プロローグ
今日という日は途轍もないほどに長く、そして終わりそうにないのである。
わたしはいつまで経っても今日という日から出られないでいた。最後には気づけばわたし以外には他人は見当たらなくなり、初めの言葉もすっかり色褪せてしまっていたけれど、その言葉の内容はいつまでも濃い状態であり続けた。
いつからわたしが今日という日に囚われているのかといいますと、残念ながら見当もつかないのです。何せここに生まれた時からそうであるとただ語られ、それを忘れて無意識に生きているのですから。そして今日が今日であり続けるように、わたしは至極当然の事ながら若返ることもなければ年老いることもなく、ただあなた方読者の頭の中で想像されたわたしであり続ける。
──今のところは、の話だけれども。
わたしの親はとても不思議な人で、いつだって過去にも未来にも自由にわたしを飛ばすことが出来たけれど、矢鱈滅多とそんなことはしなかったし、こんな世界で飽きさせない為かわたしを子どもとして扱うことがあったが、決して親からしてみれば自分の子どもが大人になろうといつまで経っても自分の子どもなのである、という意味ではないのです。賢さも見た目も行動までもが子どもになり、いつに大人になれるかは分からない、親の気分で大人と認めない限りはわたしは大人にはなれないし、もしかしたらわたしは既に大人なのかも知れない。
わたしがわたしとしてこうしてある以上は、あなた方によって少年少女にされたり、青年或いはとっくに大人──老人にされてしまったりと只今七変化しているに違いない。
──今のわたしはどんな姿でございましょうか。
わたしはわたしである。
今日は今日である。
というわけで、今日という日は途轍もないほどに長く、そして終わりそうにないのである。