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第五十九話③『魔法少女の失態』



 嶺歌(れか)は困惑した表情を見せる平尾に魔法少女に関する話をあらかた説明した。


 流石に彼の記憶を消せない以上、形南(あれな)の恋人である平尾に隠し事をするのは難しいと判断したからだ。それに形南もその方が恋人への秘密事がなくなり心情的にも安心できるだろう。


(魔法協会から絶対言われるよなあ)


 頭のどこかでそんな事を思いながらも、後戻りする事はできず嶺歌は話を続けるのであった。


「まあつまり、あたしは魔法少女として生きてて、それを知ってる一般人はあんたを入れたここにいる三人だけ。だから絶対に漏らさないで」


 そう念を押して彼に視線を向けると、平尾は動揺した様子を見せながらも大きく頷いた。


「う、うん……分かった」


「ありがと。…………あれな、あたし今日はもう帰るね」


 そう言って形南に目を向けてそう言葉を述べると、形南は眉根を下げながら嶺歌に言葉を発した。


「嶺歌、もう少しこちらにいらしては? 事が事ですの。(わたくし)も貴女の心中が心配ですのよ」


 形南は一歩嶺歌に近づくとそんな気遣いの言葉を向けてくれていた。彼女の本心からくるその発言に嬉しい思いを抱きながらも、嶺歌は笑みを返して首を振る。


「ありがとね。でも大丈夫! 一旦一人で整理したいから、二人は予定通りデート楽しんで」


 嶺歌はそう言葉を口にし、自分の荷物を手に取ると手を振って部屋を出ようとした。すると直ぐに兜悟朗(とうごろう)がこちらに歩み寄り「お送り致します」と言葉を発してくる。


「ありがとうございます」


 きっと兜悟朗も嶺歌に対して気を遣ってくれている。それが分かるだけでも嶺歌の気持ちは少し紛れていた。彼の行き届いた配慮に、嶺歌は顔を赤らめながらお礼を告げる。


 そうしてそのまま再三声を掛けてくれる形南と未だに困惑の色を見せ続ける平尾に見送られながら形南の部屋を後にした。




 兜悟朗(とうごろう)に乗用車で送迎されながら嶺歌(れか)は一人思考していた。


 彼が隣に座っている事に多少心臓が高鳴ってはいたものの、今は平尾の件で気がそぞろであった。


 正直未だに疑問は拭えない。


 なぜ平尾には記憶の消去が適応されないのか、本当に謎だった。


 しかしそういう体質の人間であるとしか納得できる答えは見つかりそうにない。平尾は記憶の消去を受けない体質を持っているのだろう。


 魔法協会が兜悟朗や形南(あれな)のように特別扱いをする筈もない為、平尾自身に何か事情があるという事は間違いなかった。


 嶺歌は自身の心境とは対照的に穏やかに流れ続ける窓の景色に目を当てる。起こってしまったものはもうどうしようもない。


 大事なのはこれからどうするかだ。考えたところで平尾の記憶は消えない。それに魔法協会からのお達しも確実に来るだろう。


(混乱するのはもうやめ)


 嶺歌はそう切り替えると窓の外に再び目を向ける。すると窓に反射した兜悟朗の顔に意識が持っていかれた。


(兜悟朗さん……ずっと静かに運転してくれてるな)


 いつもは気兼ねない話題を振ってくれる兜悟朗が車に乗り込んでから静かにハンドルを握っている理由に、嶺歌は気付いていた。


 彼は嶺歌の困惑しているこの状況を把握し、配慮してくれているのだ。今、こうして嶺歌をそっとしておく事こそが最善であるのだと、兜悟朗は気が付いてくれているのである。


 それを口に出さない所も、彼が如何に思い遣りを持つ人物であるのかが分かる。


 嶺歌は兜悟朗の温かい気遣いにじんわりと胸が熱くなりながら反射した先に映る彼を見ていると、不意に目が合った。一瞬だが、兜悟朗はこちらを確かに見た。


「嶺歌さん、ご気分はいかがでしょうか」


 目が合った兜悟朗は柔らかな口調でそう問い掛けてきた。


 彼の言葉遣いはゆっくりと丁寧で、こちらの気分まで落ち着かせてくれる気がする。嶺歌は彼に視線を移動させるとすぐに大きく頷いて答えた。


「ありがとうございます。落ち着いたんで、大丈夫です」


「それは何よりで御座います」


 兜悟朗は薄く微笑むとそれ以上踏み込んだ話をしてくる事はなかった。言葉にされずとも、嶺歌の心情に寄り添ってくれているのが伝わる。


 そう思うと自分を心配してくれている身近な存在が兜悟朗であるという事実に嬉しさが込み上げてきた。


 嶺歌はそんな彼の気遣いに嬉しい思いを抱きながら、短くも平和に時が流れるこの時間に暫し浸るのであった。



第五十九話『魔法少女の失態』終


             next→第六十話

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