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第三十七話①『返り討ち』



 夏祭りはあの後気まずそうな古町と別れ、古味梨(こみり)ら三人と合流した嶺歌(れか)嶺璃(れり)は大きく打ち上げられた花火を最後まで見届けて楽しい一日を終えていた。


 色々とあったが、古町の事は心配していなかった。


 彼は明るく元気な男だ。数人の女子生徒から密かにモテているのを嶺歌は知っている。きっといい人に出会えるだろう。


 その後も夏休みを充実に過ごし、友人と遊びに出掛けることもあれば魔法少女の活動に励む事もあり、またその合間で宿題を着実に進めてもいた。




 その日は特に何もない一日で、コンビニまでアイスを買いに出た帰りの事だった。


 嶺歌(れか)はいつものようにマンションのエントランスに入り、自宅のある五階へ移動しようとする。しかしそこで嶺歌は見た事のある人物に遭遇した。


「お久しぶりで御座います」


 そこにいたのは、試用期間を設け、形南の専属メイドの候補者として働いていた村国子春(こはる)だった。


 嶺歌は彼女の鋭い視線にそのまま目線を返す。何故という疑問は湧かなかった。


 彼女はあの日、嶺歌の事を調べていたとそう口にしていた。であれば嶺歌の自宅を知っていても何ら不思議ではない。


 それにクビになった彼女が逆恨みで嶺歌の元へ訪れるという状況も可能性として考えていない訳ではなかった。


「何の用ですか」


 嶺歌は対面する子春に向かって声を出す。


 子春は以前のような洗練された美しい動作を見せる事は一切なく、腕を自身の前で組みながらこちらを睨みつけていた。敵意が丸出しである。


「性懲りも無く宇島(うじま)先輩にまとわりついているようですね」


 子春はそう言って嶺歌に一歩近づいた。


「宇島先輩に近付かないで」


 彼女は以前にも兜悟朗(とうごろう)の事をよく口に出していた。


 あの時は怒りで他の事に意識が回らなかったが、今ならその意味がよく分かる。


 子春も兜悟朗を一人の男性として好いているのだろう。恋心が行き過ぎると彼女のように他者への危害も厭わない性格となる者も中には存在するようだ。


 嶺歌は理解に苦しんだ。振り向いてもらえない事を他人の所為にしないでほしい。


「あなたにそれを言う権利ないですよね」


 嶺歌ははっきりそう告げると、子春は再び嶺歌を睨みつけてきた。


 しかし彼女の鋭い目つきも嶺歌にとっては恐怖の対象にならない。魔法少女の活動でこのような事案には慣れている。


 嶺歌は再び口を開いて子春を見据えた。


「あたしはあたしがやりたいと思った事をこれからもします。他人の文句とか知らないです」


「生意気な……!」


 子春はそう言って手を振り上げる。しかし自前の反射神経で嶺歌(れか)がそれを避けると彼女は心底悔しそうな目線で声を荒げ始めた。


「あんたなんかが釣り合う相手じゃないのよ!!! 宇島(うじま)先輩は学生の時から完璧で優秀で!!! 雲の上のような存在の人なのっ!!! あんたみたいな凡人が! 宇島先輩に見初められるとでも思ってんじゃないわよ!!!!!」


「でもそれをあなたに言われる筋合いもないですよね?」


 取り乱す子春とは対照的に嶺歌は淡々と声を上げる。彼女の動物のような甲高い声は、ただただ耳障りなだけだ。


 嶺歌は小さくため息を吐くと声の調子を維持したまま子春に言葉を投げた。


「成人済みの大人が何であたしにそんな吠えてくるのか分からないんですけど、今後もあたしの前に現れるつもりならこっちにも考えがあるんで覚悟して下さいね」


 子春がストーカーのように待ち伏せをしていた事はまだいい。


 問題なのは今後、彼女が嶺歌の家族にも迷惑を掛けるかもしれないという点だ。自分一人で片付くものならともかく、誰かを巻き込む事だけは回避しなければならない。


(あれなと兜悟朗さんにも黙ってよう)


 きっと二人の事だからこの件を知ってしまえば、物凄く謝罪をしてから大規模なお詫びをしてくる事だろう。


 そう考えると二人のそっくりな温かい性格に笑みが溢れるのだが、今はそのような状況ではない。


 嶺歌は思考を切り替えると子春の横を通り過ぎてエレベーターのボタンを押す。


「あたし自分の身は自分で守れますから、変なことは考えないで下さいね」


 そう言って子春から視線を外すと嶺歌は到着したエレベーターに乗り込んだ。


 子春は黙ったままこちらに強い視線だけを向けて、それ以上追いかけてくる事も言葉を発してくる事もなかった。


(めんどいけど自衛だし、やっとくか)


 そのまま自宅に戻った嶺歌(れか)は宿題に手をつけようと思っていた計画を急遽変更した。


 自室に入り、魔法少女の姿に変身するとそのまま窓から飛び出して、まだいるであろう子春の姿を探す。念のため自分の姿が透明になる魔法をかけておいた。


(いたいた)


 子春はノロノロとした足取りで嶺歌の住むマンションを出ているところだった。


 表情は暗く、以前高円寺院(こうえんじのいん)家に一時(いっとき)でも勤めていたメイドにはとても見えない。彼女の所作や佇まいは本当に綺麗であっただけに、今回のような事態になったことは少し複雑だ。


(でもそれを許せるほどあたしも悪には優しくないし)


 嶺歌は自身の中で決意を固めると子春の尾行を開始した。


 彼女が今どこで暮らし何をして生活を養っているのか、そして彼女の本音は何なのかなど必要な情報を徹底的に調べ上げていく。


 今回は子春が二度と嶺歌に害を与えないよう弱点を探し出し、無力化することが目的だ。


 きっとまだ子春は嶺歌への執念を諦めていない。また何か仕掛けてくるだろう。


 それが何かは分からないが、彼女の精神状態を考えると思い立ってすぐに行動に出てくる可能性も否めない。


 用心をするに越した事はないと、嶺歌はその日一日をかけて子春の尾行と観察を続けるのであった。



next→第三十七話②

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