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第十四話②『独りよがり』



『申し訳御座いません。只今形南(あれな)お嬢様は早朝のお稽古に行かれております。お戻りは夜になります為、急を要する事柄であれば(わたくし)にお申し付け下さい』


 早朝の七時に電話をかけた嶺歌(れか)は、第一声の兜悟朗(とうごろう)の声に酷く驚いた。


 かけたのは間違いなく形南の電話番号で、そもそも兜悟朗の連絡先は知らなかった。


 本来主人の電話に出る筈のない執事の兜悟朗が何故彼女の電話に出ているのだろう。嶺歌は早朝である事も相まって上手く思考が巡らなかった。


「あの、どうして兜悟朗さんが電話に出てるんですか? あれなが出れないなら不在通知になると思うんですが」


 主人のスマホを勝手に使用するなどあまりにも不敬ではなかろうか。いつも実直な兜悟朗がそんな事をするとは思えなかったが、考えても分からなかった嶺歌は直接尋ねてみる。


 すると兜悟朗は尚も腰の低い丁重な言葉遣いでこちらの質問に答え始めた。


「形南お嬢様は本日、月に一度行われる秘匿事項のお稽古をされております。その際は私物の持ち込みが禁止されております為毎月(わたくし)がお嬢様のお電話を代行させていただいているのです。こちらの件に関しましてはお嬢様からのご命令で御座います故ご容赦くださいますと幸いで御座います」


 丁寧な説明でそう告げられ、嶺歌は驚く。秘匿事項の稽古にではなく、兜悟朗に自身の貴重品であるスマホを一任しているという事にだ。


 兜悟朗の有能さはこれでもかという程に理解できていたものの、形南がスマホを預けるだけでなく使用許可を与えるほどに彼女は兜悟朗を信用しているのだというその事実に、嶺歌は二人の信頼の厚さを改めて認識していた。


(どうしよう……なるべく早く聞きたかったから、夜まで待つのもな)


 嶺歌は形南に復讐をしてもいいのかどうか確認する為こうして電話をかけていたものの、彼女が不在である今どうするべきかで悩み始める。


 顎に手を当てながら唸るが、そんな沈黙の間も兜悟朗は電話を切らずに静かに待ってくれていた。


(兜悟朗さんに聞いてみるのもアリだよね……?)


 通常であれば嶺歌が第三者に知り合いの心情を尋ねる事はしない。


 だが形南の場合はこうして彼女が全面的に信頼する兜悟朗という執事がいる。彼女の事を恐らく一番理解している彼であれば形南の事を尋ねても問題がないように思えたのだ。


 きっと形南もそれに対して気分を悪くする事はないだろう。そんな確信的なものを持てるほどには形南と兜悟朗の関係を評価していた。


「あれなの事で聞きたい事があるんですけど」


『はい。何なりとお尋ね下さい』


 嶺歌(れか)が意を決して問い掛けると間を開ける事なく彼は即座に返事をした。


 その彼の言葉を聞いて嶺歌は口を開く。形南(あれな)の元婚約者に復讐をするとは言ったが、形南がそれを望んでいなければそれは独りよがりになってしまうという事を。


 そしてそれは自分の望む展開ではないため彼女の心理が知りたいのだと正直に相談してみた。


 兜悟朗(とうごろう)であれば形南の事をよく分かっている筈だ。ヒントくらいは得られるだろうと思っての相談だった。


 すると兜悟朗は静かに、だがはっきりとこのように言葉を返してきた。


『そちらの件に関して、形南お嬢様から言伝を預かっております。お嬢様は嶺歌さんがそのようなお話をされた場合、このように申せと』


「あれなから……ですか?」


『左様で御座います。嶺歌さんのご意志が固いのであれば、是非彼に報いを与えてほしいと、そう仰っておりました。本来であればご自身で告げたい事の様でしたが、お嬢様は報復の後押しをしないよう嶺歌さんから話題を持ち出される事を選ばれたのです』


