第二十一話①『疑惑と信頼』
形南の復讐も無事に終了し、平凡な日常を送る日々がまたやってくる。
竜脳寺のあの一件はあの場にいた多数の生徒のネット投稿から世間に流出していた。
嶺歌の魔法である程度は沈静化させているものの、ネットは不特定多数の者が投稿できてしまう為全てを落ち着かせるという事は出来てはいなかった。
だがしかし形南の牽制があったおかげか、ネット上でこそ炎上してはいたものの彼自身の学園生活はそう酷いものではないようだ。
彼を遠ざける生徒は多くいても、竜脳寺は本当に反省しているのか日々の生活を謙虚にそして懸命に送っている様子だった。
野薔薇内も形南との一件で懲りたのか大人しくなったという。
あの後高円寺院家へ両親と共に訪れた彼女は再三の土下座を形南の前で行い、それ以降は二度と形南に顔を見せない事を誓ったらしい。
竜脳寺のように誓約書を書いていないのは形南の慈悲だと聞いている。
そして懸念していた高円寺院家が復讐を行なったという噂は少なからず出回ってしまっていた。
だがそれを形南は後悔していないのだと改めて嶺歌に告げており、高円寺院家に仕える優秀な従者達の立ち回りで事はそう大きくなっていなかった。
当主である形南の父親も、形南の今回の件に対してむしろよくやったと喜んでくれているのだとか。
形南の年の離れた兄弟たちも今回の件を聞いて安心してくれていたようだ。
話を聞くと、どうやら高円寺院家の名に傷が付かないようにと神経を尖らせていたのは形南だけのようであり、彼女の受けた仕打ちを知っていた両親や兄弟たちはずっと竜脳寺や野薔薇内に報いを与えたいとそう強く願っていたようだ。
形南がそれは申し訳ないと泣き出した姿を見て、家族全員、形南の意向を汲むべく復讐を諦めたのだと、嶺歌はあの後兜悟朗から聞いていた。
そのため高円寺院家の誇りの問題に関しては何も心配はいらないと、形南の父親が声を大きくして告げていたらしい。
その話を兜悟朗伝手に聞いた嶺歌は心底安堵し、そして形南が如何に家族に愛されているのかを同時に知って心が温かくなった。
高円寺院家は高貴なだけでなく中身全てまでもが素敵な家族だと、微笑ましい思いになる。
(今日も頑張るかー)
形南も二人への報復を終え、一年間の鬱憤が綺麗に消えたと喜んでいた。嶺歌も友人の辛い過去を乗り越える手伝いが出来、それが喜ばしかった。
嶺歌はいつものように伸びをして起き上がると魔法少女の姿へと変身し、日課の魔法少女活動を行いに外へ出る。
「今日も頑張ったっと」
魔法少女活動を終え、寝癖のままの人間の姿に戻ると嶺歌は机に置いてあった未開封のペットボトルを開けながらそれを飲み干し、疲れを癒す。
そしていつものように準備をすると学校へ足を進めるのであった。
「和泉好きだ! 俺と付き合ってくれ!!」
「先輩すみません。気持ちに応えられません」
昼休みになると裏庭で一学年年上の先輩に告白をされた。しかし全く気持ちが揺れ動かない嶺歌は深く頭を下げて断りの声を口にする。
「そうか……残念だ」
先輩はそう口にすると悲しそうな表情でその場を去っていく。罪悪感はあれど、時間が解決するのを待つしかない。嶺歌にできるのは彼の幸せを心の中で願うことくらいだ。
(さあ行くか)
先輩が完全に裏庭を出ていくのを確認すると嶺歌も教室へ戻ろうと足を動かす。だが曲がり角を曲がるとそこで『ガサッ』という音と共に見知った顔の人物が目の前に現れた。
「あ……ご、ごめん」
それは平尾だった。彼はいたたまれなさそうな顔をしながら嶺歌の方をチラチラ見やるともう一度ごめんと謝罪してきた。わざとではないだろうに構わないのだが、何だかデジャヴである。
(前は兜悟朗さんだったな)
そんな事を思いながら平尾に目を向け別に大丈夫だと言葉を返すと、彼は後頭部を掻きながら何かを口に出そうとしている。
嶺歌は急かすのも何だと思い、彼が声を発するのを待つ事にした。
「あ、あのさ……見るつもりはなくて、ごめん」
「え? いや今謝ってたしもういいよ?」
なんと平尾は三度目の謝罪をしてきた。謝るのが癖なのだろうか。
嶺歌は不思議に思いながらそう言葉を返すと彼は慌てた様子で「あ、ありがと」と口にした。
「何か話があるの?」
形南の事で何かあるのかもしれない。そう思った嶺歌は単刀直入に聞いてみた。
すると平尾は図星だったのか顔を上げると「う、うん」と声を返す。
「あ、あのさ……あれちゃんも告白とか、されるのかな」
「ん?」




