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ルナセラの実力

 剣聖。数あるメインジョブの中でも激レアの位置にあるこのジョブは、見た目装備以外の防具を一切着けられないという激重デメリットが付属しているが、一方で他のジョブと比べてその身体性能には大幅な上昇補正がかけられている。


 動体視力もその一つ。エム曰く、同じ激レアジョブとされる【勇者】のおよそ四倍に匹敵する性能らしい。破格にも程があるが、掠り傷の一つも致命傷になりかねないピーキーさを補う上ではこれ以上のテコ入れも無い。

 故にこそ、命拾いしたのだろう。向けられた朱い眼が映像のブレのように揺れた直後、縮地の如く一瞬でこちらとの距離を縮めてきたキメラに、私が呆けていた時間は果たして何秒だったのか。

 しかし、そんな恐らく一秒にも満たない時間で私の思考と身体は極限までに加速した。着撃まで残り数メートルも無い状況の中、右手が刀の柄を握ることができた程には。


「———危なっ!?」


 とはいえ、刀身を抜くには些か時間が足りない。振り下ろされたキメラの右腕を紙一重で後方に回避するが、崩れた体勢を立て直すまでに奴の攻撃が届いてしまう。

 そう自らの命運を悟った直後、キィンッという金属音と共にキメラの追撃が弾かれた。


「危ない危ない。もう少しで間に合わなくなるところだった。よく避けたぞ、リュウナ」


 金色のツインテールが眼前で風に靡く。左右の手に握られた紅と蒼の剣に薄っすらとスキルエフェクトを纏わせたルナセラが、肩越しに振り返って笑いかけた。


「あ、ありがとう……助かった」


「こっちこそすまん。コイツと戦うのが久々過ぎてすっかり忘れていた。レアエネミーは “レア” と言われるだけあって、行動パターンも特殊なんだ。コイツの場合はヘイト管理が機能しない。正確には、ヘイトが一番低いプレイヤーを狙う傾向にある」


 思わず目を見開く。彼の言うことが本当なら、私は既に敵として数えられていたということだ。いつからかは知らないが、先の目線の交錯がきっかけでこちらに狙いが向いたのだろう。全くランダムエンカウントとはいえ、なんて魔物を序盤の街近くに配置しているのか。


 空腹とHP減少が相まって怒り状態へ移行したキメラが咆哮を上げる。食事を邪魔されたのが余程悔しいらしい。今まで比較的大人しめだった尾の大蛇も、毒牙を剝き出して威嚇していた。


「グルアァァァァッ!!」


「どかねえよっ! リュウナ、悪いが少しの間俺の後ろから離れるなよ!」


 一瞬、殺し文句のようにも聞こえてしまったが、彼がそんな意図が無いことは理解している。多数のスキルを全て防御に転用してキメラの攻撃を防ぐルナセラの背に、私は短く「わかった」と返答した。


「オーケー、十秒で終わらす。【昇陽落月(しょうようらくげつ)】っ! 【森羅ノ再誕(ゼロ・リバース)】っ!」


 何らかのスキルを起動した彼の両腕が異なる色のエフェクトを発する。右手は赤、左手は蒼。その奔流はやがて各々が握る剣を包み込み、オーラが先端に達した所で両者の色は金色に変化した。


「ガアァァァァッ!?」


 先程よりも尚速く、ルナセラの剣がキメラの肉体を抉る。連撃に続く連撃は相手が両の手を上げることすら許さない。恐らくあちら側は何をされたのかも分からなかっただろう。ジョブ特性により異常な動体視力を持つ私と、繰り出したルナセラ本人にしか視認できない斬撃は、どういう理屈か生み出した傷口を爛れさせた矢先に凍らせていた。


「シャーッ!!」


「悠真っ! 蛇———」


「蛇が、何だって?」


 彼がそう言い終わる頃には、大蛇は胴体に幾つもの斬撃を浴びて吹き飛んでいた。圧倒的な速度に手も足も尾も出ないキメラは、みるみるうちにHPを減少させていく。

 そして、再度構えられた金色の輝きを放つ双剣がその全身に円型の剣閃を走らせた。


「【回帰日蝕(かいきにっしょく)】っ!」


 それは正しく両断であった。脳天から真っ二つに断たれたキメラは断面から緋色のポリゴンを大量に上げると、地面に倒れ伏す前に細かなガラス片となって砕け散った。


「ふぅ……やれやれ。こんな序盤のフィールドでちょっと本気を出すことになるとは」


 仮想世界では汗を掻かないのだが、疲労感は精神に影響するのでしっかりと表情に出る。とりわけ集中力を要した戦闘後は、大抵の人間が今の彼のように額を拭う仕草をするのだろう。

 宣言通り僅か十秒弱でレアエネミーのキメラを打ち倒したルナセラは、未だ持続するスキルを中断して双剣を剣帯へ戻すと、何食わぬ顔でこちらを振り向いた。


「お待たせリュウナ。さ、早く狩場に行こうぜ」


「あ……ああ。そうだな」


 彼の戦闘時と現在の温度差に面食らいながらも、何とか平静を取り繕って頷く。

 あれが彼の本気の戦闘。驚いたなんてものじゃない。愕然だ。昨日のチュートリアルクエストがごっこ遊びのように思えてしまう。それでもまだ 100 % 本気の戦いではないのだから、もはや言葉も出ない。


「……本当に私は、剣聖に相応しかったのか……?」


 この場にいない案内人へ問い掛けるように呟かれた声は、平原の穏やかな空気へ溶けていった。

ゼロ・リバースのリバースはRebirthです。Reverseではありません。

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