第六十一話②『掌返し』
学校に到着すると平尾が教室内にやってきた。きっと思うところがあるのだろう。
だが今回の件は嶺歌も動揺してはいたものの決して平尾のせいではなく、不慮の事故だ。平尾が謝罪する必要はない。
しかし嶺歌の態度で彼に罪悪感を生ませてしまっていたのかもしれない。
二人は裏庭に向かうとそこで少し話をする事にした。誰もいないベンチに腰掛け、珍しく平尾の方から口を開く。
「ご、ごめん。俺、知らない方がいい事知っちゃって……」
「いや謝罪はいらないよ。あたしも動揺してて態度良くなかったと思う。ごめん」
「ええ? いやそれは当然っていうか……だ、だって極秘なんだよね?」
「うん、家族にも言えないから。本当は記憶が消される筈なんだけど、あんたがあたしの正体を忘れない事の理由は、魔法協会にも分からないみたい」
嶺歌はそう言って平尾に魔法少女に関してまだ話していない部分の説明をする事にした。
魔法少女としての活動の話や、これを知っている人物の話。そして記憶が消去される仕組みに関しても説明をする。前回話しきれていなかった内容を補足で話していた。
だが形南と兜悟朗だけが何故魔法少女を知っているのかの説明は簡潔にまとめ、詳細は語らなかった。
形南が平尾と出逢いたいが為に嶺歌を探し出したという件は、このまま秘密にしておくか、または形南本人から聞いた方がいいだろう。その判断をするのは形南の問題だ。
平尾の惚れ具合から見ると、形南の行動を聞いて彼女に愛想を尽かすという展開は全く想像が出来ないので、そう懸念するところではないと思うのだが、形南にだって隠し通しておきたい事もあるだろう。
それにこれが最善だと思う嶺歌はこれ以上この件に関与しようとは思わなかった。
「あの、さ……俺、心当たりある」
「え?」
嶺歌が一通り話せる説明を終えてから数秒の後、平尾は顔を俯かせながらそう言葉を発した。
彼に視線を向けると、平尾は頬を掻きながら言葉を続ける。
「俺、陰陽師の子孫なんだ」
「陰陽師?」
「う、うん……あ、俺は何も出来ないよ!? ただ、先祖がそういう仕事してたって父さんに聞いてて……だから、摩訶不思議なものは効かない体質になってるらしい……代々の魂が守られているって」
「まじか……すご」
嶺歌は目を見開き、同時に納得した。そのような人物が身近にいた事自体に驚きだが、平尾が何故記憶の消去を免れていたのかの理由は今ので説明がつくだろう。納得感が強く、嶺歌はその言葉だけで確信していた。
自分が魔法少女であるという点も合わさり、そのような非現実的な事柄を疑う事はなかった。
きっと平尾の先祖は、現役時代に培われた力で今も尚、子孫を守り続けているのだろう。
「あんた凄いとこの子孫だったんだね、感謝しなよ。その血筋に生まれた事」
「う、うん……いいのか悪いのか分からないけど」
「何言ってんの、いいに決まってんじゃん」
「そ、そうかな……」
「あんたってそういうとこあるよね、もっと自信持てって」
そう言って嶺歌は笑みを向けると、平尾も頬を掻きながら「う、うん」とその言葉に同意してくる。
そうして彼が一番気掛かりであろう事を嶺歌は口にした。
「あんたにバレた問題なら解決したから大丈夫。何かあたしもよく分からない内に良い方向に落ち着いてさ、だからほんと心配要らない」
嶺歌はそこまで告げるとベンチから立ち上がる。
「だから平尾はあれなとの事だけ考えて。あんたのせいじゃないし、もうこの話はおしまいね」
「う、うん。分かった……あれちゃんとは勿論、俺だって彼女をた、大切にしたいし」
「おっ! 男前じゃん」
そう言って自然と口角が緩み再び笑みが溢れる。
嶺歌が笑ってそう言うと平尾も薄く笑い、穏やかな時が流れた。そのまま予鈴の音が鳴り早足で教室に戻ると、嶺歌は気持ちが落ち着いた状態で授業を受けるのであった。
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