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Characters of the novel  作者: 円城迷路
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九話

 頭上に浮かぶウィンターを敵が見上げる。


 「君はてっきり、クリーンな状態で私をものにすると思っていたよ」


 ──左腕、右眼そして胴体が漆黒と化した敵、

 ──漆黒のモノ三体、


 いずれもぼくに背を向けて、一人の──目的へと視線を注いでいる。いくらぼくが丸腰のただの人間だからって随分と隙を与えているじゃあないか。しかしまあ、彼らの尺度は間違っていないのは事実だ。


 そのことに少し悲しい気分が芽生えないこともないけれど、この戦場のオブザーバーとして居るしかぼくの役目はない。なんとも遣る瀬無い。


 「勿論そのつもりだったよ。けれど、どうもわたしは随分と負けず嫌い──いいえ、やられるのは嫌みたいでね、一度でも。少しでも、わたしのこの体を傷つけようものなら、ボコボコにしてやりたくなるみたいだよ。そのことに今更ながらに気づいたよ」


 俯瞰するウィンターに、敵は業腹か、舌を打つ。


 「──で、この程度で私をボコボコしたつもりでいるのかい、ウォルガム」


 唐突に空中のウィンターの姿が消滅する。移動したのだろうが、その姿を目で追うことはできなかったけれど、行く先は勿論敵の元であり、その事を敵は無論判断していたのだろう、ウィンターの姿が見えなくなった途端身構えた。


 敵──ヴィクターの眼前にウィンターは刹那に現れる。敵は手を伸ばせば容易く触れられる距離であり、ウィンターも然りだった。しかしながらどういうわけか、錫杖を後ろへ振り構えている。それは明白に触れるわけではなく、彼女が言った通りにボコボコにしようというのが分かる。敵も理解していた──だからこそ身構えたのだろうけれど、ウィンターの姿勢は深く小さくしゃがみ込むように、敵が手を伸ばすには些かリーチが足りない。


 漆黒のモノ三体が振り返るよりも素早い動きで、錫杖を横振りし敵の両足を切断した。


 切断された地に残された両足は黒い煙をその切断面からモクモクと発生させ、つま先に向かって蒸発しく。一方で、敵の切断された両足もまた、その断面から黒い煙を発していたが、漆黒の両足を再生させていった。


 それらは瞬きする間には完了され、そしてやはりどこからともなく漆黒のモノが現れた。


 右足と左足──二体が追加された。


 いくらボコボコにしたいからと言って、自ら多勢に無勢の状況をつくりだしたウィンターだけれども、彼女のその敏速の動きは、敵は及ばない。


 今のところは──ぼくが観察し得るところだけれども。ウィンターがどれほど本気を出しているのかぼくには分からない。それは敵もまたそうであるが、それでもウィンターの方が優っているように思えた。


 だから、時間の問題だろうとそう思うけれど、ウィンターはとっとと終わらせようという気がないようで、何度も何度も迫り来る漆黒のモノを薙ぎ倒すばかりで、一向にヴィクターへと触れようとする様子が見られない。


 それは彼も同じだった。少し離れたところで、まるで通りすがりに出会った他人のいざこざを見物するかの如く、ぼくのようにオブザーバーとしてそれを眺めていた。


 が、徐にヴィクターの首がこちらを向き、数秒の間視線が交わった。そして身体もまた、こちらへと向いて片足が前へと伸びる。


 それに合わせるようにぼくの足は後ろへと下がり始める。


 ヴィクターはこちらに詰め寄りながら、左手を挙げる。そして指四本揃えて伸ばし、何を仕出すかと思えば、それを自身の側頭部へと突き刺した。その衝撃の光景にぼくの足は思わず止まってしまうけれど、ヴィクターはその側頭部から鮮血を吹き出しながら尚も歩みを止めない。


 左手は肘あたりまでその頭に入り込んでいる。


 どうなっているのやら。


 そして些か首を傾げゆっくりと左手を引き抜いていく。拳が見えてきたところで、その手に何か握られていることに気づく。側頭部から棒状の何かを引き抜いていく。じわじわとその全貌が見えてくる。


 ああ──それは、あの漆黒のモノたちたが持っているものと同じものだ。


 ──波打つような歪な形をした薙刀。

 

