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第二十一話②『疑惑と信頼』



 唐突な質問に嶺歌(れか)は聞き返す。いきなりどうしてそんな質問をするのだろうか。


「い、いや……その……和泉さんの告白現場見てたら、ふと……」


「ふーん?」


 平尾は先程からもじもじと話しにくそうにしている。余程聞いたのが恥ずかしいのか顔も心なしか赤いような…………


(あれ?)


 その瞬間、嶺歌は何かを察して咄嗟に言葉を放つ。


「ねえもしかして……」


「えっ! ちっ、ちがうよ!! それはないから!!!」


 まだ嶺歌が口にしてもいないのに平尾は真っ赤な顔をして否定の言葉を口に出す。しかしその反応を見るとこれはそうなのではないかと勘繰ってしまう。


(こいつ、あれなの事好きなんじゃない?)


 それなら願ったりだ。形南(あれな)も大喜びである。いや、そんなものでは済まないくらい彼女にとっては嬉しくてきっとパーティーを何度も開くに違いない。


 だが平尾が否定する以上は、嶺歌から安易に触れられる話題ではない気もしていた。


「まだ何も言ってないじゃん」


「そっ、そだね。ごめん……」


 嶺歌の一言に平尾は申し訳なさそうに言葉を返しながら、居所が悪そうに顔を俯かせた。


 平尾は顔を赤く染めながらもしかし何だか不服そうな表情が見え隠れしている。照れ隠しではないのか?


 そんな彼の反応を目の前で見ていると平尾の視線は嶺歌を遠慮がちに見据え、だがそこでおかしな違和感に気が付いた。


(何か敵意持ってない?)


 そう、平尾からは小動物のような弱々しい言葉や態度を見せられてはいるものの、隠しきれていない僅かな敵意が嶺歌に向けられている。


 これは長年魔法少女活動をしてきた嶺歌が、気のせいなどではないのだと本能で理解していた。ゆえに絶対的に勘違いではない。


 だがそこで考える。この男に恨みを買うようなことは断じてしていない。これまでの関わりから嶺歌の印象は良くも悪くもないだろう。

 

 そう考え、なぜ敵意を向けられているのかをその場で思考していると、嶺歌はとある考えに辿り着いていた。


(待てよ? こいつ……あれなとは金銭目的で仲良くしてるんじゃ)


 平尾が形南(あれな)がモテるかどうかを気にしているのは実は形南の逆玉を狙っているからであり、キープしておきたい存在だからだとしたらどうだろう。


 しかしそれを悟られる訳にはいかないので嶺歌(れか)の言葉に強く否定してみせた。


 いや、もしかすると嶺歌が逆玉を狙っているのではないかと言及しようとしていたと勘違いしてのあの発言だったのかもしれない。


 嶺歌に弱みを握られそうになったと解釈し、平尾は嶺歌を初めて警戒対象として認め、このように敵意を向けるようになった。この線はどうだろう。


(可能性……あるな)


 考えてもいなかった可能性だったが、平尾が強く否定する理由を考えると的を得ているようなそんな気もする。


 彼が今ただ照れているだけで、一人の女の子として形南を好いているのなら嶺歌にとっても喜ばしい事であるが、後者であるなら話は別だ。


 それが当たっているなら彼の思惑通りにいかせる訳にはいかない。


(いやー、でも考えすぎか)


 だが嶺歌はそこで一旦自身の決め付けた考えを改めた。


 それにそうであるとまだ確定していない今は彼を形南から引き剥がすわけにもいくまい。平尾が形南の想い人である事実は変わらないのだ。


 そしてもう一つ、もし彼がそのような考えを持つ人物であれば、兜悟朗(とうごろう)が黙っている筈がないだろう。


(そうだよな。兜悟朗さんが警戒してないのに、怪しむ必要性は……)


 そこまで考えて嶺歌は気が付く。思っていた以上に嶺歌自身が兜悟朗を信用しているというという事実に。


 そして何の迷いもなく彼の事を全面的に信頼している自分がとてつもなく不思議に感じられた。


(それくらい完璧な人だからな……)


 そんな事を考えていると平尾は尚も居心地が悪そうにこちらに目線をやり、口にしづらそうにこんな言葉を発してきた。


「じゃ、じゃあ俺行くから」


「あーうん。じゃあね」


 特に引き止める事もせず、嶺歌は平尾に軽く手を振ると平尾はそそくさとその場を後にする。まるで何か粗相をしてしまった後に逃げ帰るようなその姿を目で追いながら嶺歌は安堵していた。


(あたしが嫌われてるだけかーならいいや)


 兜悟朗が何も行動に出ていない時点で懸念していた点は嘘のように無くなっていた。


 先程の考えはただ嶺歌の行きすぎたものであり、平尾が形南を好きなのかはまだ明確ではないが、単に照れ隠しからあのような否定の言葉を出していただけだ。


 嶺歌への敵意の眼差しも単に嶺歌が嫌いなだけなのだろう。


 他者から嫌われる事を恐れない嶺歌にとっては、平尾からどう思われていようと痛くも痒くもない事だ。


 そう考えると嶺歌はスッキリし、何のしこりも残さず裏庭を後にするのであった。



第二十一話『疑惑と信頼』終


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