが制服を着ているようにも見える。


 なるほど。だからあだ名がシロクマなのか。


「こっちだと約一ヶ月半ぶりかな。また逢えて嬉しいよ龍宮院さん。改めて、僕がこのゲーム同好会部長の日野塚哲郎だ。今後ともよろしく」


「猫戸駒音だよ。一応副部長だから何かあったら頼るとよろしい!」 


「はい。よろしくお願いします。日野塚先輩、猫戸先輩」


 私がお辞儀をして握手すると、二人はとても嬉しそうに笑ってくれた。


「それじゃあ次に僕ら以外の部員も紹介するね。悠真君は同じクラスだからいいとして、残りの二人とは今日が初顔合わせだろうから」


「冬樹君、雪乃ちゃん、ちょっといいかなー?」


 猫戸先輩が振り返って部室の奥の方へ呼びかける。すると、長机の陰からのそのそと二人の男女が立ち上がった。共に目元付近にまで伸ばされた長い髪が特徴で、両目が完全に隠れてしまっている。それでも足取りはしっかりしているのでちゃんと見えてはいるらしいが、こちらへ来るまでの挙動が些か不審だ。胸元のリボンとネクタイが私や悠真のと同じ青色であることから、どうやら彼らも一年生らしい。


「カムヒアカムヒア。えーそれじゃあ……どっちからにしようかな?」


「普通に自己紹介してもらったら?」


「あ、それもそうだね。コホン、では互いに自己紹介よろしく!」


「…………」


「…………」


「…………」


 束の間の静寂が部室を包む。聞こえるのは廊下を通り過ぎる生徒の声と、何処かで鳴るピコピコという電子音のみ。互いが蛇に睨まれた蛙状態で停止したまま早十秒が経過した。

 そこで私ははたと気づく。たとえ先輩二人が快く受け入れてくれたとしても、他の部員達まで同じだとは限らない。一ヶ月遅れの来訪に加え、学校内で地味に良くない噂を抱える問題時の私が来たとなれば、決していい顔はしないはずだ。故に彼らはあえてだんまりを決め込み、こちらを見極めようとしているのではないか。

 であれば、こちらから最初に名乗るのが礼儀でありこの場の最適解のはずだ。

 短く息を吸って吐く。声が裏返らないよう冷静に……まずは挨拶からだ。


「「「は、はじめまして、私(僕)は…………え??」」」


 三人一斉にキョトンとした様子で首を傾げる。

 それを傍から見ていた先輩二人と悠真が吹き出したのはその直後だった。

 この高校では髪の長さに関して特に規則はありませんが、髪型にはややうるさいです。例えばリーゼントやモヒカンなど立体的な髪型は、他者の視界を遮るという理由で禁止されています。また、髪の伸ばし過ぎで目元が隠れてしまう場合も注意されることがあります。冬樹と雪乃の場合、授業中は常にヘアピンを装着しています。

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