第五十八話②『衣装』
魔法少女の活動を終えると直ぐに形南にレインで連絡を入れていた。すると予想外な事に電話で返事が返ってくる。
『嶺歌! 新しいお衣装とは一体どのような衣装なのですのっ!? 私早く拝見したいですのっ!!!』
いつも以上に興奮した様子の形南は、嶺歌の想像以上に新衣装に興味を示してくれていた。それが嬉しく、嶺歌は笑いながら言葉を返す。
「あははっありがと! あたしも変えたばかりで気分爆上がりだよ! 写真送るのでもいいけど、やっぱ生で見てほしいから、あれなの都合がいい日教えてよ」
嶺歌がそう返すと形南は『少々お待ち下さいましね!』とテンションを上げたまま何やら紙を捲る音が聞こえてくる。きっとスケジュールを確認してくれているのだろう。嬉しい話である。
『実は明日……正様とお会いする約束なのだけれど、その日以外ですと今週はお時間が取れないのですの。嶺歌がもし宜しければ、正様とお会いする二時間程前にお会いする事は出来ますかしら? 短いお時間で大変申し訳ないのだけれど』
数秒の間の後、形南は少し声の調子を落としてそう言葉を述べてくる。
きっと申し訳ないという気持ちからこのような声色になっているのだろう。嶺歌は問題ないと直ぐに声を返し、続けて言葉を放った。
「あたしの衣装、早く見たいって思ってくれるのが嬉しいよ。ありがとね。短時間とか全然いけるから気にしないでよ!」
そう明るい口調で伝えると形南はその言葉を耳にしたおかげか嬉しそうな声を上げ、こちらにお礼を告げてきた。
『有難う御座いますの! それでは明日の七時頃にお迎えに上がりますの』
「おっけー!」
そう約束を交わし、これから稽古があるという形南との通話を終えた。嶺歌はタイミングが良かった事を実感しながらもう一度鏡に映った自分の姿を見る。
「うん、めっさ可愛い」
うっとりするほど自分の理想を体現したその魔法少女の姿は、嶺歌の気持ちを普段以上に高まらせ、そうして必然的に兜悟朗の顔を思い浮かばせていた。
(どういう感想くれるかな)
以前、兜悟朗には逞しく勇ましいと、予想外の感想をもらっていた。あの言葉を忘れる事は一生ないだろう。嶺歌にとってそれほど嬉しいと感じられたのだ。兜悟朗の感想は嘘偽りない純粋な思いからくる言葉であると理解出来ているからである。
(今回も勇ましいって言われるかな……それはそれで嬉しいかも)
もはや兜悟朗からの感想であれば、どのような物でも嬉しく思うのだろう。好きな人というのはそういう存在なのだ。
嶺歌は想像して口元が緩む自分を抑える事なく、しばし妄想に耽るのであった。
翌日になると予告通り兜悟朗と形南が嶺歌を迎えにマンション前まで来てくれていた。
嶺歌は様々な思いで胸を高鳴らせながら彼女達に会いに外へ出る。
「おはよあれな!」
嶺歌が笑顔でそう挨拶をすると、形南も花が舞うような笑みを向けてこちらに挨拶を返してきた。上品に手を振る今日の彼女の服装はいつもより気合が入っている。
「今日は平尾とデートだもんね、めっちゃ可愛い!」
率直な感想を彼女に向けると形南は照れながらお礼を告げ、恥ずかしいのか両手で自身の頬を包み込んだ。そうしてゆっくりと口を開く。
「正様とは九時からお会いする約束ですので、それまでは私のお部屋でお話ししたいですの」
「うん、オッケー。あれなの部屋なら安心だからね」
魔法少女の姿を他者に見せる訳にはいかない嶺歌としては、形南の自室で姿を見てもらう事以上に安心な事はない。彼女の部屋のセキュリティは万全だからだ。それに優秀な執事もいる。
嶺歌はそう思い、微笑みながら嶺歌と形南を静観している兜悟朗にチラリと目線を動かした。彼の優しげな視線に目を向けるのは、意中の相手であるからか照れ臭いところがある。
「嶺歌さん、おはよう御座います。宜しければどうぞ、お車にご乗車下さい」
「おはようございます兜悟朗さん……はい、それじゃあ…」
そう言ってエスコートしてくれる兜悟朗の手を取り、リムジンの中へ入る。
形南は気を利かせてくれたようで自分より先に嶺歌を車に乗せるように促してくれていた。親友の気遣いに感謝しながら嶺歌は自身の指先に意識を向ける。兜悟朗の手に触れたわずかな指先が、離れた今でも温かく心地よい。
(深呼吸……)
嶺歌は座席に腰を掛けるとそのままスウッと息を吸って吐いた。兜悟朗との短い時間でさえも大切に思えてしまうこの瞬間が、嶺歌はとても幸せだった。
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