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トランシーバー〜種族のこと

「話は変わるんですが、ラトナさんは魔水晶が電波に反応するのを知っていますか」

「電波?」

「昨日、テレパスの魔法の話をしたでしょう。そのマナみたいなものです」

 僕は電波で振動する魔水晶を再現できないか考えていた。僕はスマホを2台持っている。会社から借りている仕事用のものと、滅多に鞄から出さないプライベートのものだ。当然電話番号が違う。回線は現世の基地局を介しているはずだから2台の間で通話すれば周りにある魔水晶も振動するのではないか。新しくもらった魔水晶でも再現できるのか確かめたかった。

 結果、僕の見込みは当たっていた。

 僕が持っていた2つの魔水晶も、ラトナが持ってきた魔水晶も同じように震えていた。

「反応してるわね」とラトナ。

「マナによる振動自体は珍しいものではないのですね」僕は会社のスマホを左耳、魔水晶を右耳に当てて言った。震えているのはわかるけど音として聞こえるほどじゃない。押し当てるとかすかに……。

 ん……?

 僕は試しに魔水晶を耳の後ろの骨に当てて「僕の声に合わせて震えてるのがわかりますか」と続けた。

 ビンゴ!

 こいつは骨伝導スピーカーだ。いささかくすぐったいがきちんと音になっている。

「耳の後ろ、骨に当てて」

「これでいい?」

 ラトナの声が少し遅れてスマホのスピーカーから聞こえた。送信も行けるのか。

 僕は食堂の入り口まで距離をとって小声で「聞こえますか」と吹き込んだ。

「えっ、なにか言った?」

「聞こえないですか?」

「いや、聞こえるんだよ。なんか自分の体の中から他人の声が出てるみたいだ」

「そうそう」

「これがテレパス魔法か……」

 誤解である。

 いや、マナを介しているから間違いではない、のか……?

「あれ、テツヤ、魔法を使うと眠くなるとか言ってなかった?」

「これスキルです。この端末から出る電波が僕のゲートを通って魔水晶に届いている」

「スキルなら仕方ないか」ラトナは簡単に納得した。それより仕方ないってどういう意味だ。

 ……まあいい。仕組みはともかく。

「シスターもやってみなよ。ほら、聞こえるでしょ」

「あ、ほんと。でもなんだかくすぐったい」

「当直の時、他の持ち場の傭兵と連絡を取るのに苦労していたでしょう? これがあれば円滑なんじゃないですか」

「離れた持ち場の傭兵と話ができるってこと?」

「そうです」今そう言いましたが。

「何人まで行ける?」

「ここにある魔水晶は全部震えてるので10人は固いんじゃないでしょうか」

「距離はどれくらい?」

「今初めて使ってみたんでなんとも。そうだ、帰りに測ってもらえませんか。基地まで届けば……」

「1200フィートはクリアね」

 フィート? ああ、人体・感覚を尺度にした度量衡はこっちでも通じるのか。


「しかし片手で押さえておかないとならないのは不便だなあ」ラトナは頭を寝かせて耳の横に魔水晶を乗せたまま手を離した。「兜のベルトで押さえる感じにすればいいのか……」

 そうか、ヘッドセットが必要なんだ。ただ現世の軽量ヘッドフォンに比べると魔水晶はかなり重い。僕の愛用ヘッドセットに括りつけたとしても保持できないだろう。

「カチューシャみたいなものがあればいいのね」とシスター。

「ええ、僕もそう思っていました」

「私にやらせてもらえませんか」

「シスターが」

「試しに。手先は器用なんです」

「ありがたいです」

「魔水晶の広い面が直接肌に触れた方がいいのですね」

「そう思います。あと振動がカチューシャの方に伝わると音が悪くなると思うので、浮かせた感じになれば」

「わかりました」


「そうそう、そのテレパス魔法器ってどうなってるんだ? 昨日から気になってたんだけど」

 僕は私物の方をラトナに渡した。

「おー、なんか映ってる。動いてる? 触ると反応する? なんだこの文字?」

 すごいな、初めてスマホ触った人間って本当にこういう反応するんだな。お手本みたいなリアクションだ。

「テレパスを使う時はどうすればいい?」

「その受話器のマークのアイコンを押して、履歴が出るので、そう、その番号です」

 幸いさっきの社用スマホの履歴しか出ていないので説明は簡単だ! アドレス帳にも余計な番号は一切登録していない!

「番号? 他の番号を入れれば他のところにテレパスできるの?」

「まぁ」

 初心者のくせにそんなところに気づくんじゃない……。

「私が押したら私のマナが減るのかな」

「いや、減るのは常に僕のマナです。マナというかメンタルです」

 ラトナの興味に任せておくと現世から持ってきた暗黒面が丸裸にされそうだな……。

 シスターも横に座って後ろから画面を覗き込んでいた。やっぱり、僕というか現世に興味がないわけじゃないんだろうな。気を遣って詮索を控えてくれてるんだ


 カチカチカチ……。

 なんか妙に爪が当たってないか?

 僕はラトナの指先に注目した。爪が丸い、というか盛り上がりが大きくないか?

「龍人は私が初めてか」ラトナは言った。視線に気づいていたらしい。

「ラトナには龍の血が入っているんですよ」

「ああ、やっぱり龍だ……」

「8分の1か2だね。あとは人間……か、ごくわずかにフェアリーが入っているかな。ひいばあさまはばあさまを産む時にたいへん痛い思いをしたそうだ」

「痛い?」

「私はまだ血が薄いからヒトに近い姿をしているけどね。それでもこの爪だと指の細いグローブが入らないから時々困るよ。爪研ぎも面倒だし。人間の爪みたいにヤワじゃないから力を入れても曲がらないのは便利だけどね」

「なるほど」

「テツヤは純粋なヒト?」

「ええ」

「本当に?」

「僕が認識している範囲では」

「へぇ」

 言葉にこそしなかったけど、ラトナはすごく珍しそうに僕を見ていた。街中を歩いていてもいわゆる亜人が目につく感じはしない。純粋なヒトがほとんどなのだと思っていた。でも実際にはごく希薄な混血・雑種の人々が主流派で、ラトナのような見かけでわかるくらい1つの種の血が濃い人の方がむしろレアケースということなのかもしれない。


 ラトナは僕に持ってきた魔水晶を1つ持って帰った。

〈今礼拝堂を出た〉というところから報告が始まり、〈境内を出る〉〈300フィートくらい来たかな〉と続いた。〈丘の半分まで来たよ。礼拝堂が半分くらい見える。700くらいかな〉で少し音が遠くなった。雑音が入るとか音が粗くなるとかではなく、ただただ音が小さくなっていくのだ。

「そろそろ聞こえなくなりそうです。こちらはまだ礼拝堂の中にいるので外に出てみます」僕は東のファサードから空の下に出た。「どうです?」

〈声が大きくなった。外ならまだ行けそうね〉

 その後またラトナの報告は次第に小さくなっていったけど、結局〈基地の正門に着いたよ〉まで聞き取ることができた。

 実用1100フィートから1000フィート。つまり有効半径400m程度のトランシーバーとして使えることが確かめられたわけだ。なんなら受話と送話を切り替えなくてもいいのは現世のトランシーバーとは違うところだ。意図しない声も送られてしまうので長所とは言い切れないが。とにかく僕の生業である通信分野で文明的なものを扱えるようになったことは喜んでいいんじゃないだろうか。

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