嘆きの屋敷 攻略編1
部屋を出て私達は早速二手に分かれた。サンテツ先輩とルナセラはそのまま屋敷の西側へ、マオ先輩と私は東側の階段から一階に降り、屋敷の外へと向かうために長廊下を駆ける。
意外な事に、道中に出現した魔物はほとんど彼女が倒してしまった。生産職が戦闘職よりも戦いに特化していないことは事前に聞かされていたが、それでも今の私よりは格段に強いと判る。
彼女は自前の改造武器(合法)の短剣を両手に構えながら、そこのけそこのけと敵を吹き飛ばしていった。
「あんな奴ら、リュウナちゃんが手を下すまでもにゃい」
敵を片付け終わった先輩が腰に短剣を戻しながら言う。
もしかして私がホラー嫌いなのを知って、守ってくれていたのだろうか。
「ありがとうございます」
「ふっ、良いってことよ。こういう汚れ仕事は先輩に任せるにゃ(キリッ)」
いや、単に先輩面したいだけなのかもしれない。決め顔でサムズアップするその姿からは、頼りがいよりも面白味の方が感じられた。これが現実世界だと一転してとても大人しいというのだから驚きである。
エントランスホールの大階段を背にして玄関へ。来た時にも見た茶色の扉は外との明度の違い故か、心なしか老朽化が進んでいるように見えた。ノブを捻り、ギィィィと鈍い音を鳴らしながら扉を開く。
外は相も変わらず植物園のような有様だった。屋敷を囲む鉄格子と煉瓦の壁には何種類もの植物の蔦が絡まっており、地面からは膝の高さまで雑草が伸びている所もある。それでも土地がやせ細っている影響なのか、屋敷に近づく程に草花は減り、壁面から生えたもの以外では足元の枯草しか残っていなかった。
「……ストップ。魔物の気配がする」
中庭の手前に並ぶ生垣でマオ先輩が片手を上げて静止する。彼女に促されて顔を少しだけ出して見ると、複数の花壇の並ぶ開けた場所に、幽霊を除く屋敷の魔物が勢揃いしていた。
「地味に数が多いですね……」
「うん。レベルはそうでもないけど、あの物量で来られると流石の私も対処は難しいかにゃ。ルナセラちゃんぐらいAGIが高ければ問題無いのかもだけど……」
「……それならここは私がやります。ジョブ特性のおかげで動体視力には自信がありますから。それと少しスキルの試用もしたいので……構いませんか?」
「ふふ、いいよー。私も例のアレがどんなもんか見てみたいし。後で使い心地教えてねん?」
「わかりました」
小声で頷き返し、左手で聖刀の鞘を握りながらゆっくりと歩き出す。直後、こちらの姿を早々に認識した魔物達が一斉に唸り声を上げて襲い掛かってきた。
スキルの起動を脳内で意識する。一つ目は【ステップフット】。短時間の脚力強化が両脚に乗る。二つ目は【霊鬼活殺】……先のレベルアップと同時に獲得した新スキル。30 秒間、不死系の魔物に対して攻撃の威力が増加する。そして三つ目は、霊鬼活殺と同様に獲得したものでありながら、身体能力向上ではなく動作の補助を担うスキル。その発動と同時に私の世界が加速する。
「———【縮地】」
ゆらりと傾いた全身がまるで霧のように空気へ溶ける……少なくとも相手側にはそう見えただろう。心無きNPCでも思考はする。故に状況判断までにかかる僅かな時間が隙となる。
数秒にも満たない一瞬の後、背後で刀を振り抜いた私を認識する間も無く三体の魔物が砕け散った。
縮地と居合切りの合わせ技。敵ではなくこちらが動くだけで、要領はチュートリアルクエストで騎士の剣を弾いた時と何ら変わらない。とはいえ、一気に複数の敵に刃を通すのは中々に面倒である。いい具合に並んでくれていて助かった。そして———
「これで約一体分のステータスが上乗せされた」
マオから渡された魔改造武器は二つ。一つは『吸魂の儚壊剣』。魔物を数体斬っただけで自壊してしまうほどの低耐久値に加え、装備中は自身に『呪い』の上位互換である『怨念』の状態異常効果が付与されるが、倒した魔物のステータスの三分の一を自身に上乗せできる。
もう一つは『革命の旗槍』。耐久値が0になるまで装備者に付与される呪い系統の状態異常を無効化するが、倒した魔物の数に応じて耐久値の減少速度が加速する。
この二つを私は聖刀のウェッポンスロットにセットした。そして、セットされた武器効果は聖刀へと上乗せされる。ここまででもう何が言いたいかは察しが付くだろう。
通常なら共に耐久値を代償に得られる強力な武器効果が、聖刀の耐久値無限という無法により完全ノーリスクで運用できてしまうのだ。
とはいえ、これが聖刀本来の仕様であるのは間違いない。定められたルールを無視しているような罪悪感に目をつぶりつつ、今は戦闘の方へ集中する。