 自身よりも長さのあるそれをどうやってその頭に納めていたのやら。


 いいや、いやいや、そんな思考は今この場に置いて詰まらない──到底要らぬものだ。これまでの現実的思考は捨てるべきである。そんな論理も倫理も考えるだけ無駄である。


 今ぼくが考えるべきは、どう立ち向かうかである。


 どう生きるか。


 眼前にヴィクターが立つ。それが携える薙刀に付着する血は陽に照らされきらきらと輝きをはなっている。


 「考えたんだ、どうするべきか」


 ヴィクターはぼくを見つめる。


 「事の解決には、何をおいても死だ──勿論ウィンターのね。しかしどうだろう、見ての通りこの有様だ。彼女たちの力を手にしても、ああして抑えておくのが限界だ──それも一時的に。実際のところそう出来ているのか懐疑的ではあるけれど。だから、正直に言ってこうして語っている暇なんてないんだけれど、こうして語ってしまっている以上は、既に、悲しいかな、物語ってしまっているのだろうね──」


 そう言ってすっと音を立てて鼻から息を吸いながら頭上を見上げると、これまたすっと音を立てて鼻から息を逃していく。そしてゆっくりとこちらへ向き直り、


 「──私は私の意志でここへ来たつもりだよ。これまで吐いた言葉も、全ての行動も。今こうしてハルヒ──君に歩き寄って語るという言動も私の意志だ。反射的、本能的行動が私にあったかとおもえば、あったように思う。──私は」

 「………な、何が言いたい」


 ぼくは訊ねる。


 「全てが最初(はな)からそうであると、決められてしまっていると言うことだあよ。私の口から溢れる言葉の連なり、羅列、紡ぎ方まで、君の発言も、思考も言動も何もかもが──」


 そう言ってヴィクターはぼくへ切っ先を向けるけれど、ぼくは動けない。


 ──動かない。


 「これも私の意志の行動であると、私は思っている──君に切っ先を向けようと思い、こうしている」

 「何を当たり前のことを言ってるんだお前。………操り人形じゃあるまいし」

 「操り人形か──」


 ふふ、とヴィクターは目を細め鼻で笑うけれど、その微笑みは美しかった。


 「──そうだね。でも、私も君もそれと大して変わりない。とんだピエロさ。言葉の端々に彼女は示唆(ヒント)をおいている。聴覚だけじゃあない、視覚から得られる情報にもだ。しかし残念なことに私たちはそれに気づけない。気づこうともしない。いいや、気づくことはあるし、気づこうともした、が、それは既に仕組まれたものなんだ」


 ぼくは、本当に彼が何を言いたいのか分からない。はっきりしないその言葉たちに眉間に皺を寄せ首を傾げる。


 「気づいたんだよ、この物語を終わらせる方法を」

 「物語?現実は物語なんかじゃあない」


 ヴィクターは横に首を振る。


 ぼくはきっとこれは夢なのだと思った。やっぱり夢なんじゃないかと。だから、そっと頬に手を伸ばして抓ってみた。


 ──痛かった。


 ──現実だ。


 痛みも胸に抱える恐怖心も不安も全部、現実だ。


 「これは君視点で発生している。君がいるから、ここに私がある。私だけじゃあない、君の目に映る全てだ。とどのつまりだ、私が何を言いたいのかと言えば、君が死ねば話は丸く収まると言うことだあよ。ウィンターは君の見えないところでも存在しているけれど、それ以外の全ては君の目によって存在し、そして進む。全てを止める為に私はどうするべきか──君を殺す他ないんだ」

 「何が、丸く収まるだよ。ふざけんじゃねぇ。死ぬ気なんて全くもってねぇんだよ、ぼくは!」


 拳を両足に打ちそう言い捨て走った。兎に角走った。逃げ切れるわけがない、そう思いつつも走った。でもやっぱりダメだった。


 背後から一陣の風が吹いたかと思えば、刹那目の前に槍投げ選手の如く薙刀を構えるヴィクターがいた。


 ──避けなきゃ。避けなきゃ。避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ、


 ──死ぬ。


 無理だ。


 生憎、こいつらの様なそんな機敏さをぼくはもち合わせていない。


 ヴィクターが薙刀を投げる瞬間を捉え、顔に刹那の衝撃を覚え、何も見えなくなった。


 ──暗闇である。

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