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第三十七話③『返り討ち』



 そう言って嶺歌(れか)は持っていなかったはずの子春の自白していた音声データを瞬時に彼女の目の前に取り出し、それを再生する。


『貴女のようなお子様のお話を警察が信じるとでも? 私のアリバイは完璧ですよ? 盗聴器だって録音だって貴女が今していないのは分かった上で行動してるんですからね』


 それは先ほど子春が自分で暴露していた音声だ。それを聞いた子春は真っ青な顔をしてこちらを見る。


「そっそんなものどこで…………!!?」


 嶺歌はその言葉を無視して子春を一見するとその音声データをひらひらと手先で揺らして言葉を告げる。


「訴えられたくないなら、今後二度とこのような迷惑行為をしないって誓って下さい。脅しじゃなくて命令です。拒否するなら問答無用で警察に行きますんで」


 無力化できれば嶺歌はそれでいい。


 彼女が今後も悪事を働くのであれば話は変わるが、この様子を見るにきっとそれはないだろう。


 警察沙汰になれば彼女のこれまで培ってきたものが全て台無しになる。それを分からない程彼女が愚かな人間とは思えなかった。


「わ、分かりました。二度と……しません」


「信用ならないんで念書と誓約書を書いてもらえますか? 書類はちゃんと準備してありますから」


 そう言って嶺歌が取り出した二枚の紙を見て子春は再びバケモノでも見るかのような顔でこちらを見上げる。


「あ、貴女……本当に一体…………」


 あまりの準備の良さに驚愕している様子だった。


 今日このような事態になるとは思っていなかったであろう嶺歌が、何故その書類を持っているのか疑問なのだろう。しかし嶺歌が答えてやる義理はない。


 早く書くよう催促をすると、子春は震える手つきで文字を書き、それを嶺歌は確かに受け取った。


「じゃ、もうほんとに来ないでくださいね。次あなたが何かしたら、その時はあなたのこれまでの努力も水の泡です」


 嶺歌(れか)はそう言って子春が帰るよう玄関の扉を開ける。


 計算通りの時間で終われた事に内心安堵しながら子春に目を向けると、彼女は絶望的な表情をしながらのらりくらりと足を進めていた。


「素敵な所作ができる人だなって思ってたんですよ、本当に」


「……?」


 嶺歌はすっかり顔色を悪くした子春に向けて最後に言葉を放った。


「あなたの佇まいも、所作も何から何まであたしは尊敬に値する方だとそう思って見てました。これを機に改心して下さい。あなたが愚行を止めるならあたしはあなたのこれからを応援してますから」


 そう言って子春が玄関の外に出たのを確認して、彼女の言葉は待たずに玄関の扉を閉めた。


 敵に情けをかけるのはどうなのかと、そう思う者もいるだろう。だが嶺歌は魔法少女だ。彼女が反省して今後を改めるのなら、正義を愛する者としてそれを肯定する。悪が正義に変わるのなら、それほどに嬉しい事はない。


(改心、してくれるといいな)


 そう思いながら約一時間使用していた全ての魔法を解除する。嶺歌はずっと魔法少女の姿を人間に見えるようにと魔法をかけ続けていた。


 竜脳寺(りゅうのうじ)の時のように消耗して倒れないようにと、時間を気にしていたのだが今回は上手く管理が出来ていた。それに安心する。


 魔法少女の力がなければ子春をあのように無力化する事はできなかっただろう。改めて自分が魔法少女で良かったと心の底からそう思う。


(今回は誰にも迷惑かけずに済んだ……良かったっと)


 そう思い、心身共に疲れを覚えた嶺歌はそのままソファの上で眠りにつくのであった。



第三十七話『返り討ち』終


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