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第二十話②『第二の復讐』



野薔薇内(のばらうち)蘭乃(らんの)様。(わたくし)アレとはもう一切の関わりがありませんの」


「アレって何よ……!?」


竜脳寺(りゅうのうじ)外理(がいすけ)ですの。言わせないで頂戴な」


 形南(あれな)は野薔薇内を見下ろしながら言葉を放つ。


 彼女の声色は透き通るように美しいものであるがゆえに、冷たい声がまた彼女の高貴さを強調させている。


「ハッそんな嘘は信じな……!!!?」


 途端に形南は一枚の写真を野薔薇内の目の前に突き出す。その写真は数年前に撮られたものと思われるまだ幼い形南と竜脳寺のツーショットだった。


 突然差し出されたその写真に野薔薇内は目を見張った。


「いい事? (わたくし)はあのようなモノ、とっくに必要ないんですの。私には今、他に思いを馳せている殿方がいますのよ」


 そう告げると形南はその写真を野薔薇内の前でゆっくりと引き裂きビリビリと破き始める。


 小刻みに切り離された紙の破片は、野薔薇内の頭からはらはらと降り注がれていく。


「ああ、それから」


 形南は思い出したように野薔薇内の方をもう一度見る。


「盗ったのは(わたくし)ではなく貴女。現実から目を逸らされるのは迷惑でなりませんの」


 形南の言葉に野薔薇内は何も言い返す事ができない。歯を食いしばり、悔しそうに顔を歪め、床だけを見つめている。


「行きましょう」


 形南は嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)に声を掛けるとそのまま足を動かす。もう野薔薇内に復讐を果たせたのだと、形南はそう告げているのだ。


 本来であれば土下座をさせたいところであったが、形南がこれでいいと言うのならそれでいい。


 嶺歌はもう一度だけ野薔薇内に一瞥をくれてやるとそのまま足を進めた。


「……待ちなさいよ」


 すると扉の方まで歩いたところで野薔薇内の声が部屋中に響く。


 彼女はまだ何か言いたげであり、嶺歌たちが振り向くと地べたに未だ足を預けたまま野薔薇内は顔を上げてこう放った。


「高円寺院家が浮気の腹いせに復讐だなんて笑わせるじゃない!!! いいの!!? たかが浮気如きで、復讐をするような財閥なんだって後ろ指さされるわよっ!?!?!? 世間の目を気にするほど大きな財閥である高円寺院家サマの誇りとやらはどうでもいいのかしらっっ!!!?」


「あら」


 扉の外まで出ていた形南(あれな)はそう口にするとゆっくり野薔薇内(のばらうち)の方へ歩み寄る。


 そうして見上げて睨みつけてくる野薔薇内を見下ろしながら言葉を続けた。


「脅しているおつもり? 貴女はそれで(わたくし)が動揺するとお思いなの?」


 形南の表情は冷酷なお嬢様を思わせるそんな雰囲気を醸し出している。


「貴女には謝罪を求めてなどいなかったのですけれど、悠長なことは言ってられませんわね」


 形南はそう言うと野薔薇内に足を出した。そうして強い声音で、言葉を放つ。


「お舐めなさいな」


「……はあ?」


 野薔薇内に華奢な足を出した形南は彼女を冷酷な眼差しで見下ろしながらそう言葉を繰り出す。


 しかし野薔薇内はそんな形南の表情に畏怖の色を見せながらも、抵抗の声を上げた。


「ばっかじゃないの……そんなの………するわけないじゃない」


 きったないと言いながら片手で払い除けようとする野薔薇内の手を、形南の脚が踏み潰す。


「いだッ!!!!」


「聞こえませんでしたの?」


 形南の足は野薔薇内の手を踏んだまま動かない。野薔薇内は涙目になりながらうめいている。どうやら力を入れて彼女の手を踏んでいるようだ。


「貴女、随分と図が高いのではなくて? 事を荒立てなかったのは(わたくし)からの慈悲でしたのに」


 そう言って形南は一度足を上げると再び彼女の手を踏みつけた。


「そこまで反省なさらないのなら、もう貴女の手は踏み潰してしまいますわね」


「あああ頭イカれてんじゃこのクソアマッッッ!!!」


「あら」


 形南はそう口にすると野薔薇内の髪を無造作に掴み持ち上げる。


「それとも御髪が抜ける方が宜しいですの?」


 無遠慮に躊躇いなくグッと髪の毛が持ち上げられた野薔薇内は目を見開き「いッ!!!」と言う言葉と共に更に涙を浮かべ始める。


「いだいいだい……いやっやめっ……」


「いやですわ。貴女が(わたくし)をこのようにさせていますというのに」


 このような事をしていても、形南の高貴さは失われていなかった。それは決して嶺歌(れか)の贔屓目ではなく、形南はこのような状況でも驚くほどに冷静的で、一切感情を乗せていないからだった。


 感情的に反抗する野薔薇内とは対照的に形南が感情的に彼女を痛めつける事はしていない。


 形南は野薔薇内が反省の色を見せたらすぐに、彼女への危害を止めるのだろうと嶺歌はこの光景を見て理解していた。


「このように他者を痛めつけるなど、財閥の娘としてあるまじき事。そう思いますわよね」


 形南はそう告げながら野薔薇の髪を引っ張り上げていく。


「ですが貴女のように身の程を弁えないお方にどちらが上なのか、知って頂かない事にはこのように行う他ありません」


「いたいっ……おねが………」


「お分かり頂けます? 貴女は高円寺院形南に喧嘩を売られておりますのよ。(わたくし)はそれを買っているだけ。貴女が謝罪をなさらない事には、私のこの手も止まる事を知りませんの」


 形南は髪を引き離そうと躍起になる野薔薇内に厳然としたまま髪を引っ張り上げ続ける。抵抗する野薔薇内にも形南はビクともしなかった。


「貴女が謝罪なさるまで(わたくし)、手をお止めしませんのよ? お恥ずかしながら筋力には自信がありますの。野薔薇内様、(わたくし)いつ迄もお相手いたしますわ」


 形南の笑っていない瞳が野薔薇内の瞳孔を激しく揺らした。野薔薇内は蒼白した顔を一瞬にして顔に出すと「しゃ、しゃ謝罪いたします……」と力なく声にした。



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