「……残りの魔物にも気づかれたか」
目算では十体前後。その内動きの鈍いゾンビが六割。残る四割は、喰人種やミイラのようにある程度頑丈な魔物。動きは比較的速い。
既にステップフットの効果時間は残り 3 秒を切っている。ここからは今のような高速機動を用いず、一体ずつ敵を相手取らなくてはならない。ならば残る手札を惜しまず使うまでだ。
「【影纏い】」
発声と同時に全身を黒い靄が覆い始める。真っ先に向かってきた喰人種二体の内一体を斬りながら、もう一体の方も警戒する。しかし、その毒々しい爪の攻撃は私から少し離れた場所に振り下ろされた。
「なるほど……」
スキル【影纏い】の効果の説明文には、 一定時間敵の攻撃を躱しやすくるなるとだけ書かれていた。なので、てっきり身体が自動的に攻撃を避けてくれるものと考えていたのだが、正しくは敵の攻撃が外れやすくなる、だったようだ。
全身を覆う黒い靄が映像のブレのように揺れ動き、私の轍に引き付けた敵の攻撃が降ってくる。対魔物やNPCとの戦闘においては、回避と誘導が同時にできる良スキルと言っていいだろう。
「はあっ!!」
加えて敵を倒すごとに強化されるステータスが、刀の冴えを一層後押しする。動体視力に身体能力、そしてスキルが嚙み合えば、ここまで充実した戦闘ができるのか。万人がBOOにのめり込むのも納得である。
「【断壁】っ!!」
背後への振り返りざまに下段から地面を斬り抉りながらスキルを放つ。フィールドオブジェクトによる威力減衰を無効化する斬撃は、石礫を巻き込みながら数体のゾンビ達を斬り裂いた。
「これで最後……【兜割り】っ!!」
断壁から振り上げられた聖刀を正面に真っ直ぐ振り下ろす。一本の軌跡がゾンビの頭から股下にかけて走り、次いで両断された腐体は地に着くよりも早く消滅した。
「ふぅー……」
流石にオリジンスキルを使うまで追い詰められはしなかったが、精神的な消耗はある。脳の疲労感を疑似的な息に吐き出しつつ納刀すると、生垣の向こうからヒョコッと出てきたマオ先輩が駆け足で近寄ってきた。
「お疲れ様、リュウナちゃん。物凄い快進撃だったね」
「ありがとうございます。こちらこそ、先輩の武器のおかげで楽に戦えました」
「えへへへ、でしょでしょ? やっぱりあの二つとウェッポンスロットの相性は悪魔的だったみたい。ぐふふふ、これは益々夢と浪漫が広がりますにゃあ……ふひひひ」
そう言って女子にあるまじき笑みを作るマオ先輩は、まるで実験の成功に喜ぶマッドサイエンティストのようだ。となれば、さながら私は実験用のモルモットといったところか。少々複雑な気分である。
「むふふふ……あ、ごめんごめん。ちょっと小宇宙に意識がトリップしてた。さてと、そろそろ本来の目的に戻りますか。あ、リュウナちゃんはドロップアイテムの回収を優先して……おっと、もう回収済みだったかにゃ」
「え? いえ、まだ回収は……」
そう言って背後を振り返ってから、私はようやくこの場の違和感に気が付いた。
「ドロップアイテムが……無い?」
PN:リュウナ 所持金 [7890 G]
メインジョブ:剣聖 Lv. 29
サブジョブ:※解放条件未達成
《ステータス(成長係数)》
HP(生命力):380
MP(魔力):106
SP (スタミナ):164
STR(筋力):162(40)+ α
VIT(耐久力):10(0)+ α
DEX(器用さ):39(5)+ α
AGI(敏捷性):134(30)+ α
INT(知力):34(5)+ α
LUK(運):81(20)+ α
《装備(見た目)》
武器:聖刀〈無窮合一〉 ウェッポンスロット①:吸魂の儚壊剣
ウェッポンスロット②:革命の旗槍
頭:無し(無し)
胴:無し(剣士の着物)
両手:無し(無し)
腰:無し(剣士の袴)
両足:無し(剣士の足袋)
アクセサリー:無し(清純の髪留め)
《オリジンスキル》
【剣聖ノ圧】【金剛穿刺】
《コモンスキル》
【居合切り Lv. 6】【兜割り Lv. 2】【断壁 Lv. 2】【鍔打ち Lv. 1】
【ステップフット Lv. 4】【縮地 Lv. 2】【影纏い Lv. 2】【霊鬼活殺 Lv. 1】
《加護》
・剣神の加護
・■■■■(※解放条件未達成)の加護?
少し補足をば。リュウナの獲得したスキルの中で今回使わなかった【鍔打ち】ですが、これは主に武器破壊に特化したスキルです。攻撃方法がひっかくか嚙みつくしかないゾンビ達にはあまり効果が無いので使いませんでした。
また、ステータス表示のレベルが上がっていない理由についてですが……まぁ、レベルアップは基本的に戦闘終了後ですからね。次回の展開にご注目。




