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第八話③『招待』



 しかし一点だけ腑に落ちない事が今の一連の流れで出てきた。


 嶺歌は楽しげに微笑む形南を見返しながら問い掛ける事にする。何故彼女は突然の差し入れに警戒を示さないのかと。


 自分で持ってきておいて何であるが、ご令嬢である形南が安易に嶺歌の手作りを口にするのは、少し警戒心に欠けているのではないかと思うのだ。


 するとその質問には形南ではなく兜悟朗が口を開く。


「そちらの点においては(わたくし)からご説明を。お言葉ではありますが和泉様、その前に私の方からもひとつ宜しいでしょうか」


「はっはい!?」


 質問に質問を返されるとは思わず嶺歌は柄になく言葉をつっかえる。しかし直ぐにどうぞと言葉を付け加えると彼は小さく微笑んでから言の葉を繰り出してきた。


「何故私が、貴女様の作られたクッキーをお嬢様が口になさる所を静かに見ていたのかお分かりでしょうか」


「えっとそれは……それが分からなくて」


 嶺歌は先程も気になっていたがその理由が分からなかった。何故彼は形南の隣に立ち、毒味役を買って出なかったのだろうか。


「お嬢様にご命令をいただいていたからで御座います。和泉様が何を出そうと私が関与する事は許さないと。そう命令を受けていたのです」


「あれなが?」


「その通りで御座います。ですが理由はもうひとつ御座います」


「もうひとつ?」


 嶺歌(れか)はその言葉に素っ頓狂な声をあげる。もう一つの理由とは何だろう。そう思うのも束の間、それはすぐに耳に入ってきた。


「以前にもお伝えしましたが、貴女様をお調べした際に、和泉様がそのような事をなさる可能性はゼロに等しいと判断しております。ですからお嬢様の命令がなくとも今回の件で(わたくし)が前に出るつもりはどちらにせよありませんでした。貴女様の性格を理解した上での行動なのです」


「…………」


「そうですのよ、嶺歌」


 嶺歌が黙っていると形南(あれな)兜悟朗(とうごろう)の言葉に付け加えるように声を発し始める。


「貴女は真面目なお方ですもの。(わたくし)達を気遣って自分を落とす事に躊躇いを見せないですのね。今回の件でそれは確信に変わりましたの。ですが嶺歌、よく聞いて頂戴な」


 形南は柔らかな声でありながら気品のある言葉遣いで嶺歌の名を呼ぶ。その威厳のある得も言えぬ雰囲気に思わず彼女を見た。


 目が合うと形南は穏やかに微笑み、しかし直ぐにキリッとした目つきに変わるとこんな言葉を発してくる。


「以前も申した事ですが(わたくし)達は貴女様を信用に足り得る人物と認識しておりますの。これ以上にない程信頼していますのよ。ですからどうか、ご自分を仮定だとしても悪人のようにお話しするのはお止め下さいな」


 形南はいつになく真剣な眼差しでそんな言葉を口にする。嶺歌は彼女の視線がただの気休めなどではない事に気付いていた。


 こんな極上とも呼べる信頼を自分が得てしまっていいのだろうか。まだ月日も浅い関係の自分がそこまで信頼されるものなのだろうか。


 先程まではそう思っていたものの、疑問は全て今の彼女の言葉で消え去っていた。形南は適当な言葉を口にするようなお嬢様ではない。それをこの短い間でよく理解していたからだ。


 嶺歌は真面目にこちらに向き合う形南の言葉に温かい気持ちが生まれ、彼女を再び見返すと口を開いた。


「ありがとうあれな。うん、あたしも自分を悪者みたいに仮定するのはやめるよ」


 そう言って歯を見せて笑う。するとそれまで真剣にこちらを見ていた形南もそんな嶺歌につられたのか可愛らしい無邪気な笑みへと変わり「そうして下さいませ」と嬉しそうに笑った。


 それからようやくお預けを食らっていたティータイムに入り、二人でお疲れ会を楽しむ。


 形南の学校の話や嶺歌の話、魔法少女としての活動の話などそれぞれ互いの私生活の話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごしていた。




 しばらくお疲れ会を堪能しているといつの間にかテーブルに並べられていたお菓子も全てなくなり、形南が「そろそろお疲れ会はお開きですの」と言葉を口に出す。


 もうそんな時間かと少し名残惜しく思っていると形南は両手を添えながら嶺歌にこんな言葉を放ってきた。


「ねえ嶺歌。宜しければ(わたくし)の前で魔法少女になっていただけないかしら!?」


「……へっ!?」


 形南はキラキラと目を背けてしまいそうになるほどの眩い瞳を輝かせながらこちらを見つめ、そう口にした。




第八話『招待』終


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