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第三十九話③『相談と恋バナ』



 兜悟朗(とうごろう)の名前を聞いた瞬間に嶺歌(れか)の心は驚くほど騒ぎ出す。彼の事を考えるだけで顔が熱くなってくるのだ。


 そして同時に平尾が車での移動を容認した事を珍しいと思っていると、彼は聞いてもいないのに説明をしてきた。嶺歌が何を思っているのか察したのかもしれない。


『あ、あれちゃんにいつも合わせてもらってるから、俺も、彼女に合わせたいって思って』


「まああれなとしてはそっちの方が断然いいよね。だってお嬢だもん」


『そ、そうだよね……俺の配慮が足りなかった…き、嫌われてないかな!?』


 平尾は急に不安そうな声を出してそんな事を言ってくる。


 嶺歌は、両片思いであるのに本当に互いが完全に片思いであると思い込んでいるこの状況に不思議な気分になった。


 案外分からないものなのだろうか。嫌われているなら遊ぶことなどしないだろうと嶺歌が当然の事を言ってやると、平尾は心の底から安堵した様子で良かったと声を漏らす。


 しかし正論であっても平尾のような今の状況では不安に駆られるのも仕方がない話なのかもしれない。そんな事を思っていると嶺歌はふと、自身の兜悟朗への想いを平尾にも話したくなってきた。


「あのさ、あたしも最近好きな人ができたんだ」


『えっそっ、そうなのっ!?!?!?』


「うん、兜悟朗さん」


「エッッッ!!!??? あれちゃんのしっ執事さんっっ!?!?」


 あまりの驚きぶりを見せた平尾は相当驚いたのか声が上擦っていた。嶺歌は予想していたその反応にそうだよとあっさり答えると平尾に最近の話をしてみる事にした。誰かに彼への想いを共有したかったのだ。


 そうして、魔法少女に関する事以外のある程度のエピソードを平尾に話し終える。


 時間はとうに夕方になっていたが、しかし話しだした嶺歌は兜悟朗への思いが止まらず平尾に言葉を繰り出し続けていた。


 平尾は嶺歌の次々と放たれる兜悟朗との出来事に終始『えっ』『すごい…』『ええっ!?』などと言葉にならない声を上げ続けて聞いてくれており、一段落すると『い、色々ありすぎだね』とそんな感想を述べてくる。


「そうだよね、あたしもびっくりなんだけど、兜悟朗(とうごろう)さんと次に会えるのは多分夏休み明けだろうなー」


 そんな事をぼやくと平尾は『い、今すぐでも会いたいって事だよね? 分かる……』と嶺歌(れか)の言葉に同調してきた。嶺歌はそう! と思わず声を上げると片思いの立場であるからこそ分かる共感話をそのまま続けていく。


 気がつけば平尾と三時間ほど電話をしていた。


 服選びを終えてからはビデオ通話から音声通話に切り替えてはいたが、互いの想い人の話をするのは思っていた以上に楽しく、平尾もそれを感じているようで会話が止まらなかった。


 そろそろ夕飯の準備をしなければと思った嶺歌は平尾に時間だから切るねと声を上げると、彼は最後に『あ、あのさ』と口を開く。そしてそのまま言葉を続けてきた。


『ず、ずっと思ってたんだけど……呼び捨てにしてくれない?』


「え?」


 予想外の要求に嶺歌は素っ頓狂な声をあげた。一体今更どうしてだろうか。


 すると平尾は補足するように再び声を出す。


『い、嫌なんだ。俺だけ君付けでしょ? 和泉(いずみ)さんが俺だけをそう呼ぶの、結構クラスで言われることあって……』


「えっそんな事気にする?」


 嶺歌(れか)は理解ができず思ったことをそのまま口にする。


 しかしそこで初めて気がついた。常に人目を気にする平尾のようなタイプの人間はそれが結構なダメージになるようだという事に。


 すると平尾は言葉をつっかえさせながらも本音を嶺歌に伝えてくる。


『か、かなり気にするよ。俺、友達もそんないないし目立つのす、好きじゃないんだ』


「分かった、オッケー。じゃあ平尾で」


 嶺歌は新たな認識を頭に取り入れ、彼の言葉に肯定の声を上げる。


 その嶺歌の返答に平尾はホッとしたのかありがとうと声を返してきた。本気で安心したようだ。しかしそこで嶺歌は念の為言っておこうと、ある事をついでに補足しておく事にした。


「あたしがあんただけそう呼んでたのはあれなの知り合いだったからなんだよね、他意はないから」


『し、知ってるよ……和泉(いずみ)さんは俺に興味ないでしょ』


「うん全然。てかお互い興味ないじゃん? あ、でも今日の電話は楽しかった。好きな人の話っていいもんだね」


 以前は平尾が自分を間違って好きになってしまうのではないかと危惧していた嶺歌も、それは絶対に有り得ないと今なら確信を持って断言出来る。それほどまでに平尾の形南への思いが強いのを理解しているからだ。


 嶺歌は躊躇いなく本音を伝え、しかし楽しかった事実も口にする。平尾とはまたこうして好きな人の話をするのもいいのかもしれない。そう思えていたからだ。


『ぜ、全部和泉さんの言う通りだよ。あ、あれちゃんとの事で何かあったらまた相談していい?』


 平尾も嶺歌と全く同じ気持ちのようだ。嶺歌は利害が一致することを認識しながらいいよと声を返して電話を終える。


 そして兜悟朗(とうごろう)の話を平尾にしていた事で無性に兜悟朗に会いたくなってきていた。


 しかし、それが不可能であることも理解していた嶺歌は台所まで足を運ぶと無心に夕飯を作り始めるのであった。



第三十九話『相談と恋バナ』終


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