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第十話①『告白とライバル』



「あ、和泉さん」


 いつものように登校した嶺歌(れか)は教室の前の廊下で自身の名を呼ぶ平尾の姿を目に捉える。


 彼はどことなく慣れない様子でこちらにおはようと挨拶をすると小さく手を上げてきた。嶺歌は先日の兜悟朗(とうごろう)の言葉を思い出す。


 そして平尾に目を向けると挨拶の言葉を返した。


「おはよ。土日はあれなと連絡取った?」


 形南(あれな)の話題を取り入れる事にしたのは特に話題もない上に変に誤解されるような話題は避けておきたいからだ。


 現状、形南や兜悟朗を思うと彼を無視する訳にもいかない為、形南の話をするのが一番最適だと判断していた。


 それに純粋に二人の関係性が気になるというのもあった。形南は平尾に対する隠しきれない愛を嶺歌に毎回語りかけてくれるが、平尾が彼女をどう思っているのかは分からない。


 出来れば二人が上手くいくように協力をしたい。そんな意図も持っていた。


「あれちゃんと? う、うん。昨日少しね」


(少し……)


 実のところ昨日形南と解散をしてから夜の九時あたりに突然彼女からレインが届いていた。


 形南からのメッセージは『平尾様とレインのやりとりがたくさん続きましたのっ!!! 嬉しかったのでどうしても嶺歌に報告したかったのですわ』という内容であった。


 彼女からすると意中の相手との連絡はたとえ少しのやり取りだったとしてもたくさんに思えるのかもしれない。

 

 しかし平尾からすれば少しにしか感じていないというのは少々、気になるところではある。


「少しってどれくらい?」


「……えっ!?」


 まさかそこを突っ込まれるとは思ってもいなかったのだろう。彼は途端に焦った様子を見せると分かりやすく首を左右に振り、挙動不審になる。


 その様子を見て嶺歌は彼に困る質問をしてしまったかと思考した。そしてすぐに先ほどの質問を取り下げる。


「答えなくていいや。あれな、あんたと話すの楽しいって言ってたよ」


 去り際に形南の言葉を彼に伝え、小さく手を振って自身の教室へと戻る。平尾は追いかけてくることはなく、ただ小さく「そうなんだ」と言葉を漏らしていた。




 休み時間になると同じクラスの男子学生に裏庭へ呼び出された。いつも親しげに会話をするその男子学生は、いつもと違う改まった様子で嶺歌(れか)の到着を待っていた。


 そして周りに誰もいない事を確認するとそのまま嶺歌に一歩近づき言葉を放つ。


「和泉が好きだ」


 それは嶺歌の予想していた通りの内容だった。このように異性から告白をされる事はそう少なくなかった。


 だが嶺歌には彼の期待に応える程の感情がない。これまでと同様に真剣な眼差しでこのように想いを告げられていても、嶺歌に響く事は一度としてなかったのだ。


「ごめん。そういう目で見れない」


 彼に少しだけ視線を送り、小さくしかしはっきりと言葉を返す。自分の事は吹っ切ってどうか彼を好いてくれる女の子と幸せになってほしいと思う。


 それが自分に勇気を出して想いを告げてくれた相手に対してのせめてもの願いであった。


 嶺歌の返答に悲しげな表情を見せながらもそのまま堪えて彼は逃げるように去っていく。同じクラスであるため、少々気まずいところもあるが、それは時間が解決してくれるだろう。


 そう思いながら去っていく男子学生の背中をぼんやりと見つめていた。


(そろそろあたしも戻るかなっと)


 男子学生に気を遣って時間をずらしていた嶺歌は数分が経過したところで教室へ戻ろうと足を動かす。


 しかし裏庭の曲がり角を曲がったところでとある人物の姿に目を見開いた。


「えっ……」


「……申し訳御座いません。覗き見をするつもりはなかったのですが」


 そこには何故か、本当に何故か、形南(あれな)の執事である兜悟朗(とうごろう)の姿があった――――。


兜悟朗(とうごろう)さん? どうしてここに……」


 言いかけたところで誰かが裏庭の扉を開けて入ってくる音が聞こえてくる。ここは曲がり角で死角となっており、誰が来たのかは見えないが兜悟朗がいる所を見られたらまずいのではないだろうか。


 そう思った時だった。「失礼致します」という言葉と共に背後から口を塞がれ、そのままの体勢で人目から逃れるように木陰の方へと移動させられる。


「!?」


 何が起こっているのか分からなかった。しかし嶺歌(れか)の口を塞ぎ、空いてる方の手でがっしりと肩を掴んでいるのはあの兜悟朗で間違いない。当然のごとく、振り解く事などは無謀な事だった。


 何故紳士的な彼がこんな事を……そう思ったのも束の間、聞き慣れた声が嶺歌の耳に響いてきた。


「は、話って何?」


 この声は平尾だ。嶺歌は驚き、そのまま目線を裏庭の方へと向ける。


 体勢的に身体を向ける事は出来なかったが、視界の隅では彼の姿を捉える事ができた。そして思った通り、そこには平尾が立っていた。


 しかし彼はもう一人知らない女子学生と互いに向き合っている状態だ。あれは誰だろう。そんな事を考えていると真上から言葉が降りかかってくる。


「嶺歌さん、無礼な真似をして大変申し訳御座いません」


 兜悟朗は丁寧な口調で声が漏れないよう小さく謝罪の言葉を口にし始めた。同時に塞いでいた手を嶺歌の口から離し、こちらは声を発せられる状態になる。


 そして兜悟朗のその言葉を聞いて嶺歌は安堵した。彼の気が狂った訳ではないのだと理解出来たからだ。


 隠れているこの状況は、どうにかして欲しいものだが、今動けば確実に相手の二人に見つかってしまうだろう。嶺歌は今だけは大人しく兜悟朗に身体を預ける事にした。


 すると兜悟朗は次にこのような言葉を繰り出してくる。


「私は今回平尾様を尾行しておりました。今(わたくし)達が目にしている光景は形南(あれな)お嬢様も危惧されていた状況なので御座います」


「あれなが……ですか!?」


 彼の言葉に耳を疑った。平尾はどうやら知らない女子学生に告白をされているようだった。その事にも驚きだが、それをなぜ形南が知っているのだろう。そんな嶺歌の疑問を他所に兜悟朗は言葉を続ける。


「平尾様がどのような結論を出されるのか、(わたくし)がこの目で確認をし、形南(あれな)お嬢様にご報告するのが今回御校に訪れた理由です」


(なるほど……あれな、やっぱり心配なんだ)


 それはそうだ。自身の意中の相手が、どこの誰とも分からない相手に告白をされるのは気が気ではないだろう。


 形南は今心が穏やかではいられない筈だ。今の説明で兜悟朗(とうごろう)がこうして学校に来ている理由も判明した。


 だがしかし、どのようにして平尾が告白される事を知ったのだろう。


 嶺歌(れか)はその疑問をようやく説明が終わった兜悟朗に投げると彼は小声のまま答えを口にした。



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