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第二十五話②『初恋が来る』



 ダブルデートの日はすぐにやってきた。


 嶺歌(れか)は細めのボーダートップスをショートデニムパンツの中にインさせて歩きやすい白を基調としたスニーカーで支度を済ませる。


 仕上げにお気に入りのスポーティーなキャップを被れば日焼け防止もバッチリだ。髪の毛は両サイドで簡単に編み込みをしている。


「よし、準備完了っと」


 余裕を持って行動していたためまだ時間がある。嶺歌はゆっくりと待ち合わせ会場に向かう事にした。


 時間はたっぷりあるのだが、気候の良いこの日であれば外で待つのも悪くはないだろう。


「れかちゃん! カワイイ!!」


 廊下に出ると嶺璃(れり)が目を輝かせて嶺歌の姿をまじまじと見ていた。


 嶺歌は「でしょ~」と笑みを向けると嶺璃は「おでかけ?」と尋ねてこちらに抱きついてくる。可愛い妹だ。


「そうだよ。お土産買ってくるから」


「わ~い!!!」


 そんなやり取りをして母と義父に声を掛けると嶺歌は自宅のマンションを出た。




 待ち合わせ場所は目的地である遊園地で現地集合だった。珍しく車は出さないらしい。


 しかしそれも納得である。今回は平尾が参加するため形南としては彼の意向に添いたいのだろう。


 前回のやり取りから平尾がいかに遠慮がちな人間であるかを理解した嶺歌は、形南が平尾に無理強いをしたくないと思っているのだと推測するようになっていた。


 彼の性格を知っているからこそ、形南(あれな)は平尾の生活感に合わせて行動しているのだと考えられる。


 電車を乗り継ぎ最寄りの駅に到着すると時間を確認する。


 まだ集合時間の二十分前だ。嶺歌は遊園地の券売機売り場の前で立ちながら待つ事にした。ソーシャルゲームでもして時間を潰しておこう。


 そう思い、アプリを起動すると突然声が掛けられる。


「嶺歌さん、お早いご到着ですね」


(え……)


 顔を上げるとそこには私服姿に身を包んだ兜悟朗(とうごろう)の姿があった。


 兜悟朗に顔を向け、目が合うと途端に嶺歌(れか)の体の熱は熱くなり、経験した事のない激しい心臓の高鳴りが嶺歌を襲う。


「あ……お、はようございます。兜悟朗さん」


「おはよう御座います嶺歌さん。本日はどうぞ宜しくお願い致します」


 そう言って満面の笑みを向けてくる。嶺歌は心臓の音が高鳴る中、兜悟朗に小さく会釈を返す。変に思われてはいないだろうか。


 兜悟朗に会うのは約一週間ぶりである。


 彼と最後に会ったのはあの日、彼から手の甲に口付けを落とされた日だ。


 あの日はひどく動揺し、翌日も引きずっていたが、結局のところ彼からの社交辞令である事を結論づけて平常心を取り戻していた。


 取り戻していたにも関わらず、現に今動揺している。いや、これは動揺という言葉一つでは片付ける事はできないだろう。


 嶺歌はこの時理解していた。自分は今、兜悟朗の姿を見ただけで彼に対するときめきを感じているのだと。


 以前にも彼にときめく事はいくつかあった。


 平尾の告白現場を目撃した時、初めて彼に肩を掴まれ、緊張でどうにかなりそうだった時。兜悟朗に魔法少女の姿を逞しくて勇ましいと褒められた時。そして、パーティーで兜悟朗にエスコートされた時。


 兜悟朗へ向ける感情はいつの間にか嶺歌が初めて感じるものばかりだった。


 それを瞬時に思い出し、しかし今日だけはそれらの時以上に胸が高鳴っている事も理解した。そこで嶺歌は自身の感情を初めて認知する。


(やばい……あたし、兜悟朗さんの事めっちゃ好きだ)


 嶺歌はこの時、十も歳の離れた紳士的な男性に恋をしている事を自覚した。


 小さなときめきの積み重ねが全て重なり、今、この瞬間に、兜悟朗という一人の男性に落ちたのだ。


 今まで彼を友人の執事であると認識していた嶺歌は、恋に落ちた瞬間に一人の意中の男性として兜悟朗を認識し始める。


(うわあまじか……これが好きって事か……)


 自分の初めて生まれる感情に嶺歌は心臓がドキドキと高鳴るのを実感する。


 そうしてそれを誤魔化すように「あの、あれなはどこですか?」と尋ねてみた。きっとトイレであるとは思うのだが、何かを話題にしなければ嶺歌の気持ちは収まりそうにない。


「はい、形南(あれな)お嬢様はお手洗いでご準備をされております」


 やはりそうだった。嶺歌はそうなんですねと声を返すと兜悟朗から目線を逸らす。今までの自分であれば普通に会話ができていたのに、今はそれができそうにない。


「嶺歌さん、よろしければこちらをどうぞ。僕の私物になってしまいますが」


 しかし黙りこくる嶺歌にそう言って兜悟朗が渡してきたのは一枚のハンカチだ。


 シンプルなデザインでありながらもどことない気品さとお洒落さを醸し出すそのハンカチを、兜悟朗は嶺歌の汗を拭う事に使ってくれと言っている。


 嶺歌は緊張して汗が出ている事に気が付かず慌ててお礼を言うと彼の手元からハンカチを受け取り自身の汗をそっと拭く。


(て、いうかまた僕って言った…)




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