嘆きの屋敷 攻略編8
時は少し遡り、サンテツとルナセラが死霊軍団の迎撃を開始してから数分後、両者は自らの保有するスキルを駆使しながら互いの背中を守るように戦っていた。
「【五月雨斬り】っ!!」
「【ギガトンプレス】ッ!!」
連撃に続く衝撃波。この場の四人の中で最も実力の高い二人による波状攻撃に、魔物達は成す術無く腐肉と骨の残骸を撒き散らす。されど数十体の敵に対してたった二名のプレイヤー。今尚溶解する壁から生み出され続ける前者には、限界というものがほぼ存在しない。
戦況はゆっくりと、しかし着実に彼らを窮地へと追い込まんとしていた。
「「ガアアアッ!!」」
「ぐっ……!?」
スキルの発動直後、硬直した瞬間を狙われたサンテツが数体の喰人種に噛みつかれる。それに素早く反応したルナセラが、双剣の二振りで駆逐した。
「先輩っ!」
「大丈夫、毒は貰ってない! そっちはSPとか平気?」
「もう数分ぐらいは保たせられます。ただ、これ以上敵が増えるとなると正直キツイです!」
「だよ……ねっ! ごめんよ、本来ならタンク役の僕が敵を引き付けるべきなのに」
「仕方ないですよ。こんな数の魔物相手にタンク一人は無茶です、しっ!」
そろそろ何杯目かの聖水の効果が切れる頃合いだ。ルナセラは片方の剣を鞘に仕舞い、剣一本で戦いながらメニュー画面を操作する。そのまま取り出した聖水の蓋を開けることなく宙に放り、すぐさま鞘から抜いた剣でそれを叩き斬った。
こんな曲芸じみた真似をするのはいつ以来か。直近の記憶では、手元の双剣を手に入れるため受けたユニーククエストで一時間以上激闘を繰り広げた時ぐらいだろう。あのような経験は二度と御免だと誓ったはずなのだが、運命は残酷にも彼をこの場に引き合わせた。
「いい加減吹き飛べっ!」
幻想級以上の武具は破損しない。しかし、耐久値が減るとその性能が一気に低下する。彼の有する双剣も幻想の域に達しているものの、ここまでの連戦による負荷の蓄積はその刀身に僅かなヒビを走らせていた。
「くっ……!」
「ルナセラ君っ! 跳んでっ!」
「はいっ!」
「【グレイトイラプション】ッ!!」
サンテツの戦槌が床に叩き付けられ、それに合わせて環境を無視した溶岩が炎熱と共に噴き上がる。巻き込まれた死霊達の悉くは骨も残らず塵と化し、無数のポリゴンと消滅エフェクトが周囲に舞った。
「合わせてくれてありがとうね」
「いえ、先輩こそナイスタイミングです」
「ははは、一掃とはいかなかったけどまぁ、補給はできそうかな?」
「ですかね。けど、このままじゃジリ貧です。武器もそろそろ限界が来てます」
「うーん、判断見誤ったかなぁ……」
クエストの続行を指示した十数分前の己の愚かさに、サンテツが片手で顔を覆う。彼もまたルナセラと同様、メイン武器である戦槌の口部分に僅かなヒビが入っていた。
「分担は得策じゃないし、かと言ってあの量の敵をあの二人に任せるのはなぁ……」
「一応、リュウナなら討伐数に応じてステ強化できるみたいですけど……問題は数ですからね」
「そうなんだよ。一体ずつならまだしも同時に捌くのは殆どスキル頼みになる。あの子はまだゲームを始めて間もないから、僕らみたいな広範囲をカバーできるスキルを持っていない……って、別にあの子が悪いって言いたいわけじゃないよ!?」
「わかってますって。とりまマオ先輩に訊いてみますか?」
「……いや、このまま行こう。幸いあっちも弾の補充は必要みたいだからね。必要な分インターバルを稼げれば継戦はできる。予備の武器は持ってるよね?」
「もちろんです」
「よぉし……それじゃあいっちょ頑張って———」
「サンテツっ! ルナセラちゃんっ!」
「マオ? 一体何が……っ!!」
突如として背後から二人に声が掛けられる。振り向くとそこには歪な形と色の剣を構えたマオがいた。刹那、彼女の立ち姿から全てを察した彼らは、次いで動かされたその唇を見るよりも早く床に伏せた。
「———避けてっ!!」
ズオッという鈍い風切り音が二人の頭上を駆けて行った。




