第五話①『友達とお出かけ』
翌日以降、形南とは定期的に連絡を取っていた。あれ以降会えてはいなかったものの時々電話をしたり、レインで何の変哲もないやり取りを繰り返していた。
彼女とは間違いなく友人と呼び合えるようなそんな関係になれており、そんな事が心から嬉しかった。
そして平尾との進展は中々に順調のようだった。形南は平尾に少しずつアクションを起こし、彼からも必ず反応が返ってくるのだと嬉しそうに話していた。そうして数日が経ち、形南と遊びに出掛ける日がやってきた。
「これでよしっと」
早朝の魔法少女活動を終え、出かける準備を終えた嶺歌は鏡に映った自分の姿を再度確認する。今日も自分で満足できる範囲のお洒落さを演出できている。
友人のヘアアレンジなども度々行っている嶺歌には髪型を整える事も得意だった。
肩まで伸びたボブヘアを今日はコテアイロンで波巻きウェーブにアレンジし、数本のキラキラと光るヘアピンをこめかみに施している。
嶺歌は約束の時間を確認するとそのまま玄関へと向かった。
「おはよう御座いますですの」
インターホンが鳴り、テレビドアホンを確認するとそこにはいつもの制服姿とは違った形南の姿があった。
約束より早く訪れた彼女に驚いたもののすぐに玄関を出てエントランスまで走るとそこには上品に佇む形南がいた。
彼女は目が合うと優しげに微笑み、手を振ってくる。
「おはようあれな。久しぶりだね、待たせてごめん」
謝罪と共にそう挨拶を返すと彼女は先ほどよりも一層口元を緩め、嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、お久しぶりね。私本日を楽しみにしていましたの。私が早く来てしまったのでどうか気になさらないで」
形南はそう言うと直ぐに嶺歌の腕に自身の腕を絡めてエントランスの先に停めてあるリムジンまで案内してくれる。
リムジンの前にはいつものように執事の兜悟朗が控えており、嶺歌と形南が近づくと車の扉を開けてくれた。
「お早う御座います和泉様」
「おはようございます。いつも有り難うございます」
「とんでも御座いません。どうぞこちらへ」
兜悟朗は紳士的な笑みを向け、車内に入るようにと誘導してくる。形南も「お先にお乗りになってね」と背後から言葉を掛けてきたため、そのままリムジンの中に乗り込んだ。
そして素早くしかし丁寧に扉が閉められると続いて形南が乗車し、最後に兜悟朗が運転席に着席する。そして目的地へと車が動き始めた。
形南と初めてのお出かけに選んだ場所はハリネズミカフェだった。実は形南とは連絡を取り合っている際に偶然にも互いがハリネズミを好きである事を知ったのだ。
そこからはその動物の話題も増え、出掛ける際はハリネズミカフェに出向こうとそういう話になっていた。
目的地に到着した二人は兜悟朗をリムジンに残し、二人でカフェに入る。中には数十匹ものハリネズミがゲージの中におり、可愛らしい仕草を見せる様々なハリネズミが二人を出迎えてくれた。
二人でそれぞれの料金を支払い、九十分コースを選択する。これなら思う存分堪能できそうだ。
「私、現地のハリネズミカフェは初めてですの。この子たち、愛おしくて堪らないわ」
「現地って……あ、屋敷に来てもらったって事?」
「そうですの! 一週間ほどハリネズミカフェワゴンを派遣させましてよ。けれど、現地の方が活気があっていいですわね」
形南は心底嬉しそうにそんな言葉を口に出すと受付で購入していたハリネズミ用の餌であるミミズを器用にピンセットでつまみながら餌を与え始める。
動いているミミズはお嬢様である形南には不釣り合いに感じる所があったが、形南は何も問題がなさそうに平然とミミズをつまんでいた。少し意外である。
そのまま二人は各エリアに設置されているハリネズミのゲージを一つずつ訪問し、多くのハリネズミ達と触れ合った。
軍手をした状態で店員の指示に従ってハリネズミを持ち上げたり、ミミズの餌を与えたり、観察して写真を撮ったりする。
二人で癒しの根源であるハリネズミに没頭しているとあっという間に時間は過ぎていった。
長いと思い込んでいた九十分は短く、名残惜しい気持ちが生まれるほどだった。
「ああ~! 楽しくて仕方がなかったですの。ではそろそろお昼に向かいましょうか」
「ほんとあっという間だったね、ちょうどお腹空いてたからラッキー」
そんな話をしながらリムジンまで戻ると兜悟朗は二人が戻る時間を把握していたのかリムジンの前で既に立っており、目が合うと同時に丁寧なお辞儀をしてきた。
「お帰りなさいませ。形南お嬢様、和泉様。こちらへどうぞ」
「ええ兜悟朗、お留守番ご苦労様。とても楽しかったですの」
「労いのお言葉、感謝いたします。それはとても何よりなお話で御座います」
そんな会話をしながら兜悟朗は形南を車に乗せようとするが彼女は「私の前に嶺歌から乗せてあげて頂戴な」と予想外の言葉を口にした。
初めは主である形南の方から乗るべきではないのだろうか。
(今朝もそうだったけど、どうしてだろ)
そう思いつつもそれを口に出すのは憚られた。形南からの気遣いである事だけは分かるからだ。
すかさず嶺歌をリムジンに誘導する兜悟朗に大人しく従って車に乗車する。それから形南も座席へと座り、昼食を食べる目的地に向けて再び車は発進した。