 兜悟朗がそれを口にすると『そしてこちらは(わたくし)自身の個人的な心情となります』と新たな言葉を続けてきた。


『ご遠慮は要りません。どうかご存分に、復讐を果たして下さいますか』


 その言葉はいつもの丁寧な口調であったが、普段のような穏やかな声音ではなく心の中から伝わるような強い意志を感じられた。


 形南だけでなく、兜悟朗も竜脳寺(りゅうのうじ)に強い憎悪を抱いているのだとその一言だけで容易に理解ができた。


 嶺歌は決意を固めると前を見据えながら大きく声を張り上げる。


「勿論です!」


『有難う御座います。感謝以外に言葉が見つかりません。このお礼は後程必ずさせて頂きます』


 そうして彼は具体的な説明をしてくれた。形南(あれな)が何故復讐をできないのか。そしてそれに対して兜悟朗(とうごろう)がどう感じていたのか。


 彼は、当時の形南の状況を黙って見ている事に耐えられなかったようだ。


 復讐をすぐにでも果たそうと考えたものの、しかしそれを形南に強く止められていた。形南が一番悔しいだろうに、彼女は自分の感情よりも財閥の誇りを優先し報復を断念したのだ。


 それは嶺歌(れか)が予想していた内容そのものだった。


 そしてそれを予想ではなく確実な情報として得る事ができた状況に嶺歌は安堵していた。


(良かった。やっぱりあたしが適任だって事なんだ)


 自分の手を復讐で汚す事に躊躇いはない。嶺歌は魔法少女だ。善悪の区別くらいはしているつもりである。


 復讐が褒められたものでない事は理解しているが、それを行おうと思う程の罪を彼らは行っている。これを無視する事こそ、魔法少女としての存在意義を問うものであるだろう。ここまで話を聞いた嶺歌にもはや迷いはなかった。


「兜悟朗さん、色々教えてくださってありがとうございます! 自分の中で計画を練りたいのでまたあれなに連絡すると伝えてもらえますか?」


『勿論で御座います』


 電話越しであったが彼が深々とお辞儀をしたのが想像できる。


 嶺歌はそんな事を思いながら電話を切るため最後の言葉を口にしようとしていると『嶺歌さん』と彼の方から名前を呼ばれた。まだ兜悟朗には何か言いたいことがあるようだった。


 嶺歌がはいと答えると彼はそのまま言葉を続ける。


『貴女様一人にご負担をお掛けしてしまう事、誠に申し訳御座いません』


 嶺歌が立たされた今の状況に律儀にも謝罪を申し出る兜悟朗に嶺歌は言葉を返す。これは紛れもない本心だ。


「全然です。高円寺院家の事情は聞いてますし、あたしに任せてください」


 高円寺院家の事情は彼の説明で十分理解した。果たしたくとも果たせなかった復讐を代わりに自分がやり遂げる。その点に関して何も疑問は抱かなかった。


 竜脳寺(りゅうのうじ)に関する情報は形南(あれな)兜悟朗(とうごろう)から得る事もできたが、詳しい事柄を今回尋ねるのは敢えて避けていた。


 情報を提供しただけでも不名誉になってしまうかもしれないと危惧したからだ。


 向こうからも聞かされる事はなく、それは二人も同じ事を考えているからなのだろう。兜悟朗の『貴女様一人に』という言葉にその意味も含まれていたのだと嶺歌は考える。


 竜脳寺に関して情報が欲しいのは事実だったが、特に不便はなかった。自分は魔法少女であり、情報収集は割と得意分野だったからだ。


(あんまり使い道はなかったけど最近はよく使うな)


 以前形南の出逢い作戦でも使用した自身の身体を透明にする魔法で嶺歌(れか)は竜脳寺の学校に潜入していた。


 彼の学校は形南に婚約者の存在を教えられた際に聞いていたので覚えていたのである。


 これくらいは大した情報でもないため、高円寺院家の誇りに傷が付くこともないだろう。


 嶺歌は学校に潜入しながら竜脳寺の姿を見つけ出し、数日間彼を観察し続けた。行動範囲を把握し、彼の弱点を探る為だった。


 そしてそれらを何度か繰り返した後に、嶺歌は復讐のシナリオを閃く。


(これならあれながスカッとするはず)


 考えついた復讐を嶺歌は頭の中で整理し、実行日を決める。早ければ早いほど良い。迷う事なく実行日は明日に決めていた――。



第十四話『独りよがり』終


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