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出会い有れば別れ有り

「クエストクリアおめでとう。何か感想はあるかい?」


「……疲れた。もうログアウトしたい」


「あははは! 正直でよろしい! はい、ご褒美の和菓子セットだよー」


 ガイドAIの女の指がパチンと鳴ると同時に、古今東西様々な日本の菓子類がティーテーブルに並べられる。こちらの好みに合うものを選出しているのか、仮想の代物とはいえその見た目だけで脳内に糖分が供給されそうだ。

 チュートリアルクエストのクリア祝勝会と題された茶会は、別段数十分前と変わらぬ風景であった。


「それにしても、まさか彼を倒しちゃうとはねぇ。レベルも 30 ぐらいはあったはずなんだけど……まぁ、当初の目的も達成できたし別にいいか」


「全然良くない。チュートリアルから戦う羽目になるなんて聞いてなかったぞ」


「そりゃあ君はジョブも境遇も特殊だからね。何も分からずに始めて困惑するよりも、事前に知識をつけておいた方が困らないでしょ? 運営側の配慮ってやつだよ」


 彼女はあっけらかんとした表情で言いながら、淹れ直した紅茶をすすった。

 言い分は決して理解できなくはないが、たかがスキルの練習に実戦を採用するなという話だ。案山子もせめて藁か木製の人形にしておいてほしい。下手したら甲冑がトラウマになるところだったぞ。


「さて、これでチュートリアルは終了となるわけだけど、その前に補足情報を幾つか。まずはスキルについて。君が先の戦闘で使ったのは【コモンスキル】と呼ばれるもので、基本的に誰でも習得できる。さらにスキルレベルを上げれば、より強力なスキルに進化することもあるから、積極的に習得するといいよ」


「ふぅん……」


 私がゲームに積極的になるかは兎も角、あれらを今後獲得できる可能性があるのは僥倖だ。使い勝手の良かったステップフットと流々合気は特に。極めれば色んな応用ができるだろう。


「で、実はスキルにはもう一種類あってね。【オリジンスキル】と呼ばれている。こっちはプレイヤーの成長に応じて解放される代わりに、レベルも進化も無い。また、同一のスキルを他者が獲得することもない。まさに唯一無二(オリジナル)のスキルというわけだ。楽しみにしておきたまえ」


「なるほど……ん?」


 今の話、何か違和感があったような……?


 おもむろに首を捻るこちらとは真逆に、ガイドAIの女は妖艶な笑みを崩すことなく湛えていた。その様子が何やらとても意味深なようで、されど勘繰りとは裏腹に真実など存在しないようにも思える。

 小一時間とはいえかなり会話を続けてきたはずなのだが、それでも彼女の底は見えなかった。


「ふむ、そろそろかな……」


「ん……? ふわっ!?」


 唐突にこちらの全身が光に包まれる。ここへ来る際にも見た光の粒子が足元から浮き上がっていた。せめて今片手に持っている羊羹ぐらいは完食させて欲しいところだが、生憎とゲームシステムは空気を読んでくれない。

 餡子の甘味と共に浮遊感を味わう私に、ガイドAIの女は微笑みかけた。


「処理が終わるまであと一分も無い。今のうちに聞きたいことがあれば手短に答えるけど?」


「はぁ……どうせ大半はヘルプ欄に載ってるんだろう? なら別に……ああそうだ、一つ質問したい」


「何かな?」


「貴女の名前は?」


 てっきりガイドAIという名前なのかとも考えたが、今までの会話からそれが単なる自称なのは明白だ。それに、こっちの名前だけ一方的に知られているのも不公平だろう。これが最後の機会なのかは分からないが、少なくとも知識を授けてくれた相手に感謝を名前無しでは言いたくない。


 あちらにしても意外な質問だったのか。数秒まるまるポカンとフリーズしていた彼女だったが、次いでプフッと吹き出したその顔は、まるで彼女を覆うベールが一枚剥がれたようだった。


「ああ。やっぱり君は剣聖向きだ。予測通りの結果なのにどうしてこうも心躍らされるのか。いや、心無いあたしが言うのもなんだけどね。うん……良いとも。()の名前を教えよう」


 彼女の深い赤髪が揺れる。紫紺の瞳は瞬く光の粒子の奥、すなわち私の顔を真っ直ぐに見つめていた。


「私の正式名称は『Model Orchestration and Reconstruction Game Analysis Navigator』……ゲームモデルの編成および再構築、分析を行うと同時に、君のような新規プレイヤーの案内を行うガイドAIだ。うん、我ながら非常に長ったらしい名前だこと。面倒なのでM(エム)お姉さんとでも呼んでくれたまえ」


「エム」


「まさかの呼び捨て。嫌いじゃないぞ」


「その……色々とありがとう」


「こちらこそ。たった小一時間の逢瀬だったけど、実に有意義な時間だったとも。ああそうそう、ついでと言っては何だけど君のアイテムボックスにプレゼントを入れておいた。クエストクリアとは別に、あたしからの個人的な報酬だ。気に入って貰えると嬉しい」


「わかった。有難く受け取っておく」


「ふふ……いつかまた、この庭園で君と出逢えるのを楽しみにしているよ。どうか良い旅を、リュウナ」


 彼女の言祝ぎが紡がれた直後、私の身体は眩い光と共に菓子と花々の香る庭園から消失した。

 ついにガイドAIさんのお名前開陳、アンドお疲れ様でした。次の出番は当分先かもしれません。

 余談ですが、Mのお姉さん……と書くよりはエムのお姉さんがいいですよね?

 ちなみに彼女はこの庭園から出られません。

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