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Characters of the novel  作者: 円城迷路
9/9

八話

 ウィンターがアイツの元へと向かってから恐らく五分も経っていない。


 一体何が起きたというのか──。


 それは眼前の光景を見れば分かることだ。


 ──ウィンターはコイツに敗れたのだ。


 凭れていた背後の外壁をぶっ壊してアイツがぼくの前へと立っている。もっと正確に言えば、ウィンターをぶっ飛ばして家やら外壁やらを潰してできた道とはまあ呼べない、軌跡をコイツは通って来てぼくを見下している。


 何故、コイツはぼくを見下しているのだろうか。疑問だ。だって、これまでコイツの目にはぼくは映っていない──眼中になかった筈なのに。


 ──ゲホッ………ゲホッゲホ………


 瓦礫に紛れてウィンターが荒く大きな息をしているが、視線を眼前の敵へと向けてぼくは言う。


 「な、何なんだよお前………」


 絞り出すように吐いた台詞は情けなく、震えたその声に敵は、「ふふ」と鼻で笑うけれど、とても真顔であった。


 とても美しいポーカーフェイスだ。


 ふと恐怖に動くことが出来ず蹲った状態の自分を客観視してみて、その様子がほんとに情けなく恥ずかしく思えるのと同時に、これが自分の最期の様子であると思うとなんとも悲しくなった。


 産まれたての仔鹿のように足を震わせながらやっとの思いで立ち上がり対峙するけれど、敵はぼくが立ち上がったというのに尚も見下ろしたままで、その体格差に怯えたぼくの足は、この場から一刻もはやくとんずらしようと彼方此方へ膝を向けるものだから、踏ん張ってやらなければ倒れてしまいそうになる。


 ただただぼくを見下げる敵の背後に何かが一瞬にして現れる。


 ──影?いや、違う。


 それはまるで影のように黒いが、確かにそこに存在している。その黒さはまるで敵の袖から覗かせる左手の様で──


 ──あれ、コイツの左手は黒かっただろうか。


 その左手は背後に立つそれと同色に漆黒であった。身の丈は三メートルは優に超えているであろうそれの手には、その姿──華奢な体に似つかわしくないその丈以上に長い、くねくねと畝るように湾曲した薙刀が握られている。


 「気になるかい、これ」


 それに注がれるぼくの視線に気づいた敵はそう言いながら、その手で拳をつくっては開いてを何度か繰り返しながら肩ほどまでにあげる。


 「私の背後にいるそれ、見えるだろ」


 そう言われ背後へと目を向けてそれを視認する。


 「私を守ってくれるモノだよ。ただ、タダでは守ってくれる訳ではないんだ──」


 ──それは既に知っていることだ。


 「知ってるさ。代わりにお前の寿命を半分くれてやったんだろ」


 ぼく発言に敵は一瞬目を瞠ったが、ああ、そうか、と言葉を漏らし、


 「その通りだよ。尚知っての通り、私に手を出すことは難しい。いや、手を出すのは容易いことなのかも知れない。難儀なのはその後だね。さて、君は──ハルヒは、シラシロ・ハルヒはどうする?」


 どうするったってどうしようない。あのウィンターでさえ、あのザマなのだ………。


 ──?


 コイツ今、ぼくの名前を言ったか?


 「どうしてぼくの名前を知ってるんだ?」


 敵は些か首を傾げ、


 「おやおや、やめてくれよ。私に詰まらない言葉を吐かせる気かい?その辺に転がる石ころのようで特別感のなく、色褪せ古びた台詞を私に言わせるのかい?まあ、返答としなければならないから言うけれども、先ず、質問に質問で返すなよ」


 ──パン。


 突如破裂音が響いた──かと思いきや目の前で敵は傾きながらくるりと回って倒れていくではないか。その瞬間、背後にいたはずの漆黒のモノまで消失した。


 何が起こったのか分からない。けれど静寂が訪れたのも束の間、ウィンターの立ち上がろうとする瓦礫を踏み締める微かな音に意識が集中する。途中瓦礫に足をもつれながらも急いでウィンターの元へと駆け寄る。


 「大丈夫か、ウィンター。このまま死んでしまうかと思ったぜ」

 「バカ言わないでよ。死ぬわけないでしょ」

 「でも、やられてるじゃあないか」

 「油断しただけ──それより何が起こったの?」

 「分からない………ただ、パンって音がして………」


 聞き覚えのあった音だった。ぼくの脳裏にリボルバーが、あの少女が思い起こされる。しかし、辺りを見渡してもその姿はない。ただ──敵が一人倒れているだけ。


 「死んだのかな」


 ウィンターは分からないと、一言漏らし敵の元へと歩み寄って行く。それに続いてぼくもまた近寄ろうとした時だった。ウィンターの背後に再びあの漆黒のモノが現れた。


 「ウィンター──」


 ぼくのその叫びのその向こうで、まるで逆再生のように敵が起き上がる。


 ──サンドウィッチ状態のウィンター。


 ぼくの体は動かない──というより、動けなかった。


 それは瞬時の出来事だったのだ。


 ウィンターは振り返り背後の漆黒のモノが現れるや否や振るった薙刀を、いつの間にか手にしていたあの錫杖で弾くとそのまま敵へと向き直り、錫杖を振るった。けれど、敵は背後へと跳躍して避けた。しかし、杖足が右眼を掠めた。その瞬間右眼からは黒い煙のようなものが吹き出したように見えたが、それは瞬く間に消え左腕同様に漆黒へと変貌した。


 敵の足が地に着く前にその背後から漆黒のモノが現れ、もう一体のモノが持つものと同様の薙刀を構えながらウィンターへと飛びかかる。背後でも既に構えの体勢をとっているが、ウィンターは素早くしゃがみ込み攻撃を躱してみせると、その頭上で甲高い音をたてて漆黒のモノ同士の刃が火花を散らし衝撃によって両者弾かれる。一方でウィンターはしゃがみ込むのと同時に走り出しており、その先の敵は無防備であった。だから、ウィンターは容易く敵の腹部へと杖足を突き刺す。敵の背後から杖足が覗かせるが、更にその背後からもう一体の漆黒のモノが出現する。


 ──敵の錫杖に貫かれた腹部は右眼と同様だった。


 しかしあれ程に敵の体を傷付けたくないと言っていたウィンターだが、それでいいのだろうか。


 ウィンターは素早く敵の腹部から錫杖を引き抜くと、敵の背後からの攻撃を錫杖で受け止める。しかし、その威力は凄まじく後ろへと大きく弾き飛ばされるが、その先では二体の漆黒のモノがウィンターへと走り出していた。空中でその二体へとウィンターは身体を捻り向き直る。距離はあっという間に縮まり、漆黒のモノ二体がほぼ同時に薙刀を振い、すぐ背後に迫っていたもう一体もまた同様であった。


 刃を交えるように思えたウィンターだが、寸前のとこで地面へと錫杖をぶつけると、その衝撃で上空へと飛び上がった。代わりに、三体の刃が交え、その衝撃が周辺の物々を荒く撫で去っていく。


 くるりと一回転してウィンターは空中で三体を俯瞰に見下ろす。


 どういった原理法則で浮いているのやら、気になるけれども、今更ながらにそんな事を気にしてもしょうがない。これくらいの事は寧ろ、当たり前であると思った方がいいだろう。勿論の事──それはぼくにとってではなく、彼女たちにとっての事だけれど。

有言実行はできないのがわたし。

久しぶりに読んでくれてありがとう。

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